籠の鳥

橘 薫

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馴れ合いは傲慢となる

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 参拝のための列はなかなか進まない。昼間、晴天とはいえども真冬だから寒い。手袋をしてくれば良かったな、とそっと手に息を吹きかけてこする。
「冷えましたか」
「あ、うん。ちょっとね」
 冷えた手をコートのポケットに突っ込むも、なかなか暖まらないのは末端冷え性のさが。ポケットの中で指を曲げたり伸ばしたりしながら、前を見る。

 つ、とポケットの中に手が侵入してきて、わたしの手を握る。一真くんの手は大きくて、温かかった。
「ちょっと」
「温めます」
「いいよ、大丈夫」
「美彩さん、ペットって飼ったことあります?」
「あるけど」
「猫とか犬って、あったかいじゃないですか。僕、美彩さんのペットですから、使ってください」
「ちょっと、その言い方は外でしないで」

 ごめんなさい、というようにポケットの中で、強く握られる。とは言っても痛いわけではなく、なんというか、この子はやはり男……わたしとは違って、筋肉質で、体温が高いんだということを改めて感じる。
 でも、わたしたちはここに集っている人たちの目にはどう映っているのだろうか。若くはない女と、若い男。親子というほどには歳は離れていないけれども、姉弟とするには無理がある。

 ポケットの中、握られた手が温まる。指先まで熱くなり、血の巡りが良くなったように感じる。そしてわたしはまた、あの男のことを思い出してしまうのだ。
 ーーポケットの中、手を入れてみなさい。小鳥がいるよーー
 そう言われて恐る恐る彼のコートのポケットに手を入れると、温かい何かに触れて驚いて手を引いた。その様子にあの男は笑い転げて、「美彩は純粋だね、そういうところも可愛くて好きだよ」と囁いたのだ。

「美彩さん、五円玉どうぞ」
 いつの間にかわたしの手から離れた一真くんの手は、五円玉を財布から出していた。
「ありがとう」手のひらで受け取ると、きゅっと握りしめられていたのか、金属の冷たさはなかった。
 賽銭箱に入れ、鈴を鳴らし、二礼二拍手。手を合わせて何を願おうか、と考えているうちに一真くんは終わったらしく、慌てて一礼して彼の後を追った。

「何お祈りしたの」
「内緒です」
 銀色の髪の隙間からわたしを見る彼の目は、純粋な光。元旦にふさわしい、晴々しい光だった。
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