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国始動編

第122話 奇襲

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日も暮れて辺りが真っ暗になった頃、大地達は地面に倒れているディークを尻目に作戦の最終確認を行っていた。

「なぁディークって奴は大丈夫なのか?」

「あれはいつもの事だから気にしなくて良い。それに今回は条件的にディークの魔法は使いづらい環境にあるのでな。どっちにしろディークに出来る仕事はなかったであろう。」

後ろで激しく呼吸を繰り返すディークを心配する大地であったが、オズマは日常的なことだと気にすることなく確認作業を進めていく。

「よし。では作戦開始と行きますかね。」

大地がルルの顔を覗くと、ルルは力強く首を縦に振る。

ルルは大地特製の暗視スコープを取り付けた新装備を構えると、帝国兵の敵陣目掛けて引き金を引いた。

すると帝国兵の陣営が瞬く間に小規模の爆発を起こし燃え始めた。

「敵陣が燃え始めた・・・・?」

遠くで見える微かな炎の揺らめきが徐々に大きくなっていくのを見たオズマ達はその発生源であるルルの武器に視線を移す。

「これはレーザーライフルっていって簡単に言えば光によって物体を破壊する武器だ。」

大地はオズマ達の様子からルルの武器に興味を示しているのだろうと思い、新装備について説明を行う。

大地の作ったこのレーザーライフルの大きな特徴は発射するのが銃弾ではなくレーザーであるという点である。

指向性を持たせたレーザー光線を放つことで射線を相手に悟らせることなく攻撃を行うことが可能になっている。

また発射音も全くしない為、相手に自分の居場所を知られることなく攻撃が出来る。

本来銃器程度の大きさではそこまでの破壊力を生み出すことは不可能であるが、そこは大地のプログラミングによって大幅な威力強化を施している。

射程距離も銃弾の物よりも遥かに長く、環境によっては数十キロ先まで狙撃が可能だ。

しかし射出するのが光線ということもあり、湿度や温度、天候によって命中精度に大きなばらつきが生まれてしまう。

その為、この銃は銃器の扱いに長けたものではないと、単なる宝の持ち腐れというやつになってしまうだろう。

しかしルルはマヒアと共に銃器の扱いではアースにおいてトップの技量を持っていた。

そんなルルがレーザースナイパーを使えばどうなるか。それはもちろん一方的な蹂躙劇の始まりである。

ディランチの駐屯地と帝国の駐屯地は約十キロ程度離れており、両者お互いの動きを観察していた。

帝国もまさか十キロ先から攻撃を加えてきたとは流石に思うはずもなく、混乱に陥ってしまい的確な防御行動をとれていなかった。

その間にもルルは的確に等間隔でレーザー光線を敵陣に放っていく。

「敵陣は凄い勢いで燃え広がっているねぇ。敵さんはかなり焦った様子で辺りをキョロキョロしているよ。」

睦月が敵陣を見ながら、大地達にその様子を伝えていく。

「よし、ルルはこのまま広範囲に狙撃を続けてくれ。ジグルとメリアも手筈通り頼む。」

大地からの指示によりメリアとジグルも所定の位置へと向かっていく。

「なぁまだ突撃はしないのか?」

マリカは身体をうずかせながら大地からのゴーサインを待っている。

「もう少し待て。準備が整い次第ちゃんと暴れさせてやるからさ。」

大地ははやるマリカを制止しながら、燃え盛る地平線を眺めていた。









一方、ルルから不可視の狙撃を喰らい続けていた帝国の陣営は大きな混乱の中にあった。

「第一陣から第十陣まで全ての陣で火魔法による攻撃を受けています!」

「敵の補足はまだか!」

「それが魔法の射線が捉えられず、いまだに敵の姿を補足は出来ていません!」

帝国兵は隠れている敵兵が周囲にいないか必死に探す。しかし自分達の周囲に敵がいるわけもなく、急に燃え出すテントを見て、徐々に恐怖心が芽生え始める。

兵士達はもはやただ逃げ惑うことしか出来ず、次々と謎の発火する攻撃の餌食になっていく。

「もう無理だぁ!」

「ここから逃げるしかない!」

燃え盛っていく自陣の様子を見た兵士達が恐怖のあまり逃げ出そうとした時、最後方に構えるテントから兵士達に喝を入れる声が響く。

「お前達! 我々は皇帝よりこの場所を死守せよと命令されたのだ! ここより逃げることは私が許さん。」

テントから出て来たのは大地のコピー体の自爆に巻き込まれ一時昏睡状態になっていた宮廷魔法師第六位のシリウスであった。

シリウスの身体には生々しい火傷の跡が全身にあり、当時受けた凄惨なダメージを物語っている。

シリウスと共に出て来た第七位ゼルターは燃え盛る自陣の様子を確認すると、中央に位置する陣のみを大きな結界魔法で包み込む。

