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敵襲じゃー【3】

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「はいアナタたちそこに座って」
 
 
 お義父様とモリーが客室に下がった後で、私はダークとルーシーをジロリと睨み、床を指差した。
 シャインベック家の家訓は、
 
「自分が悪いと思ったらすぐ土下座。形勢が悪そうなら言われる前に土下座」
 
 である。
 ダークもルーシーも心当たりが有りすぎるのか、お義父様たちが消えて私が言葉を発するのとほぼ同時に床に正座していた。
 
「……2人とも、私が敵襲を受けたというのに、庇うどころか援護射撃していたわよね?」
 
 私は静かにおこなのである。
 味方の裏切りに合った織田信長な気持ちである。
 
「済まなかったリーシャ! しかしあそこまで煽られては夫として反論せざるを得ないだろう!
 リーシャはこの国で一番可愛いし美しいし優しいし可愛いし綺麗だし愛らしいし美しいし優しいし──」
 
「褒め言葉が壊れたレコードみたいにリピートされてるから止めてちょうだい。
 ……それにまさかルーシーまでがお義父様に丸め込まれるとはねえ」
 
「──いえリーシャ様、あれは汚のうございます。
 1年間現像フリーパスなんて、どれだけ経費の削減になると思われますか? それもどアップで撮影出来るカメラのモニターでございますよ? シャインベック家の皆様の素晴らしいお姿をどアップで。
 いつものように大きく引き伸ばしても美しさがボケてしまう心配もないなんて。
 わたくしにはどんな大金を積まれるよりも危険な賄賂でございます。気がついたら言葉が勝手に全面協力を申し出てしまっておりました」
 
 2人とも無駄のない動きで美しい土下座を見せた。
 
「呪符じゃないんだからむやみやたらに引き伸ばさないでくれるかしら。本人に許可を得てちょうだい。
 それに初めて聞いたわよ永久名誉モニター会員になっていたなんて」
 
「以前から商品に対してかなり鋭い視点で改善のご意見を頂いていると思って下さったようでございして。
 主にリーシャ様の知識でございますが。
 今回もカメラの件でエンジェル電気の技術者の方々から大変感謝されましてですね、これからも何か思いついたらいつでも言って欲しい、と気がついたらそんな話に、ええ。
 お陰様で、プレミアム会員の年会費が無料になりまして、モニター価格で商品も買えて、わたくしとしては願ったり叶ったりでございます」
 
「プレミアム会員費を無料にしてもお釣りが出るほど買いまくってるからでしょうよ。それをいいカモって言うのよ分かってるの?
 それにもっと私たち家族の為にお金使ってないで、自分やグエンさんの為に使いなさいよ。勿体ないでしょう?」
 
「いえ、シャインベック家の為に使うのは結果的にわたくしのためでございますので、言わば趣味と実益かと。
 それに先日グエンと一緒に参りまして、室内トレーニング3点セットというのを購入致しました。
 これで雨の日も一安心かと」
 
「安心してるのはアナタとグエンさんの筋肉だけでしょうよ! 色気の欠片もない新婚家庭の買い物に私は不安しかないじゃないの。
 ダークも『是非見せてくれ』とか言わないで。
 買おうとか企んでるんじゃないでしょうね?
 ああもう、何よポルタポルタ町まで行って写真のモデルなんて恥ずかしい事やりたくないのよう~」
 
 私は頭をかきむしりたくなった。
 
 
 キッチンのテーブルで静かにちるちるとリンゴジュースを飲んで私たちの様子を窺っていた風呂上がりの子供たちは、ふと顔を上げた。
 
「母様母様」
 
 ブレナンがそっと声を掛けてきた。
 
「……なあにブレナン」
 
「今ちらりと小耳に挟みましたが、ポルタポルタ町まで行かれるのですか?」
 
「ええ、そういう事になりそうなの」
 
「僕も是非ともご一緒させて頂きたいのですが。
 ポルタポルタ21というチームからダンスのアドバイスをと頼まれていたのですが、何しろ遠いもので困っていたのです」
 
 アナもそそそそ、と近寄ってきて、
 
「アナもコーチングには定評があるのです母様。
 ポルタポルタ町でも、ようやく組みダンスが出来るほどのしっかりした人たちが集まったと涙でインクが滲んだ手紙を貰いまして、これはサポートせねば、いやしなくてはならぬと」
 
 カイルは出遅れたとばかりに私の足元に立て膝で座り、キリッとした顔で、
 
「女性や子供ばかりの旅は危ないと思います母様。
 僕もかなり剣の腕が上達致しましたし、護衛という形で付き添いたいです。シャインベック家の長男ですし」
 
 ともっともらしい事を言い出した。
 
 クロエは暫く天井を見上げたままえっと、えっと等と呟いていたが、パッと表情が明るくなり、
 
「母様! 私、ジーク様に色んな料理を覚えてご馳走したいのです。その為には色んな町で料理を食べておかないと! ポルタポルタ町にはまだ行った事がありません!」
 
 まあいつもお義父様が会いに来てくれてたしねえ。
 しかしクロエは苦しい言い訳だわね。
 兄様たちの目的の為には理由を選ばないしぶとさを見習いなさい。
 結局遊びに行きたいだけじゃない。
 
 
 別にまだ学校は夏休みが残ってるからいいんだけど……あら、カメラコンテストって言ったら動物と子供じゃないの。お義父様にコンテストは子供たちを撮影してはどうかと薦めるのはどうかしら。
 ウチの子供たちフォアローゼズなんて言われてる位だし、うん、イケるイケる。
 
 私は子供たちの付き添いでついてって、ポルタポルタ町で美味しそうな名産とか買ってのんびりしてたらいいのよ。
 
「よし! 一緒に行きましょうか?」
 
「「「「わぁいありがとうございます母様~!」」」」
 
 子供たちが私に抱きついて来た。
 
「リーシャ! 俺もっ──」
 
「ダークは反省も兼ねて留守番よ。
 第一このあいだ釣りで沢山休み取ったばっかりじゃないの。上司がそんなに始終休みを取る騎士団はよろしくないわよ」
 
 グッと言葉に詰まったダークも、内心では難しいと分かっているのだ。ヒューイさんにも迷惑がかかるし。
 個人的には一緒に行きたかったけど。
 
 
「さあて、旅行の支度でもしようかしらね」
 
「リーシャ……」
 
 私はソファーから立ち上がると、目を潤ませるダークを放置して寝室に向かうのだった。
 
 
 
 
 

 
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