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カメコン【2】

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 着いて早々から町で食事をしただけでどっと疲れたが、お義父様の屋敷に戻ってからも歓迎を受けた。
 
 
 ただ年配の長年働いている使用人ばかりでほぼ60代オーバーの落ち着いた世代である。
 
「坊ちゃまの奥方様がこんなお美しい方でしたとは。
 亡くなった妻の所にいく時に、いい土産話が出来ました」
 
 だの、
 
「旦那様にお孫様が4人もおられて、その上こんな可愛い子ぞろいとは、お世話の甲斐がございますねえ。
 屋敷内の平均年令がぐっと下がって、自分まで若返るようでございます。
 今ならいつあの世に逝っても後悔はございませんわねぇ、目の保養目の保養♪ ほっほっほっ」
 
 だのと陽気な冥土トークで軽く流してくれたので、私たちも気楽だった。
 
 まあ冥土トークが陽気と言っていいのかは定かではないが、達観してる感じがして私は嫌いではない。
 
 
「数日間ですがお世話になります」
 
「「「「よろしくお願いしますー」」」」
 
 ひと休みするべく客間に案内して貰う。
 
 子供たちは男女別で2部屋、私は1部屋、ルーシーとグエン夫婦は私の隣の部屋になった。
 
 田舎で土地も建物代も安いのか、お義父様のセカンドハウスとして建てられたこの屋敷の敷地は、マーブルマーブルの屋敷よりも少し広い。
 
 庭も広々として、手入れが行き届いている。季節の花が咲いているそばには野菜畑まで広がっている。
 あー、トマトやキュウリが美味しそうだわ。
 前世で田舎のおばあちゃん家でも畑で色んな野菜を植えてたなー。懐かしいわ。
 
 部屋自体も1部屋1部屋がゆったりした造りだ。
 先々列車が開通したらもっとマメに遊びに来られるだろうし、もう少し義実家にも孫を連れてきてあげないと。
 
 お義父様のとても楽しそうな顔を見ていると、ヒッキーだからと引き込もってばかりもいられない。
 精神的にもこれからもっと強くならないと。
 
 それにしても長旅とメンタル攻撃で土偶は満身創痍である。癒しのダークもアズキもいない。
 回復せねば。

 
(……ちょっとお昼寝しよ)
 
 服を楽な格好に着替えてもそもそとベッドに潜り込んだ。
 
(あとは、どうやってモデルを子供たちに押しつけて逃げ切るかよねえ……武装モードバージョン3の出番か……)
 
 しっかり考えなくてはと思うそばから睡魔で朦朧としてきて、何も考えられずに眠りこけていた。
 
 
 
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
 
 
「……え? モデルはリーシャではなくカイルたちをかい?」
 
「そうですわ! 私閃きましたの。こういったコンテストで何といっても強いのは動物と子供です。
 折角子供たちも来てくれた事ですし、勝利を少しでも手繰り寄せるには子供の無垢さでアピール! 
 お義父様の優勝を狙う為にはウチの……まあ世間的にはふぉふぉふぉ、フォアローゼズなどと言われている子供たちならば、ライバルの方々をちぎっては投げ、投げてはちぎってしてくれるに違いないですわ!」
 
 
 あっさりでお願いしたので、コンソメスープとサーモンのムニエルにサラダとパンというメニューの夕食を皆で食べながら、私は武装モードバージョン3で切り出した。
 ちょっと恥ずかしい台詞はどもってしまったが、プレゼンとしては悪くない筈だ。
 
 子供たちが目を見開き、裏切られた感を出しているが、ヒッキーというのは自分が表に出ないためには子供でも利用するのだ。わはははは。
 ちゃんとチーズは沢山お土産で買うから心配するでない。労働で返してくれたまえ。
 
「なるほどね……子供か……確かに……」
 
「そうね、確かに子供の写真は強いわね……」
 
 お義父様もモリーさんも私の発言に流されつつある。私は勝利を確信し、ちらりと隣のルーシーとグエンさんの方を見た。
 
 
 ルーシーは、
 
 「わたくしはシャインベック家のメイドなので仕事のお手伝いを」
 
 と言っていたのだが、グエンさんと結婚した事で伯爵の子息夫人になり、この国では男爵のお義父様より爵位を継がなくても若干上の立場なので、ないがしろには出来ないと同じ席で食事をする事になった。
 むしろ子爵位の我が家よりも上だ。
 
 こちらの使用人たちには、何でメイド仕事を続けているのかと不思議な目を向けられていたが、
 
「兼業メイドは天職なのです!」
 
 と力強く訴えて無理矢理納得させていた。
 
 兼業が主婦業などではなく、私の影武者兼ブレーン兼マネージャー兼護衛兼財務担当兼子守り兼愛読者であるとは夢にも思わないだろうが、私はルーシーが居ないとダメ人間なので、需要と供給の奇跡の合致ということで甘えさせてもらっている。
 

 そのルーシーがふ、と口角を上げた。
 
「……何よルーシー」
 
 勝利の美酒ならぬ勝利の水を口にしていた私は小声で尋ねた。
 
「甘いですわねリーシャ様」
 
「? 何が甘いのよ?」
 
 口元をナプキンで押さえる振りをしつつ、ルーシーが告げた。
 
「カイル坊っちゃまたちは、リーシャ様の血をがっつり引いておりますわ」
 
「分かってるわよ。だから、ほら、顔もあんなに似てるんじゃない。モデルをするならあの子たちで充分──」
 
「いえ。性格も、というのをお忘れでは?
 彼らも目立つことはお好きではないですわよね?」
 
 私は少し考え、ハッと子供たちを見た。
 
「お祖父様お祖父様」
 
 ブレナンがお義父様に笑いかけた。
 
「ん? どうしたブレナン?」
 
「僕もひらめいたのです。僕たちがモデルになるなら、母様も一緒に撮影すれば、今回のお題の『ファミリー』にばっちり合いませんか?
 ほら、どうみても親子というほどそっくりですし」
 
 私を見たブレナンの目は、
 
 【死なばもろとも】
 【裏切り行為は許すまじ】
 
 という強い意思を感じさせた。
 
「アナとクロエも母様と一緒に撮りたいなー」

「お家に持って帰って、父様にも見せたいのー」
 
 きゅるん、と勝手にバージョン2を発動させたアナとクロエがジジ転がしを始めた。
 
「お祖父様やモリーおば様とも最後に記念写真を撮りましょう。わあ、楽しみだなー」
 
 カイルまでが参加すると私に勝ち目はない。
 
「そうだな! ファミリー題材なんだし、リーシャも入れて皆で撮ればもっと優勝候補だなモリー!」
 
「そうですわ! 『聖女と天使たち』なんてタイトルも良いですわね!」
 
 
 すっかり確定してしまった私の参加に唇を噛みしめた。私は蜘蛛の糸のカンダタであった。
 自分だけ逃げ切ろうとして一緒に引きずり落とされてしまった。
 
 それにしてもバージョン3、弱すぎる。フルモデルチェンジが必要かも知れない。
 
 
「……ですから申しましたでしょう?」
 
 ルーシーが私の手に自分の手を乗せ、慰めるように軽くぽんぽん、と叩いた。
 
「坊っちゃまたちを出し抜こうとしても無駄ですわ。リーシャ様の血が濃いのが4人でございますから」
 
「もうここは諦めて、さっさと撮って帰るのが得策ですよ。シャインベック夫人」
 
「──もうそれしかないものね……」
 
 
 私は項垂れた。
 
 
 
 
 ああ、早くダークのとこに帰りたい。
 
 
 
 
 
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