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国始動編

第122話 マリカVSゼルター

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「おい大地。相手にもお前のようなスキルを持った奴がいるのか?」

「そんなの知る訳ないだろ。だけどゼルターって奴の口ぶりからお前対策に作られた装備ってのは間違いなさそうだ。」


それにしてもどっかの金持ち貴族が着てそうな悪趣味な装飾がなされているな。こんなの漫画の世界に出てくる悪役貴族ぐらいしか着る奴いないんじゃないか。


あまりに実用性のない煌びやかな装備を誇らしげに着ている二人を見た大地は、間違いなくこの装備を作ったのは異世界の人間だろうと感じていた。

「とりあえず私の対策ということであれば中和魔法に対しての対策であろうな。とりあえずどんなもんか試してやろう。」

マリカは二人の装備の性能を試そうと中和魔法を発動させる。それと同時にシリウスは全身を風魔法で包みだすと大地にロングソードで切りかかってきた。

「死ねぇ!」

「いや簡単に殺さないってさっき言ってなかったっけ?」

大地は銃剣を交差させて、真っ直ぐに向かってきたソードの切っ先を受け止めると、その威力を分散させるように後方へと飛び退く。

シリウスの突撃により大きく後方へと飛び退いた大地は間にシリウスが入ったことでマリカと分断されてしまう。

「やっぱりお前の中和魔法意味無いみたいだぞ!」

シリウスの後ろにいるマリカに中和魔法が効いていないことを告げる大地。

「やはりか。」

このままでは大地のみに中和魔法が作用すると判断したマリカはすぐさま中和魔法を解く。

「だから言ったでしょう。あなたの対策は既に済んでいると!」

ゼルターは中和魔法を解いたマリカに得意気な顔を見せながら、迷彩魔法をかけたゴーレムを数体出現させる。

「おいマリカ大丈夫か! 何なら相手変わってやってもいいぞ!」

マリカの後方でシリウスの風魔法を捌きながら大地が声をかけるが、マリカは大地の提案に耳を傾けることなく、ゼルターに向かって走っていく。

「中和魔法が私の全てだと思うなよ。そして強力な装備をしているのがお前達だけだと思うな!」

マリカは大きな雄叫びを挙げると、上着に手をかける動作を見せる。

「あなたの唯一の弱点は魔力の低さ、その程度の魔力では迷彩魔法をかけたゴーレムの魔力を感知することは不可能です。」

こちらに一直線に向かってくるマリカにうすら笑いを見せるゼルター。

ゼルターの言う通り、マリカはゴーレムの魔力を感知することは出来ない。マリカをゴーレムで囲み、遠距離から見えない魔法攻撃を加えればマリカに対抗するすべはないだろう。

マリカがまだ宮廷魔法師第三位の地位にいた頃、ゼルターは模擬戦で一度もマリカに勝つことは出来なかった。

迷彩魔法を用いて、遠距離から見えない魔法攻撃を加える典型的な魔法師の戦い方を行うゼルターにとって、相手の魔法を封じ、接近戦を仕掛けてくるマリカは天敵といっても良い相手であった。

