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2巻
2-1
しおりを挟む第一章 旅立ちの前に
俺の名前は高柳陸。リクと呼んでくれ。しがないサラリーマンだったが、実はかつて異世界に勇者として召喚され、活躍したという過去がある。
ある日の仕事帰り、前を歩いていた高校生が勇者として召喚されるのに巻き込まれ、俺は再び異世界に降り立つこととなった。その異世界はかつて俺が居た異世界とは違う世界だったが、俺達を喚び出したロカリス国のエピカリス姫から、お約束のごとく魔王による侵略から助けてほしいと頼まれた。
それはさておき、幸いにもかつて覚えていた魔法は一部を除いて使えたので、高校生達――勇者として召喚された風太、夏那、それに巻き込まれて召喚された水樹ちゃん――のスマホを魔法で改造して異世界でも使えるようにしたり、かつての相棒である人工精霊のリーチェを生み出したりした。前の世界での記憶が残っていたリーチェのおかげで、高校生達に、元勇者としての実力を信用させることができた。
他にも魔法の使い方を身につけさせたり、戦闘の訓練をしたりすることで、俺は彼らに、異世界で生きる術を教えていった。
で、話は戻ってエピカリス姫からの頼みだが、彼女の言動がどうにも怪しかったため、俺は隣国のエラトリア王国へ旅立ち、情報を集めることにした。
そして判明したのは、アキラスという女魔族が、エピカリス姫に憑依することで、ロカリス国を操っていたということだ。勇者召喚も、勇者を洗脳して魔王の配下として戦力にするのが狙いだったらしい。
そのことを暴露してやると、アキラスは正体を現して襲いかかってきた。
アキラスの力で、人間が魔物に変えられて攻撃してくるというなんとも悲惨な状況の中、俺はなんとか奴を打倒し、事態はひとまずの解決を見たのだった――
◆ ◇ ◆
「お連れしました」
「ありがとうございます、プラヴァス」
謁見の間で待っていたエピカリスが、両手を合わせて優しそうな笑顔をこちらに向けてくる。アキラスが憑いていた頃とはガラリと変わって、彼女の周囲には花が咲いたような空間が出来上がっていた。
――ロカリス国を支配していた魔族アキラス。
隣にあるエラトリア王国をも支配していたあいつを倒すことにより、ロカリス国は本来あるべき姿へ戻っていた。
魔族に変えられてしまった人間は元に戻ることができないなど、取り返しのつかないこともあったが、一応の平和が訪れたと言っていいだろう。
エピカリスは事件の後、一週間ほど安静にしていたが、最近ようやく政務に復帰した。それで彼女は俺達と話がしたいということで、謁見の間に俺達四人を集めたというわけである。
俺の隣には夏那、水樹ちゃん、風太の順で並び、向いの玉座にはエピカリスが座っている。
この部屋まで俺達を案内してきた騎士団長のプラヴァスがエピカリスの隣へ移動し、いつもの定位置についたのを確認すると、エピカリスが口を開く。
「まずはリク様、今回の件、本当にありがとうございます。おかげで魔族に利用されていたこの国は救われました」
「気にすんな。こっちも高校生を助ける必要があったし、あんたも被害者だ。そこはおあいこといこうぜ」
俺がそう言うと、夏那が大声で割り込んでくる。
「ちょっと、お姫様にそんな口の利き方ってあるの!?」
「いいのですカナ様。リク様はこの国の英雄といっても過言ではありません、言葉遣いなど大した問題にはなりませんよ」
エピカリスが柔和な笑顔でそう言うと、夏那が恐縮しながら納得する。
さて、礼の言い合いをしていても仕方がない。俺は気になっていることを質問するため口を開いた。
「早速で悪いが、あんたに聞きたいことがある。いいか?」
「ええ、もちろんですわ。わたくしかプラヴァスが分かることであればお答えさせていただきます」
「助かる。まず勇者召喚の儀式についてなんだが、これはこの世界で一般的に知られていることか?」
「そういうものなんじゃないの? ……いたっ」
夏那が横から口を挟んできたのでデコピンで黙らせ、エピカリスの言葉を待つ。
