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それでも土偶はオッサンを愛でる。
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「グレアム。そこは腕で防御しながらの回し蹴りが有効です」
「はいかあさま!」
「稽古をしてる時は先生と呼びなさい」
「はいせんせい!」
庭でルーシーが息子のグレアムに護衛術を教えているのをぼんやりと眺めながら、私はいつものごとく温めのカフェオレを飲んでいた。
6年前のポルタポルタ町でのカメラコンテストの後で、ルーシーの懐妊が発覚した。
そのためルーシーの母メリーが私の実家のルーベンブルグ家を予定より早く引退し、グエンとルーシーの屋敷に同居する事になった。
臨月ギリギリまで働いていたルーシーにメリーもグエンも心配していたが、
「リーシャ様とお子様方の顔を見てないと落ち着かないし、無理のない程度に働くのは健康にもいいとお医者様が言っていた」
と2人を説得していた。
私も勿論気を遣って徹夜も無くして必死で締め切り前に原稿を上げるようにしたし、時短勤務とか休みを週3とかにした方がと提案したが、精神的に不安定になるのでと却下された。
幸いにも元気な男の子が生まれて私たち家族も大喜びしたが、ルーシーはルーシーで、
「子供に恵まれるとは思っていなかったが、親子2世代でお勤めが出来れば素晴らしい。
将来のシャインベック家の執事になるか、グエンのように騎士団に入ってくれれば……」
という思いがあるようだ。
5歳になるグレアムは父グエンによく似たアッサリ顔で、ルーシーからは鮮やかな赤毛を受け継いでいたが、
「わたくしに顔が似てしまわなくて助かりましたわ」
と喜んでいた。
私にはルーシーに似てくれた方が美少年なんだけどねえ。まあグエンは和風でも悪くない方のイケメンだからいいけども。
1歳を過ぎて2歳近くになる頃、片言で喋れる位になったグレアムは、私を見てはボーッとし、よく遊んでくれるアナとクロエを見ては「きれーね」と言い、カイルやブレナンを見ては「こいーね」(格好いいと言いたかったようだ)とうっとりしていた。
中身がルーシーばりにバグっているようである。
「おおきくなったらめがみさまとおひめさまとおーじさまのいるおやしきではたらきます!」
とルーシーと稽古に勤しむアホな子になってきつつある。ルーシーには何度も、
「グレアムにはもっと広く世間を見せた方がいいんじゃないかしらね」
と言っているのだが、上手くいかない。
「本人がしたいと言うのを止めたくはありませんし、ここ以上の楽園は存在しません。
メイドには安月給でこき使う女主人はおりますが皆様穏やかで、仕事場の人間関係も円満良好、通勤も徒歩3分の好立地でございます」
「だからいつでも給料上げるわよって言って──」
「あ! わたくしとしたことが新刊の売れ行きチェックを怠っておりましたわ。いけません、町へ買い物に行くついでに早速調べなくては」
毎回砂に隠れていたのがバレたヒラメのようにシュルシュルと逃げられてしまう。
そして、私も36歳になった。
立派なアラフォーである。
ダークなんて50歳になるのに40歳にも見えない若々しさで、相変わらず神々しいばかりの整いまくった麗しい顔で、腹筋も割れまくりだ。
「子供にさっさと家督を譲ってリーシャと釣り三昧しながらイチャイチャしたい」
とぼやきながらも指揮官として部下をビシビシ鍛えているのだから、結局は仕事が好きなのだろう。
カイルも16になり今年学校を卒業して社交界デビューだが、そういうの面倒臭いので騎士団に入れてくれとダークに言い寄っている。
とは言っても、カイルはミヌーエ王国のマデリーンと婚約しているので、どうせあと2、3年もすればミヌーエ王国に行ってしまうのである。
王配であるフレディーさんと釣りに何度も誘われて行っているうちに(断れる筈がなかろう)、頼んでもいないのにヒルダ女王陛下にサラリと面通しされてしまい、
「噂にたがわぬ傾国の美貌、羨ましく思うぞ。
これから家族付き合いも密にせねばなるまい」
などと微笑まれ、詰んだのだ。
