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第三章
第96話 孝試
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「行ってしまった……」
「大丈夫、ですかね……」
「まあシャルのことは心配せんでいい。ワシと魔兵機《ゾルダート》以外ならそうそう負ける相手はおらん」
ガエインが得意げにそう言いイラスは困った顔でそれを見ていた。グラップルフォックスといい勝負だったのにと考えていると、ガエインがそれを察したように口を開いた。
「シャルの本気はあんなものではないぞ? 子フォックスが居たから手加減していたのもあるしのう」
「そうなんですか……?」
「一度あやつと手合わせをするといい。たまにワシでもぞくっとすることがあるぞ」
確かに鋭い剣筋だがそこまでだろうか? 一人で行かせたのはまずいのではとイラスが胸中で反応していると、ギルドマスターであるジルオーが口を開いた。
「では私は行ってきます。まさか王都が落とされているとは。グライアード王国の狙いはなんでしょうか?」
「それは王都に構えている者から聞き出さねばな。まずは向かってくる敵を蹴散らすのが先じゃ」
「確かに。では、こっちは任せたよ」
「一応、オンディーヌ伯爵はこちらの手助けをしてくれていることは伝えておいてくれ」
「なんと。それは心強い情報ですね」
そう言って笑いジルオーが数人の冒険者を連れてギルドを後にした。残された職員が見送った後、ガエインへ声をかけてきた。
「……しかし、鉄の巨人とは信じがたいものです」
「この後、嫌でも分かる。ケガをした男達が目を覚ましたら隊の規模を聞きたい。それまで待たせてもらう」
「承知しました」
「……問題は後どれくらいでここに到達するか、ですね……」
イラスがガエインに尋ねると、その辺に椅子に座りながら言葉を返す。
「すぐに前の町から移動するとは思えん。三日前の話で男達がここへ来たのであれば追いつかれてもおかしくはあるまいがな」
「なるほど……」
イラスが納得していると、ガエインは他に聞こえるような声で推測を語り出す。それはその場に居た者達をぎょっとさせた。
「ちなみにシャル一人で行かせたのは正体を明かしたからじゃのう。相手の規模によっては向こうにつきたがる者もおるじゃろうて。もしくはシャルを手土産にするとか考える輩もいておかしくない」
「ガエイン様、言い過ぎ、です……」
「ふふん、まあ鉄の巨人を見たらそう思う者も出てくるかもしれんから先に言っておくぞい」
挑発するような言い方にイラスが慌てるがガエインは気にした風もなく鼻を鳴らす。それにカッとなる冒険者がいるかと思えばそういうこともなく……
「英雄であるアンタがそこまで言うならそうなのかもしれねえな。逃げるなら今だってことか?」
「……ま、その側面もある。襲撃者が来たことを告げられたからワシらも正体を隠す必要も無くなった。実際、町をあっさり掌握できるほどの強さを誇る」
「でかいだけで有利だからなあ……ゲイズタートルを倒すのも苦労するし」
「だな。というか姫様がどっかに行ったがアテがあるのかい? 姫様を盾にしても町を襲うようなヤツらに通用するとも思えねえしな」
冒険者達は怒ることなく冷静に分析していた。
手立てとして人質はアリだとガエインは語ったが、それが通用する相手ではなさそうだと口々にしていた。
「色々な人がいますねえ……」
「冒険者達は損得で動くが、交渉相手がまともかどうかを判断する力はある者が多いからの。クレイブの町で魔兵機《ゾルダート》を奪って逃げようとした三人みたいなのも居るがな」
黙って裏切る人間も居るからなんとも言えないと笑うガエイン。拠点が出来たので逃げることもしないための覚悟みたいなものだと冒険者達の質問に答えていた。
イラスは肩を竦めてその様子を見て『リク様が来るのかな?』と天井を仰いでいた。
◆ ◇ ◆
<巨大生物接近>
「ん? 魔物か?」
拠点の中央付近で家屋の作成を手伝っていると不意にサクヤが警告を出した。
大きなものとなると魔兵機《ゾルダート》もそうだが、さすがにここに直接来る者はまだいないだろうし、巨大生物と言ったのもある。
<そのようです……が、識別信号シャルル様も確認。同じところを移動中?>
「どういうことだ? まさか食われたとか……!?」
<来ます>
胃の中に居るとかだったらあり得るが……いや、ガエイン爺さんも居るしイラスも居た。シャルだけってのはおかしい。
そう思っていると、拠点の前でその生物が止まり、周囲がざわついていた。
「でかい……狐か?」
「ただいま!」
「シャル! そのでかいのはなんだ?」
「この子の話はちょっと待ってね! ごめん、誰かお姉さまと騎士を呼んできて!」
「?」
俺が首を傾げる中、騎士の一人がアウラ様を呼びに屋敷へと走って行く。シャルは巨大狐の背から降りて待つ。
「その小さいのは?」
「ああ、この子の子供よ」
「かわいいー!」
【きゅーん♪】
手足が靴下をはいているみたいな子ぎつねが子供たちに見られていることに気づくとテンション高く鳴いた。魔物ってことか?
「なんでまたこんなのに乗ってるんだよ?」
【キュオン】
「うわ、引っ掻くな」
「ふふ。こんなのとか言うからよ。この子は……あ、来たわね」
何故、という理由を言う前にアウラ様がやってきて中断となった。そしてシャルの胸にいる子ぎつねを見て目を輝かせる。
「まあ! 可愛いキツネさん……! ど、どうしたのですかシャル? うふふ、可愛いですねーこんこん♪」
「お姉さま、狐はこんこんと鳴かないわ……」
「え!?」
なぜか疲れた顔でアウラ様を見るシャル。親ぎつねが横であくびをしているのがシュールだった。
で、いったいなんなんだ……?
