上 下
251 / 256

カメコン【2】

しおりを挟む
 着いて早々から町で食事をしただけでどっと疲れたが、お義父様の屋敷に戻ってからも歓迎を受けた。
 
 
 ただ年配の長年働いている使用人ばかりでほぼ60代オーバーの落ち着いた世代である。
 
「坊ちゃまの奥方様がこんなお美しい方でしたとは。
 亡くなった妻の所にいく時に、いい土産話が出来ました」
 
 だの、
 
「旦那様にお孫様が4人もおられて、その上こんな可愛い子ぞろいとは、お世話の甲斐がございますねえ。
 屋敷内の平均年令がぐっと下がって、自分まで若返るようでございます。
 今ならいつあの世に逝っても後悔はございませんわねぇ、目の保養目の保養♪ ほっほっほっ」
 
 だのと陽気な冥土トークで軽く流してくれたので、私たちも気楽だった。
 
 まあ冥土トークが陽気と言っていいのかは定かではないが、達観してる感じがして私は嫌いではない。
 
 
「数日間ですがお世話になります」
 
「「「「よろしくお願いしますー」」」」
 
 ひと休みするべく客間に案内して貰う。
 
 子供たちは男女別で2部屋、私は1部屋、ルーシーとグエン夫婦は私の隣の部屋になった。
 
 田舎で土地も建物代も安いのか、お義父様のセカンドハウスとして建てられたこの屋敷の敷地は、マーブルマーブルの屋敷よりも少し広い。
 
 庭も広々として、手入れが行き届いている。季節の花が咲いているそばには野菜畑まで広がっている。
 あー、トマトやキュウリが美味しそうだわ。
 前世で田舎のおばあちゃん家でも畑で色んな野菜を植えてたなー。懐かしいわ。
 
 部屋自体も1部屋1部屋がゆったりした造りだ。
 先々列車が開通したらもっとマメに遊びに来られるだろうし、もう少し義実家にも孫を連れてきてあげないと。
 
 お義父様のとても楽しそうな顔を見ていると、ヒッキーだからと引き込もってばかりもいられない。
 精神的にもこれからもっと強くならないと。
 
 それにしても長旅とメンタル攻撃で土偶は満身創痍である。癒しのダークもアズキもいない。
 回復せねば。

 
(……ちょっとお昼寝しよ)
 
 服を楽な格好に着替えてもそもそとベッドに潜り込んだ。
 
(あとは、どうやってモデルを子供たちに押しつけて逃げ切るかよねえ……武装モードバージョン3の出番か……)
 
 しっかり考えなくてはと思うそばから睡魔で朦朧としてきて、何も考えられずに眠りこけていた。
 
 
 
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
 
 
「……え? モデルはリーシャではなくカイルたちをかい?」
 
「そうですわ! 私閃きましたの。こういったコンテストで何といっても強いのは動物と子供です。
 折角子供たちも来てくれた事ですし、勝利を少しでも手繰り寄せるには子供の無垢さでアピール! 
 お義父様の優勝を狙う為にはウチの……まあ世間的にはふぉふぉふぉ、フォアローゼズなどと言われている子供たちならば、ライバルの方々をちぎっては投げ、投げてはちぎってしてくれるに違いないですわ!」
 
 
 あっさりでお願いしたので、コンソメスープとサーモンのムニエルにサラダとパンというメニューの夕食を皆で食べながら、私は武装モードバージョン3で切り出した。
 ちょっと恥ずかしい台詞はどもってしまったが、プレゼンとしては悪くない筈だ。
 
 子供たちが目を見開き、裏切られた感を出しているが、ヒッキーというのは自分が表に出ないためには子供でも利用するのだ。わはははは。
 ちゃんとチーズは沢山お土産で買うから心配するでない。労働で返してくれたまえ。
 
「なるほどね……子供か……確かに……」
 
「そうね、確かに子供の写真は強いわね……」
 
 お義父様もモリーさんも私の発言に流されつつある。私は勝利を確信し、ちらりと隣のルーシーとグエンさんの方を見た。
 
 
 ルーシーは、
 
 「わたくしはシャインベック家のメイドなので仕事のお手伝いを」
 
 と言っていたのだが、グエンさんと結婚した事で伯爵の子息夫人になり、この国では男爵のお義父様より爵位を継がなくても若干上の立場なので、ないがしろには出来ないと同じ席で食事をする事になった。
 むしろ子爵位の我が家よりも上だ。
 
 こちらの使用人たちには、何でメイド仕事を続けているのかと不思議な目を向けられていたが、
 
「兼業メイドは天職なのです!」
 
 と力強く訴えて無理矢理納得させていた。
 
 兼業が主婦業などではなく、私の影武者兼ブレーン兼マネージャー兼護衛兼財務担当兼子守り兼愛読者であるとは夢にも思わないだろうが、私はルーシーが居ないとダメ人間なので、需要と供給の奇跡の合致ということで甘えさせてもらっている。
 

 そのルーシーがふ、と口角を上げた。
 
「……何よルーシー」
 
 勝利の美酒ならぬ勝利の水を口にしていた私は小声で尋ねた。
 
「甘いですわねリーシャ様」
 
「? 何が甘いのよ?」
 
 口元をナプキンで押さえる振りをしつつ、ルーシーが告げた。
 
「カイル坊っちゃまたちは、リーシャ様の血をがっつり引いておりますわ」
 
「分かってるわよ。だから、ほら、顔もあんなに似てるんじゃない。モデルをするならあの子たちで充分──」
 
「いえ。性格も、というのをお忘れでは?
 彼らも目立つことはお好きではないですわよね?」
 
 私は少し考え、ハッと子供たちを見た。
 
「お祖父様お祖父様」
 
 ブレナンがお義父様に笑いかけた。
 
「ん? どうしたブレナン?」
 
「僕もひらめいたのです。僕たちがモデルになるなら、母様も一緒に撮影すれば、今回のお題の『ファミリー』にばっちり合いませんか?
 ほら、どうみても親子というほどそっくりですし」
 
 私を見たブレナンの目は、
 
 【死なばもろとも】
 【裏切り行為は許すまじ】
 
 という強い意思を感じさせた。
 
「アナとクロエも母様と一緒に撮りたいなー」

「お家に持って帰って、父様にも見せたいのー」
 
 きゅるん、と勝手にバージョン2を発動させたアナとクロエがジジ転がしを始めた。
 
「お祖父様やモリーおば様とも最後に記念写真を撮りましょう。わあ、楽しみだなー」
 
 カイルまでが参加すると私に勝ち目はない。
 
「そうだな! ファミリー題材なんだし、リーシャも入れて皆で撮ればもっと優勝候補だなモリー!」
 
「そうですわ! 『聖女と天使たち』なんてタイトルも良いですわね!」
 
 
 すっかり確定してしまった私の参加に唇を噛みしめた。私は蜘蛛の糸のカンダタであった。
 自分だけ逃げ切ろうとして一緒に引きずり落とされてしまった。
 
 それにしてもバージョン3、弱すぎる。フルモデルチェンジが必要かも知れない。
 
 
「……ですから申しましたでしょう?」
 
 ルーシーが私の手に自分の手を乗せ、慰めるように軽くぽんぽん、と叩いた。
 
「坊っちゃまたちを出し抜こうとしても無駄ですわ。リーシャ様の血が濃いのが4人でございますから」
 
「もうここは諦めて、さっさと撮って帰るのが得策ですよ。シャインベック夫人」
 
「──もうそれしかないものね……」
 
 
 私は項垂れた。
 
 
 
 
 ああ、早くダークのとこに帰りたい。
 
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

転生からの魔法失敗で、1000年後に転移かつ獣人逆ハーレムは盛りすぎだと思います!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 異世界転生をするものの、物語の様に分かりやすい活躍もなく、のんびりとスローライフを楽しんでいた主人公・マレーゼ。しかしある日、転移魔法を失敗してしまい、見知らぬ土地へと飛ばされてしまう。  全く知らない土地に慌てる彼女だったが、そこはかつて転生後に生きていた時代から1000年も後の世界であり、さらには自身が生きていた頃の文明は既に滅んでいるということを知る。  そして、実は転移魔法だけではなく、1000年後の世界で『嫁』として召喚された事実が判明し、召喚した相手たちと婚姻関係を結ぶこととなる。  人懐っこく明るい蛇獣人に、かつての文明に入れ込む兎獣人、なかなか心を開いてくれない狐獣人、そして本物の狼のような狼獣人。この時代では『モテない』と言われているらしい四人組は、マレーゼからしたらとてつもない美形たちだった。  1000年前に戻れないことを諦めつつも、1000年後のこの時代で新たに生きることを決めるマレーゼ。  異世界転生&転移に巻き込まれたマレーゼが、1000年後の世界でスローライフを送ります! 【この作品は逆ハーレムものとなっております。最終的に一人に絞られるのではなく、四人同時に結ばれますのでご注意ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

異世界転生先で溺愛されてます!

目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。 ・男性のみ美醜逆転した世界 ・一妻多夫制 ・一応R指定にしてます ⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません タグは追加していきます。

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

処理中です...