狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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277.空賊列島潜入作戦 4

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「ね、ねえ……これからどうするつもり? こんなことしてもどうしようも……」

 おあつらえ向きに地下室、それも奴隷を閉じ込めておくためであろう檻まであったので、奴隷商バイラスを始めとした三人はそこに放り込んでおいた。

 テキパキと服を脱がせたり縛ったり猿轡を噛ませたり引きずったり地下室に運び込んだりして戻ってきたら、ようやくオリビエが動き出した。

 ものすごく戸惑った顔で、言葉を選び選びそんな声を掛けてくる。

「説明するから、とりあえずここで働いてる女性たちをあの部屋……バイラスの部屋でしょ? あそこに集めて」

 それだけ言い残し、私は先に向かう。

 建物が小さいだけに捜索はあっという間に済んだ。
 なお、二階が仕事部屋・・・・になっているようで、そちらはまだ見ていない。

 悪趣味な紫のサテンのシーツが毒々しい丸いベッドが、部屋の半分をドーンと占めているバイラスの部屋を兼ねている執務室は、意外と片付いている。
 執務机の上も片付いているし、似合わないペン立てには羽付きのペンが置いてある。あの形で書類仕事をしているなんて言われても違和感しかない。

 というか、オリビエが掃除も片付けもしているんだろうけど。バイラスがやるとは思えないし。

 ――さて、まずは机の中を漁ってみるか。

 執務机の引き出しの中から、金目の物をどんどん出しては机の上に並べていく。
 バイラス自身が成金の小悪党みたいだっただけに、宝石や貴金属の装飾品が多い。まあ、質は良くなさそうだが。でもまあこれも金になるだろう。

 そして、一番下の引き出しに、小型の金属箱――金庫があった。

「……あ、ダメか」

 机の上に取り出し、力ずくで無理やり開けようとして、思いとどまる。

 さすがにオリビエは知らないとは思うが、金庫の持ち主であるバイラスを確保しているので、カギの当てはある。

 ならば壊さずとも開けることはできるだろう。
 壊さなければ、この金庫だって多少の値が付いて売れるだろうしな。

「――あの……連れてきたんだけど……」

 相変わらず戸惑っているオリビエは、五人の女性たちを連れてきた。




 オリビエを端に置き、私の前に女性たちが並ぶ。

 この中では一番年上に見える、気の強そうな赤毛の女性。
 足に異常があるのか、松葉杖をついた女性。
 右眉から下に掛けて深い切り傷のある、傷だらけの豹獣人の少女。
 左目を覆うように包帯を巻いた少女。
 生気を感じさせない死んだ表情の、一番年下であろう少女。

 全員が奴隷の首輪をしていて、ボロの粗末なワンピースをまとい……こうして見るに、まあ、全員苦労していそうなメンツである。

 そんな彼女らは、執務机の上に座っている私を、オリビエ同様かなり戸惑った様子で見ていた。

「まず先に言っておくけど、今日これから私がこの店のオーナーだから。口答えしてもいいし文句も受け付けるし私の言うことを聞かなくてもいいけど、逃げるのと情報を漏らすのはお勧めしないわ。

 もしそうなったら、私はここから消える。そしてその後は一切関わらない。あの後はきっと、何が起こっても自分たちの首を絞めると思うわ。
 自分と仲間の命に関わるから、それだけは覚えておいてね」

 私が逃げた後、またバイラスが店を経営するのか、それとも私のように横から割り込んだ誰かがオーナーになるのか。
 はたまた周囲の奴隷商が彼女らをむしり取っていくのか。この店を潰すのか取り込むのか。

