土偶と呼ばれた女は異世界でオッサンを愛でる。R18

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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リーシャ、あちこちに地雷があると知る。

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 舞台監督がかけあってくれたお陰で、ほぼ普段私が使いそうなセリフに直す事を許可してもらえたので、あのタカビーなオホホ女よりはよほど演じやすくなった。

 ただ、より自分の恥ずかしい黒歴史を晒しだす感が高まってツラい。
 まあお芝居が終わるまでの辛抱だ。



「………え?リーシャさんこれ本当に旦那様の前で言ったんですか?」

「伯爵令嬢がそんな低姿勢である訳ないじゃないすか。またまたやだなーもー」

 などと、セリフを直したところを見せた途端に監督から笑われたが、私は穏便に平穏にがモットーのヒッキーである。
 高飛車になって良いことなど1つもないのだ。腰も自然と低くなる。

 と言っても前世でも「ヒッキー喧嘩せず」ルールで、関西の商売人のようにどんなに気が合わない職場の人でも、

「はあ、さようでっか」
「ごもっともごもっとも」
「いやいや滅相もない」

 とか受け流しながら生きていたノーファイトフルガードな人間だったのだ。
 

 波風立たない生活大事。

 表に出ない生活らぶ。



 しかし、この芝居は限りなく似た設定だけどあくまでもフィクションだと言ってるのに、何日かお稽古をご一緒するうちに徐々に親しく会話を交わせるようになった役者さんたちにすら、すっかり私とダークの恋愛話だと誤認されてしまっている。


 ………まあほぼ間違ってはいないのだが、恥ずかしいのでフィクションで押し通す所存だ。



「リーシャさんは、なんで男爵家と言うあまり爵位も高くない旦那様にアタックしようと思ったんですか?
 アタシみたいな平民にはよく分からないですけど、貴族の方々は結婚は家柄が大事だって言うじゃないですか?リーシャさんなら王族でも公爵でもより取りみどりだったでしょうに」

 不思議で仕方ないと言った顔でフワフワした金髪の若い肉感的な女優さんから質問された。


「うちは家柄には特にこだわらなかったから。………えーと、ダークとは趣味で何度か会ううちに人柄も良くて、段々と好きになっていったの。
 だからお付き合いして欲しいと告白したのだけど、本気にされずに最初は断られて」

「「「えええっ?!どれだけ高望みなんですか旦那様」」」

 黙って聞いてた役者さんたちが驚きの声を上げる。

「違うの、違うのよ。高望みとかでなく、彼は何だか私をやけに過大評価してくれていて、自分には勿体ないとか自分を好きになる訳がないと思ってたらしくて、もしかしたら騙されてるんじゃないかと考えたようなの。
 こっちは勇気を出してぶつかったのに」

「………はあ………」

「あの、言っては何ですけど、あれだけの不細、………個性的な顔の男性にこれだけの絶世の美女がアタックかけてきたら、普通はツツモタセか遊ばれてると思いますよ。オレが旦那様の立場ならそう思いますきっと」

 相手役の役者さんが呆れた顔で私を見た。

 違うのよ!あっちが最高峰なの!

 私が100均のプラスチックのコップだとすれば、あっちはバカラの最高級グラスみたいなもんなのよ!と叫びたいが、きっと理解は得られないだろう。

 ………もどかしいけどまあいい。今さら急に価値観が変わってダークがモテモテになってしまったらそっちの方が困るものね。


「えーと………それで何とか付き合って頂ける所まではいけたのだけど、騎士団の公爵子息が無理やりデートに誘い出すようになって、イヤで仕方がなかったのだけれど断れないでしょう?公爵家だもの。
 でもそれをダークに見られてまた距離を置かれてしまって………」

「あ!ルイ・ボーゲン様ですか?噂には聞いてます。おっそろしい程のイケメンらしいですね」

 うっとりした顔で別の女優さんが呟く。


 いや、うん、まあコケシという前世の知識が無ければ、人間として認識は出来ると思います。私は無理ですけども。

「そうなの。ただ私はダークが好きだったから、どんな殿方だろうとどうでも良かったのだけど。それでね………」


 上手く乗せられてと言うかいつの間にか恋愛話を概ね暴露してしまった。

 だって、そんな話が出来たのはこれまでルーシーだけだったんだもの。

 
 女性が恋バナ好きなのはどの世界でも共通なのだ。


「つくづく旦那様が羨ましいです………若くて女神のような美人で料理上手で自分を大事にしてくれる奥さんとか………」

 役者さんがコクコク頷くのを見て、ちょっと居たたまれなくなった。

「皆さん、一度目を瞑って下さる?」

 言われた通りに目を瞑っている役者さんに少し経ってから声をかける。

「はい開いて。………ほら、一度リセットすれば、この程度の顔なんてどこにでもいるでしょう?
 噂でイメージ植え付けられてるから、より綺麗に見えてただけよ」

「目を開けて最初に見るのがリーシャさんとか何て眼福………」

「どう見てもお綺麗ですが」



 ダメだこりゃ。

 皆マインドコントロールされてるわ。
 私の欲しかった言葉じゃない。



 すっ、と壁に控えていたルーシーが近寄ってきて、

「これが世論でございます。いい加減諦めましょうよリーシャ様」

 と囁いてまた壁際に下がっていった。

 
 私は凡人なんだよぅ。みんなしっかりしてくれよぅ。


 何だかどっと疲労感が押し寄せた。




 そして、稽古を終えて帰ったら、何でか屋敷の敷地内に豪勢な馬車が止まっており、周囲には王宮付きの騎士団の見知った顔が数名存在した。

 ああもう既にイヤな予感しかしない。
 このまま屋敷に入らずぐるぐると町を回っていたいところだ。


 案の定、屋敷に入ると子供たちの中にサラッとレイモンド王子が混ざっていた。
 芝居の稽古をしているようだが先生役のアレックは壁際で汗をダラダラ流しながら立っているだけである。


「れ、レイモンド王子?どうなさったのですか?」

「リーシャおばさま、おかえりなさい。いえ、けいこのじかんがたりないので、カイルたちがいるところまでじぶんがきたほうがはなしがはやいとおもいまして。おきになさらず。
 ねまきももってきました。たべもののすききらいはないです」


 泊まる気かおい。
 飯まで食うんかい。
 外の兄ちゃんたちどないすんねん。うちそんなに客間ないがな。
 アーネストもジュリアも血の気が引いとるやないか。
 気にするわボケェェェ。
 帰れー帰りやがれぇぇ。


「………左様でございますか。狭い屋敷ではございますがお寛ぎ下さいませ」

「ありがとうございます」


 心で何を思ってようとも、私は争いより平和的解決を望むヒッキーである。

 秒で戦略的撤退を図り、稽古をする子供たちに手を振り、そのまま寝室へと逃げ込んだ。


(………うん。ダークが戻ってきてから相談しよう。それが一番良いわよね)


 私は、ルーシーに着替えを手伝って貰いながら、ダークに丸投げすることを決めた。

「屋敷の中にまで王族が………そろそろ本当に危険ゾーンまで来たようなーー」

「止めてちょうだい縁起でもない!あれは稽古の為だから」


 そう言いながらも、私の脳内オーケストラが有名な鮫の映画のテーマ音楽を演奏している。

 我が家に王族がホイホイやってくるようでは、心の安らぐ時がないではないか。


「ダーク………早く帰ってきてくれないかしらね」

「まあ旦那様が戻ったところで頭を抱える方が1人から2人になるだけかと思いますが、居ないよりは居た方が宜しいですわね」

 私は寝室のベッドの上でお腹を出して眠っていたアズキを撫でながら、

「アズキはオイチャンの最後の癒しの砦だよ………」

 と目頭を熱くするのだった。



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