29 / 57
一つの終結
しおりを挟む
さて、ようやく出番というか、本当は出番などない方がよかったのだが、などと思いながら、レオンは前方へと視線を向けた。
そこにいるのは無論マルガレータという名の少女であるが、その顔はぽかーんとしたものである。
まったく予想だにしていなかったことが起こった、とでも言いたげなもので、正直言って隙だらけだ。
「うーん……これって、攻撃仕掛けちゃっていいのかな?」
「さあ……? どっちにしろ結果は変わらないんでしょうし、好きにすればいいんじゃない?」
「えぇ……ちょっと投げやりすぎない?」
言葉に視線を向ければ、言い放ったリーゼロッテはどうでもよさ気に肩をすくめている。
その顔に浮かんでいるのは呆れに似た表情だ。
「あれだけの数の魔法を一瞬で全部消し飛ばすとかいう意味分からないことやってる時点で、今更何言ってるのよ?」
「別にそんなことないと思うんだけどなぁ……」
実際のところ、やったこと自体はそれほど難しいことではない。
レオンの所持しているスキルの一つに絶対切断というものがあるのだが、これは対象が何であれ確実に攻撃の全てを通すスキルだ。
魔力を纏っていようと防御魔法を使っていようと紙切れのように斬り裂くし、それは魔法も同様である。
で、乱舞という、視認している全ての任意の対象に同時に攻撃することを可能にするという効果を持つスキルがあるため、その二つを使って全ての魔法を一斉に斬り裂いた、というわけだ。
ほら、こうして説明すればそれほど難しいことではなかったということが分かるだろう。
……まあ、その二つのスキルを取得するには、取得条件を知っていたところで一つにつき十年はかかりそうだということを除けば、の話ではあるが。
「というか、僕のやってることは誰でも可能だって、君も既に分かってるはずだけど……?」
「確かに分かりはしたし、その一端に触れられもしたわ。エミーリアなんかは実感もしてるんでしょうね。でもだからといって、感想は何一つ変わらないわ」
「ふふ……むしろ、実感出来た分、より、意味が分からなくなった、とも感じます、わね」
声に反射的に視線を向ければ、そんなことを言ったエミーリアは苦笑を浮かべていた。
ただ、槍にしがみ付いて何とか立っているといった様子で、顔色もよろしくない。
外傷そのものは掠り傷程度といったところだが、先ほど血を吐いたのも目にしているため、おそらくは内臓が傷付いているはずだ。
外見からはどの程度かは分かりづらいものの、辛そうな様子と、何よりも魔力0のエミーリアが至近距離から魔法を食らったという事実から考えれば、重症とまではいかなくとも軽症ではあるまい。
本来ならば、下がって休んでいるように言うべき状況だ。
だが、何かを言う前から、その目は決して引かぬと告げていた。
何も出来ずとも、その方がよくとも、それでもこの場で立ち続け、見届けると。
そこにはマルガレータへの苦手意識などはなくなっているようであった。
また勝つことは出来なかったが、そのうち勝つことが出来るかもしれないと実感出来たからだろう。
瞳を翳らせていたものは既になく、新しい光が灯り始めているようにも見える。
ならば、彼女が戦うよう推した甲斐もあったというものだ。
そしてここで彼女に余計なことを告げることほど無粋なものはない。
だからレオンも苦笑を浮かべると仕方がないなと溜息を吐き出し、それからリーゼロッテへと横目を向ければ、リーゼロッテは肩をすくめてきた。
どうやら同意権ということのようだ。
まあ、リーゼロッテが共にいるのならば、万が一もあるまい。
リーゼロッテの防御魔法は、おそらく現時点ですら世界最硬だ。
本人としては不本意のようではあるが、その事実は変わらない。
怪我人を任せるのにこれほど適した人物もいないだろう。
エミーリアはやるべきことを果たし、リーゼロッテもここでやるべきことを成す。
で、あるならば、自分もやるべきことをやろうかと、前方に向き直った時のことであった。
我に返ったマルガレータが、何かを納得したかのような声を上げたのだ。