ゼフィルの前で行われる年に一度行われる御前試合でもゼルターは完膚なきまでにマリカに敗北していた。

敬愛する皇帝の前で良いところ一つ見せることなく敗北したゼルターはその時の屈辱感を忘れてはいなかった。

そしてアーヴと共に攻めたトームでのメリア戦。

自分より地位の低いはずのメリアと戦い、結果逃げ惑うことしか出来なかったゼルターは帝国へと報告に帰った際、皇帝へのお目通りも叶わなかった。

霧崎から伝え聞いたのは、お前には失望したというゼフィル皇帝からの言葉。

敬愛する皇帝に会うことすら出来なくなった時のゼルターは生きがいを失った。

そんな時、霧崎から告げられたのは、ディランチ連邦との前線を維持しマリカ達裏切り者を始末すれば、皇帝からのお目通りも叶うというものであった。

そんな命令を受けたゼルターの前には今、屈辱感を植え付けたマリカとトームでアーヴを破った、帝国の宿敵である大地の姿がある。

もしここでマリカと大地を始末し、ディランチ連邦の陣にいるメリアまで始末することが出来れば、必ずやゼフィル皇帝は再度私のことを見てくれる。

ゼルターは中和魔法を封じたマリカなどもはや敵ではないとばかりに、マリカを始末した後のことまで考えていた。

「とりあえずまずはマリカを始末しましょうか。あぁ早く皇帝の前で戦果を報告したい。長い間、お顔すら拝見出来ていないあの凛々しくも慈愛の満ちたゼフィル皇帝の顔を。」

ゼルターはゼフィルの顔を思い浮かべながら愉悦に満ちた顔を晒すと、向かってくるマリカを囲うようにゴーレムを配置する。

「さぁ見えない攻撃に恐怖しながらあの時の私のように屈辱に塗れなさい!」

ゴーレムが配置を済ませ、向かってくるマリカへ拳を突き出した時、マリカの姿が消えた。

「ごはっ!」

マリカの姿が消えたのと同時に胸部に激しい痛みが走る。肋骨の折れる音が響き、血反吐を撒き散らしながら後方にあるテント内へと飛ばされるゼルター。

「ごほごほっ! 一体何が・・・」

口から多量の血を吐き、床へと項垂れているゼルターの前には、寂しそうな瞳でゼルターを見下ろすマリカの姿があった。

マリカは間髪入れずにゼルターの腹部に向けて、右足で蹴りを放つ。

ゼルターを深手を負った胸部を右手で押さえながら、左手で結界魔法を張る。

「かっは・・・・」

しかしマリカの蹴りはゼルターの張った結界魔法を破り、今度はゼルターの腹部にめり込んでいく。

テントを破り空中へと飛んでいくゼルター。

腹部を蹴りで抉られたことで内臓を激しく損傷しているゼルターは更に赤い鮮血を口から吐き出し、空中に赤い軌道を描きながら、そのまま地面へと受け身をとることなく激突していく。

「はぁはぁ・・・・何が起きている。蹴りで私の結界を破るなどこれまでのマリカでは無理だったはずだ・・・・どういうことなのだ。」

ゼルターは口から血をまき散らしながらも這いずるようにして、マリカから身を隠そうとするが、マリカはまたいつの間にかゼルターの背後に立っていた。

気配を感じたゼルターが後ろを振り向くと、そこにはヘラクレスに身を包んだマリカの姿が見えた。

「どうした。私に対しての対策をしてきたのだろう? これで終わりな訳はないよな?」

マリカは必死に後ずさるゼルターを見ながら、ゆっくりとゼルターに近づいていく。

ゼルターは後ずさりながらも近づいてくるマリカを囲うようにして何重にも結界魔法を張り、その中にマリカを閉じ込めると、軽く笑みを浮かべながら何とか立ち上がる。

「ごほごほっ・・・・油断しましたね。この結界は土魔法を練り込み強度を上げた特製の結界です。いくらあなたでも何重にも張ったこの結界を抜けることは出来ません。結界魔法がただの防御魔法だと思っていましたか? 油断大敵ですよ・・・ごほごほっ!」

口から多量の血を吐きながらも、結界魔法に大きな自信を持っているゼルターは薄ら笑みを浮かべながら、頭上に土を圧縮して作られた杭を出現させる。

「はぁはぁ。かなりの痛手を負いましたが、とりあえずあなたを始末出来たことで良しとしましょうか。」

ゼルターが結界に絶対的な自信を見せていると、マリカが静かにゼルターに問いかけた。

「なぁ。お前は本当に今の帝国が正しい道を歩んでいると思っているのか?」

「どういう意味ですか?」

マリカの問いかけに首を捻るゼルター。

「我々や仲間である小人族にあれだけ優しかった皇帝が自分の意思で人間至上主義などという訳のわからない事を言うと思っているのか?」

「だから言ってる意味がわかりませんね。どのような命令だろうと敬愛するゼフィル皇帝からであれば私はそれ従うまで。その皇帝に反旗を翻したあなた達こそ帝国の道を歪ませる要因だと私は考えますが。」

ゼルターは苦しそうに胸部を手で押さえながらマリカからの質問に答える。

「もういいですか?    それではさようなら。」

マリカが黙りこんでいる様子を見たゼルターは、これで終わりとばかりにその杭をマリカに向けて振り落とす。

「本当にお前は昔から変わらないな。」

マリカは頭上から振り落とされる杭を見つめながら小さく呟くと、周りを囲っている結界に拳を突き出す。

バリッバリバリッ

嫌な音を立てながらひびが入っていく結界。そして止めを刺すようにマリカが拳を押し出すと、何重にもはっていたはずの結界は音も無く崩れ去った。

結界を破壊したマリカは頭上から振り下ろされる杭に視線を移すと、その杭の真ん中に目掛けてアッパーのような形で拳を振り上げる。

マリカの拳が杭の中心部分に刺さり、そこから大きなひびを形成すると、入ったひびから崩れ、杭はただの大きな土塊に変わり果てた。

「そんな馬鹿な・・・」

ゼルターが目の前の光景が信じられないといった顔を見せた時、ゼルターは自身を襲う激しい痛みを腹部に感じた。

ゼルターの腹部にはマリカの持っていた薙刀が深く突き刺さっていた。

力なく両膝を着くゼルター。背中まで突き出るほど薙刀を深く突き刺されたゼルターは意識すら維持することが難しくなっていた。

「ゼフィル・・・様。お許し・・・を・・・」

少しずつ呼吸を弱めるゼルターの姿を見ながらマリカは舌打ちを鳴らす。

「昔からお前は皇帝に依存し過ぎなんだよ。お前がもっと自分で物事を考えることが出来る人間であれば、私だって・・・・」

マリカは後味が悪そうにゼルターに声をかけるが、マリカの言葉がゼルターに届くことはなかった。
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