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第三章
第101話 圧倒
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<距離、500!>
「行くぜ!」
接敵してきた魔兵機《ゾルダート》に向かってブースターを起動し一気に近づいていく。
音声を拾うようにしているのだが、魔力通信具《マナリンク》で会話している声が耳に入って来た。
「白い魔兵機《ゾルダート》……!」
「気にしている場合じゃあない! こいつがあの投石をやっていたのだとしたら相当強いぞ」
「トルコーイ様! 奴が! 速――」
「チッ……!」
まずは一機。
力任せにぶん殴っただけだが、分厚い金属を殴った音が響き渡り、魔兵機《ゾルダート》が派手に吹っ飛んで地面を転がった。
「こいつは……!」
「ゼルシオ、同時に仕掛けるぞ」
「承知しました」
味方がぶっ飛ばされたのに意外と冷静だな? 的を絞らせないための左右展開は基本だな。
「武器は……ハルバードか、ケーニッヒ達を思い出すな」
<装備、欲しいですねえ>
「無いものねだりはしてもしょうがねえさ……!」
サクヤとそんな話をしながら上半身を低くして地面を蹴る。狙いは頭部の意匠が違う隊長機!
「こっちに来るかい。俺の魔兵機《ゾルダート》は他と違うのを認識しているだろうになあ!」
「悪いな、喧嘩の時は頭を潰すのが鉄則ってなってんだよ!!」
振り下ろしてきたハルバードを半身で回避して右の拳で反撃を行う。隊長機はそれを上半身のスウェーで回避しようとした。
だが、コクピット付近を掠めて拳と胴体から火花が上がる。やるなと思いつつ、一歩踏み込んで体当たりを食らわしてやる。
「ぐっ!? へへ、やるじゃあねえか! そうだな、喧嘩はその場で一番強い奴を叩きのめしたらだいたい終わるなあ、その意見には賛成だぜ! 俺は」
「腕を……!」
タックルを決めたが、奴は踏みとどまり、こっちの話に賛成しながら俺の腕を掴んで来た。その直後、サクヤの声が脳内に響く。
<警告、左方向>
「案外速いな」
散っていたもう一機がすぐそばで剣を片手に、上段で構えながら突っ込んで来ていた。状況をよく見ているな。
「離さないでくださいよ!」
「それは……難しいかもしれねえなあ……!」
「悪いがパワーはこっちが上だ! ブースト!」
「うお!?」
「なんだって……!?」
バックブーストを起動して一気に下がる。掴まれていた腕はあっさりと外れた。
振り下ろされた剣は空を切り、機体はバランスを崩す。
「そらよ!」
「空を……!? うわああああ!?」
「ゼルシオ! だが、その体勢からでは避けれられんなあ!」
ブーストして反転した俺は少し浮いて、剣を持った魔兵機《ゾルダート》の胴体へ蹴りを入れてやった。
ブースト込みなので最初に殴った奴と同じく通常よりも威力が段違いなので大きく吹き飛んでいった。草むらが削れて道みたいになっていき、数十メートルほど転がったところでストップした。
そこへ隊長機が躍りかかって来たが、ハルバード相手は訓練で何度もやっている。
長物の弱点は間合いを詰めることだ。着地狙いで突き攻撃をしてくるが、ブーストして浮いたまま軌道を変える。
「ずるだろ、そりゃあよう!?」
「戦いはそういうもんだろ?」
「チィ! 確かになあ! ……うお!?」
ハルバードの突きに合わせて俺のケリがカウンター気味に頭部へ入り、大きく仰け反った。
しかし、さっきもそうだがこれで倒れないのは凄いな!?
<かなりいいバランサーを積んでいるみたいですね>
「……!? なぜそれを……!? というかそれは魔兵機《ゾルダート》ではないなあ?」
「ディッターやジョンビエルと同じで各機体ごとに特性を持たせているってところか」
ディッター機は加速装置みたいなのがついていたらしいので、こいつは倒れにくい仕様とかそういうところだろう。
そこでハルバードを両手に構えた敵が話しかけてくる。
「ディッターにジョンビエルだと? それを知っているということはエトワール王国の人間か」
「それに答える必要なねえな?」
「ま、それもそうだなあ。アンタとは気が合いそうだ。僕はトルコーイ。トルコーイ・エバラスだ」
「……俺はリクだ」
「いい名だ。あいつらを知っているということは戦ったということだ。あいつらの知り合いなら僕を攻撃してくることはないだろうしなあ?」
間延びした喋り方をするトルコーイという男は魔兵機《ゾルダート》を倒した俺を目にしてなお、質問と推測を投げかけてくる。
しかし、俺はそれに構う必要がない。
「おしゃべりに付き合う必要は無い。それを知ったところで行動不能にして、終わりだ」
俺はそれだけ言ってブーストし、一気に間合いを詰める。コクピットの下にある動力回路を潰せばいいだけ。
だが――
「まあ、待てよ。このまま僕達を捕縛したら町が大変なことになるぞ?」
「なに……!」
「僕達は今、お前の居る町へ攻めているわけだが万が一がないわけではないよなあ? だから一つ、置いて来たのさ。数日経っても僕が、トルコーイが戻らない場合、町の人間を皆殺しだってな!」
「なんだと……!? ハッタリだ!」
「そう思うならやればいいさ。見せしめってのはやっぱ必要だしなあ?」
どうする……?
