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第1章
第74話《ひなの王子様___現る》
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ちょっとだけ溜飲が下がって、ひながどうするのかを見届けるためにステージに目を向けると、司会がステージの上を慌てたように右往左往しているのが目に入る。
(あの司会、やっぱりひな贔屓にも程があるな。
他の出場者が失敗した所で、普通ああはならないだろう。)
ひなはひなで未だに総一郎と連絡がつかないのかずっとスマホと睨めっこで、流石に数分たったので司会から「あの、ではそろそろこちらで用意したエキストラと審査を始めませんか?」と恐る恐るせかされては、「今総君はトイレに行ってるだけだから待ってよ…!!」等と、必死に言い返して粘り続けている。
それから更に数分が経ち、観客達からはとうとう怒りの声が上がりはじめる。
『おい!いつまで待たせるんだよ!!』
『失敗は失敗でいいだろ!!一人の出場者に対して時間かけすぎだ!』
『もうかれこれ、15分は経ってるぞ…!!』
ブーイングが大きくなっていき、いくら押しの強い司会でも流石にまずいと思ったのか、ひなの意向をよそにやや強引に審査開始のアナウンスを始めた。
「えー、ひな様のお相手の方は丁度タイミングの悪い事にお腹をくだしてお手洗いに行っているということで…!な、何とも運が悪かったですねっ…!それでは、プロポーズの相手役はこちらで用意したエキストラに…」
「ちょーーっと待ったぁ!!ひなのプロポーズの相手ならここにいる!!勝手に審査を進めないでくれ!」
震え声の審査開始のアナウンスに合わせて舞台袖からエキストラらしき人が表れた途端、突然背後から大きな制止の声が轟いて会場の後方扉が開き、観客達全員が心底驚いたように後ろに目を向ける。
(な…!?まさか、総一郎が戻ってきたのか?)
っ…!こんなドラマで見るようなロマンティックな展開で登場してくるとは、やるな総一郎…。
「……っっ!!総君……!!!待ってたよぉっ…!!」
王子様の登場にひなが泣きながら満面の笑顔になる。
その表情はさながらハッピーエンドを迎える少女漫画のエンディングのヒロインのようだ。
(ちっ、流石に本命のひなをほっといてGPSを追っかけ続けるというのは無理があったか…。)
しかし、恋人の俺を差し置いてよくもおめおめとここに来やがったなと思い、ゆっくりと後ろの方を振り返ると、そこには総一郎__________。
が、ミスターコンで着ていたタキシードを着た謎のひげ面ケツ顎のβの男が立っていた。
彼はひなの元に向かうために、ランウェイを全力で駆け抜ける。
(だ、誰――――――!!?…ってよく見たらあれは…………??)
あの顔にはどこか見覚えがある。
昨日俺の腕を掴んで総一郎と別れろと圧力をかけてきたひなの取り巻きのテニサーの一人にそっくりだ…。というかまんま本人だ。
確かさっきまでは最前列に座って、ひなに声援を送っていたはずだが、何分間も総一郎を待ち続けるひなに耐えきれなくなったのだろうか…?
全力疾走の末、ようやくステージにたどり着いた彼はそのままひなをひしっと抱きしめ、司会に向かってドヤ顔で声をあげる。
「ひなっ!ちょっと俺がトイレに行っていて目を離した隙に審査が始まってたんだなっ!本当にごめん…!さぁ司会さん、このまま審査を続けてください!!」
「は???」
さっきまでひきつっていたひなの顔が、後方扉が開いた途端パァッと花が開くように輝いた…かと思ったら今はこめかみに青筋を立ててブちぎれている。
(うわ、怖っ。)
最早特技と言ってもいいくらいの百面相ぶりだ。
「あの~、こ、これは一体どういう…?」
まさかの展開に司会も動揺を隠せず、会場中の観客達も(いや、お前誰だよ…)といった困惑の表情を浮かべている。
「だから俺がひなのプロポーズの相手です。エキストラでもありません!俺こそがひなと一緒にテニサーを頑張ってきた仲間であり、友であり、お互いに大事な関係の男なんです!!だからガチプロポーズの方で10000pt加点の方向で点数をつけてください!」
ひなをひしっと抱きしめたままの彼が司会に訴える。
司会も彼の説得に《ああっ!》と、声をあげて、観客に向けたアナウンスを始める。
「申し訳ございません…!わたくしとした事が間違えてひな様のお相手の名前を間違えておりました…!!正しくはこの方がひな様のプロポーズ相手です!!ですよね!?ひな様!?!?ね!!??」
「っっ!!!~~~!!!!」
司会がテニサー男の意図に気付いて、ひなの審査をそのまま強引に進めはじめた。
ひなはというと、顔を般若のように真っ赤にして怒り狂い、悔しそうに唇を噛みしめ、歯をギリギリさせながらも何も言い返せずにいる。
そうだよな。ここで断ったらひなは10000pt加点を逃し、オメガコンテストで負ける可能性が高くなるから、当然逆らえない。
そして、ガチプロポーズ成功の条件がハグとキスだから、自分が普段見下しているβとキスをしなければいけないという皮肉な状況に立たされているわけだ。
(あーあ。割かしイケメンのフクロー君にも最後まで許さなかった、総一郎以外とのキスをここでしてしまうのかー。)
あのテニサー男の目的がひなを勝たせるためなのか、ひなと合法的にキスをしたいだけなのか、周りから公認のカップルに思われたいからなのか、はたまたその全部なのかは分からないが、これはこれで胸が梳く思いだな。
