土偶と呼ばれた女は異世界でオッサンを愛でる。R18

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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マーブルマーブル感謝祭【13】

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 何かおかしい。


 借り物競争のレースが始まってから、私は時間が経つごとに確信を深めていた。


 何しろ、スタートして中央の机から紙を真っ先に取った人が何故か、誰も彼もが他へ見向きもせず私に向かって走ってくるのだ。

「シャインベック夫人、【黒髪の人】なのでお願いします!」

「あ、はい!」

 断れないルールなのでゴールまで一緒に走る。

 やれやれ珍しいお題だわ、と少々息を切らして席へ戻ると、すぐ次のレースのスタートになり、また一番に紙を開いた人が私に向かって走って来ることの繰り返し。

 何故か2番手以降は私の方へは来ない。
 アレか?シード権みたいなもんなのか?交渉権は1位の人間だけみたいな?


 そして、【黒い瞳の人】【お菓子作りが上手い人】【会場で一番美しいと思う人】【子供が4人以上いる若々しい人妻】など、インサイダー取引でもしてるんじゃないかと思うほど、ピンポイントで私を狙ってるようなお題を見せられた。

 いや、美しい云々はね、ほら、この国の価値観だから。
 決して私がそう思ってる訳じゃなくて。誰にと言うわけでもなく言い訳をする。


 そして、その度に普段使わない筋力を使い、走らされる羽目になる。元から少ない体力がもたない。
 落ちる直前の線香花火のような気持ちだ。

 参加していたジークライン王子までやって来て、【メガネの似合う女性】と言うのを見せられ、これはルーシーの案件ね、とホッとしたのも束の間、ルーシーから渡されたメガネをそのまま私にかけて走らされた。

 いやおかしいべ。私関係ないよね?
 メガネ普段使わないじゃん。
 小物で持ってきてるの渡すから誰か他の女性にお願いしますって!
 いやそもそもルーシーで良くない?
 聞いてるちょっとジークライン王子!
 私体力値が底辺なんだってば!