「ふ、ふふ、なるほど、そういうことですのねえ~。つまりは、何らかのずるをした、ということなのでしょぉ~? ええ、そうでもしなければ、そこの無能がわたくしに傷を付けることも出来なければ、無能のお仲間まであるあなた達がわたくしの魔法をどうにか出来るはずがありませんものぉ~。……まったく、そこまでしてわたくしのことを貶めたいなんて、あなた方らしくもありますわぁ~。やはりあなた方は相応しくないようですわねえ~」
どうやらレオンやエミーリアのしたことを、そういうこととして認識することにしたようだ。
まあ、スキルを使っているということは、確かにある意味ではずると言えなくもないのかもしれない。
特にレオンの限界突破のことを考えれば尚更だ。
だが。
「ま、そうだと思いたいんだっていうんなら、それでもいいんじゃないかな? 確かにずるをしてる相手に負けるんなら、自尊心は傷付かないし貶められたりもしないしね」
「っ……それはつまり、あなたがわたくしを倒す、ということですのぉ~? 一体何をしたのかは分かりませんけれどぉ~……調子に乗りすぎじゃありませんのぉ、無能の同類如きがぁ。……妾の子に全てを奪われた分際で」
最後にぼそりと、レオンにだけしか聞こえないだろう程度の音量で呟かれた言葉に、目を細める。
何となく分かっていたことではあるが、どうやら相当にいい性格をしているらしい。
とはいえ、それは確かに事実だ。
事実でしかない。
しかし……どうやって戦おうか少し迷っていたのだが、それで決まった。
レオンは無造作に歩き出すと、纏っていた魔力の全てを消し去ったのだ。
「っ……あなたそれは、どういうつもりですのぉ~? 自殺願望があるのでしたらぁ、他で満たして欲しいのですけれどぉ~?」
「別にそんなものはないし、単にこうした方が分かりやすいだろうって思っただけだけど? エミーリアの努力の果てに何があるのかってのを示すためにね」
「……っ」
彼女がエミーリアのことをどう思っているのかは正確には分からないが、傍目から見る限り執着にも似た何かがあるのは明らかだ。
特に、エミーリアに勝つことに関しては並々ならぬ何かがあるように思える。
逆に言えば、それ以外のことは特に拘っていないようにも。
なら、彼女にとって最も効果的なのは、エミーリアに負けるという未来を見せることだろう。
魔法が全部叩き落されたことであれほど呆然としていたのは、こちらがエミーリアの同類だと思っているためで、つまりは同じことがエミーリアにも出来るのではないかと思ったからに違いない。
であるならば、エミーリアと同じ状態になり、その状況で負ければ、それは即ちエミーリアに負けるということと同様の効果を与えることが出来るはずだろう。
「無駄に挑発しすぎじゃないの……って思うけど、まあそこまでの何かを言われたってことなんでしょうね。はっきりとは聞き取れなかったけど、何か言ってたみたいだし」
後ろからの声に、肩をすくめて返す。
まあ、確かにそれが最後の要因ではあるが、別にそれだけが理由ではない。
エミーリアに努力の果てを見せるのにちょうどいいと思ったのも事実だし、それ以前からさすがにちょっとイラッとしていたのもある。
結局は大半が相手のせいではあるのだが。
「……そうですかぁ~、そこまで言うのでしたら、仕方ありませんねえ~。ならぁ~……黙って、死んでください」
言った瞬間、マルガレータの周囲に先ほどの倍の数の光球が現れた。
そして先ほど同様上空へと浮かび上がると、そこから急速に落下を始める。
だがレオンは、それをまったく一顧だにせずに歩みを進めた。
その状況にマルガレータはさすがに怪訝そうな表情を浮かべるも、当然と言えば当然か。
あの魔法は見たところ魔獣相手にはそれほど効果がなさそうだが、魔力が0の相手には絶大な威力を発揮するだろう。
逃げるのは難しく、防ぐのは無理で、食らえば相当なダメージを受ける。
それも、下手をすれば重症では済むまい。
しかし、それを理解しながらも、レオンは足を止めず、また剣を引き抜くことすらしない。
直後に光球がレオンの身体に接触し、炸裂し――
――限界突破・精神集中・戦意高揚・一意専心:大防御。
周囲に破壊の力がばら撒かれる中を、悠々と先に進んだ。
その身体には、傷一つ負ってはしない。
スキルを上手く使えば、あの程度ならば余裕で無傷でいられるのである。
