土偶と呼ばれた女は異世界でオッサンを愛でる。R18

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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リーシャ、決意する。

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 何と言う事だろうか。

 私の目の前に、アレがある。

 そう、あの64色のカラーペン様である。


 店で見たときには魂が持っていかれるかと思った。


 息子の文具を買いに来ただけよ、本当にそれだけなんだから、と自分へ何度言い聞かせた事だろうか。

 ダークの話を聞いてる辺りから正直辛かったけれど、店に着いてからはもう拷問である。

 前世でもフルカラー原稿を描く時に愛用していたカラーペンとほぼ同じ物がこの世界にあったとは。
 その上バラでしか購入出来なかった(セットは結構痛い値段だった)ものがセットで。

 こちらの物価でも2万位だ。結構お高い。いや、1本300円位なら、そんなに高くはないのか。いやでも私の魂を揺さぶるからといって気軽に手を伸ばせる金額ではない。

 ………と言うより、買ってしまったら最後、私が封印していた、

「絵を描きたい」

 と言う煩悩の扉が開いてしまう。ぱっかんぱっかん開いてしまう。


 私は今でこそ薄い本界の第一人者と言う、いやそんなんいらんがなと言う恥ずかしい肩書きがついてしまってる小説家だが、前世では好きな作家さんに絵をつける側、そして、漫画で愛を表現していた人間なのだ。

 漫画と言う物がない世界ではしょうがないと思ってはいたが、描きたいと言う気持ちが無くなった訳ではない。

 その上この店、憎い事に明らかに漫画に使えそうな様々な太さのペン(インク入り)まであるじゃないの。

 ダークは私の心を知らないので、気軽にカラーペンを買ってくれようとする。
 必死に断るのがどれだけ大変だったか。

 ゴミのような理性をかき集め、せめて黒ペンを何本か買う事で己の気を逸らすのが精一杯だったのだ。



 そこまでして諦めたモノなのに、多分欲しがっていたのがバレていたのだろう、ダークからのプレゼントとして私の手元にやって来てしまった。


 例えるならば、マッパでベッドに横たわる肉感的な美女に「好きにして」と誘われたスケベ親父だ。これにどう抗えと言うのか。


 前世の業と言うのは何と深いのか。


 気がつくとペンを抱えた私は、『図書室』と言う名目で利用している執筆部屋に来ていた。

「まず、まずは書き味よね………」

 イタズラ描きに使っている白紙のノートを開き、1本ずつ色合いや書き味を確かめる。

「わぁ………こんな絶妙な色が………ワール堂いい仕事してんじゃないの………何よベージュ系だけで8種類もあるの?マジでヤバくないちょっと?うーわーこのパープル発色たまんないわぁ」

 興奮で前世口調がだだもれになりながら、息づかいまで荒くなる。
 白い紙に64色を順々に塗っては頬を熱くする。
 立派な変態である。


 ダメだ、このままでは集中モードに入ってしまう。


 私はカイルと遊んでいるルーシーのところへ向かい、今夜はいい文章が頭に降りてきそうだから集中したい、申し訳ないけどカイルの面倒はミルバと二人でお願いしたいと頼み込んだ。

 ルーシーは私の小説が本当に好きなので、小説絡みの話をすると大概喜んで引き受けてくれる。

「ヨーデルの連載も良いのですが、やはり別の新作もそろそろと思っておりました。
 リーシャ様もようやくその気になられたかと思うと胸が一杯でございます。
 何日でも構いませんので遺憾なく才能を発揮して下さいませ。
 なにとぞお願い致します」

 と五体投地せんばかりに感謝され握手された。

 カイルにキスをするとキャッキャとご機嫌である。特に体調も問題なさそうだ。


 私は落ち着いた足取りで図書室に戻った。


 これで、完全なるフリータイムを確保した。
 ダークのところへ戻るのはちょっと遅くなりそうだが、二、三時間は平気だろう。

 私はいそいそと紙と鉛筆と消しゴムを取り出し、机で下書きを始めた。

 今の連載小説『ヨーデルの流れ』のキャラである。

 私の小説は、頭の中では「こういう感じのツンデレの王様キャラ」とか「押しに弱いけど頑張る子でちょっと天然」みたいな具体像を作って脳内でイラストを描いて保存してるのだが、思った通りの絵が以前のように描けるか分からない。
 ひとまずやってみなくては。


 カリカリカリカリ。


「………描ける!描けるわ!!」

 インフルエンザで一週間寝たきりでペンも持てなかった事があったが、その後初めて原稿用紙に向かった時の感覚だ。
 ちょっと間が空いてても、身体が描き方を覚えてるような不思議な感じがする。

 こちらで絵を描くなんてことは20年近くなかったのに、具体的な前世の絵柄の視覚的イメージがあるせいか、思ってたより戸惑いもない。

「………え、じゃあ濡れ場も描けるのかしら………」

 いちゃつく男達を描く。バラやパンジーなどの花を股間を隠すように散らす。
 スクリーントーンがないので手描きしないといけないのがツラい。

 ペン入れして消しゴムをかける。


「………おおお………」

 
 前世で描いてたレベルの萌え絵が。
 どうしよう。すごく嬉しい。

 中学生の絵のレベルからやり直しだったら諦めていたかも知れない。上達するまでかなり時間がかかったからねー。

 死んだ辺りが一番満足のゆく絵が描けていた時期だったので、ほぼ同じ位の表現力が出来るのは最高だ。
 まあ勿論もっともっと絵の上手い人は沢山いたが、友達は私の絵をとても気に入ってくれていた。

「ぐうちゃんの絵が付かないと小説書く気分が半減するんだよ。エロ格好いい男、特にオッサン描かせたらぐうちゃんの右に出る者はいないわ!」

 よく小説の挿絵を頼まれたマヒマヒちゃんはオッサン萌えだった。

 マヒマヒちゃん、今は私がオッサン萌えだよ。………オッサンとは思えないほど若々しくてそら恐ろしい美形だけどねぇ。

 描いてるうちに色んな前世の思い出がフラッシュバックしてきて、ほんの少し涙が出た。

「………あ、色付けしなきゃね」

 気を取り直してカラーペンを握り、絵に色を付けていくうちに気持ちが昂り、前の作品のキャラも描こうとか、今考えてる新作のキャラも………、


 などとエンドレスで描きまくっているうちに、時間の感覚がなくなり、気づけば窓の外は明るくなってきていた。
 何が二、三時間だ。八時間は黙々と机に向かってるじゃない。
 ダークもほったらかして何してるんだかと慌てた。


 でも昔の勘は戻った。

 よし。

 伸びをしながら急いで後片付けをして、絵はルーシーにまた掃除とかで発見されないよう、鍵がかかる袖机の一番下の引き出しに入れてしっかり施錠した。

 そこには、もうひとつ隠されているものがある。

 ルーシーの誕生日プレゼントだ。
 彼女は来週21になる。

 いつも私の支えになってくれるルーシーだが、特に誕生日プレゼント何がいい?と聞いても「リーシャ様の存在だけで人生プレゼントですので」と固辞されてしまうので、今回は絶対断らないような物がないだろうかと考えて、ルーシー専用のオリジナル小説を書いているのだ。
 これなら断るまい。何せ世界に一冊だけの薄い本である。
 白紙のノートが売っていたので現在手書きで綴っている。

「………これに挿絵をつけたらどうかしらねぇ………でも、絵を描いたのは見せたことないしなぁ………」

 何だか好きなだけ描き散らしたら、気持ちがとてもスッキリしていた。

 これからも描きたいなぁ………。
 でも、この世界では漫画ないしなー。
 受け入れられるのかも分からないし。
 そもそもなんて説明しようか。


 ダークとルーシーにだけは、『前世の記憶がある』事を打ち明けるべきか。


 やはり隠し事は宜しくないとは思っているのだが、信じて貰えなかったら切ないし、頭がおかしくなったと思われても悲しい。嘘つきと思われたら泣いてしまうだろう。親兄弟にも言っていないのだ。


 ダークもルーシーも私を愛してくれているので大丈夫だと信じたいが、人間の心は複雑なものだ。何とも断言は出来ない。

 でも、前世の記憶がある事を隠しているせいで段々と、説明しづらくて嘘をつかざるを得ない事もこれから増えていくような気がする。絵についてもそうだ。

 つきたくないのにつく嘘は、心を磨耗させる。

 もう一人の自分も全部受け入れて欲しいと強く願っている。
 それでも一緒に居てくれるといって欲しい。
 松ヶ谷理沙(まつがやりさ)、という前世の記憶も含めてリーシャと言う私が形作られているのだから。


「うーん、………ルーシーの誕生日辺りにでも………」

 ダークの誕生日はまだ何ヵ月も先だ。
 言うなら早い方がいい。


 私は悩むことは人一倍なのだが、吹っ切れると行動が早い。

 よし言おう、と決めた事で長年の憂いが少し晴れた。


 反応を思うと怖いけど、せっかくの2度目の人生だ。やはり悔いのない生き方をしよう。


「………お願いよ、お願い、お願い………」


 朝食の手伝いとダークのお弁当の準備をすべく階下へ降りながら、吹っ切れた筈なのに私はダークとルーシーへ無意識に手を組んで祈っていた。





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