こいつの言っていることが本当ならまずい。かと言ってみすみす見逃すのは無しだ。
「……そっちの魔兵機《ゾルダート》とパイロットは置いて行ってもらうぞ。信用できん」
「そいつじゃなく後ろのは――」
「ダメだ。こいつだ」
トルコーイが軽口で俺が最初にぶっ飛ばしたヤツを指名するがそれを拒否する。
すると少し間を置いてから口を開いた。
「……わかった。おい、聞いた通りだ。ゼルシオお前は置いて行く」
「承知……しました……」
「町の人間に手を出したらこいつがどうなるかってことだけは覚えておけ」
「そうしよう。また会おうじゃあないか、リク」
「近いうちにな」
「くっく、あんたとはいい戦いができそうだあ」
バックステップで俺から距離を取り、トルコーイはもう一機を連れてこの場を去っていった。
<よろしかったのですか?>
「こいつが人質として価値があるかはわからんけど、黙って帰すわけにもいかねえからな」
サクヤの問いに、俺は遠くを見ながらそう返していた。
◆ ◇ ◆
「無事かあ?」
「も、申し訳ございませんトルコーイ様!」
「ば、化け物ですな白い魔兵機《ゾルダート》……ゼルシオ様は……」
追ってこないと判断したトルコーイが二機の魔兵機《ゾルダート》に声をかけると二人からそんな言葉が返って来た。
「あれはマジでやべえ。武器無しであれだ、全員でかかっても多分負けてたな」
「むう……トルコーイ様がそこまで言うとは。ど、どうしますか?」
「とりあえずハッタリは通用したが向こうも馬鹿じゃなかったからなあ。ゼルシオを見捨ててフレッサー将軍に援軍をってところか。ディッターとジョンビエルがどうなったかもわからないし情報が欲しい」
自分が戻らなければ町の人間が惨殺されるという、咄嗟に出た嘘は機転を利かせたと言ってもいい。
しかし、そうなると――
「あいつら、多分町を助けに来るんだよなあ。仕方ない、本隊に連絡。敵対勢力を待ち構える方向で行くぞ」
――暗躍を仕掛けてくるだろうとトルコーイは予測した。戦いは始まったばかりなのだと――
「行くぜ!」
接敵してきた魔兵機《ゾルダート》に向かってブースターを起動し一気に近づいていく。
音声を拾うようにしているのだが、魔力通信具《マナリンク》で会話している声が耳に入って来た。
「白い魔兵機《ゾルダート》……!」
「気にしている場合じゃあない! こいつがあの投石をやっていたのだとしたら相当強いぞ」
「トルコーイ様! 奴が! 速――」
「チッ……!」
まずは一機。
力任せにぶん殴っただけだが、分厚い金属を殴った音が響き渡り、魔兵機《ゾルダート》が派手に吹っ飛んで地面を転がった。
「こいつは……!」
「ゼルシオ、同時に仕掛けるぞ」
「承知しました」
味方がぶっ飛ばされたのに意外と冷静だな? 的を絞らせないための左右展開は基本だな。
「武器は……ハルバードか、ケーニッヒ達を思い出すな」
<装備、欲しいですねえ>
「無いものねだりはしてもしょうがねえさ……!」
サクヤとそんな話をしながら上半身を低くして地面を蹴る。狙いは頭部の意匠が違う隊長機!
「こっちに来るかい。俺の魔兵機《ゾルダート》は他と違うのを認識しているだろうになあ!」
「悪いな、喧嘩の時は頭を潰すのが鉄則ってなってんだよ!!」
振り下ろしてきたハルバードを半身で回避して右の拳で反撃を行う。隊長機はそれを上半身のスウェーで回避しようとした。
だが、コクピット付近を掠めて拳と胴体から火花が上がる。やるなと思いつつ、一歩踏み込んで体当たりを食らわしてやる。
「ぐっ!? へへ、やるじゃあねえか! そうだな、喧嘩はその場で一番強い奴を叩きのめしたらだいたい終わるなあ、その意見には賛成だぜ! 俺は」
「腕を……!」
タックルを決めたが、奴は踏みとどまり、こっちの話に賛成しながら俺の腕を掴んで来た。その直後、サクヤの声が脳内に響く。
<警告、左方向>
「案外速いな」
散っていたもう一機がすぐそばで剣を片手に、上段で構えながら突っ込んで来ていた。状況をよく見ているな。
「離さないでくださいよ!」
「それは……難しいかもしれねえなあ……!」
「悪いがパワーはこっちが上だ! ブースト!」
「うお!?」
「なんだって……!?」
バックブーストを起動して一気に下がる。掴まれていた腕はあっさりと外れた。
振り下ろされた剣は空を切り、機体はバランスを崩す。
「そらよ!」
「空を……!? うわああああ!?」
「ゼルシオ! だが、その体勢からでは避けれられんなあ!」
ブーストして反転した俺は少し浮いて、剣を持った魔兵機《ゾルダート》の胴体へ蹴りを入れてやった。
ブースト込みなので最初に殴った奴と同じく通常よりも威力が段違いなので大きく吹き飛んでいった。草むらが削れて道みたいになっていき、数十メートルほど転がったところでストップした。
そこへ隊長機が躍りかかって来たが、ハルバード相手は訓練で何度もやっている。
長物の弱点は間合いを詰めることだ。着地狙いで突き攻撃をしてくるが、ブーストして浮いたまま軌道を変える。
「ずるだろ、そりゃあよう!?」
「戦いはそういうもんだろ?」
「チィ! 確かになあ! ……うお!?」
ハルバードの突きに合わせて俺のケリがカウンター気味に頭部へ入り、大きく仰け反った。
しかし、さっきもそうだがこれで倒れないのは凄いな!?
