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カメコン【3】

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 翌日はスッキリとした雲1つないいい天気だった。
 暑くもなくむしろ風が涼しくて気持ちいいぐらいで汗もかかない。
 言いたくはないけど撮影日和という奴であろう。
 
 
 昨日の食事の時にお義父様から聞いた説明では、今日の朝9時から午後3時までに参加者が撮影したフィルムを、ポルタポルタ支店のエンジェル電気の人が会場まで取りに来てくれるそうだ。
 
 更には夜通し現像してくれた作品を、翌日の早朝会場に受け取りに来た参加者がチェックし、出品用として2点引き伸ばすのを決める。
 
 そして会場に持ち込んだ引き伸ばし機で引き伸ばした写真を昼には一斉に貼り出し、来場者の得票数でその日の夕方には優勝者が決まるらしい。
 
 丸2日で終了するスピード感が凄いが、エンジェル電気も社員を総動員してるし、残業もしないとならないし、いくらカメラを売りたいと言ってもそんなに店を閉める訳にもいかないだろうから、協力する日数にも限りがあるようだ。
 
「マーブルマーブル店の店長の友人にも帰る前にリーシャも孫たちも引き受けてくれたし、ルーシーにも協力してもらえる事になった、と手紙を送ったら、昨日こちらに返事が届いていてな、
 『それは盛り上がりますね。周りにも宣伝しておきます! ついでに私もヘルプで会場に行きますのでシャインベック夫人やお子さま方、ルーシー・ロイズ夫人にも是非お礼かたがたご挨拶を』
 と書いてあった。アイツも忙しそうで大変だな」
 
 と同情していたが、ルーシーが言うには
 
「カメラの売り上げ大幅アップになりそうな大物が釣れたので、ポルタポルタ町の社員への自慢ついでに、あわよくばリーシャ様やお子さまたちと記念写真でも撮らせて貰おうとか企んでいるに違いありませんわ」
 
 との事だが、大物でも何でもないし、よそん家の人妻や子供と一緒に撮って何が嬉しいのか分からないから、きっとルーシーのいつもの過剰妄想だろうと思う。
 
 
 ルーシーもマイカメラ持参で驚くほどフィルムも持ってきている。
 まだ私や子供の撮影に慣れてないお義父様にコツを教えながら、自分のコレクションも増やすつもりらしい。
 まあ子供たちの写真が増えるのは結構な事である。
 
 グエンさんは今日1日は助手として荷物もちだそうで、疲れそうねと思って同情していたら、
 
「妻との協力作業……何か夫婦っぽくて、いい……」
 
 と身悶えしていたので労る言葉をかけるのは止めた。
 リア充め。
 
 
 私はこそこそと子供たちと円陣を組んで、
 
「……こうなったら仕方ないわ。バージョン2で乗り切りましょう。早く済ませれば早く解放されるから、町にチーズ買いに行くわよ!!」
 
 と励まし合う事にしたが、
 
「愛する子供への痛烈な裏切り行為はチーズだけで誤魔化されるとでも? 母様」
 
 とカイルから叱られ、
 
「バージョン2はいいけど、チーズおかきもあるらしいの。アナはそれをお土産に沢山欲しいな。レイモンドにもあげたいし」
 
「チーズスティックというプリッツみたいなのもあるそうなんで、僕はそれで傷ついた心を癒します母様」
 
「クロエは悲しみをこらえるのは甘い方がいいのでレアチーズタルトがいいです母様」
 
 と賄賂の増量が要求された。
 実に私の血をよく引いた子供たちである。
 しかし私も押し付けようとした負い目はあるので今回は認めざるを得なかった。
 
 
 
 ◇  ◇  ◇
 
 
 
「いってらっしゃいませ。お気をつけて」
 
 お達者クラブな使用人たちに見送られ、徒歩で会場に向かう。屋敷から15分ほど、町の外れの多目的スペースのような所に到着した。
 屋外で、大きな板の看板がいくつも立っている。
 ここにこれから作品が飾られるのね。
 
 既に結構な参加者が番号のついたバッジを受付で貰っているようだ。
 
「やあデューク! 待ってましたよ!」
 
 という大きな声がして、受付から男性が走ってきてお義父様と握手をした。
 もしやこの人が店長か、と思ってたら私にも目を向けてきた。
 
「シャインベック夫人、いつもロイズ夫人には大変、大変お世話になっております」
 
 と隣のルーシーにも併せて頭を深く下げた。
 いや、ルーシーはともかく私関係ないよね?
 お義父様はまた知人に話しかけられてそちらと笑い合っている。
 
「──店長、今回はカメラコンテストにリーシャ様やお子さま方を引っ張り出せた事、年末の給料アップ査定に大変影響があるのでございましょうねえ」
 
 ルーシーが静かに語る。
 
「い、いえまさか滅相もないっ、そんな事は考えてもおりませ──」
 
「顧客情報の漏洩って、結構な犯罪行為ですわよね?」
 
 ルーシーの台詞にビクッ、と顔がひきつらせた店長が、
 
「ゆゆゆ、友人との飲みの席での共通の知り合いの話でございますしっ」
 
 と慌てて弁明した。
 
「新しいカメラのモニターと、1年の現像フリーパスでしたかしら? 犯罪行為を擁護するには安く見られたものですわねわたくしも。被害者なのですが。
 ポルタポルタ支店の店長はこちらにはおられないのでしょうか? 情報共有ってとても大切ですわよね」
 
 店長の額からだらだらと汗が流れ出した。
 
「……も、勿論おりますが、情報共有は必要ないかと。
 あっ! お伝えするのを忘れておりました!
 今回のサポートでフィルム! フィルムも1年分お付けするつもりでしたのにすっかり失念しておりました」
 
 今度は蒼白になった店長に、
 
「フィルムなどは沢山購入済みですので必要ありませんわ。ただ、出来ましたらモニターで借り受けるアップの撮影が出来るカメラ、気に入ったらそのまま安く譲って頂けると、わたくしも口が堅くなるのですけれど……」
 
「──へ? いや、そんなことでいいなら喜んで!」
 
 今の撮影頻度を見ていると、ルーシーの1年分のフィルム代って相当だろうから、店長としてはかなり痛い出費だった筈だ。
 それを、必要なモニターもしてもらえてテスト製作した使い古しのカメラを譲る程度なら、必要経費で落ちてむしろ御の字だろう。
 
 お義父様に声をかけ、是非とも記念に! と私や子供たちと一緒に、首から下げていたカメラでカメラマンルーシーに撮ってもらい、スキップでもしそうなほどご機嫌に受付に戻っていった。
 
 だから何で記念撮影すんだ。
 私も子供も関係ないじゃろ。
 
「……ルーシー、穏便に済ませたのねえ」
 
「まあこれからも使う店舗でございますし、永久名誉モニター会員の座は捨てられません」
 
 ルーシーはくいっとメガネを直すと、
 
「それに弱味は握っておいた方が、まあ先々使い道がございますし」
 
 と口角を上げた。
 穏便じゃなかった。こわー。ルーシー怖いわー。
 
「うわールーシーかっこいー! さすが俺の妻ー!」
 
 グエンさんがルーシーを抱きしめて人前ですと押し戻されていたが、ルーシーほど味方にすると心強く敵に回すと恐ろしい人は今まで見たことがない。
 
 味方枠だからいいけど、敵だったらいつ寝首をかかれていても不思議ではないのだ。
 
「ルーシー、貴女が家に来てくれて本当に良かったわ」
 
「どうしたんですいきなり? リーシャ様やお子さま方に会えて私もようございましたわ」
 
「僕は? ねえ僕は?」
 
「……グエンとも会えて良かったですわ」
 
「僕もー! 愛してるールーシー!」
 
「だから昼間っから公衆の面前で抱きつかないで下さい。恥ずかしいじゃありませんか」
 
「やだー僕の妻アピールするんぐふぉっっ!」
 
 グエンさんが変な声を出してうずくまった。
 
 ルーシーの脇パン、結構効くのよねえ。
 経験者だから知ってるけど。
 
「いきなりは酷いじゃないかルーシー……」
 
「人が嫌だと言う事はしちゃいけないと教わりませんでしたかグエン?」
 
「ごめん、だって可愛いからルーシーが照れてるの」
 
 今度は何も言わずルーシーの回し蹴りが飛んだが、予測していたのか綺麗に避けていた。
 
 バカップルは放置しておいて、お義父様の受付が終わるのを子供たちと待っていたが、周りの視線が痛い。
 
 ザワワザワワと大和民族上げがひどい。私にはディスられてるのと同じようにメンタルが弱る。
 子供たちも空を眺めたりしつつ如何に視線を遠くに飛ばすかに神経を注いでいる。
 
 でも今日と明日の辛抱だものね。明後日にはダークの待つマイホームに戻るわー。
 
 
「待たせたな」
 
 お義父様が戻って来たのでルーシーたちといい撮影場所はないかと歩き出したところで、背後から
 
「おい、そこにいるのはデュークじゃないか?
 負け戦でも参加はするんだな。感心感心」
 
 などと不穏な声が聞こえてきた。 
 
 
 
 
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