魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第三章

第95話 信頼

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「落ち着け、巨人がなんだって?」
「それはいいから早く逃げるんだ! ここもあの町みたいにやられちま……ぶはっ!?」
「落ち着けって」

 しどろもどろに受け答えをしていた人は慌てすぎだとバケツの水をかけられていた。
 この怪我をした人は冒険者風な感じではなさそうだ、どうやってここまで来れたのかしら?
 そう考えていると、後からまた怪我をした人が入って来た。

「そう言うな……俺達もわけがわからずやられたんだ、町民がそうなるのも無理は……ない」
「お前は冒険者か。ここまで逃げてきたってことだな」
「ああ……その男が居た町で依頼を受けていた流れの冒険者だ。あれは三日前のことだった――」
「そう、奴等は夜中にやってきた――」

 冒険者が語ろうとしたところで水をかけられた男が横から喋り出す。
 お前が喋るのかよといった顔をしていたけど、怪我の度合いは冒険者の方が酷いのでそのまま黙った。
 で、話によると今から三日ほど前の夜中に突然町に轟音が鳴り響いたそうだ。
 魔物かと慌てて起きたものの、そこには鉄の巨人が三体居て家屋などを破壊しだしたらしい。
 ソウの町と同じ襲撃方法のようね。まあ何度も言うけど、少し前まで平和だったのだから例え門番や見張りが居ても魔兵機《ゾルダート》相手ではどうにもならないわ。

 もちろん町は壊滅状態となり、見せしめとして何人か殺された。そこをなんとか逃れてきたとのことだ。逃げる時に争って怪我をしたらしい。
 外には後四人、逃げてきた人間がいるようだ。

「鉄の巨人……そんなもの、聞いたことがないぞ」
「信じてくれ、見たんだ! 次はここに来るぞ! い、いや、それより町の人間を助けてくれ……!!」
「むう……町にいた冒険者でも歯が立たんとなると難しいな」

 受付の気のいい男が腕組みをして冷や汗をかく。目で見たものでないと信じにくいのは当然だ。それならとあたしは一歩前へ出て口を開く。

「それはグライアードの隊ね」
「ん? 君はグラップルフォックス討伐の……どういうことだい?」
「シャル、いいのか?」
「うん」
「……」

 受付の男があたしに訝し気な目を向けてきた。師匠は確認を、イラスは心配そうな顔をする。
 情報を求めてやって来たのだ、これは宣言をするのに都合がいい。

「あたしの名前はシャルル・エトワール。この国の第二王女よ」
「はあっ!?」
「驚くのも無理はないけど、本当よ。証もある」
「おお……!?」

 あたしが胸元にある国章を模したペンダントを出すと周囲からどよめきが起こった。構わず続ける。

「残念な話で申し訳ないのだけど、現在王都はグライアードの手に落ちたわ。あたしとこのガエインは脱出を図った」
「王都が陥落しただって? そんな話は……」
「聞く手段がないから仕方ないわ。あたし達も夜襲を受けてなんとか脱出してきたのだから。そして王都から徐々に侵略を始めているの」

 そこまで話すと、受付の男が探るような目でこちらに尋ねてきた。

「……その話が本当であればシャルル様はどうしてこのような場所でグラップルフォックスの依頼を受けたりなどしたのでしょうか? 町の人間が危機に瀕しているのに」
「もちろんそれは承知してるわ。だけど、鉄の巨人……あいつらが魔兵機《ゾルダート》と呼んでいる機体に関してあの時は対抗策が無かった。だから逃げるしかなかったのよ。逃走劇の中で、各町に通達できる手段もないしね?」
「……」

 騎士達を馬で走らせるのはできたかもしれないけど、途中で見つかったら終わりだ。ならば戦力は集中させておく必要があったことを説明した。
 すると受付の男がため息を吐いて首を振る。

「まさかそんなことがねえ……で、先ほど「あの時は」と口にしましたが、今はあるんですか?」
「へえ」

 会話の中でよく覚えていたものだと感心する。

「一応、ね。場所はまだ言えないけど今、反抗作戦をするため物資や人を集めているわ」
「なるほどな。話は分かりました……さて、どうすっかなあ。どう思う?」
「結構深刻だぞ、俺らに聞くのかよ!?」

 ん? 受付の男が冒険者に向き直り態度を変えて口を開く。おや、どうもこの人ただ者じゃなさそうね?

「お主、まさかギルドマスターかのう?」
「そうですよ英雄ガエイン様。私はジルオー。ははは、現場に居るのが好きでしてね、試すようなことをして申し訳ありませんでしたシャルル様」
「そういうことね。いくつかの町には声をかけているけど、あなたたちはどうする? あたし達はこの町を守るし、この人の町へ打って出るのも考えているわ」
「そうですね……」

 ジルオーさんが顎に手を当てて考え始めたところで冒険者達が湧きたつ。

「俺の出身はエトワールだ。故郷がやられるのも困るしな、手伝うぜ。なあ、ジルオーさん」
「こちらも賛成だ。非道を許すわけにはいかないだろう」
「でも真面目に魔兵機《ゾルダート》は強いわよ?」
「む……しかしガエイン様が居ればなんとか……」
「まあ、これはワシだけではなんともならんがな。奴等の目的はエトワールの民、特に男の排除らしい。投降は無駄だと思った方がいいぞい」
「なんだって……? なに考えてんだあいつら」

 あたし達の味方になってくれそうな感じだ。するとジルオーさんも決めたようで手を叩いて言う。

「ま、それなら仕方ありませんね。徹底抗戦と行きましょうか。グラップルフォックスを手懐ける姫様について死ぬのも、まあいいでしょう」
「気が早いぞ」
「死ぬつもりはありませんがね? では私は町の人間と領主へ打診します。戦力はどうしましょう?」
「そこはあたしに任せて。師匠、イラス。ちょっと待っててね?」
「む?」
「え? な、なんです……?」

 師匠が何の話だと首を傾げている中、あたしは親フォックスのお腹に手を置いて笑った。

「ふふ、ちょっと走ってもらうわね?」
【キュォォン】
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