 空賊列島のやり方を知らないので、その辺のことはわからない。
 でも、確率的に今より境遇や状態が良くなる可能性は低いだろう、とは思う。

「あんた何だい。急に何言ってんだい」

 女性たちの中では一番年上で、三十半ばを超えているであろう化粧の濃い女性が、戸惑いつつも強気に出てきた。
 恐らくは彼女たちのまとめ役なんだろう。

「何って言われても。……まあ、空賊とさほど変わらない奴ね」

 ここにいる空賊は、力で上下関係を決め、力で略奪や横行を繰り返し、力で人を……奴隷を制している者たちだ。

 そして私は、奴らの流儀に合わせて、力で奴らを排除しようとしている者だ。

 力で力を制する。
 やること自体は、私も空賊どもも、大して違いはないだろう。

 ただ、それを歓迎する者が多いか少ないかの差があるくらいで。

「答えになってないね」

「そう? じゃあ率直に言うけど――まずこの島を制圧するのが目的ね」

「制圧……?」

「ここは赤島でしょ? 四空王の一人、暴走王フラジャイルが支配する奴隷の島よね? ――そいつを始末する」

「し、始末……」

「私はそのためにここに来たの。そしてしばらくはこの娼館が私の拠点になる、っていうのがこれからやりたいことね」

「――頭おかしいの? あんたみたいな子供にできるわけないじゃない」 

 まとめ役に代わり、左目に包帯を巻いた少女が、なんとも人生を諦めたような投げやりな顔で皮肉に笑う。

「まあ、おかしくない人なんて、ここにはいないけど。……それで、結局私たちをどうするの? 資金集めのために稼げっていうの? だったらいちいち集めないでよ面倒臭い。勝手にやってればいいじゃない」

 うん。

「あなたたちは好きに過ごしていいわよ」

「……え?」

「さっき言った通り、逃げるのと情報を漏らすのはお勧めしない。それ以外は自由にやっていいわ。私からは特に要求は……あ、娼館の仕事は無理よ、部外者の出入りは極力抑えたいから。だから今日から店じまいね。そんなものかしら」

「…………」

 包帯を巻いた少女は絶句した。
 なんと返していいのかわからなくなったようだ。

 まあ、追々色々と慣れていくし、理解もしていくだろう。

「オリビエ」

「あ、え、……は、はい」

 そして彼女はずっと戸惑っている。そんなに戸惑うことか? ……いや、彼女らからしたら、私の要求や行動はかなり予想外の展開なんだろうな。

「机の上に金目の物を出しておいたから、全員で分けて。どうせあなたたちが稼いだお金で買ったんだろうから、構わないでしょ。
 それでしばらくは生活できるだろうから、その間に……」

 …………

 何をしよう。
 まず情報収集か。

 それから、いい噂がないひどい奴隷商や娼館を片っ端から支配していくと同時に奴隷を保護しつつ略奪もしていって、手あたり次第に空賊どもを闇討ちしていこう。

 そんなことをしていれば、いずれ暴走王フラジャイルが動き出すだろうから、そこを狙うと。
 せいぜい外堀からどんどん埋められていく恐怖でも味わってもらおうか。

 ……でも、急ぎ過ぎるとまずいんだっけ?

 向こう・・・と、ある程度は足並みを合わせないと、作戦が狂うってしつこくしつこく言っていたからな。
 いきなりフラジャイルを狙うなよ、って何度も言われたもんな……これは厳守しないとな。

 まあ、少しずつじっくりやっていこうか。

「じゃあそういうことでよろしく。オリビエと、あなたとあなたは残って。あとは解散」




 戸惑いながら「とりあえずは」と、処分するのに手間取りそうな宝石や貴金属は残して現金だけその場で分けたオリビエからお金を受け取ると、三人の女性が戸惑いながら出て行き、

「な、何よ……何をするつもりよ……」

 執務室改め私の部屋・・・・には、包帯を巻いた少女と、松葉杖をついた女性と、オリビエが残った。

「目、どうしたの? 怪我?」

「……そうだけど。客に殴られたんだけど、なかなか治らなくて……」

 そうか。
 怪我も病気も「氣」で治せるが、病気だとやはり薬はあった方がいいからな。でも怪我なら私だけで面倒を見られる。

「栄養状態も悪そうだし、これから栄養価の高い物を食べてゆっくり休むといいわ」

「……」

 なんとも言えない顔で黙ってしまったので、今度は松葉杖をついている女性に視線を向ける。

「足の怪我?」

「え、ええ……随分前に足の腱を切られて……」

 ああ、あれは痛いんだよな。

「しばらくちょっと痛いけど、治せるわよ。試してみる?」

「え?」

 先天的じゃなければ、なんとかなる。

 切れた状態で治ってしまったのなら、そこら辺を全切除して、今度はズレないように注意して元通りに再生する。そんな「氣」の技がある。
 古傷の腱なら、骨と肉と腱の再生――絶対安静という条件付きで、一週間から二週間くらいで完治できるだろう。女性の細い足ならそんなもんだ。

 まあ、痛み止めなんかを併用しつつ治せばいいので、安静にできる環境があればそう苦はないはずだ。

 さて。

「あなたから始めましょうか。おいで」

「はあ……? おいで、って……」

 まず包帯を巻いた少女から、治療を始めることにした。



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