だが完全に予想外の結果であったらしいマルガレータは、目を見開いていた。
しかし今度はすぐに我に帰ると、再び光球を生み出しばら撒く。
ただ、その数は少なく、代わりに間断なく叩き込み続けることにしたようだが……正直、意味はない。
構わず無傷のまま進むと、思わずといったようにマルガレータが叫んだ。
「っ……有り得ない……! わたくしの魔力を纏わず魔法も使わずに受けて無傷だなんて……有り得るはずがない……! あの無能が、そんなことを出来るようになるはずが……!」
先ほどもそうであったが、どうにも彼女は突発的な出来事というものに非常に弱いらしい。
頭を振り回しながら取り乱し、だがレオンは構わず近付いていく。
あと数歩で手が届く、というところにまで近付き……そこで、不意に攻撃が止まった。
しかし、諦めたりしたわけではあるまい。
振り回していた頭をピタリと止めたかと思えば、その瞳は爛々と輝いていたからだ。
その中によろしくないものを含んで。
「う、うふふ~……そうですわぁ、これは何かの間違いですわぁ。ええ、でなければ、こんなことが起こるはずがありませんものぉ。そしてぇ……間違いは、正さなければなりませんわよねえ~」
そう言った瞬間、再びマルガレータの周囲に光球が現れた。
しかもその数は先ほどの数倍はあり、さらにそもそも光球の大きさが倍近い。
威力でも範囲でも、先ほどまでのものとは比べ物にもならないこととなるだろう。
だがレオンがそこで目を細めたのは、少々その行動が不可解だったからだ。
その魔法ならば、さすがにレオンも無傷とはいかないかもしれない。
しかし、それはあまりにも数が多すぎた。
あまりにも過剰に過ぎるのだ。
あんなものを放ったレオンどころか自分までも巻き込むだろう。
それどころか、観覧席も巻き込むかもしれない。
それでも、リーゼロッテならば問題はないだろうし、レオンも防ぐ手立てはある。
放っておいても構わないと言えば構わないのだが――
「……ま、自爆で幕切れってのは、ちょっとね」
それに、自爆ではまだ相手に弁明の余地が与えられることとなってしまう。
それは少々、面白くない。
ゆえに。
「うふふ、さぁ~……これで、終わりですわぁ~!」
光球は、今度は浮かび上がることはなかった。
その必要はないとばかりに、その場で炸裂したのだ。
先の比ではない破壊の力がその場を中心に吹き荒れ――
「――百花繚乱」
――限界突破・絶対切断・疾風迅雷・明鏡止水・乱舞:百花繚乱。
その全てを斬り裂いた。
破壊の力は広まらずにその場で消し飛び、後に残ったのは何が起こったのか分からないといった顔のマルガレータだ。
だが直後に、その身体もゆっくりと地面へと倒れ込んでいく。
ついでに一撃を叩き込んでおいたのだ。
「うそ……嘘だ……こんなことが……こんなことが、許され……」
呆然とした呟きを残しながら、その身体が地面に倒れ込む。
後に残ったのは、ただの静寂だ。
レオンは抜き放った剣を一度振るうと鞘に仕舞い、振り返る。
そして、視線の先のエミーリアに、こんなものでどうかと肩をすくめてみせるのであった。
そこにいるのは無論マルガレータという名の少女であるが、その顔はぽかーんとしたものである。
まったく予想だにしていなかったことが起こった、とでも言いたげなもので、正直言って隙だらけだ。
「うーん……これって、攻撃仕掛けちゃっていいのかな?」
「さあ……? どっちにしろ結果は変わらないんでしょうし、好きにすればいいんじゃない?」
「えぇ……ちょっと投げやりすぎない?」
言葉に視線を向ければ、言い放ったリーゼロッテはどうでもよさ気に肩をすくめている。
その顔に浮かんでいるのは呆れに似た表情だ。
「あれだけの数の魔法を一瞬で全部消し飛ばすとかいう意味分からないことやってる時点で、今更何言ってるのよ?」
「別にそんなことないと思うんだけどなぁ……」
実際のところ、やったこと自体はそれほど難しいことではない。
レオンの所持しているスキルの一つに絶対切断というものがあるのだが、これは対象が何であれ確実に攻撃の全てを通すスキルだ。
魔力を纏っていようと防御魔法を使っていようと紙切れのように斬り裂くし、それは魔法も同様である。
で、乱舞という、視認している全ての任意の対象に同時に攻撃することを可能にするという効果を持つスキルがあるため、その二つを使って全ての魔法を一斉に斬り裂いた、というわけだ。
ほら、こうして説明すればそれほど難しいことではなかったということが分かるだろう。
……まあ、その二つのスキルを取得するには、取得条件を知っていたところで一つにつき十年はかかりそうだということを除けば、の話ではあるが。
「というか、僕のやってることは誰でも可能だって、君も既に分かってるはずだけど……?」
「確かに分かりはしたし、その一端に触れられもしたわ。エミーリアなんかは実感もしてるんでしょうね。でもだからといって、感想は何一つ変わらないわ」
「ふふ……むしろ、実感出来た分、より、意味が分からなくなった、とも感じます、わね」
声に反射的に視線を向ければ、そんなことを言ったエミーリアは苦笑を浮かべていた。
ただ、槍にしがみ付いて何とか立っているといった様子で、顔色もよろしくない。
外傷そのものは掠り傷程度といったところだが、先ほど血を吐いたのも目にしているため、おそらくは内臓が傷付いているはずだ。
外見からはどの程度かは分かりづらいものの、辛そうな様子と、何よりも魔力0のエミーリアが至近距離から魔法を食らったという事実から考えれば、重症とまではいかなくとも軽症ではあるまい。
本来ならば、下がって休んでいるように言うべき状況だ。
だが、何かを言う前から、その目は決して引かぬと告げていた。
何も出来ずとも、その方がよくとも、それでもこの場で立ち続け、見届けると。
そこにはマルガレータへの苦手意識などはなくなっているようであった。
また勝つことは出来なかったが、そのうち勝つことが出来るかもしれないと実感出来たからだろう。
瞳を翳らせていたものは既になく、新しい光が灯り始めているようにも見える。
ならば、彼女が戦うよう推した甲斐もあったというものだ。
そしてここで彼女に余計なことを告げることほど無粋なものはない。
だからレオンも苦笑を浮かべると仕方がないなと溜息を吐き出し、それからリーゼロッテへと横目を向ければ、リーゼロッテは肩をすくめてきた。
どうやら同意権ということのようだ。
まあ、リーゼロッテが共にいるのならば、万が一もあるまい。
リーゼロッテの防御魔法は、おそらく現時点ですら世界最硬だ。
本人としては不本意のようではあるが、その事実は変わらない。
怪我人を任せるのにこれほど適した人物もいないだろう。
エミーリアはやるべきことを果たし、リーゼロッテもここでやるべきことを成す。
で、あるならば、自分もやるべきことをやろうかと、前方に向き直った時のことであった。
我に返ったマルガレータが、何かを納得したかのような声を上げたのだ。
「ふ、ふふ、なるほど、そういうことですのねえ~。つまりは、何らかのずるをした、ということなのでしょぉ~? ええ、そうでもしなければ、そこの無能がわたくしに傷を付けることも出来なければ、無能のお仲間まであるあなた達がわたくしの魔法をどうにか出来るはずがありませんものぉ~。……まったく、そこまでしてわたくしのことを貶めたいなんて、あなた方らしくもありますわぁ~。やはりあなた方は相応しくないようですわねえ~」
どうやらレオンやエミーリアのしたことを、そういうこととして認識することにしたようだ。
まあ、スキルを使っているということは、確かにある意味ではずると言えなくもないのかもしれない。
特にレオンの限界突破のことを考えれば尚更だ。
だが。
「ま、そうだと思いたいんだっていうんなら、それでもいいんじゃないかな? 確かにずるをしてる相手に負けるんなら、自尊心は傷付かないし貶められたりもしないしね」
「っ……それはつまり、あなたがわたくしを倒す、ということですのぉ~? 一体何をしたのかは分かりませんけれどぉ~……調子に乗りすぎじゃありませんのぉ、無能の同類如きがぁ。……妾の子に全てを奪われた分際で」
最後にぼそりと、レオンにだけしか聞こえないだろう程度の音量で呟かれた言葉に、目を細める。
何となく分かっていたことではあるが、どうやら相当にいい性格をしているらしい。
とはいえ、それは確かに事実だ。
事実でしかない。
しかし……どうやって戦おうか少し迷っていたのだが、それで決まった。
レオンは無造作に歩き出すと、纏っていた魔力の全てを消し去ったのだ。
「っ……あなたそれは、どういうつもりですのぉ~? 自殺願望があるのでしたらぁ、他で満たして欲しいのですけれどぉ~?」
「別にそんなものはないし、単にこうした方が分かりやすいだろうって思っただけだけど? エミーリアの努力の果てに何があるのかってのを示すためにね」
「……っ」
彼女がエミーリアのことをどう思っているのかは正確には分からないが、傍目から見る限り執着にも似た何かがあるのは明らかだ。
特に、エミーリアに勝つことに関しては並々ならぬ何かがあるように思える。
逆に言えば、それ以外のことは特に拘っていないようにも。
なら、彼女にとって最も効果的なのは、エミーリアに負けるという未来を見せることだろう。
魔法が全部叩き落されたことであれほど呆然としていたのは、こちらがエミーリアの同類だと思っているためで、つまりは同じことがエミーリアにも出来るのではないかと思ったからに違いない。
であるならば、エミーリアと同じ状態になり、その状況で負ければ、それは即ちエミーリアに負けるということと同様の効果を与えることが出来るはずだろう。
「無駄に挑発しすぎじゃないの……って思うけど、まあそこまでの何かを言われたってことなんでしょうね。はっきりとは聞き取れなかったけど、何か言ってたみたいだし」
後ろからの声に、肩をすくめて返す。
まあ、確かにそれが最後の要因ではあるが、別にそれだけが理由ではない。
エミーリアに努力の果てを見せるのにちょうどいいと思ったのも事実だし、それ以前からさすがにちょっとイラッとしていたのもある。
結局は大半が相手のせいではあるのだが。
「……そうですかぁ~、そこまで言うのでしたら、仕方ありませんねえ~。ならぁ~……黙って、死んでください」
言った瞬間、マルガレータの周囲に先ほどの倍の数の光球が現れた。
そして先ほど同様上空へと浮かび上がると、そこから急速に落下を始める。
だがレオンは、それをまったく一顧だにせずに歩みを進めた。
その状況にマルガレータはさすがに怪訝そうな表情を浮かべるも、当然と言えば当然か。
あの魔法は見たところ魔獣相手にはそれほど効果がなさそうだが、魔力が0の相手には絶大な威力を発揮するだろう。
逃げるのは難しく、防ぐのは無理で、食らえば相当なダメージを受ける。
それも、下手をすれば重症では済むまい。
しかし、それを理解しながらも、レオンは足を止めず、また剣を引き抜くことすらしない。
直後に光球がレオンの身体に接触し、炸裂し――
――限界突破・精神集中・戦意高揚・一意専心:大防御。
周囲に破壊の力がばら撒かれる中を、悠々と先に進んだ。
その身体には、傷一つ負ってはしない。
スキルを上手く使えば、あの程度ならば余裕で無傷でいられるのである。
だが完全に予想外の結果であったらしいマルガレータは、目を見開いていた。
しかし今度はすぐに我に帰ると、再び光球を生み出しばら撒く。
ただ、その数は少なく、代わりに間断なく叩き込み続けることにしたようだが……正直、意味はない。
構わず無傷のまま進むと、思わずといったようにマルガレータが叫んだ。
「っ……有り得ない……! わたくしの魔力を纏わず魔法も使わずに受けて無傷だなんて……有り得るはずがない……! あの無能が、そんなことを出来るようになるはずが……!」
先ほどもそうであったが、どうにも彼女は突発的な出来事というものに非常に弱いらしい。
頭を振り回しながら取り乱し、だがレオンは構わず近付いていく。
あと数歩で手が届く、というところにまで近付き……そこで、不意に攻撃が止まった。
しかし、諦めたりしたわけではあるまい。
振り回していた頭をピタリと止めたかと思えば、その瞳は爛々と輝いていたからだ。
その中によろしくないものを含んで。
「う、うふふ~……そうですわぁ、これは何かの間違いですわぁ。ええ、でなければ、こんなことが起こるはずがありませんものぉ。そしてぇ……間違いは、正さなければなりませんわよねえ~」
そう言った瞬間、再びマルガレータの周囲に光球が現れた。