逆にここで断ったら断ったでシマちゃんのオメコン優勝がぐっと近くなるだけなので俺としては別にどっちでも一向に構わない。
(あの司会、やっぱりひな贔屓にも程があるな。
他の出場者が失敗した所で、普通ああはならないだろう。)
ひなはひなで未だに総一郎と連絡がつかないのかずっとスマホと睨めっこで、流石に数分たったので司会から「あの、ではそろそろこちらで用意したエキストラと審査を始めませんか?」と恐る恐るせかされては、「今総君はトイレに行ってるだけだから待ってよ…!!」等と、必死に言い返して粘り続けている。
それから更に数分が経ち、観客達からはとうとう怒りの声が上がりはじめる。
『おい!いつまで待たせるんだよ!!』
『失敗は失敗でいいだろ!!一人の出場者に対して時間かけすぎだ!』
『もうかれこれ、15分は経ってるぞ…!!』
ブーイングが大きくなっていき、いくら押しの強い司会でも流石にまずいと思ったのか、ひなの意向をよそにやや強引に審査開始のアナウンスを始めた。
「えー、ひな様のお相手の方は丁度タイミングの悪い事にお腹をくだしてお手洗いに行っているということで…!な、何とも運が悪かったですねっ…!それでは、プロポーズの相手役はこちらで用意したエキストラに…」
「ちょーーっと待ったぁ!!ひなのプロポーズの相手ならここにいる!!勝手に審査を進めないでくれ!」
震え声の審査開始のアナウンスに合わせて舞台袖からエキストラらしき人が表れた途端、突然背後から大きな制止の声が轟いて会場の後方扉が開き、観客達全員が心底驚いたように後ろに目を向ける。
(な…!?まさか、総一郎が戻ってきたのか?)
っ…!こんなドラマで見るようなロマンティックな展開で登場してくるとは、やるな総一郎…。
「……っっ!!総君……!!!待ってたよぉっ…!!」
王子様の登場にひなが泣きながら満面の笑顔になる。
その表情はさながらハッピーエンドを迎える少女漫画のエンディングのヒロインのようだ。
(ちっ、流石に本命のひなをほっといてGPSを追っかけ続けるというのは無理があったか…。)
しかし、恋人の俺を差し置いてよくもおめおめとここに来やがったなと思い、ゆっくりと後ろの方を振り返ると、そこには総一郎__________。
が、ミスターコンで着ていたタキシードを着た謎のひげ面ケツ顎のβの男が立っていた。
彼はひなの元に向かうために、ランウェイを全力で駆け抜ける。
(だ、誰――――――!!?…ってよく見たらあれは…………??)
あの顔にはどこか見覚えがある。
昨日俺の腕を掴んで総一郎と別れろと圧力をかけてきたひなの取り巻きのテニサーの一人にそっくりだ…。というかまんま本人だ。
確かさっきまでは最前列に座って、ひなに声援を送っていたはずだが、何分間も総一郎を待ち続けるひなに耐えきれなくなったのだろうか…?
全力疾走の末、ようやくステージにたどり着いた彼はそのままひなをひしっと抱きしめ、司会に向かってドヤ顔で声をあげる。
「ひなっ!ちょっと俺がトイレに行っていて目を離した隙に審査が始まってたんだなっ!本当にごめん…!さぁ司会さん、このまま審査を続けてください!!」
「は???」
さっきまでひきつっていたひなの顔が、後方扉が開いた途端パァッと花が開くように輝いた…かと思ったら今はこめかみに青筋を立ててブちぎれている。
(うわ、怖っ。)
最早特技と言ってもいいくらいの百面相ぶりだ。
「あの~、こ、これは一体どういう…?」
まさかの展開に司会も動揺を隠せず、会場中の観客達も(いや、お前誰だよ…)といった困惑の表情を浮かべている。
「だから俺がひなのプロポーズの相手です。エキストラでもありません!俺こそがひなと一緒にテニサーを頑張ってきた仲間であり、友であり、お互いに大事な関係の男なんです!!だからガチプロポーズの方で10000pt加点の方向で点数をつけてください!」
ひなをひしっと抱きしめたままの彼が司会に訴える。
司会も彼の説得に《ああっ!》と、声をあげて、観客に向けたアナウンスを始める。
「申し訳ございません…!わたくしとした事が間違えてひな様のお相手の名前を間違えておりました…!!正しくはこの方がひな様のプロポーズ相手です!!ですよね!?ひな様!?!?ね!!??」
「っっ!!!~~~!!!!」
司会がテニサー男の意図に気付いて、ひなの審査をそのまま強引に進めはじめた。
ひなはというと、顔を般若のように真っ赤にして怒り狂い、悔しそうに唇を噛みしめ、歯をギリギリさせながらも何も言い返せずにいる。
そうだよな。ここで断ったらひなは10000pt加点を逃し、オメガコンテストで負ける可能性が高くなるから、当然逆らえない。
そして、ガチプロポーズ成功の条件がハグとキスだから、自分が普段見下しているβとキスをしなければいけないという皮肉な状況に立たされているわけだ。
(あーあ。割かしイケメンのフクロー君にも最後まで許さなかった、総一郎以外とのキスをここでしてしまうのかー。)
あのテニサー男の目的がひなを勝たせるためなのか、ひなと合法的にキスをしたいだけなのか、周りから公認のカップルに思われたいからなのか、はたまたその全部なのかは分からないが、これはこれで胸が梳く思いだな。
逆にここで断ったら断ったでシマちゃんのオメコン優勝がぐっと近くなるだけなので俺としては別にどっちでも一向に構わない。
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