<かなりいいバランサーを積んでいるみたいですね>
「……!? なぜそれを……!? というかそれは魔兵機《ゾルダート》ではないなあ?」
「ディッターやジョンビエルと同じで各機体ごとに特性を持たせているってところか」
ディッター機は加速装置みたいなのがついていたらしいので、こいつは倒れにくい仕様とかそういうところだろう。
そこでハルバードを両手に構えた敵が話しかけてくる。
「ディッターにジョンビエルだと? それを知っているということはエトワール王国の人間か」
「それに答える必要なねえな?」
「ま、それもそうだなあ。アンタとは気が合いそうだ。僕はトルコーイ。トルコーイ・エバラスだ」
「……俺はリクだ」
「いい名だ。あいつらを知っているということは戦ったということだ。あいつらの知り合いなら僕を攻撃してくることはないだろうしなあ?」
間延びした喋り方をするトルコーイという男は魔兵機《ゾルダート》を倒した俺を目にしてなお、質問と推測を投げかけてくる。
しかし、俺はそれに構う必要がない。
「おしゃべりに付き合う必要は無い。それを知ったところで行動不能にして、終わりだ」
俺はそれだけ言ってブーストし、一気に間合いを詰める。コクピットの下にある動力回路を潰せばいいだけ。
だが――
「まあ、待てよ。このまま僕達を捕縛したら町が大変なことになるぞ?」
「なに……!」
「僕達は今、お前の居る町へ攻めているわけだが万が一がないわけではないよなあ? だから一つ、置いて来たのさ。数日経っても僕が、トルコーイが戻らない場合、町の人間を皆殺しだってな!」
「なんだと……!? ハッタリだ!」
「そう思うならやればいいさ。見せしめってのはやっぱ必要だしなあ?」
どうする……?
こいつの言っていることが本当ならまずい。かと言ってみすみす見逃すのは無しだ。
「……そっちの魔兵機《ゾルダート》とパイロットは置いて行ってもらうぞ。信用できん」
「そいつじゃなく後ろのは――」
「ダメだ。こいつだ」
トルコーイが軽口で俺が最初にぶっ飛ばしたヤツを指名するがそれを拒否する。
すると少し間を置いてから口を開いた。
「……わかった。おい、聞いた通りだ。ゼルシオお前は置いて行く」
「承知……しました……」
「町の人間に手を出したらこいつがどうなるかってことだけは覚えておけ」
「そうしよう。また会おうじゃあないか、リク」
「近いうちにな」
「くっく、あんたとはいい戦いができそうだあ」
バックステップで俺から距離を取り、トルコーイはもう一機を連れてこの場を去っていった。
<よろしかったのですか?>
「こいつが人質として価値があるかはわからんけど、黙って帰すわけにもいかねえからな」
サクヤの問いに、俺は遠くを見ながらそう返していた。
◆ ◇ ◆
「無事かあ?」
「も、申し訳ございませんトルコーイ様!」
「ば、化け物ですな白い魔兵機《ゾルダート》……ゼルシオ様は……」
追ってこないと判断したトルコーイが二機の魔兵機《ゾルダート》に声をかけると二人からそんな言葉が返って来た。
「あれはマジでやべえ。武器無しであれだ、全員でかかっても多分負けてたな」
「むう……トルコーイ様がそこまで言うとは。ど、どうしますか?」
「とりあえずハッタリは通用したが向こうも馬鹿じゃなかったからなあ。ゼルシオを見捨ててフレッサー将軍に援軍をってところか。ディッターとジョンビエルがどうなったかもわからないし情報が欲しい」
自分が戻らなければ町の人間が惨殺されるという、咄嗟に出た嘘は機転を利かせたと言ってもいい。
しかし、そうなると――
「あいつら、多分町を助けに来るんだよなあ。仕方ない、本隊に連絡。敵対勢力を待ち構える方向で行くぞ」
――暗躍を仕掛けてくるだろうとトルコーイは予測した。戦いは始まったばかりなのだと――
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