「大丈夫、ですかね……」
「まあシャルのことは心配せんでいい。ワシと魔兵機《ゾルダート》以外ならそうそう負ける相手はおらん」
ガエインが得意げにそう言いイラスは困った顔でそれを見ていた。グラップルフォックスといい勝負だったのにと考えていると、ガエインがそれを察したように口を開いた。
「シャルの本気はあんなものではないぞ? 子フォックスが居たから手加減していたのもあるしのう」
「そうなんですか……?」
「一度あやつと手合わせをするといい。たまにワシでもぞくっとすることがあるぞ」
確かに鋭い剣筋だがそこまでだろうか? 一人で行かせたのはまずいのではとイラスが胸中で反応していると、ギルドマスターであるジルオーが口を開いた。
「では私は行ってきます。まさか王都が落とされているとは。グライアード王国の狙いはなんでしょうか?」
「それは王都に構えている者から聞き出さねばな。まずは向かってくる敵を蹴散らすのが先じゃ」
「確かに。では、こっちは任せたよ」
「一応、オンディーヌ伯爵はこちらの手助けをしてくれていることは伝えておいてくれ」
「なんと。それは心強い情報ですね」
そう言って笑いジルオーが数人の冒険者を連れてギルドを後にした。残された職員が見送った後、ガエインへ声をかけてきた。
「……しかし、鉄の巨人とは信じがたいものです」
「この後、嫌でも分かる。ケガをした男達が目を覚ましたら隊の規模を聞きたい。それまで待たせてもらう」
「承知しました」
「……問題は後どれくらいでここに到達するか、ですね……」
イラスがガエインに尋ねると、その辺に椅子に座りながら言葉を返す。
「すぐに前の町から移動するとは思えん。三日前の話で男達がここへ来たのであれば追いつかれてもおかしくはあるまいがな」
「なるほど……」
イラスが納得していると、ガエインは他に聞こえるような声で推測を語り出す。それはその場に居た者達をぎょっとさせた。
「ちなみにシャル一人で行かせたのは正体を明かしたからじゃのう。相手の規模によっては向こうにつきたがる者もおるじゃろうて。もしくはシャルを手土産にするとか考える輩もいておかしくない」
「ガエイン様、言い過ぎ、です……」
「ふふん、まあ鉄の巨人を見たらそう思う者も出てくるかもしれんから先に言っておくぞい」
挑発するような言い方にイラスが慌てるがガエインは気にした風もなく鼻を鳴らす。それにカッとなる冒険者がいるかと思えばそういうこともなく……
「英雄であるアンタがそこまで言うならそうなのかもしれねえな。逃げるなら今だってことか?」
「……ま、その側面もある。襲撃者が来たことを告げられたからワシらも正体を隠す必要も無くなった。実際、町をあっさり掌握できるほどの強さを誇る」
「でかいだけで有利だからなあ……ゲイズタートルを倒すのも苦労するし」
「だな。というか姫様がどっかに行ったがアテがあるのかい? 姫様を盾にしても町を襲うようなヤツらに通用するとも思えねえしな」
冒険者達は怒ることなく冷静に分析していた。
手立てとして人質はアリだとガエインは語ったが、それが通用する相手ではなさそうだと口々にしていた。
「色々な人がいますねえ……」
「冒険者達は損得で動くが、交渉相手がまともかどうかを判断する力はある者が多いからの。クレイブの町で魔兵機《ゾルダート》を奪って逃げようとした三人みたいなのも居るがな」
黙って裏切る人間も居るからなんとも言えないと笑うガエイン。拠点が出来たので逃げることもしないための覚悟みたいなものだと冒険者達の質問に答えていた。
イラスは肩を竦めてその様子を見て『リク様が来るのかな?』と天井を仰いでいた。
◆ ◇ ◆
<巨大生物接近>
「ん? 魔物か?」
拠点の中央付近で家屋の作成を手伝っていると不意にサクヤが警告を出した。
大きなものとなると魔兵機《ゾルダート》もそうだが、さすがにここに直接来る者はまだいないだろうし、巨大生物と言ったのもある。
<そのようです……が、識別信号シャルル様も確認。同じところを移動中?>
「どういうことだ? まさか食われたとか……!?」
<来ます>
胃の中に居るとかだったらあり得るが……いや、ガエイン爺さんも居るしイラスも居た。シャルだけってのはおかしい。
そう思っていると、拠点の前でその生物が止まり、周囲がざわついていた。
「でかい……狐か?」
「ただいま!」
「シャル! そのでかいのはなんだ?」
「この子の話はちょっと待ってね! ごめん、誰かお姉さまと騎士を呼んできて!」
「?」
俺が首を傾げる中、騎士の一人がアウラ様を呼びに屋敷へと走って行く。シャルは巨大狐の背から降りて待つ。
「その小さいのは?」
「ああ、この子の子供よ」
「かわいいー!」
【きゅーん♪】
手足が靴下をはいているみたいな子ぎつねが子供たちに見られていることに気づくとテンション高く鳴いた。魔物ってことか?
「なんでまたこんなのに乗ってるんだよ?」
【キュオン】
「うわ、引っ掻くな」
「ふふ。こんなのとか言うからよ。この子は……あ、来たわね」
何故、という理由を言う前にアウラ様がやってきて中断となった。そしてシャルの胸にいる子ぎつねを見て目を輝かせる。
「まあ! 可愛いキツネさん……! ど、どうしたのですかシャル? うふふ、可愛いですねーこんこん♪」
「お姉さま、狐はこんこんと鳴かないわ……」
「え!?」
なぜか疲れた顔でアウラ様を見るシャル。親ぎつねが横であくびをしているのがシュールだった。
で、いったいなんなんだ……?
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