だが、ヒルダ女王陛下は男装の麗人といえばいいのか、170センチを超える身長にふわっとした長髪の赤毛、タダ者ではない鍛え抜いた体、青い瞳に切れ長の眼差しも凛々しい、それはそれは魅力的な方であった。
宝塚とかがこの世界にあればトップスターだろう。
フレディーさんと夫婦なのがちょっと不思議にすら思えるのだが、ヒルダ女王陛下いわく一目惚れしたのはヒルダ様の方だったようだ。
「私はな、丸みがある可愛らしい男性が好きなのだ。
見よ、あの艶やかな肌にぷにっとしたお腹。正面から見ても横から見てもふくよかで抱きしめたくならないか? リーシャよ」
「……左様でございますね」
全くなりませんが。
人の好みというのは千差万別である。
そして、ルーシーがやらかした。
招待されてミヌーエ王国に来ていた時に、滞在中に読もうとしたらしく、釣りで不在だった私たちのいない時にと、テラスでお茶を飲みながら、しこたま持ってきていた私のマンガや小説を堪能していたところ、通りかかったヒルダ女王陛下の目に止まってしまったのだ。
「のう、ルーシーと言ったか。その読んでいる本は何かの? ガーランド国の書物か? 見せてくれぬか?」
「……ヒルダ女王陛下の普段読まれるような書物ではございませんが……」
顔は無表情だが背中がびっしょり濡れるほど汗をかいていたルーシーは、読んでいたマンガを恭しく差し出すとヒルダ女王陛下はパラパラと無言でめくり始め、しまいにはルーシーの隣に座って本腰を入れて読み出したそうだ。
「……なんとっ」
「むむ、これは……!」
などの言葉が耳に入り、これは流石に「破廉恥な書物を王宮に持ち込みおって!」とか言われて切り捨てられるかもと思ったそうだ。
「死ぬ前に今一度リーシャ様と旦那様、お子さま方にお会いしたいと思っておりましたのですが……」
「これは、続きがあるのであろう?
いや素晴らしい! こういった書物を読むのは初めてだが、胸がときめくな!
フレデリックが釣りで留守がちで時間を持て余しておったのだ。他の話もあるのなら全て私の書斎に持ってきてくれないか?」
「かしこまりました。急ぎお持ち致します」
──めちゃめちゃ気に入ったらしい、薄い本が。
そして私たちが釣果を競っている間に、ルーシーはヒルダ女王陛下に薄い本の嗜み方を学んで戴きつつ、如何にこの作品たちが素晴らしいかを語りまくったそうだ。
珍しくフレディーさんとマデリーンに勝った私たちがウキウキで王宮に戻ってきたら、ルーシーが迎えに来てそのまま部屋に入った途端に流れるように土下座したので、ダークが蒼白になり、
「ルーシー、一体何をした? 何をやらかしたんだ?」
とガクガク揺さぶられて白状させたらこれだった。
私が一気にオイチャン飛ばしでラッパーが舞い降りたのは仕方がないところだと思う。
「どうしてヒルダ女王陛下を沼地に引きずり込むんだYO! あっちもこっちも地雷源だらけだYO!
ミヌーエ王国のトップを腐らせるなんて神をも恐れぬ所業だYO!」
てしーんっ、と私は釣竿を床に叩きつけて扉に向かって歩き出した。
「ブラザーにシスター、今すぐフレディーパイセンに土下座しに行くメーン♪」
「リーシャ、ほら落ち着くんだっ。深呼吸深呼吸」
ぜーはー言ってる私を抱きかかえたダークが、
「だ、だがヒルダ女王陛下は気に入ったんだろ? それなら別に趣味の一環として……」
「それが、リーシャ様から頂いた誕生日プレゼントのあの小説も持ってきておりまして」
「……みみみ、見られたの?」
「ヒルダ女王陛下に『おや、これは何だい?』とサラリとノートを取られまして、『何と手書きじゃないか!』と大興奮して、これは誰が書いたんだ、と申されまして」
「申されまして……?」
「リーシャ様が小説を書いている事やマンガも描いている事がバレました。ヒルダ女王陛下に嘘は申せません。これは不可抗力でございます」
私は足に力が入らずに床にしゃがみこんだ。
「ジ・エンドだわ……ダーク、今までお世話になりました。あの世でも愛してるわ。
ごめんなさい腐女子だったばかりに……」
だーだー涙が零れた。
子爵夫人が薄い本書いてましたなんて、それも王族の次期女王陛下と婚約しようかって相手の母親が。
やっぱり引退しておくべきだったーー!
子供の幸せも奪ってしまったのかも知れないわ。
首ちょんぱだわ。首ちょんぱなのよきっと。
「馬鹿言うな! リーシャが死ぬなら俺も死ぬ!
ルーシー、それでヒルダ女王陛下は何と?」
「『これから家族になるんだから、私たち家族のヒミツという事で。これからもドンドン書いてくれと伝えてくれ。人生の楽しみが増えたな、ふふふ』(発言ママ)だそうでございます」
「……ドンドン?」
「はい。ドンドン」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた顔を、ダークが
「ほらチーンして。まぶたも腫れちゃってるじゃないか」
とせっせと拭ってくれていたがそれどころじゃない。
「……いいの?」
「はい。わたくしが全部ひっかぶって刑を受けるのでリーシャ様とシャインベック家の方々はどうにか穏便に、と土下座しましたところ、先程のお言葉が」
じわりと安堵が胸に広がった。
「ダーク、死ななくていいみたい……」
「良かったなリーシャ! ヒルダ女王陛下はさっぱりしたお人柄だし、きっと悪いようにはされないと俺は信じてたぞ!」
いや、お前が死ぬなら俺も死ぬ言うてましたやん。
思わず突っ込みそうになった。
でも、まだ書いていてもいいんだ、という事の安心感が大きく、やっぱり書くのが好きなんだわ私、と改めて思った。
まあそんな事もありーの、子供たちがまた拉致されそうになりーの(未遂)でこの5年も本当に色々とあった。
これからも、何かしら起きるに違いない。
また大泣きするような事も私の事だからあるかも知れない。
それでも──
「リーシャ、今帰ったぞ」
後ろからぎゅっと抱きしめられて振り向いた。
「まあダーク、今日は早いのね?」
「式典の下準備だけだからな。
お、グレアム頑張ってるな。ちょっと俺も参加して来ようかな」
ジャケットを脱ぎながら庭を見たダークが私に笑いかけた。
「……ダーク」
「ん? 何だ?」
「やっぱり、ダークと結婚できて良かったわ私」
「おう。──でも、俺の方が良かったけどな」
それでも私は、ダークと子供たち、そしてルーシーたち家族を愛でてこれからも生きるのだ。
「はいかあさま!」
「稽古をしてる時は先生と呼びなさい」
「はいせんせい!」
庭でルーシーが息子のグレアムに護衛術を教えているのをぼんやりと眺めながら、私はいつものごとく温めのカフェオレを飲んでいた。
6年前のポルタポルタ町でのカメラコンテストの後で、ルーシーの懐妊が発覚した。
そのためルーシーの母メリーが私の実家のルーベンブルグ家を予定より早く引退し、グエンとルーシーの屋敷に同居する事になった。
臨月ギリギリまで働いていたルーシーにメリーもグエンも心配していたが、
「リーシャ様とお子様方の顔を見てないと落ち着かないし、無理のない程度に働くのは健康にもいいとお医者様が言っていた」
と2人を説得していた。
私も勿論気を遣って徹夜も無くして必死で締め切り前に原稿を上げるようにしたし、時短勤務とか休みを週3とかにした方がと提案したが、精神的に不安定になるのでと却下された。
幸いにも元気な男の子が生まれて私たち家族も大喜びしたが、ルーシーはルーシーで、
「子供に恵まれるとは思っていなかったが、親子2世代でお勤めが出来れば素晴らしい。
将来のシャインベック家の執事になるか、グエンのように騎士団に入ってくれれば……」
という思いがあるようだ。
5歳になるグレアムは父グエンによく似たアッサリ顔で、ルーシーからは鮮やかな赤毛を受け継いでいたが、
「わたくしに顔が似てしまわなくて助かりましたわ」
と喜んでいた。
私にはルーシーに似てくれた方が美少年なんだけどねえ。まあグエンは和風でも悪くない方のイケメンだからいいけども。
1歳を過ぎて2歳近くになる頃、片言で喋れる位になったグレアムは、私を見てはボーッとし、よく遊んでくれるアナとクロエを見ては「きれーね」と言い、カイルやブレナンを見ては「こいーね」(格好いいと言いたかったようだ)とうっとりしていた。
中身がルーシーばりにバグっているようである。
「おおきくなったらめがみさまとおひめさまとおーじさまのいるおやしきではたらきます!」
とルーシーと稽古に勤しむアホな子になってきつつある。ルーシーには何度も、
「グレアムにはもっと広く世間を見せた方がいいんじゃないかしらね」
と言っているのだが、上手くいかない。
「本人がしたいと言うのを止めたくはありませんし、ここ以上の楽園は存在しません。
