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第一章
16.【この怒り此の身を焦がす炎を剣に変えて】●●
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●
──木漏れ日に照らされた螺旋階段は静かに待っている。
覇王が治めるエスト王国の各地を渡り歩いていた節、フェリシアは天使の螺旋を見上げて。ほう、と息を吐いた。
勇者として旅をしていた頃の彼は、いつも隣に誰かが居た。
肩を並べる仲間、ルシールやノエル。
フェリシアは彼女たちの声を聴きながら──いつも視線は仲間の顔ばかり見ていた気がした。
(不思議な空気だ。
今まで一度も気にした事なかったこの螺旋……誰が作ってくれたのかな。
どうして名前が伝わってるのに、誰も知らないんだろう。こんなに綺麗なのに……)
歪な材質で構成された手すりに指先を這わせ、カツン──と。ゆっくりと脚を運び昇り上がって行く。
とても脆そうで、ひどく不安定なのに。螺旋階段は微塵も動く事なくフェリシアが頂点にまで至るのを待っていてくれる。
魔力は感じない。その構築から材質を固める因子の中に魔術魔法魔力といった概念は宿っていないらしい。
魔力を帯びているのは階段の先から時折降って来る、光の粒子だけである。
ふと、フェリシアは数日前に行動を共にした青い髪の少女、レインが言っていた事を思い出した。
「──どうして遠く離れた場所に行くのに。か」
ふわりと、フェリシアは目の前の空間が温かみを帯びているのに気づいて足を止める。
恐らくあと一歩進めばそれだけで転移する。感覚的にそう考えると、レインがからかったように言った言葉が今になって深く刺さった気がした。
少なくとも『天使の螺旋』を作った者は、フェリシアをはじめとした歴代の勇者たちが使う事を予期して設計している。
それに、何故かこの装置はフェリシアが触れている他の者を転移させてくれる。触れていなくても転移だけでも実は出来る事を不思議に思った事はなかったが、独りな所為か気になる。
わざわざ勇者でなければ天使の螺旋は起動しない仕組みなのに、その人物は勇者が仲間を連れていると考えていたのだから。天使の螺旋とは勇者という存在が生まれてから作られた物に違いない。
つまり。
「──ッ」
視界が揺れる。
フェリシアの意識に誰か、自分ではない者の意識が重なり合うかのような乖離感を覚える。
知っているのだ、フェリシアはその感覚を。
(勇者の……勘? なぜここで……!)
反応が強過ぎる。フェリシアは思わず天を仰いでからその場に崩れ落ちて、喘ぐように息を吐いた。
喉の奥から何かを吐き出したくなるほどの強烈な眩暈。しかし、フェリシアの頭の中はひどく揺れているのに何も出ない。
まるで探し当ててしまった事を後悔させるとばかりに揺れ動く視界の最中。彼は耳の奥で微かに声を聴いた。
とても遠くで、誰かが叫んでいた。
何度も、何度も、その声は叫び求めている。
行かなくては──いつしか、そう頭の中で繰り返した声は薄く開いた唇から囁かれ。
フェリシアは気が付けば階段の先へと踏み出していた。
「行かなきゃ、いけない────」
光の粒子がフェリシアを包み込み、虚空へと誘う。
その刹那にフェリシアは確かに聞こえた気がした。
悲痛で、絶望しながら、少女が悲鳴を上げている。「誰か助けて」と。
●
「……ここは」
大気を打ち、風を裂いて辿り着いた先に待っていた景色は荒廃した街並み──廃墟だった。
着地の間際に吹く風に乗り香る、焦げた臭い。
それが火災の跡だという事はすぐに理解して、同時にフェリシアはその臭気に微かな死の臭いも認める。凄惨な悲劇が起きた事実に胸を痛めるが、彼は町へと足を進める事にした。
意を決するまでもない。
天使の螺旋は本来なら他の場所に設置された階段へと勇者を誘うもの、それ以外の場所へ転移する事はフェリシアの経験上は在り得なかったのだ。
(転移魔法が勝手に発動するとは思えないけど、さっきの強烈なセンスの反応に続いて発動したなら……此処に僕の来る意味があるという事だ。
