魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第三章

第100話 四度目

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「ゼルシオ、そろそろか?」
「はい。ティダームが真上に来る頃には見えてくるかと」

 月明かりに照らされた4機の魔兵機《ゾルダート》が草原を走っていた。
 その内、トルコーイとゼルシオが魔力通信具《マナリンク》を通じて町との距離を確認する。
 生真面目なゼルシオは休憩のタイミングを測り、深夜に襲撃が出来るように調整をかけていたので町へ到着するころには辺りが静かな状況だろう。

「さすがに待ち構えているんじゃないかなと思うんだが、副隊長はどう思うね?」
「降伏の準備かもしれませんよ。逃げ出した人間が魔兵機《ゾルダート》を見ています。抗戦を考えるとは思えません」
「まあ、その通りだよなあ。町の人間に腰抜けっていうつもりもないんだが、これじゃ拍子抜けだ」

 トルコーイがそういうとゼルシオは少し間を置いてから口を開く。

「……こちらの犠牲をゼロにすると考えればこの選択は正しいかと。戦争を仕掛けたのですから有利に働くようにするのは当然でしょう」

 国王陛下の命令に従うのは騎士の務めであるため、仕方ないとゼルシオが口にするとトルコーイは苦笑しながら言う。

「分かってるって。戦い自体は嫌いじゃないんだがねえ? こう張り合いがないと」
「魔兵機《ゾルダート》に乗っている時点でそれは無理でしょう。……見えてきましたよ」
「そのようだ。各員、大した仕事じゃないが油断することのないようになあ?」
「「「了解」」」

 トルコーイが指揮と呼ぶには大雑把な言葉を投げた後、魔力通信具《マナリンク》の喋る部分をフックに引っ掛けた。

「さて、ゼルシオに怒られない程度に破壊を――」

 ニヤリと笑みを浮かべたその時、嫌な気配を感じたトルコーイが大声で叫ぶ。

「全員、左右に飛べ!」
「!?」

 咄嗟に動いた4機。
 直後、なにかが地面を抉るような音が聞こえてきた。それには目もくれず、前を見据えているとなにかが飛来してくるのが見えた。今度はそれを避けながらも目視する。

「岩だと……! こんなでかいのがあそこから飛んでくるのかよ!?」
「信じられませんがそのようです……!」
「っと!? 狙いも悪くないなあ!? 各員的を絞らせるな、散開!」
「ハッ!」

 そして4機が距離を取って移動を始める一行。
 トルコーイが確認した後、武器であるハルバードを腰から取り出しながら口元に笑みを浮かべる。

「やるねえ。そうだ、生きたければ抵抗するべきだよなあ? ……行くぞ!」

◆ ◇ ◆

「つぉぉりゃぁぁ!!」
「うは、なんだそりゃ!? 当たったら即死だろそんなの!」
「魔兵機《ゾルダート》相手なら装甲がへこむくらいだ。問題ない……!」
「いけー!」
「うう、こんなのと戦っていたんですねえ私……」
【きゅーん♪】

 外壁の外で俺はヴァイスの手に収まる程度の岩を投げていた。レーダーのポイントを見て投げた岩は滑腔砲のように飛び、相手を破壊するためだけの凶器と化す。
 冒険者連中は冷や汗をかき、シャルは嬉しそうに叫ぶ。イラスは子ぎつねを抱っこして俺との戦いを思い出しているようだ。

<ミス。右方向に五メートル修正を>
「チッ、避けやがるか」
「距離がかなりあるからじゃな。それでも弓よりは飛んでおるが」

 ガエイン爺さんが褒めてくれるが、予測より当たっていないのは間違いない。
 夜襲ということを逆手に取り、レーダーの有利を取っての狙撃。
 4機を確認しているが、1機くらい行動不能にできると思ったんだが、意外とやるものだ。

<敵、大きく左右に展開。ランダム射撃での命中率は20%程度に下がります>
「なら一機ずつ狙うまでだ」

 レーダーを見てこちらに近い方に狙いを定め、全力投球する。
 距離が縮まれば避けにくくなるからな。

 すると――

<ヒット。ただし、狙っていた相手をかばうように別の機体です。一機、速度が落ちました。トドメのチャンスです>

 ――サクヤからそう返って来た。なるほどと俺はへ投擲をする。

「リクー! 動きを封じた方がいいんじゃないの?」
「そっちは後からでいい。かばわれたということは階級が上の可能性が高い」
「なるほど、指揮官ということじゃな」

 ガエイン爺さんの補足に頷きながら投擲を続けていると、足元で俺を見上げながら冒険者が口を開く。

「その会話でそこまで考えてるのかよ……!?」
「戦局は常に変わり続ける。些細な情報をスルーせずに都度考えろ……って俺の上官が言っていた」
「ふむ、お主の上はなかなかやるようじゃな。一度会ってみたいものじゃ」
「ハッ! ……機会があればな。そういや名前も似てるなガルシア隊長と」

 不意に『勝手に紹介するな!』とか言う怒り顔の隊長を思い浮かべて苦笑する。頑固なところも似ている気がするな。

<ヒット。しかし掠り当たりのようです>
「三機が相手か、投擲の練習はしとくべきかね。シャル達は下がってろ……来るぞ!」
「イラス、クレールに乗って戻るわよ」
「はい……!」
【キュオオオオン】

 親ぎつねはシャルが命名しクレールと名付けられた。こっちの古語で勇敢な者って意味らしい。子ぎつねはアウラ様が怒るからまだつけていない。

「なら生き残らないとな」
<来ます!>

 そして月明かりに照らされた魔兵機《ゾルダート》が視界に入る。地面を蹴って接近してくる黒い機体。
 その内、一機は意匠が違うな。あれが隊長機ってところだな? そんなことを考えていると、集音にしていたスピーカーから微かに音声が入ってくる。

(馬鹿な……!? 白い魔兵機《ゾルダート》だと! エトワール王国も開発していたというのか!?)

<驚いていますね>
「まだディッター達から情報は受け取っていないらしいな。なら、このままご退場願おうか」

 グライアード王国との四度目の交戦が始まった。
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