「これで良かったですかシリウス?」

「あぁ助かった。このまま結界の維持を頼めるかゼルター?」

「この程度お安い御用ですよ。」

ゼルターの張った結界によって中央に位置する第四から第七までの陣はその謎の攻撃を防ぐことが出来ていた。

「敵は何処から攻撃を行っているのだ。まさかディランチの陣からであるまいな。」

「普通ではあの距離からではありえないことではありますが。」

いまだ敵の姿を見つけることが出来ずにいるシリウスは苦い顔をしながら結界に囲えていない他の陣が攻撃されているのを眺める。

その時、ディランチ連邦の左右の端の陣から大きな精霊魔法が出現した。左には赤黒い大蛇、右には三種の獣の混じったキメラのような猛獣。

出現した魔獣を見た帝国兵が大きな悲鳴を上げ始める。

「あの魔獣達の攻撃だ!」

「こんな距離から攻撃されたら俺達に為すすべはないではないか!」

見えない攻撃によって恐怖心を募らせていた兵士達は、敵陣から出現した精霊魔法を見て更なる混乱を引き起こしていた。

そんな中ただ一人赤い大蛇の姿を見ながら激高した様子を見せ始めた人物が一人。

「メリア・・・・何故ディランチにお前が居るのだ。」

怒りに顔を歪ませながらメリアの名を口にするゼルター。

「メリアだと? あいつはトームに居たのでは無かったのか!?」

ゼルターからメリアが居ると聞いたシリウスは今置かれている自分達の状況が想定から大きく外れているのだと気付くと、新たな攻撃を予測して守備陣を整えるように兵士達に指示を飛ばす。

「第四から第五までの兵士は右の陣へ、第六から第七の陣は左の陣へ救援に迎え、救援に向かい次第、魔法師達はディランチの陣方向へと魔法障壁を張り続けろ! あれだけ大規模な精霊魔法だ。長い時間は持つまい。」

シリウスの指示により中央に位置していた兵士は最小限の守備のみ残して精霊魔法の目の間にしている左右の陣へと救援に向かった。

「一体何が起きている。何故ディランチの陣にメリアがいるんだ。」

シリウスは今起きていることについて必死に思考を巡らせていく。


あの攻撃はメリアによるものなのか?

いくらあれだけ大規模な精霊魔法だろうと、ゼルターの迷彩魔法でもない限り不可視の攻撃など不可能なはずだ。

であれば攻撃しているのは別の誰かなのか。

しかしディランチにいるマリカ、オズマ、ディークがあのような攻撃をしてるのを見たことはない。

もしかしてマリカの従者であったジグルの攻撃?

いやあの小僧がそのような固有魔法を使えるほどの使い手であるはずがない。

そうなればこの攻撃はあいつによるものでしか考えられない。

メリアがディランチにいるのだ。あいつがディランチにいても何ら不思議ではない。

またしても・・・・またしてもあいつか。どれだけ帝国の邪魔をすれば気が済むのだ。


不可視の攻撃を行っている者の正体に気付いたシリウスの顔に太い青筋が浮かび上がった時、シリウス達の目の前の空間が僅かに歪む。

「ようしばらくぶりだな。」

「貴様・・・・。」

歪みと共に出現した者の姿を見たシリウスは憎悪に満ちた血走った眼をその者に向けた。

「久しぶりだなゼルター、シリウス。」

大地と共に出現したマリカがシリウスとゼルターに声をかけるが、シリウスはマリカに目を向けることなく大地の方を睨み続ける。

「ゼルター。あいつは私が殺る。お前はマリカを頼む。」

「仕方ないですね。マリカの相手は私がしましょう。」

シリウスの大地に向ける狂気的な眼差しを見たゼルターはやれやれといった様子でマリカの前に立つ。

「ゼルターよ。お前如きに私の相手が務まると思うなよ?」

「失礼ですがあの時から随分の時間が経ちましたし、あなたの魔法の対策は既に済んでいます。昔と同じように考えていると痛い目に合いますよ?」

マリカはゼルターからのわかりやすい挑発を真に受けて額に青筋を浮かべる。

「大地。ゼルターは私が完膚なきまでに叩きのめさないと気が済まない。何があっても手を出すなよ。」

「わかってるよ。とりあえず罠は張ったが、出来る限り早めに終わらせろよ。」

「わかっている。さっさと終わらせるぞ。」

マリカはゼルターを睨みながら薙刀を構える。それを見た大地も銃剣を両手に構えた。

「どこまで帝国の邪魔をすれば気が済むのだ。お前は簡単には殺さんぞ!」

帝国の陣のど真ん中にありながら、緊張感の無い会話を続ける大地とマリカの様子を見たシリウスは怒りに満ちた咆哮を放つ。

すると、シリウスとゼルターの装いが白く光っていく。

すると瞬く間に二人の装いに変化が現れる。変化を終えたその装いはマリカ戦で大地が見せたヘラクレスにも似た白い装飾が施された全身装備であった。
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