過去の世界に関する情報、手掛かりがあるのなら探索する意味はある)
朽ちかけた廃墟をフェリシアは行く。
見渡す限り倒壊しかけた家屋や建造物ばかりだが、どうにも様子がおかしい。
フェリシアはそっと呪文を囁く。人の身を模した肉体のフェリシアでも観察眼に限界があるためだ。
魔力によるソナー探知の応用で拡げるのは、彼を中心に展開される『目星』の魔法である。
本来それは認識力で魔物に劣る者が森林や遺跡を探索する際に使用する。だがフェリシアはそれを自らの勘の精度を強化させる魔法として利用していた。
過去に来てから使用するのは初めてだったが、特に問題ない事を再確認したフェリシアは崩落した家屋の焼け跡に踏み込んでいく。
そして、やはりというべきか確信する。
「遺体が無い。これだけの範囲が焼き払われてるにしては……争った形跡もある、戦争……にしては…………」
魔法と自らの超感覚が双方重なって反応して、フェリシアは軽い眩暈を覚えながらも最も焼け焦げた中心部から離れた炭化している柱の下を覗き込んだ。
触れた箇所からボロボロと崩れ落ちる様を見下ろしながらも、腕を伸ばした彼が手に取ったのは銀細工の小さなペンダントだ。
鎖部分は鉱石を加工した物なのか、しっかりとフェリシアの手に下がっても千切れず揺れている。
ただ……そこには黒いシミがべったりと張り付いていた。
人の血だった。
(──まだ幼い子供の指だ。
ここに沢山の人が住んでいたのは間違いない、でも何があったんだろう。僕はこの街を知らない……『彼等』の悲劇を、知らない)
町の面積はそれほど広くはない。
フェリシアはいつの間にか曇天となった空の下で瓦礫や廃墟の中を歩き続け、次第に困惑する。
どこを見てもそこには死臭が残っているのだ。死が満たす痕というのは消え難いと聞いたことがある、だがフェリシアが見る限りでは町の惨状が生み出されたのは精々が数年の間の出来事だった。
ならば此処には必ず、死を迎えた者達の亡骸があるはずだ。ある筈なのに。
(無い。だけど間違いなく骸が在った形跡がある、つまりこの惨状のすぐ後に移動されてしまったわけではない。
……何年も経ってから掘り出したにしては『人の手が入ってない』のが気になる。魔法で移したとは思えない、そうなると……どこに?)
人の遺体が消える原因の中で考えられるのは、魔物や動物の糧となった場合だ。当然それもフェリシアは考えたが──そこで止まってしまうのである。そもそも彼が探るまで同様の手が入った様子が無いのだ。
歩き続けた末。
フェリシアが辿り着いたのは荒野に伸びる石畳の街道だった。
先を見遣ればその先には湖畔でもあるのか、幾つもの丘を越えた向こうから僅かばかりの水気を感じ取る。先に進むため、フェリシアは町を後にしようか悩んだ。
まだ探せば何らかの手掛かりがあるかもしれない。そう考えるも、同時に街道の先に何があるのか気になりもしていた。
もうじき、夜が訪れる。
今のフェリシアならばただの夜魔などに後れを取る事はない物の、雷帝フローレンスとの戦いを思い出して慎重に行動すべきとも彼は考えた。
しかし──偶然迷い込んだに等しい地に、もう一度来れる保証はない。
勇者の勘が導いたからには意味がある。そう信じて、フェリシアは町を後にして歩き始めた。
(僕は、ここで何かを見つけないといけない……)
緋色の衣装が尾を引く様に外套を揺らして。彼は前に進む。
●
●──それは何者かの遺志──
黄昏は永遠に。
闇は人の根源的な安穏だ、そう仰られた我が君は私の目を覆うように御手を触れて下さった。
安寧はいつだって人の望みだ。
そして私が振るう剣は人の願いを踏み躙る物であると共に、人の願いを唯一守れる盾でもあった。
嗚呼、愚かな。
私は愚かにもあなた様の御手を払ってしまった。我が君の美しく何よりも貴き指先が穢れる事を恐れてしまったからだ。
あなた様は、我が君は。そうして払ってしまった私を見て笑って下さいました。
何処までも美しく御生まれになられたあなた様を私は心からお慕いしておりました。
どうか、どうか、私をそばに置いて下さい。
我が君。
嗚呼────これはまたなのか。
私は何度、夢を見ればいい。何度、失われた我が君を想えばいい?
そうだ、何もかも失われたのだ。
私は────あの日、この手の剣を以てしても守れなかった。
どうしてだ。
どうして、私は。
「怒りなさい」
……なんだ、貴様は。
ここは私の……皆が眠る、安らぎの墓所……立ち去れ。
さもなくば貴様を。
「眠るなど勿体無いでしょう。せっかく、火種が出来上がっているのです。
その燻ぶった熱を憎き相手にぶつけるというのも乙なもの──如何です? その手で全てを壊してみませんか」
壊、す。
「ええ、ええ。壊すのです。誇り高き騎士よ」
なぜだ。
「壊されたからです。貴方の守る者はとうに失われ、今や残された物はかの国に奪われてしまった──いずれまた来る事でしょう。貴方と貴方の大切だった物が眠る地を荒らそうと企む無粋の輩が」
────私は、ここで待たなくてはならない。
いつか迎えに来て下さる……我が君を。
私達、家族を。
「来ませんよ。彼女達は二度と戻りはしない、死とは神が定めた永遠の別離です。例外などある筈がない」
馬鹿な……だが、我が君は確かに────。
「ふふ。いつまでそうして夢見心地に腐っているおつもりです? 良いのですか、悪しき者達は必ずあなたを欺こうと手を尽くしてきます。
大切な物を必ずや奪うため。手段は選ばず、全てを灰にして──あなたの思い出を汚そうと主君の皮を被り姿を現すのです」
あ、あ。
そんな──事は、許さない。この私が、我が君の。
「ならば剣を再び取りなさい。この地を訪れようとする者全てを駆逐し、貴方の真に守るべき物を守り通すのです──怒りの火は必ず貴方の助けとなる筈だ」
私が真に守るべき物。
そうだ、そうだ──私は、我が君の愛したこの地を守らねばならない。
あの城を。
我が君と、我が王……王妃と共に歩んだあの庭園を。取り戻さなければ。
壊す。
次は、次こそは、必ず守り抜く。
この怒り、此の身を焦がす炎を剣に変えて。
●
────蒼き炎を剣にして、竜は吼える。
──木漏れ日に照らされた螺旋階段は静かに待っている。
覇王が治めるエスト王国の各地を渡り歩いていた節、フェリシアは天使の螺旋を見上げて。ほう、と息を吐いた。
勇者として旅をしていた頃の彼は、いつも隣に誰かが居た。
肩を並べる仲間、ルシールやノエル。
フェリシアは彼女たちの声を聴きながら──いつも視線は仲間の顔ばかり見ていた気がした。
(不思議な空気だ。
今まで一度も気にした事なかったこの螺旋……誰が作ってくれたのかな。
どうして名前が伝わってるのに、誰も知らないんだろう。こんなに綺麗なのに……)
歪な材質で構成された手すりに指先を這わせ、カツン──と。ゆっくりと脚を運び昇り上がって行く。
とても脆そうで、ひどく不安定なのに。螺旋階段は微塵も動く事なくフェリシアが頂点にまで至るのを待っていてくれる。
魔力は感じない。その構築から材質を固める因子の中に魔術魔法魔力といった概念は宿っていないらしい。
魔力を帯びているのは階段の先から時折降って来る、光の粒子だけである。
ふと、フェリシアは数日前に行動を共にした青い髪の少女、レインが言っていた事を思い出した。
「──どうして遠く離れた場所に行くのに。か」
ふわりと、フェリシアは目の前の空間が温かみを帯びているのに気づいて足を止める。
恐らくあと一歩進めばそれだけで転移する。感覚的にそう考えると、レインがからかったように言った言葉が今になって深く刺さった気がした。
少なくとも『天使の螺旋』を作った者は、フェリシアをはじめとした歴代の勇者たちが使う事を予期して設計している。
それに、何故かこの装置はフェリシアが触れている他の者を転移させてくれる。触れていなくても転移だけでも実は出来る事を不思議に思った事はなかったが、独りな所為か気になる。
わざわざ勇者でなければ天使の螺旋は起動しない仕組みなのに、その人物は勇者が仲間を連れていると考えていたのだから。天使の螺旋とは勇者という存在が生まれてから作られた物に違いない。
つまり。
「──ッ」
視界が揺れる。
フェリシアの意識に誰か、自分ではない者の意識が重なり合うかのような乖離感を覚える。
知っているのだ、フェリシアはその感覚を。
(勇者の……勘? なぜここで……!)
反応が強過ぎる。フェリシアは思わず天を仰いでからその場に崩れ落ちて、喘ぐように息を吐いた。
喉の奥から何かを吐き出したくなるほどの強烈な眩暈。しかし、フェリシアの頭の中はひどく揺れているのに何も出ない。
まるで探し当ててしまった事を後悔させるとばかりに揺れ動く視界の最中。彼は耳の奥で微かに声を聴いた。
とても遠くで、誰かが叫んでいた。
何度も、何度も、その声は叫び求めている。
行かなくては──いつしか、そう頭の中で繰り返した声は薄く開いた唇から囁かれ。
フェリシアは気が付けば階段の先へと踏み出していた。
「行かなきゃ、いけない────」
光の粒子がフェリシアを包み込み、虚空へと誘う。
その刹那にフェリシアは確かに聞こえた気がした。
悲痛で、絶望しながら、少女が悲鳴を上げている。「誰か助けて」と。
●
「……ここは」
大気を打ち、風を裂いて辿り着いた先に待っていた景色は荒廃した街並み──廃墟だった。
着地の間際に吹く風に乗り香る、焦げた臭い。
それが火災の跡だという事はすぐに理解して、同時にフェリシアはその臭気に微かな死の臭いも認める。凄惨な悲劇が起きた事実に胸を痛めるが、彼は町へと足を進める事にした。
意を決するまでもない。
天使の螺旋は本来なら他の場所に設置された階段へと勇者を誘うもの、それ以外の場所へ転移する事はフェリシアの経験上は在り得なかったのだ。
(転移魔法が勝手に発動するとは思えないけど、さっきの強烈なセンスの反応に続いて発動したなら……此処に僕の来る意味があるという事だ。
過去の世界に関する情報、手掛かりがあるのなら探索する意味はある)
朽ちかけた廃墟をフェリシアは行く。
見渡す限り倒壊しかけた家屋や建造物ばかりだが、どうにも様子がおかしい。
フェリシアはそっと呪文を囁く。人の身を模した肉体のフェリシアでも観察眼に限界があるためだ。
魔力によるソナー探知の応用で拡げるのは、彼を中心に展開される『目星』の魔法である。
本来それは認識力で魔物に劣る者が森林や遺跡を探索する際に使用する。だがフェリシアはそれを自らの勘の精度を強化させる魔法として利用していた。
過去に来てから使用するのは初めてだったが、特に問題ない事を再確認したフェリシアは崩落した家屋の焼け跡に踏み込んでいく。
そして、やはりというべきか確信する。
「遺体が無い。これだけの範囲が焼き払われてるにしては……争った形跡もある、戦争……にしては…………」
魔法と自らの超感覚が双方重なって反応して、フェリシアは軽い眩暈を覚えながらも最も焼け焦げた中心部から離れた炭化している柱の下を覗き込んだ。
触れた箇所からボロボロと崩れ落ちる様を見下ろしながらも、腕を伸ばした彼が手に取ったのは銀細工の小さなペンダントだ。
鎖部分は鉱石を加工した物なのか、しっかりとフェリシアの手に下がっても千切れず揺れている。
ただ……そこには黒いシミがべったりと張り付いていた。
人の血だった。
(──まだ幼い子供の指だ。
ここに沢山の人が住んでいたのは間違いない、でも何があったんだろう。僕はこの街を知らない……『彼等』の悲劇を、知らない)
町の面積はそれほど広くはない。
フェリシアはいつの間にか曇天となった空の下で瓦礫や廃墟の中を歩き続け、次第に困惑する。
どこを見てもそこには死臭が残っているのだ。死が満たす痕というのは消え難いと聞いたことがある、だがフェリシアが見る限りでは町の惨状が生み出されたのは精々が数年の間の出来事だった。
ならば此処には必ず、死を迎えた者達の亡骸があるはずだ。ある筈なのに。
(無い。だけど間違いなく骸が在った形跡がある、つまりこの惨状のすぐ後に移動されてしまったわけではない。
……何年も経ってから掘り出したにしては『人の手が入ってない』のが気になる。魔法で移したとは思えない、そうなると……どこに?)
人の遺体が消える原因の中で考えられるのは、魔物や動物の糧となった場合だ。当然それもフェリシアは考えたが──そこで止まってしまうのである。そもそも彼が探るまで同様の手が入った様子が無いのだ。
歩き続けた末。
フェリシアが辿り着いたのは荒野に伸びる石畳の街道だった。
先を見遣ればその先には湖畔でもあるのか、幾つもの丘を越えた向こうから僅かばかりの水気を感じ取る。先に進むため、フェリシアは町を後にしようか悩んだ。
まだ探せば何らかの手掛かりがあるかもしれない。そう考えるも、同時に街道の先に何があるのか気になりもしていた。
もうじき、夜が訪れる。
今のフェリシアならばただの夜魔などに後れを取る事はない物の、雷帝フローレンスとの戦いを思い出して慎重に行動すべきとも彼は考えた。
しかし──偶然迷い込んだに等しい地に、もう一度来れる保証はない。
勇者の勘が導いたからには意味がある。そう信じて、フェリシアは町を後にして歩き始めた。
(僕は、ここで何かを見つけないといけない……)
緋色の衣装が尾を引く様に外套を揺らして。彼は前に進む。
●
●──それは何者かの遺志──
黄昏は永遠に。
闇は人の根源的な安穏だ、そう仰られた我が君は私の目を覆うように御手を触れて下さった。
安寧はいつだって人の望みだ。
そして私が振るう剣は人の願いを踏み躙る物であると共に、人の願いを唯一守れる盾でもあった。
嗚呼、愚かな。
私は愚かにもあなた様の御手を払ってしまった。我が君の美しく何よりも貴き指先が穢れる事を恐れてしまったからだ。
あなた様は、我が君は。そうして払ってしまった私を見て笑って下さいました。
何処までも美しく御生まれになられたあなた様を私は心からお慕いしておりました。
どうか、どうか、私をそばに置いて下さい。
我が君。
嗚呼────これはまたなのか。
私は何度、夢を見ればいい。何度、失われた我が君を想えばいい?
そうだ、何もかも失われたのだ。
私は────あの日、この手の剣を以てしても守れなかった。
どうしてだ。
どうして、私は。
「怒りなさい」
……なんだ、貴様は。
ここは私の……皆が眠る、安らぎの墓所……立ち去れ。
さもなくば貴様を。
「眠るなど勿体無いでしょう。せっかく、火種が出来上がっているのです。
その燻ぶった熱を憎き相手にぶつけるというのも乙なもの──如何です? その手で全てを壊してみませんか」
壊、す。
「ええ、ええ。壊すのです。誇り高き騎士よ」
なぜだ。
「壊されたからです。貴方の守る者はとうに失われ、今や残された物はかの国に奪われてしまった──いずれまた来る事でしょう。貴方と貴方の大切だった物が眠る地を荒らそうと企む無粋の輩が」
────私は、ここで待たなくてはならない。
いつか迎えに来て下さる……我が君を。
私達、家族を。
「来ませんよ。彼女達は二度と戻りはしない、死とは神が定めた永遠の別離です。例外などある筈がない」
馬鹿な……だが、我が君は確かに────。
「ふふ。いつまでそうして夢見心地に腐っているおつもりです? 良いのですか、悪しき者達は必ずあなたを欺こうと手を尽くしてきます。
大切な物を必ずや奪うため。手段は選ばず、全てを灰にして──あなたの思い出を汚そうと主君の皮を被り姿を現すのです」
あ、あ。
そんな──事は、許さない。この私が、我が君の。
「ならば剣を再び取りなさい。この地を訪れようとする者全てを駆逐し、貴方の真に守るべき物を守り通すのです──怒りの火は必ず貴方の助けとなる筈だ」
私が真に守るべき物。
そうだ、そうだ──私は、我が君の愛したこの地を守らねばならない。
あの城を。
我が君と、我が王……王妃と共に歩んだあの庭園を。取り戻さなければ。
壊す。
次は、次こそは、必ず守り抜く。
この怒り、此の身を焦がす炎を剣に変えて。
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────蒼き炎を剣にして、竜は吼える。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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