メイドには安月給でこき使う女主人はおりますが皆様穏やかで、仕事場の人間関係も円満良好、通勤も徒歩3分の好立地でございます」
「だからいつでも給料上げるわよって言って──」
「あ! わたくしとしたことが新刊の売れ行きチェックを怠っておりましたわ。いけません、町へ買い物に行くついでに早速調べなくては」
毎回砂に隠れていたのがバレたヒラメのようにシュルシュルと逃げられてしまう。
そして、私も36歳になった。
立派なアラフォーである。
ダークなんて50歳になるのに40歳にも見えない若々しさで、相変わらず神々しいばかりの整いまくった麗しい顔で、腹筋も割れまくりだ。
「子供にさっさと家督を譲ってリーシャと釣り三昧しながらイチャイチャしたい」
とぼやきながらも指揮官として部下をビシビシ鍛えているのだから、結局は仕事が好きなのだろう。
カイルも16になり今年学校を卒業して社交界デビューだが、そういうの面倒臭いので騎士団に入れてくれとダークに言い寄っている。
とは言っても、カイルはミヌーエ王国のマデリーンと婚約しているので、どうせあと2、3年もすればミヌーエ王国に行ってしまうのである。
王配であるフレディーさんと釣りに何度も誘われて行っているうちに(断れる筈がなかろう)、頼んでもいないのにヒルダ女王陛下にサラリと面通しされてしまい、
「噂にたがわぬ傾国の美貌、羨ましく思うぞ。
これから家族付き合いも密にせねばなるまい」
などと微笑まれ、詰んだのだ。
だが、ヒルダ女王陛下は男装の麗人といえばいいのか、170センチを超える身長にふわっとした長髪の赤毛、タダ者ではない鍛え抜いた体、青い瞳に切れ長の眼差しも凛々しい、それはそれは魅力的な方であった。
宝塚とかがこの世界にあればトップスターだろう。
フレディーさんと夫婦なのがちょっと不思議にすら思えるのだが、ヒルダ女王陛下いわく一目惚れしたのはヒルダ様の方だったようだ。
「私はな、丸みがある可愛らしい男性が好きなのだ。
見よ、あの艶やかな肌にぷにっとしたお腹。正面から見ても横から見てもふくよかで抱きしめたくならないか? リーシャよ」
「……左様でございますね」
全くなりませんが。
人の好みというのは千差万別である。
そして、ルーシーがやらかした。
招待されてミヌーエ王国に来ていた時に、滞在中に読もうとしたらしく、釣りで不在だった私たちのいない時にと、テラスでお茶を飲みながら、しこたま持ってきていた私のマンガや小説を堪能していたところ、通りかかったヒルダ女王陛下の目に止まってしまったのだ。
「のう、ルーシーと言ったか。その読んでいる本は何かの? ガーランド国の書物か? 見せてくれぬか?」
「……ヒルダ女王陛下の普段読まれるような書物ではございませんが……」
顔は無表情だが背中がびっしょり濡れるほど汗をかいていたルーシーは、読んでいたマンガを恭しく差し出すとヒルダ女王陛下はパラパラと無言でめくり始め、しまいにはルーシーの隣に座って本腰を入れて読み出したそうだ。
「……なんとっ」
「むむ、これは……!」
などの言葉が耳に入り、これは流石に「破廉恥な書物を王宮に持ち込みおって!」とか言われて切り捨てられるかもと思ったそうだ。
「死ぬ前に今一度リーシャ様と旦那様、お子さま方にお会いしたいと思っておりましたのですが……」
「これは、続きがあるのであろう?
いや素晴らしい! こういった書物を読むのは初めてだが、胸がときめくな!
フレデリックが釣りで留守がちで時間を持て余しておったのだ。他の話もあるのなら全て私の書斎に持ってきてくれないか?」
「かしこまりました。急ぎお持ち致します」
──めちゃめちゃ気に入ったらしい、薄い本が。
そして私たちが釣果を競っている間に、ルーシーはヒルダ女王陛下に薄い本の嗜み方を学んで戴きつつ、如何にこの作品たちが素晴らしいかを語りまくったそうだ。
珍しくフレディーさんとマデリーンに勝った私たちがウキウキで王宮に戻ってきたら、ルーシーが迎えに来てそのまま部屋に入った途端に流れるように土下座したので、ダークが蒼白になり、
「ルーシー、一体何をした? 何をやらかしたんだ?」
とガクガク揺さぶられて白状させたらこれだった。
私が一気にオイチャン飛ばしでラッパーが舞い降りたのは仕方がないところだと思う。
「どうしてヒルダ女王陛下を沼地に引きずり込むんだYO! あっちもこっちも地雷源だらけだYO!
ミヌーエ王国のトップを腐らせるなんて神をも恐れぬ所業だYO!」
てしーんっ、と私は釣竿を床に叩きつけて扉に向かって歩き出した。
「ブラザーにシスター、今すぐフレディーパイセンに土下座しに行くメーン♪」
「リーシャ、ほら落ち着くんだっ。深呼吸深呼吸」
ぜーはー言ってる私を抱きかかえたダークが、
「だ、だがヒルダ女王陛下は気に入ったんだろ? それなら別に趣味の一環として……」
「それが、リーシャ様から頂いた誕生日プレゼントのあの小説も持ってきておりまして」
「……みみみ、見られたの?」
「ヒルダ女王陛下に『おや、これは何だい?』とサラリとノートを取られまして、『何と手書きじゃないか!』と大興奮して、これは誰が書いたんだ、と申されまして」
「申されまして……?」
「リーシャ様が小説を書いている事やマンガも描いている事がバレました。ヒルダ女王陛下に嘘は申せません。これは不可抗力でございます」
私は足に力が入らずに床にしゃがみこんだ。
「ジ・エンドだわ……ダーク、今までお世話になりました。あの世でも愛してるわ。
ごめんなさい腐女子だったばかりに……」
だーだー涙が零れた。
子爵夫人が薄い本書いてましたなんて、それも王族の次期女王陛下と婚約しようかって相手の母親が。
やっぱり引退しておくべきだったーー!
子供の幸せも奪ってしまったのかも知れないわ。
首ちょんぱだわ。首ちょんぱなのよきっと。
「馬鹿言うな! リーシャが死ぬなら俺も死ぬ!
ルーシー、それでヒルダ女王陛下は何と?」
「『これから家族になるんだから、私たち家族のヒミツという事で。これからもドンドン書いてくれと伝えてくれ。人生の楽しみが増えたな、ふふふ』(発言ママ)だそうでございます」
「……ドンドン?」
「はい。ドンドン」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた顔を、ダークが
「ほらチーンして。まぶたも腫れちゃってるじゃないか」
とせっせと拭ってくれていたがそれどころじゃない。
「……いいの?」
「はい。わたくしが全部ひっかぶって刑を受けるのでリーシャ様とシャインベック家の方々はどうにか穏便に、と土下座しましたところ、先程のお言葉が」
じわりと安堵が胸に広がった。
「ダーク、死ななくていいみたい……」
「良かったなリーシャ! ヒルダ女王陛下はさっぱりしたお人柄だし、きっと悪いようにはされないと俺は信じてたぞ!」
いや、お前が死ぬなら俺も死ぬ言うてましたやん。
思わず突っ込みそうになった。
でも、まだ書いていてもいいんだ、という事の安心感が大きく、やっぱり書くのが好きなんだわ私、と改めて思った。
まあそんな事もありーの、子供たちがまた拉致されそうになりーの(未遂)でこの5年も本当に色々とあった。
これからも、何かしら起きるに違いない。
また大泣きするような事も私の事だからあるかも知れない。
それでも──
「リーシャ、今帰ったぞ」
後ろからぎゅっと抱きしめられて振り向いた。
「まあダーク、今日は早いのね?」
「式典の下準備だけだからな。
お、グレアム頑張ってるな。ちょっと俺も参加して来ようかな」
ジャケットを脱ぎながら庭を見たダークが私に笑いかけた。
「……ダーク」
「ん? 何だ?」
「やっぱり、ダークと結婚できて良かったわ私」
「おう。──でも、俺の方が良かったけどな」
それでも私は、ダークと子供たち、そしてルーシーたち家族を愛でてこれからも生きるのだ。
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キャラクターは魅力的、ストーリーの流れも気持ちよく身を預けられますし、語り口は軽妙、言葉選びは絶妙、そんなコメディな中に折々覗く愛情溢れる人達の様子に心あたためられる。どこを齧っても美味しい、まるでクララのココナツクッキーのような作品です。さて、続きを拝読します!楽しみ〜♡
(・∀・)っ_旦 みるくちーでも
まあ嬉しいことを言って下さいまして(*´ω`*)
長い作品なので、中だるみしてしまわないか心配でございます。
リーシャやルーシー、ダーク以外も子供たちの成長も一緒に楽しんで頂ければ幸いです。
私のイチオシの作品が刺さるようなら別の作品もきっと刺さりますので、どうぞ機会がありましたら別のも覗いて見て下さいね!
(カコーンカコーン)←より深く刺さるようにサービス致します。いえいえお礼など(笑)