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第1章

第15話《お前らも復讐の餌にしてやる》

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俺はせめて相手を怯ませられないかと思い、男達をキッ!と睨みつけてやると、ふとその背後にあるおしゃれな外装の大きなテントが目に入った。

オープンテラス風のカフェになっているそこには、チョーカーをつけたメイド服の美しい男Ωの集団がいて、中にはこちらに気付いて何事かと様子を伺っている人もいる。
それを見て俺はピンと閃いた。

(この状況…、こいつらに絡まれたのはむしろラッキーなのかもしれない。)
こいつらを追い払いつつも、上手い事運べばひなへの復讐の一環にもなるかもしれない名案を思い付いた俺はぐっと気合いを入れなおして声を振り絞った。

「嫌!手を離してください!どうしてテニスサークルの皆さんが恋人同士である鷹崎総一郎君と俺を別れさせようとするんですか!あなた達のマネージャーの《愛野ひなちゃん》が泣いてたからって責められても全く身に覚えがないですー!!」

俺は不自然な位にはっきりと丁寧な説明口調で、特に愛野ひなの部分のボリュームを上げて声を張り上げた。

すると想定通り例のテントの方から様子を伺っていたΩ達がこちらに寄ってきてざわざわと声をあげ始める。


『ちょっとなんなのこいつら。一人に寄ってたかって詰め寄ってんの怖すぎ。』
『テニスサークルの連中なんだってさ。』
『テニサーが何で鷹崎君とそのΩの子を別れさせようとしてんの?』
『愛野ひなが泣いたってのと関係あるんじゃない?あいつらのマネらしいし。』
『愛野ひな知ってる~。あいつクソ性格悪いよ。僕きらーい。』


メイドΩ達は続々と俺たちの周りに集まり、サークルのやつらどころかその場にいないひなの事まで非難し始めた。


俺が先程たまたま見かけたテントはおそらくΩ限定の女装メイド喫茶で、ざっと見た感じでも10人はΩがいた。
文化祭前日ということでメイド服の衣装合わせや、店の飾りつけでもしていたのだろう。

(ひなの性格やαからのモテ具合から察するに、学内中のΩから多少は反感や嫉妬を買っているだろうと思って愛野ひなの名前を強調して出してみたけど、やたら皆の食いつきがいいな…。BINGOだったか。)

元々ひなの事をなんとなく気に食わないと思っているΩ達に、俺というひなを正当に批判するための叩き棒を与えることで一体どうなるか見物だ。


『あいつ、純粋とか言われてるけど超腹黒だよ。僕に対して挨拶無視した直後に、鷹崎君にはころっと笑顔で話しかけてたし。』
『うっわ。マジ?』
『マジマジ。現にあいつ、ああやって取り巻き使って恋敵潰そうとしてんじゃん?』
『やば。』
『僕前からひなちゃんのこと、裏表激しいタイプだって思ってた!』
『え~なになに何の話~?』
『あ、ちょっと聞いてよ。愛野ひなっているじゃん。明日のオメコンの優勝候補の~…』


次々とテントにいたΩのメイド達がこちらに集まり始め、ひなの悪評が拡散されていく。


サークルのやつらはというと、ヘイトの行き先が何故か自分達よりひなの方に一気に傾いたことで顔面蒼白になっている。
俺の手を掴んでいた男も手汗をだらだらと放出して狼狽えていた。
(お気に入りの服の袖が湿るからさっさと手を放してほしいんだけど…。)

「なんでマネの方が叩かれてんだよ!?意味わかんねぇ…!」
「な、なぁ…まずくね?このままだとひなっちに迷惑かけるんじゃ…」
「おい、あんた。しばらくの間は見逃してやるから今日の事は総一郎に絶対にチクるんじゃねぇぞ。」

サークルのやつらは悔しそうにそう言い残すと慌ててその場から離れていった。

俺が珍しく一人で行動しているのを見計らって絡んできたことといい、最後の捨て台詞といい、一応総一郎はこの件には絡んでないらしい。
ひなの取り巻きの勝手な暴走か、ひなのお願いで詰め寄ってきたのかは定かではないが、上手いこと復讐の駒になってくれそうで却ってよかった。

友達0人の俺が口先だけでひなの悪評をばら撒くのと、実際にひなサイドが俺を攻撃している場面をギャラリーに目撃されるのでは噂の信ぴょう性が桁違いだからな。

最大の敵は無能な味方だっていうけど、ひなにとってはあの取り巻き達がまさにそれだ。
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