土偶と呼ばれた女は異世界でオッサンを愛でる。R18

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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肩透かし。

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 今日は、ルーシーの誕生日である。


 私は吹っ切った筈なのに悶々とすると言う自分でもよく分からない心境で今日まで乗り切った。


 無事にルーシーへのプレゼントも完成した。BLだが初のプラトニックな純愛ものである。
 迷ったが、どうせ打ち明けてしまうのだし、と今まで見せたこともないイラストを幾つか入れてしまった。

 ダークにも、先日自分から閨へ誘ってしまうなどと言うふしだらな行為をしてしまい、

「すごく嬉しいが、どうしたんだ?」

 と驚かれ恥ずかしくなり、やっぱり今のナシで、と言おうとする唇を塞がれ、

「言わせない」

 と押し倒され、まだ目立たないお腹を撫でながら、

「お前のママは少しイヤらしくなってパパは幸せだ」

 などと言いながら優しく濃厚な時間をくれたのだが、どうやら私は少々心が不安定な躁鬱状態になっていたようだ。



◇  ◇  ◇



 夕食後、カイルをお風呂に入れてミルバに預け、ちょっとダークとルーシーに話があるからと暫くカイルの世話を頼む。

「可愛いカイル坊っちゃまの面倒ならいつでも喜んで!」

 と抱っこして出ていく姿を見て、彼女にも無理をさせている気がして申し訳なく思う。

 厨房のジュリアやメイド長のサリーでも良かったが、マカランさんの妻であるサリーだと夫婦の団欒の邪魔になるかも知れないし、ジュリアは先日カイルを持ち上げて腰を痛めてしまったので難しい。

 そして、カイルはダーク以外の男性に抱き上げられるのを嫌がる。身体がゴツゴツしてるのが痛いのだろうか。

 しかしこんな小さな頃から女好きとは、一体どんなプレイボーイですかね。DNAですか。

 一度ダークとそんな話をした時に、彼は顔を真っ赤にして反論した。

「違う!俺は女性が好きだが求めてるのはリーシャという女性1人だけだ!
 リーシャ以外はどうでもいいんだ!冤罪だ信じてくれ!」

 などと赤面ものの台詞をのたまって私の前に膝まずき泣きそうな目を向けた。
 人外の美貌に潤んだ目で見られると、私のメンタルがかなりやられる事を思い知った。

 周りの使用人が何だか温い目をして眺めてるので止めて貰ったが、あれから事あるごとに、「俺が愛してるのはリーシャだけだ」「信じてくれ」と言われ、体で証明するとか訳の分からない事を言われたあげく明け方までベッドで体力値を0にされた。


 まあそんな暴走も許してしまえるほど愛してるのだが、今夜は目を合わせるのも少しだけ怖かった。



◇  ◇  ◇



「リーシャ様?お呼びとの事でしたが」

「リーシャ、珍しいな俺をこちらに呼ぶなんて」

「入って」

 ノックをして図書室の扉を開けたルーシーとダークを笑顔で迎えた。

「少し真面目な話があってね。コーヒー?紅茶?」

 それぞれの希望を聞いて私が準備する。少し手が震えてしまってるのがバレてない事を祈ろう。


「それで、どんな話だ?」

 ダークが穏やかな顔で問いかけた。


「………私、二人に話せなかった事があるの」

 ミルクティーを一口含んで、私は口を開く。

「私、信じて貰えないかも知れないけど、実は前世の記憶があるの」

「………はぁ」

「ん。それで?」

 なんだろ。驚きが少ない。やはり信じてはいないのだろうか。

「私が以前生まれた国の話をするわね」

 日本という国のこと。
 車や飛行機、電車などがあって、今の世界とは異なる場所であること。
 そこで私は普通の会社員をしていて、若い頃からゲームや小説、漫画、BLに嵌まってて、同人誌で絵を描いてた事、24の時に車にはねられて死んだが、目覚めたらこの世界だったこと。
 だからダークにカラーペンをもらった時は嬉しくて絵を描きまくってしまったこと。

 そこでは、私のような顔立ちは美人でも何でもなく、むしろダークやルーシー、お義父様、弟のブライアンのような人達が美形と呼ばれていた真逆の価値観だったこと、などなど。

 
「なるほど………ですから昔からリーシャ様はちょっと変わっておられたんですねぇ。時々分からない言葉も使われてましたし」

 感じ入ったように呟くルーシーに、

「そうか。リーシャが俺を格好いいとか言うのは前世の価値観から来てるのか。
 お世辞とか気の迷いじゃないんだな。安心した」

 と安堵するダーク。

 ………あれ?何で驚かないのよ。


「信じて、くれるの?」

「え?いや、だってそんな嘘をついてもリーシャに何の得もないしなぁ」

「ですよね。かえってリーシャ様があんな素晴らしい話を紡げるのも、とても伯爵令嬢とは思えない行動もいちいち腑に落ちたと言うか」

「でも、きっ、気持ち悪くない?そう言う別の記憶があるような女って」

「………?いや、別に。だってどっちも存在するから今のリーシャなんだろ?
 俺は今のリーシャがこの国に生まれ俺と巡り合ってくれて良かったと思うだけだ」

「わたくしも、そんなリーシャ様が好きでお仕えしてますので、特に」

「………何よ私、もっと早く言えば良かったのかしら………めちゃくちゃ緊張してたのに」

 反応が予想外で気が抜けた。

 私は椅子の背もたれに寄りかかり、大きな溜め息をついた。
 安堵で目尻に涙が溜まる。

「まあ、あまり気軽に言う話ではありませんよね。わたくしも小さな頃からリーシャ様を存じ上げてるので簡単に受け入れましたけど、封建的な考えの方もおられますし、頭がおかしくなったと思われる場合もありますものね」

「俺もリーシャと表面的な付き合いしかしてなかったら、信じられなかったかも知れないな。でも、一応これでも夫だからな」

 二人の優しい返事に、ポロリと溜まっていた涙が零れた。


「怖かった。………内緒にしてるの嫌だったけど、本当に言うのが怖くて………もし信じて貰えなかったらとか、病気とか思われたらと思うと………」

 ダークが立ち上がり、私の椅子の後ろからよしよしと頭を撫でる。

「俺は、リーシャの事は全部信じてるから安心しろ」

「わたくしも伊達に16年もお側に居た訳ではございませんよ」

「ありがとう、二人とも本当にありがとう!」

 どんどんわき上がる涙をこらえ切れなかった。今の私は相当不細工である自信がある。

「………ところで、切っ掛けは何だったのでしょうか?」

「切っ掛け?」

「ええ。今まで話してなかった事を話そうと思われた切っ掛けでございます」

 ああ、と私は理解した。

「ダークが私にカラーペンをプレゼントしてくれた事と、それによって漫画を描きたい欲が再燃した事かしらね」

「その、マンガというのは一体どういうモノなのですか?」

「ああ、いけない。大切な事を忘れてたわ」

 私は笑顔で涙を拭うと、引き出しから包装紙に包んだプレゼントを取り出した。

「ルーシーへの誕生日プレゼントなの。貴女だけが読める小説と、マンガではないけどイラストを描いてみたわ。良かったら貰ってくれる?」

 ルーシーに手渡すと、普段ダークのように表情を変えないタイプの彼女は、呆然としていた。

「わたくしだけが読める小説………そんな貴重な物を!………少し開けてみても宜しいですか?」

「いいけど、読むのは部屋へ戻ってからにしてね。恥ずかしいから」

 カサカサ、と慎重に包装紙を開いていくルーシーが、無地のノートをぱらりとめくり、手が止まる。

「り、リーシャ様、この絵はまさか………」

「前世で描いてたような絵だから、こちらの腐女子に受け入れてもらえるかは分からないんだけどね。ルーシーには見て貰いたかったの。以前の私の生きた証みたいなものだから」

「なんて、………なんて素晴らしい絵でしょうか。色の使い方も綺麗で驚きましたわ。
 リーシャ様の才能がこれほど多岐に渡るとは………」

 興奮し過ぎて頭に血がのぼったように頬を染め、目が輝くようにキラキラし出したルーシーに、

(あ、またなんかヤバい扉を開いてしまった)

 と少しだけ早まった気がしたが、

「本当にありがとうございます!これから早速部屋へ下がらせて頂き、堪能させて頂きます。ああ、今夜はとても眠れそうにございませんので、夜間カイル坊っちゃまが目覚めた時のお世話はわたくしが」

 と言いながらすごい早さで部屋から立ち去っていった。

「さすが私の影武者兼ブレーン兼マネージャー兼護衛兼愛読者兼子守りだけあるわね………新作への期待がぱないわ………」

 私が若干呆れたように呟くと、

「俺も見たかったリーシャのイラスト………」

 と拗ねる声がする。
 だからその美貌でのおねだりやめて。

「何枚かあるわよ。見てみる?女性向けだと思うけど」

「見たい」

 私は引き出しから取り出した絵を手渡した。

「今までに出版してる小説の主人公達のイメージ画像みたいなものよ」

「………上手いもんだなぁ。このバラやカラーとかカスミ草とかもリアルだ。
 これはまさかマクシミリアン教授か?
 うおっ、ヘロデア号のギルバートとラッセルもいる。イメージがドンピシャだ。あー、これ絶対ヒースクリフとベルガーだな」

「………………」

 興奮しているダークを見て思い出した。

 そう言えば、ダークも直ぐに作品のキャラ名が出る位、私の本読み込んでいたわ。
 少々気恥ずかしくて居たたまれない。
 
「………ダーク」

「ん、なんだ?」

「ありがとう信じてくれて。嫌いにならないでいてくれて」

 後ろから抱きついて背中に顔をすりすりした。

「愛情メーターがとっくにMAX振り切ってるから嫌いになりようがないな。
 むしろ、話を聞いたら二人分の愛情を貰ってるのかと嬉しくて泣きそうになった。こんな不細工なオッサンには過ぎた幸せだ」

「いや、本当にダークがあちらの世界に生まれてたら、モテモテだったと思うほどのイケメンなんだってば」

「リーシャが居なければモテても意味がない」

「きっと前世の国にいたら、私が不細工だと思うから、好きにはなってなかったと思うよ?」

 ダークは私を見つめた。

「いや、何があっても絶対見つけて恋をする。俺が何より好きなのはお前の中身だから。もちろん顔も体も死ぬほど好きだが」

「………ダークの殺し文句で本当に死にそうだわ」

 目を逸らしてパタパタと熱くなった顔を仰ぐと、ダークがぎゅっと抱き締めてきた。

「リーシャ」

「ん?」

「俺は、頑張って長生きしようと思ってるが、それはリーシャが生きてるからだ」

「うん?」

「だから、リーシャは俺が死ぬまで元気で長生きしていて欲しい。
 ずっとお前しか愛せないから、冗談でも死ぬとか言うな。
 俺をまた一人にしないでくれ。
 ………なんで頭を撫でるんだ?」

「………あははごめん、今ちょっとダークが可愛くて。
 私、ダークと会えてこの世界に生まれて本当に良かったと思うわ」

「俺はあと十年遅く生まれて来たかった。そしたら丁度いいだろうリーシャの年頃と」

 額にキスをしてダークは微笑んだ。
 接近戦での破壊力が半端ない。

「どうかなあ。私は年上の優しくて甘やかしてくれる釣り好きなオッサンが好きだから」

「そうか。マニアックだな。
 それなら今のままでいい」

「ねえダーク、図書室を出ない?」

「………?」

「この子が、私の愛するダーリンに会いたいみたいなの」

 ダークは、蕩けるような笑みを浮かべて私を抱き上げた。

「喜んで、マイハニー」





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