38 / 65
馴れ合いは傲慢となる
3
しおりを挟む
参拝のための列はなかなか進まない。昼間、晴天とはいえども真冬だから寒い。手袋をしてくれば良かったな、とそっと手に息を吹きかけてこする。
「冷えましたか」
「あ、うん。ちょっとね」
冷えた手をコートのポケットに突っ込むも、なかなか暖まらないのは末端冷え性の性。ポケットの中で指を曲げたり伸ばしたりしながら、前を見る。
つ、とポケットの中に手が侵入してきて、わたしの手を握る。一真くんの手は大きくて、温かかった。
「ちょっと」
「温めます」
「いいよ、大丈夫」
「美彩さん、ペットって飼ったことあります?」
「あるけど」
「猫とか犬って、あったかいじゃないですか。僕、美彩さんのペットですから、使ってください」
「ちょっと、その言い方は外でしないで」
ごめんなさい、というようにポケットの中で、強く握られる。とは言っても痛いわけではなく、なんというか、この子はやはり男……わたしとは違って、筋肉質で、体温が高いんだということを改めて感じる。
でも、わたしたちはここに集っている人たちの目にはどう映っているのだろうか。若くはない女と、若い男。親子というほどには歳は離れていないけれども、姉弟とするには無理がある。
ポケットの中、握られた手が温まる。指先まで熱くなり、血の巡りが良くなったように感じる。そしてわたしはまた、あの男のことを思い出してしまうのだ。
ーーポケットの中、手を入れてみなさい。小鳥がいるよーー
そう言われて恐る恐る彼のコートのポケットに手を入れると、温かい何かに触れて驚いて手を引いた。その様子にあの男は笑い転げて、「美彩は純粋だね、そういうところも可愛くて好きだよ」と囁いたのだ。
「美彩さん、五円玉どうぞ」
いつの間にかわたしの手から離れた一真くんの手は、五円玉を財布から出していた。
「ありがとう」手のひらで受け取ると、きゅっと握りしめられていたのか、金属の冷たさはなかった。
賽銭箱に入れ、鈴を鳴らし、二礼二拍手。手を合わせて何を願おうか、と考えているうちに一真くんは終わったらしく、慌てて一礼して彼の後を追った。
「何お祈りしたの」
「内緒です」
銀色の髪の隙間からわたしを見る彼の目は、純粋な光。元旦にふさわしい、晴々しい光だった。
「冷えましたか」
「あ、うん。ちょっとね」
冷えた手をコートのポケットに突っ込むも、なかなか暖まらないのは末端冷え性の性。ポケットの中で指を曲げたり伸ばしたりしながら、前を見る。
つ、とポケットの中に手が侵入してきて、わたしの手を握る。一真くんの手は大きくて、温かかった。
「ちょっと」
「温めます」
「いいよ、大丈夫」
「美彩さん、ペットって飼ったことあります?」
「あるけど」
「猫とか犬って、あったかいじゃないですか。僕、美彩さんのペットですから、使ってください」
「ちょっと、その言い方は外でしないで」
ごめんなさい、というようにポケットの中で、強く握られる。とは言っても痛いわけではなく、なんというか、この子はやはり男……わたしとは違って、筋肉質で、体温が高いんだということを改めて感じる。
でも、わたしたちはここに集っている人たちの目にはどう映っているのだろうか。若くはない女と、若い男。親子というほどには歳は離れていないけれども、姉弟とするには無理がある。
ポケットの中、握られた手が温まる。指先まで熱くなり、血の巡りが良くなったように感じる。そしてわたしはまた、あの男のことを思い出してしまうのだ。
ーーポケットの中、手を入れてみなさい。小鳥がいるよーー
そう言われて恐る恐る彼のコートのポケットに手を入れると、温かい何かに触れて驚いて手を引いた。その様子にあの男は笑い転げて、「美彩は純粋だね、そういうところも可愛くて好きだよ」と囁いたのだ。
「美彩さん、五円玉どうぞ」
いつの間にかわたしの手から離れた一真くんの手は、五円玉を財布から出していた。
「ありがとう」手のひらで受け取ると、きゅっと握りしめられていたのか、金属の冷たさはなかった。
賽銭箱に入れ、鈴を鳴らし、二礼二拍手。手を合わせて何を願おうか、と考えているうちに一真くんは終わったらしく、慌てて一礼して彼の後を追った。
「何お祈りしたの」
「内緒です」
銀色の髪の隙間からわたしを見る彼の目は、純粋な光。元旦にふさわしい、晴々しい光だった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる