無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン

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責務と理想

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 吹き飛ばされた、と自覚した直後に衝撃と痛みを覚え、エミーリアは口から血を吐き出した。

「――かはっ!?」

「っ……有り得ない有り得ない! わたくしがあの無能に僅かとはいえ傷つけられた!? 有り得ない!」

 訓練場の地面を転がりながら、それでも声に視線を向けると、マルガレータが頭を振り回しながら叫んでいた。
 エミーリアはその姿に口元を緩めたのは……そんなことをさせることが出来たと、先ほど以上に自分の成せた結果を自覚できたからである。

「ふ、ふふ……素が、出ています、わよ?」

「うるさい……! わたくしはお前なんかに傷一つ付けられちゃいけないんだ……! それで……それでわたくしは騎士に……!」

 マルガレータが何故そこまで取り乱しているのかを、正確なところでエミーリアは理解しているわけではない。
 ただ、ぼんやりと彼女も彼女で何か事情があるのだろうと思うだけだ。

 そして、そんなことは騎士を目指す者であるならば珍しいことでもなかった。
 騎士とは、この世界に住む全ての人達の希望であり、憧れである。
 そんなものになろうとしている者が、何の理由も持たないわけがないのだ。

 それを比較することに意味はない。
 他人にとってはちっぽけで、どうしてそんなことのためにと思うようなことではあっても、本人にとって大切な理由ならばそれで十分なのだ。
 ある意味では、エミーリアもそうなのだから。

 改めて言うまでも無い事ではあるが、エミーリアは公爵家の人間である。
 三女であるため跡取りになる可能性は非常に低く、それでも問題なく公爵家の人間でいられるぐらいには、才能もあった。
 ただ一つの問題である、魔力をまるで持たないということを除けば、ではあるが。

 そのせいで家族から疎まれた……ということがあったら、おそらくエミーリアはもっと別の人生を歩んでいたことだろう。
 あるいは極普通の平民に身を落とし、それでも人並みの生活というものを手にしていたかもしれない。
 少なくとも、騎士になろうとなどしなかったはずだ。

 だが、今でもエミーリアは騎士を目指している。
 それは、魔力を持たないにもかかわらず、家族からは惜しみなく愛情を注がれたからであった。

 エミーリアにとって家族とは、自らの家族でしかない。
 だから他の家族がどうだとか、本来はどうだとかいうことに意味はない。

 しかし、実感としては分からずとも、知識としては知っていた。
 そのことがどれほど有り得ないのかということも。

 本来ならば、魔力なしの子供など、判明した瞬間に捨て去っても誰からも文句も言われないような存在なのだ。
 公爵家であれば尚更である。
 将来の使用人として育てるのだとしても、まだ優しい方だろう。

 だというのに、自分の家族達はそのまま家族の一員として扱い、育ててくれた。
 今でも変わらずに惜しみない愛情を注いでくれており……だからこそ、騎士にならなければならないと強く思うのだ。

 貴族は貴族としての責任を負わねばならない。
 それはそれだけのものを与えられているからだ。

 そしてエミーリアに与えられているのは、本来ならば与えられるはずのないものである。
 家族達はそんなことは気にしなくていいと言ってくれるだろう。

 だがそうではない。
 家族がどう思おうとも、エミーリアには果たさなければならない責任があり――

「……いえ、違います、わね」

 言葉を零しながら、エミーリアはゆっくりと立ち上がる。

 正直なところ、全身は物凄く痛い。
 先ほどの衝撃は、マルガレータの放った魔法が直撃したことによるものだ。

 魔力が0なエミーリアは当然のように魔法に対する抵抗力も0で、さらには至近距離。
 血を吐いたことからも、間違いなく内臓までも傷付いていることだろう。

 しかし関係ないと、足に力を込めていく。
 痛みのせいかいまいち思考は纏らないものの……そのせいか、忘れていたことを思い出した。

 そうだ、エミーリアが騎士になろうとしたのは……なろうとしているのは、義務感などではない。
 それはただの願望なのだ。

 自分のことを受け入れてくれた家族をこの手で守りたいと、彼らは少しでも心安らかに過ごせる世界にしたいと……そう思っただけであった。
 その願いを果たすためには騎士になるのが一番で、ならば寝てなどいられまい。

 視線の先にいるのが従妹でも……あるいは、だからこそ余計に。
 負けてなどはいられなかった。

 苦手意識などどうでもよく、薄皮一枚で満足している場合でもない。
 槍で身体を支えながら、それでもマルガレータを睨み付けた。

「っ……なんですのぉ、その目はぁ~。まだ身の程が分かっていないんですのぉ~?」

「ふふ、どうやら、多少は落ち着いてしまった、ようですわね。折角、隙を突こうと、思っていました、のに」

「うふふ~、息も絶え絶えのくせにぃ、無理をするのはよくないと思いますわよぉ~?」

「生憎、ですし、お忘れ、かもしれませんけれど、これは模擬戦、ですわよ? そして、まだ模擬戦は、始まったばかり、ですの。騎士を、目指す以上……負けても、いないのに、諦める、など、言語道断、ですのよ?」

「……そうですかぁ~。これ以上続けるのは危険だと思っての親切心だったのですがぁ~……そんなに死にたいのならば、遠慮は必要ないみたいですねえ~」

 言った瞬間、マルガレータの周囲に数十もの光の球が出現した。
 一つ一つは拳大といった程度の大きさだが、彼女はあれを一斉に対象へと叩き込むことが出来る。
 彼女の最も得意とする魔法で……騎士には相応しい者がなるべきなどと彼女が考えていない証拠でもあった。

 あの球は単純な攻撃のためのものではなく、着弾地点を中心に爆発する爆裂系の魔法だ。
 それを数十一度に叩き込むということで、即ち広範囲爆裂魔法というわけである。

 騎士を目指すのであれば、決して得意とするはずのないものだ。
 魔獣を倒すには、広範囲の攻撃ではなく、範囲はむしろ抑えその分を火力に振った魔力こそが必要だからである。

 だからあの魔法は、魔獣を倒すための魔法ではないのだ。
 エミーリアを叩きのめすための魔法なのである。

 努力を重ねたエミーリアは、下級の魔獣ならば数十分その攻撃をかわし続けることが出来るまでに身体能力を鍛え上げた。
 だがそんなエミーリアでも、魔法による広範囲攻撃だけはどうしようもない。

 無論エミーリアも最初から魔獣の攻撃をかわし続けることが出来たわけではないが、マルガレータの魔法もまたあれほどの攻撃が出来たわけではなかった。
 エミーリアが努力を重ねるたびに、そんなエミーリアを完膚なきまでに叩き潰すため、あの魔法も磨かれていってしまったのだ。

 その分をもっと別のものに費やせば……とは思うものの、先ほども言ったように事情などは人それぞれである。
 それに、今それが自分にとって脅威であることに違いはないのだ。

 ……正直なところ、アレをかわせる自信は微塵もない。
 というか、まだ全身が痛く、万全には程遠い状態なのだ。
 万全でもかわせない可能性の方が高いというのに、今あんなものを放たれてしまったら、本当に死んでしまうかもしれない。

 しかし、それでも引くことは出来ないと思った。
 ここで引いてしまったら、また繰り返しだ。

 折角、可能性を手にすることが出来たのである。
 自分が自分のまま、本当に騎士になることが出来るかもしれない可能性を。

 ならば――

「……それこそ、死んでも、引けませんわ」

「そうですかぁ~。ならぁ、仕方ないですねえ~。ではぁ、遠慮なくぅ~――死ね」

 瞬間、マルガレータの周囲に浮いていた光の球が上空に飛び上がり、直後に落下してきた。
 軌道はバラバラであり、一目でかわすことは不可能だと分かる。
 迎撃するのも防ぐのもエミーリアにはもちろん不可能で……エミーリアの未来はここで固定された。

 それを理解したからこそ、エミーリアは溜息を吐き出す。
 ここまで意地を張ったが……自分には上出来だろう。

 確実に一歩を前に進めたという実感があるのだ。
 もう少し前に進みたかったものの、さすがにもうどうしようもない。
 ここで満足しておくしかなかった。

 だから。

「……申し訳ありません。――後は任せましたわ」

 そう、あくまでもこれはFクラス対マルガレータの模擬戦なのだ。
 ゆえに――

「――うん、じゃあ、任された」

 視界を埋め尽くしていた光球が一瞬で消し飛んだ光景に、エミーリアは思わず苦笑とも自嘲ともつかない笑みを漏らすのであった。
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