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親善試合【5】

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【ダーク視点】

「勝者、ダーク・シャインベック!」

 味方の応援席から歓声が上がり、フウッと息がこぼれた。

 隣国のムキムキの大男が参りました、と頭を下げた。

「伊達に管理官まで出世した御方ではないですな」

「そちらも手が痺れるほどの怪力で、もう少し粘られたら危なかったです」

「またまた!上手いことを仰る」

 控え室に戻りながら、笑った大男にバンバンと背中を叩かれたが、結構本気で痛い。

「また機会があれば宜しく頼みますぞシャインベック殿」

 陽気に隣国の控え室へ消えていく男と入れ違いに、ウチ側の控え室からヒューイが出てきた。

「おう。お疲れ。勝ったのか?」

「何とかな」

「おめでとさん。
 ちぇっ、やっぱり2回戦はお前かよ。
 じゃあ俺は1回戦を華麗に勝って、ミランダとシャーロッテに『パパ素敵!』って言って貰わねえとな」

「まあ頑張れ。だが甘くみると怪我するぞ。俺の相手もかなり強かった」

「りょーかい」

 控え室に戻りいったん汗を流した後、急いでヒューイの試合を観に行く。

 まだ序盤だったようだが、見ると相手の力量はちょっとヒューイにとっては格下だった。
 普段は余裕のある時しかやらないゆったりした剣さばきで軽くいなしていた。

 俺はひと安心して、二階のテラスを眺めた。先ほどリーシャがあそこから俺の試合を観ていてくれたのだ。

 リーシャが観てくれていると思うだけで、自分でも思った以上の力が出せた気がする。やはり夫としてはカッコいい所も見て欲しいという気持ちがあるので、勝ててホッとして見上げると、何故かテラスの縁に頭をガンガン打ち付けていた。

 あの女神をも恐れをなす美貌になんて無茶なことを、と一瞬ケガしてないかと血の気が引いたが、さっきのは気を取り直す為の儀式か何かだったようで、今はけろりとした顔でヒューイの勝利に拍手をしている。

 そして、何故か嬉しそうに高笑いをしているように見える。謎だ。

 しかしリーシャの笑顔はいつもいつも可愛い。

 ウチの奥さんは時々行動が読めない所があるが、そこもまたたまらなくいいのである。


 子供たちの方を見ると、お義父さん達と一緒にぱちぱちと拍手をしており、周りの人々からうっとりとした目で溜め息をつかれていた。

 自分の子とは思えない位、贔屓目を抜いても可愛すぎるから仕方ないのだが、アナやクロエを見る男達の眼差しは、確実に未来の息子の嫁、自分の妻候補のような邪なモノを感じる。

 ロリコンなど死ねばいいのに。

 思わずお義父さんの口癖が移ってしまい苦笑した。




 二回戦はヒューイと戦い、奴も本気で来たので俺も手抜きは出来なかった。

 何とか勝ったから良いようなものの、奴も鍛練を怠ってない事が分かり、ますます自分も油断できないなと気持ちを新たにする。

 二階のテラスを見上げると、リーシャが拍手をしながら投げキッスをこっそり送ってくれたので、笑って俺も投げキッスを返したら、遠くでも分かる位に赤くなっていた。
 見られているとは思ってなかったらしい。

 不細工な俺に投げキッスを送ったり返されて照れるのはウチの奥さん位である。

 大体閨であんなことやこんなことまでしているのに何故未だに照れるのか不思議だが、神様はどうしてこんな奇跡のような存在を俺のところに使わして下さったのか。

 ああもう本当に可愛すぎてどうしてくれよう。




 三回戦、準決勝である。
 これで勝てばBグループの勝者と決勝戦だ。

 相手は隣国の騎士で俺よりもうんと若い。多分20歳を越えた辺りだろう。伸び盛りといったところか。

 幾ら鍛えているとはいえ、俺は39のオッサンなので、若さ故の無尽蔵な体力ととことん付き合うほどの無茶は出来ない。
 まだ決勝戦だってあるのだ。

 幸いな事に、あちら側がつまらない判断ミスをして俺に連撃を許してしまった為、お陰で勝利をもぎ取れた。

 リーシャを見ると、嬉しそうに拍手をして手を小さく振るに留めていた。

 投げキッスがバレたのが恥ずかしかったのだろう。気づかない振りをしていれば良かったと反省した。

 でもあんなに綺麗で可愛い奥さんに投げキッスされて無視できるか。否(いな)。



 さて決勝戦は、と相手を確認すると、やはりというかギュンター王子である。

 大きな口を叩くだけの事はあったらしい。




 決勝戦で顔を合わせたギュンターは、

「リーシャ夫人、弟が言うだけの事はあったね。余りの美しさに驚いたよ。女神の評判もだてじゃないね。いやほんと勿体ないなあ人妻だとは」

 と話しかけてきた。

「ありがとうございます」

(大きなお世話だよ)

 内心の不快を押し隠して一礼する。

「よろしくね。君に勝ったら彼女から花束を受け取って頬にキスして貰えるんだろう?頑張ろうっと」

 ニヤリと笑うと剣を構えた。


 隙がない。強い。


 俺も構えて剣を受けながら、嫌な奴だが全力で行かないと負ける、と必死に攻撃をかわす。


 永遠にも思われた時間は、ギュンターの育ちの良さと、強いが故の傲慢さが勝敗を分けた。

 俺の勝ちを諦めない雑草精神がヤツの隙を見逃す筈もなく、踏み込んで剣を払う。

「くっ!」

 とギュンターの声がして、持っていた剣を落とし、俺の勝利が確定した。


 しかし、流石に疲れた。
 ギュンターは荒い息をつく俺に一礼すると、

「残念だったよ。次はウチの国で親善試合をやろうね。リーシャ夫人も一緒に招待するから是非。それじゃーね」

 と笑顔で控え室へ戻って行った。
 


※   ※   ※



 リーシャから花束を貰い、頬にキスをしながら、小声で、

「約束守ってくれてありがと。愛してる」

 と囁いてくれたので、俺の疲れも吹っ飛んだ。

「………おう」

 相変わらずウチの奥さんはクソ可愛い。





 閉会式後、子供たちやお義父さんたちとも合流し、屋敷に帰ろうと馬車へ乗り込んだところで、お義父さん達が増えた分だけちょっと馬車にゆとりがなくなった。

「じゃあ皆は一足先に帰ってて貰えるかしら?
 私とルーシーは商店で今夜のご馳走の買い物をしたいから、1時間後にいつもの馬車溜まりのところへ迎えを寄越してくれればいいわ」

「もう夕方になるが女性だけで大丈夫か?」

 いくらルーシーがかなり出来るメイドとは言え、俺は少々心配になる。

「やあね。買い物だけだし、暗くなる前には迎えの馬車で帰るのよ。今日の料理は張り切って作りたい気分なのよ。だってダークの優勝祝いだもの!」

 リーシャの極上の笑みに俺は、

「………分かった。それじゃ1時間後にアレックと一緒に迎えに来るから。後でな」

「分かったわ。じゃまたね」

 手を振って中央通りの商店へ向かうリーシャとルーシーを見送って、俺たちは屋敷に戻った。


 一日人の沢山いる所でわーわー騒いで疲れたのか、爆睡している子供たちをサリーとミルバに任せ、お義父さんとお義母さんに留守を頼むと、アレックと俺は再び馬車でリーシャ達を迎えに戻るのだった。

 



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