 そう言いたいのにもう息切れがひどくて走るのがやっとである。

 その後もひたすら見知らぬ男性が走ってきては私を連れていく。死にそうです私。

「あの!お疲れなら自分がお姫様抱っこでも何でもしま」

「いえ、そ、れは結構、で、すからっ」


 騎士団で見覚えのあるイケメンさんに断りを入れるが、視界の隅に見えたダークは既に阿修羅と化していた。

 お題の借り物は断れないルールなだけに、どうしようもない苛立ちが眉間の皺に出ている。

「………考えてみたら、正攻法で堂々とリーシャ様と接触できる滅多にないチャンスでございましたわね。わたくしとしたことが失念しておりましたわ」

「………ぜぇ、ぜぇ、だか、だから、私を連れて、走っても、1位になるかは分からない、でしょうよ………むしろ順位が、落ちる可能性が高い、わよ」

 白チームの人とは必死で走って1位を取れた場合もあったが、肝心の私の足が遅いので、2位3位になってしまった人もいた。
 ジークライン王子と走った時は2位だったし。

 1位が取れずに私が謝ると、とんでもない、むしろ長い間ご一緒出来てラッキーでしたとかのたまった白チームの人もいた。

 アホか、勝つつもりでやれやぁっ!
 と絶叫しそうになったが、心臓がバクバクとしてまともに対応できなかった。
 この動悸は恋じゃなく脆弱な私の体力不足である。

「やだわリーシャ。1位になれなくてもリーシャと手を繋げるじゃないの。役得役得。モテる妻を持つと旦那様も苦労するわねえ」

 ルーシーもフランも笑顔でポンポンと背中を叩いたが、私は手など全く繋ぎたくないのだ。走りたくもない。
 ランチが全部リバースしそうである。

 それにウチの愛する旦那様が、未だかつてないほどの負のオーラをまとわせてるのよ。無表情に見えるでしょうけど、アレは激おこなのよ激おこ。

 私がガクガク色んな意味で震えていると、マークス兄様の番になっていた。

 文官のクセに思ったより足が速い。

 一番でお題を掴むと、一直線に私に向かって走ってきた。

 兄様もかーい。

「リーシャすまん!【笑顔が最高にキュートな人】だった!!お前しか思いつかんっ」

「キュートと言える年齢は大昔に通りすぎたわよ。クロエかアナでいいじゃない」

 ようやく飛び出そうな心臓が落ち着き始めたところなのに何をたわけた事を。

「クロエはアナと時間差で爆睡してる。アナはでかいミミズを発見したようでレイモンド王子と穴掘り中だ。身内ならダークもうるさくないだろう。頼む白チームのために!」

 そう言われてしまっては仕方ない。
 私はマークス兄様と再びゴールへ走り出すのであった。

 

 その後2度引きずられるようにして別の参加者に走らされた後、阿修羅を背負ったままのダークがスタートラインに立つのが見えた。

 怖い怖い怖い。

 人外の美貌で激おこになるとあれほどおっかないとは知らなかった。

 違うのよ私のせいじゃないのよ怒らないでダーク~ぅ!

 
 お題を掴んだダークが私の方へ走ってきた時には、危険を感じる位の圧が私の周りに襲いかかるような気がした。

「………リーシャ、行くぞ」

「ひゃいっ!」

 死ぬ気で走ろうと立ち上がると、ダークはヒョイっと私をお姫様抱っこしたまま走り出した。

「疲れてるだろ?そのまま掴まっとけ」

「ごめん、ごめんなさいダーク!ダーク以外の人と手を繋いで走ったりして。でも仕方なかったのよレースだから。
 浮気とかじゃないのよ?!
 だからそんなに怒らないで」

 私を抱えたままでも余裕の1位でゴールしたダークは、私を下ろすと少しだけ口角を上げて微笑んだ。

「リーシャに怒るわけないだろ。怒ってるのは俺の大事な妻の手に、勝手に汚い手で触った奴等だけだ。そのうちの3人は騎士団のアホ共だ。面は割れてる。覚えとけよアイツら、疲れてるリーシャに無理矢理走らせやがって………」

 私を怒ってないのはいいが、騎士団の人と揉められるのも困る。

「あ!でもね、疲れたなら抱っこして走るからって親切に気を遣ってくれた人もいて………」


 カチリ。

 今間違いなく地雷を踏んだ音が聞こえた。精一杯フォローしたつもりが死亡フラグを立てた気がする。

「………どいつだ?焦げ茶色のロン毛の男か?金髪の短い髪の男か?それともゴツいゴリラみたいな男か?
 まさか可愛いリーシャにボディータッチまで企む外道とは………」

 その3人が騎士団の人なのね。

「違うわ、その人たちじゃなかったから。騎士団の人じゃないし、ちゃんと断ったから!」

 ダークがジェラシーの炎を轟々と燃やしているので、眉間をきゅいきゅいと伸ばして、

「ウチの旦那様以外に抱っこして欲しいと思ってた?この私が?信用ないのね」

 とわざとらしく拗ねた口調で返した。

 途端に慌てたように怒りが消失し、

「あ、いや、リーシャがそんな事思うなんて勿論思ってない!信用してないのは周りの男たちだ!信じてくれリーシャ!!」

「ふーーん、へーー、そう」

 と言いながらなし崩し的に怒りを霧散させてもらった。
 ジェラシーなど無意味である。
 だって私はダークにしか興味がないのだから。


「………本当言うとね、ダーリンが一番格好良かったわよ。私の王子様はいつも断トツで素敵だわ」

 と囁くと、それはそれは嬉しそうに神々しく微笑むのだった。



 結局、その後の私は体調不良という名目でやって来た競技者をダークが全部シャットアウトしたものの、白チームがポイントをコツコツ稼いだお陰でギリギリのところではあったが総合得点で逆転勝利を収め、マーブルマーブル感謝祭は閉幕した。




 もう、町興しでもなんでも勝手にやって欲しい。

 私はもう2度と関わらないと帰り道で心に固く誓うのだった。


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