こいつの言う通り『そういうもの』なのかもしれないが、今までの情報を整理すると、アキラスが勇者召喚に成功したことや、奴が風太と夏那だけを勇者と呼んでいたことなど、不自然な点もある。なぜ魔族が勇者を召喚できたのかという俺の懸念が払拭されることはないだろうが、一応聞いておかなければならない。
「リク様のご質問である勇者召喚の儀式についてですが、一般的に知られているものではありません。ですが、国が困難に陥った時、異世界人を召喚することで、困難を解決してくれるという伝説であれば知る人は多少はいると思います」
「なら、アキラスはどうやって召喚を?」
「魔族に囚われていた時のことは全て覚えています。アキラスは召喚に関する文献を読んでいた素振りもなかったのですが、フウタ様達勇者の召喚を成功させました。そこはわたくしも不思議で」
「……ふむ。勇者召喚はこの国以外でもできると思うか?」
「え? そう、ですね……おそらく無理ではないかと。グランシア神聖国の聖女様ならできるかもしれません。正直なところ、わたくしの身体を使ったとはいえ魔族が勇者召喚の儀式をできるとは思いませんでした」
聖女、ね。やっぱりこっちにもそういう存在はいるのか。
それはいいとして、さっき言っていた伝説で気になることがある。
ロカリス国のギルドマスターのダグラスの話では、魔族が突然現れたのは五十年くらい前で、それまでは魔物くらいしか人類の敵は居なかった。その魔物も一般人で対処できたらしいから、『困難』としちゃあ少し弱く、勇者を召喚するには及ばない。
となると、『そもそもなぜこの世界に勇者召喚が存在するのか?』という疑問が出てくるのだ。
今は議論するつもりはないが、俺達が元の世界に戻るためにはそれについて調査をする必要があるような気がする。
それにしても、『聖女ならできる』というなら、魔族であるアキラスが俺達を召喚できたのがやはり引っかかるな。
「アキラスは他の魔族のことはなにか口にしていなかったか? 例えば、仲間と連絡をしていたとか」
「それはなかったと思います。わたくしに憑いていた時はかなり魔力量が減っていましたし、手柄を独り占めしたいようなことを口にしていましたよ。エラトリアへ襲撃した時はわたくしから抜け出て変身していましたけど、本来の実力ではなかったみたいです」
そこでエピカリスにアキラスが抜け出た後に逃げられなかったものかと聞いてみたが、城の地下牢に入れられた上に、眠らされていたから無理だったという。
「まあ、魔族が人間に憑依した時、憑いている魔族は弱体化するものだからな。手柄を独占したいと言っていたなら、俺達の存在は魔王側に伝わっている可能性は低いと考えてもよさそうだ」
「事前に仲間へ知らせていたりしていないでしょうか?」
俺の言葉に、風太が目を向けて疑問を口にしてきたが、俺は『その件は』と彼に返す。
「有り得なくはねえ。だが、手柄を独り占めにしたいと考えているなら、仲間に伝えることはしていないと思うぜ? なんせ魔族ってのは意地汚いから、同族の手柄を横取りするくらいはやる。自分の手柄が目の前にあったら横取りされるのを警戒して救援は呼ばないだろう」
「確かにそれなら黙っていそうですね。でもあんなのが沢山いるなんて……」
水樹ちゃんは身を震わせながら、ホールでのアキラスとの戦闘を思い出しているようだ。
武器と覚悟を持っていなかっただけで、レッサーデビル程度なら風太達でもいい戦いができたはずだがそれは言わないでおく。
むしろパニック状態で攻撃魔法を使うのを忘れていたのがよかったくらいだ。元人間を殺させるのはちょっとな。
三人にはギリギリ狩猟をやらせてもいいかどうか、くらいだろうな。
「でも、それなら安心ってこと? 仲間が知らないならここはもう安全なの?」
「いや、そういうわけにもいかねえぜ、夏那ちゃん。好き勝手にやる魔族だが、さすがに連絡が途絶えれば他の魔族が様子を見に来るだろう。それがどのくらいのスパンか分からねえけど、必ずいつか異変に気づくはずだ」
「あー……。確かに。そっか……」
夏那が頭に手を置いて納得する。
魔族がどういう形で国を攻めているのかが分からない限り、憶測でしかない。だが、いつまでも連絡がない場合、放置はしないだろう。
「それにしてもリクは魔族のことに詳しいな? 勇者でもないし、お前達の居た世界には魔族は存在しなかったのではなかったか?」
プラヴァスが俺に視線を向ける。さすがに違和感を覚えたらしい。
「あー……」
どう誤魔化そうか? 少し考えてから俺は口を開く。
「くくく……実は……俺自身が魔族なんだ、そりゃ知っていて当然だろ?」
「はあ……? リク、何を言っているのだ?」
「なに馬鹿なこと言ってんのよ?」
「リクさん、それは……ちょっと……」
……滑ったか。
さすがに冗談が過ぎると、全員が俺に呆れた視線を向ける。特に夏那の視線が厳しい。
とりあえず風太達には俺が別世界の勇者だったことは話しているが、この世界の人間にそれを話すのはちと憚られると思っている。本来なら、アキラスのような幹部クラスの魔族を倒せることも知られたくないくらいだ。
その理由は、今回の勇者召喚の『メイン』はあくまでも風太達で、関係ない俺が元勇者と公言して話が広まると、魔族に警戒されるからだ。
勇者二人とそれ以上の存在が居ると分かれば、敵である魔族の動きが活発になるだろう。折角俺の実力は知られていないのだから、このまま通したい。
それに、アキラスの時と同じく、油断を誘い、俺が暗躍しやすくなる状況を保っておきたいというのもある。エピカリス達には口止めをするとして、どう誤魔化そうか……ああ、これならいけるか?
「冗談はさておき、魔族の件だが、俺達の世界には確かに魔物も魔法もない。が、それらは物語として存在していてな。魔族もそういう話に含まれている。そこから予測できたってわけだ」
「なるほど、存在しないのに形にしているのか……凄いな……」
「ではフウタ様達もご存知、ということでしょうか?」
「ええ、ゴブリンやオークはメジャーな部類の魔物ですね。魔法もちょっと違いますけど、ファイヤーボールみたいなのがあります」
特に深く考えていないだろうけどナイスフォローだぜ、風太。
さて、うまく誤魔化せたが、これ以上俺の力について色々と突っ込まれる前に今後の話を進めるとしよう。会話の主導権は常に握っておかねえとな。
「さて、俺のことはいいとして今後のことだ。俺達は一か月ほどここに滞在するが、その間に魔族の動きがなければ旅に出たいと思う」
「そうなのですね……できれば留まっていただけると嬉しいのですが……」
俺の言葉を聞いて明らかに落胆するエピカリス。
「一か月あれば騎士団の再編もできるだろ? 幸い騎士団長クラスの魔族化は一人だけだったし、城で働く人間も募ればいい」
「しかし、アキラスのような魔族と戦うには些か不安が残る」
プラヴァスも同様に落胆しているが、そこはなんとかしてほしいところだ。
そこで夏那が笑顔で口を開く。
「それでもこの国とエラトリア王国から魔族が居なくなったのはよかったんじゃないですか? リクが一か月ほど待つのは、それだけ経っても魔族が来ないイコール、しばらくは安全と考えられるってことだもんね」
「そういうこった。他に魔族が居て反攻作戦をするなら疲弊している今を狙ってくるはず。それが一か月もないということは、敵が近くに居ないということだな」
「なるほど……。絶対ではないだろうが、ずっと待ち続けるわけにもいかない。その判断材料として期間を設けているのか」
納得したプラヴァスが顎に手を当てて呟き、俺は頷く。
期間については、俺の経験上そう判断しているにすぎないが、信頼してもらうほかないな。
「あたし達が頑張って魔王を倒すから、送り出してよ!」
夏那が元気に言う。
「そう、ですね……困っているのはこの国だけではありませんし、わたくし達で頑張らなければいけませんね」
夏那の発言はともかく、自分達で対処するというエピカリスの考えはその通りなので、頷いておく。
困っている、か……他の国はどの程度まで侵略されてるんだか――
おっと……ダメだ、ダメだ……魔族絡みだと色々推測しちまうな。切り替えねえと。
「ああ、俺達みたいな異世界のイレギュラーが出しゃばっちゃいけねえ。もし俺達がずっと助けていて、いきなりいなくなったらどうする? その時、自分達ではどうにもできませんでしたじゃ次こそ本当に滅んじまう」
「リク……。そうか、そうだな」
プラヴァスが難しい顔で納得してくれた。
何度も言うが、この世界のことはこの世界の人間でなんとかするべきなのだ。
「それでは旅立った後は、魔王の居る島へ向かうのですか?」
エピカリスにそう問われたので、俺は首を横に振る。
「いや、まずはさっき言っていたグランシア神聖国とやらに行って、聖女に話を聞いてみたい。魔王のことと勇者召喚のこと、それと……いや、そのあたりを知ってそうだしな」
できることなら、魔王とは戦わずに元の世界に戻る方法も探したい。けど、夏那が『頑張って魔王を倒す』と言った手前、口に出しづらいので言葉を濁す。
「ええ、聖女様は何度か会ったことがありますが、博識ですよ。グランシア神聖国に行くには、ここから南東にある、クリスタリオンの谷を抜ける必要があります。そして、谷の先にあるボルタニア国の、さらにその先にありますわ」
そこでエピカリスから、ボルタニア国とグランシア神聖国に、現状を知らせる書状を持って行って欲しいと頼まれた。
彼女によると日数的にボルタニア国まで二十日、グランシア神聖国まで行くならさらに十五日と、ほぼ一か月と少しの道程になるらしい。
……本当なら風太達を置いていくのがいいんだろうが、俺の目が届かず、すぐに戻れないところに放置するのは厳しい。転移魔法が使えればここを拠点にして行動できるのだが、何度やってもこちらの世界では成功しないんだよな。
と、そこで俺は話題を別のことに変える。
「そういや国王様はどうなんだ? 病気なんだろ?」
「……はい。もう長くないだろうとは言われていますが……」
「一応、回復魔法を使ってみるか? 俺は病気に効く魔法を使えるから試してもいいぞ」
俺の言葉にエピカリスが目を見開き、話の途中だが国王の下へ来てほしいと立ち上がる。
そして俺達はエピカリスに連れられて、国王が寝かされた部屋に来ていた。
「お父様……」
「いつも以上に顔色が悪いですね……」
エピカリスとプラヴァスが、不安そうに呟く。
「ま、やってみるか」
ベッドに寝かされた国王の体調が芳しくない原因は呪いの類ではなかった。なので、テッド――アキラス戦で大活躍したハリヤーという馬の飼い主である男の子――の母親を治療した〈病排除〉を使い、あとは薬で回復できそうな状態にまですることができた。
呪いになるとちょっと面倒だと考えていたが、この程度の病気でよかったぜ。
実は癌といった厄介な病気でも、〈病排除〉を何度か根気よく使い続ければ治る。
旅の途中で病気になるのが一番キツイから、正直なところ、この魔法と傷の回復魔法以上に旅で役立つ魔法を俺は知らない。攻撃魔法は派手だが敵に効かないことなどもあるからなあ。
「いや……ホントに凄いな、リクは……。新しい騎士団長にならないか?」
「本当ね……幹部クラスを倒せて、私やお医者様でもできなかったことを簡単に……」
プラヴァスと、国王の看病役でもある宮廷魔法使いのルヴァン――褐色肌の女性――が、呆れた顔で俺を見ながらそんなことを言う。
俺はそんな彼らに鼻を鳴らし、肩を竦めながら言ってやる。
「俺達は元の世界に帰るんだから、この国に腰を落ち着けるわけにゃいかねえよ。ここから一か月ほど魔族の動向を探るついでに、陛下の様子も見てやるぜ」
すると、治療を眺めていた夏那が口を開く。
「ならその間あたしは訓練をやるわ! ハリヤーさんにも乗って馬に慣れないとね」
「やる気だな、夏那ちゃん。風太は御者の訓練もやるか。出発する時は馬車を用意してくれるって話だし、俺と交代できるようにしたい」
「分かりました、頑張ります! 水樹は?」
「私はもっと魔法を覚えたいかも」
と、軽い感じで言う三人。やる気があるのはいいことだ。
ちなみに、エラトリア王国との国交は正常化し、物流や冒険者の移動も問題なくできるそうだ。
まあ、その代わりロカリス国には、アキラスが制御していたと思われる魔物が出るようになったから面倒ではある。が、元々そういう状況だったんだ、気にはならないだろう。
あとは犠牲者が民間人ではなく城仕えの人間ばかりだったのが不幸中の幸いだったかな。それでも百人単位でこの世から消えたので、家族の悲しみは計りしれない。罪悪感から逃れるためには、これでも上手くやった方だと思うしかねえんだよな。
◆ ◇ ◆
これからの方針を決めた日から約二週間。
魔族が襲来や復讐に来るといったことは一切なく、割と平和な日々を過ごすことができていた。
「ふあ……リーチェのやつも夏那ちゃん達と訓練に行っているし暇だねえ」
「大きなあくび。あなたが魔族の幹部を倒したなんて信じられないわ」
庭の木を背に休んでいると、宮廷魔法使いのルヴァンが現れた。
「おう、ルヴァンか。風太のところに居なくていいのか?」
彼女は二十歳らしいが、なかなかの魔法の使い手で、魔法の腕ならこの城で一、二を争う猛者だった。魔力が高いおかげで魔族化には至らなかったようで、彼女がもう少し早くアキラスとの戦闘に参加してくれていれば、もっと楽に勝てたかもしれない。
「あなたに来客よ。それで呼んでこいって言われたの。フウタ達はまだ着替えている最中だから先にね」
「そうかい、そりゃありがとな。ああ、そうだ。お前って生活系の魔法って使えるか? 解毒とか殺菌……あー、身体を綺麗にする魔法」
「え? それなら〈キュアレイト〉と〈ピュリファイケーション〉があるけど。どうしてそんなことを聞くのよ?」
俺が立ちながらルヴァンに尋ねると、そんな疑問が返ってきた。なので横に並んで歩きながら、理由を話す。
「旅に出ると間違いなくあいつらは困るはずだ。元の世界ではキャンプすらきちんとできていたか怪しいし。料理なんかは道具がありゃいけるだろうが、キャンプ生活が長く続けば『虫がー』とか『お風呂入りたいー』とかわめきそうだ。特に夏那ちゃんは」
「あなたも使えるんじゃないの? 教えてあげればいいじゃない」
「俺の魔法はちょっと特殊でな。この世界に呼ばれた勇者なら、『こっち』のを覚えるべきだ」
「なんかよく分からないけど……まあ、教えておくわ」
彼女は肩を竦めながら前に出て俺を先導する。
慣れた城の中を進んだ先は、この前の謁見の間だった。ルヴァンが扉の前で口を開く。
「お連れしました」
「お入りください」
中からエピカリスがそう言うと扉が開き、中へ入る。
連れてきてくれたルヴァンは頭を下げてこの場を立ち去る。
彼女を見送ってから前を向くと、そこに立っていたのは――
「フレーヤにニムロスか、元気そうでなによりだ」
「リクさん!」
「やあ。久しぶりだね、リク。こっちに顔を出さないなんて薄情じゃないか? ワイラーが文句を言っていたよ」
エラトリアの騎士、フレーヤとニムロスだった。
ワイラーの文句……それは『俺の短剣を返しに来い』だとさ。
そういやロカリスに戻る前に、オイルライターと交換していたっけ。旅立つ時にエラトリアへ行けばいいかと思っていたし気にしてなかったな。
「まあ、ワイラーにゃ悪いがもう少し待ってもらうとして……ニムロス、どうしたんだ、今日は?」
「それは――」
「まあまあ、ニムロス殿。とりあえず皆が集まってから話をしてもらおうではないか」
渋い声が聞こえた方へ目を向けると、国王が玉座に座り穏やかに笑っていた。
一命を取り留めてあとはリハビリすれば治るはず。……だが、無茶はしない方がいいんだけどな。
「起きて大丈夫なんですか?」
「おかげさまで調子がいい。今までエピカリスに任せきりだったから、多少無理をしてでも顔を出さねばな」
「ま、本人がいいならってことで」
お互い笑みを浮かべてそんな話をしていると、背後にある扉の向こうでバタバタとした足音が聞こえてきた。
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