しかもその数は先ほどの数倍はあり、さらにそもそも光球の大きさが倍近い。
威力でも範囲でも、先ほどまでのものとは比べ物にもならないこととなるだろう。
だがレオンがそこで目を細めたのは、少々その行動が不可解だったからだ。
その魔法ならば、さすがにレオンも無傷とはいかないかもしれない。
しかし、それはあまりにも数が多すぎた。
あまりにも過剰に過ぎるのだ。
あんなものを放ったレオンどころか自分までも巻き込むだろう。
それどころか、観覧席も巻き込むかもしれない。
それでも、リーゼロッテならば問題はないだろうし、レオンも防ぐ手立てはある。
放っておいても構わないと言えば構わないのだが――
「……ま、自爆で幕切れってのは、ちょっとね」
それに、自爆ではまだ相手に弁明の余地が与えられることとなってしまう。
それは少々、面白くない。
ゆえに。
「うふふ、さぁ~……これで、終わりですわぁ~!」
光球は、今度は浮かび上がることはなかった。
その必要はないとばかりに、その場で炸裂したのだ。
先の比ではない破壊の力がその場を中心に吹き荒れ――
「――百花繚乱」
――限界突破・絶対切断・疾風迅雷・明鏡止水・乱舞:百花繚乱。
その全てを斬り裂いた。
破壊の力は広まらずにその場で消し飛び、後に残ったのは何が起こったのか分からないといった顔のマルガレータだ。
だが直後に、その身体もゆっくりと地面へと倒れ込んでいく。
ついでに一撃を叩き込んでおいたのだ。
「うそ……嘘だ……こんなことが……こんなことが、許され……」
呆然とした呟きを残しながら、その身体が地面に倒れ込む。
後に残ったのは、ただの静寂だ。
レオンは抜き放った剣を一度振るうと鞘に仕舞い、振り返る。
そして、視線の先のエミーリアに、こんなものでどうかと肩をすくめてみせるのであった。
58
あなたにおすすめの小説
最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな
・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー!
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。
だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。
なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!
《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。
そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!
ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!
一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!
彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。
アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。
アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。
カクヨムにも掲載
なろう
日間2位
月間6位
なろうブクマ6500
カクヨム3000
★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。
いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。
そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。
【第二章】
原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。
原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる