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第三部
違和感
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「お嬢様、もう少し華やかな色になさいませんか?」
「いいえ、むしろもう少し控えめな色にしたいぐらいよ」
ディナーのお誘いを受けたとはいえ、まだ喪中ということもあり、装いは濃紺のシンプルなドレスにした
部屋で寛ぐように許可したにも関わらずマリは側に控えていると頑なに譲らなかった
フェリクス様との食事は緊張したものの最初は和やかな雰囲気だった
食事を終えてティータイムの時から、徐々に何か違和感のようなものを覚えた
「先程、可愛らしい赤ちゃんを拝見しました」
「あぁ、ナタリーと言いますかわいいでしょう」
「ダーニャお姉様のお子さんでしょう?
知りませんでした。お姉様がご結婚されていたなんて」
「よくダーニャの子供だと分かりましたね。髪色が違うのに。いやぁ、ほんとに惜しい、ダーニャの紅い髪は綺麗だったのに…」
「髪色が違っても私には分かりましたわ。失礼ですがいつご結婚されたのですか?」
「結婚?誰のことでしょうか?」
「ですから、ダーニャお姉様の」
「はっはっ、ダーニャは結婚していませんよ」
「え?でも、ナタリーちゃんはダーニャお姉様の…」
「えぇ、私とダーニャの娘です」
「フェリクス様の?」
微妙に噛み合わない会話に何か違和感を感じる
結婚していないのに子供を…?
異国では普通のことなのかしら
「不思議そうな顔をしていますねサラ嬢。何もおかしなことではありませんよ。
そもそも結婚する必要はありますか?」
結婚の必要性を問われると思わなかった
確かに私自身も結婚願望は特にないけれども、貴族ならば家の繁栄のため、想い合う者同士なら結婚したいと望むものなのではないかしら
「私はね、仕事柄色々な国々に行くのですよ。」
とつぜんフェリクス様は自分の持論を語り始めた
「肌の色、髪の色、国によって様々です。私はねずっと自分の髪色にコンプレックスを抱いていました。見てくださいこのシルバーの髪。白くもないはっきりとしない色。
異国にはなんと色とりどりの髪色の持ち主がいることか。分かりますかサラ嬢。初めてその色を見た時の衝撃が」
興奮冷めやらぬ様子でフェリクス様は熱く語り続ける
「黒はシックな感じ、ブラウンは穏やかな感じ、紅は情熱的、そして金髪は…魅力的、いやぁ、世界は色付いている!あなたもそう思うでしょう?」
ねっとりとした視線をむけられて、さすがに居心地が悪くなってきた
不穏な空気を察して
壁際に控えていたマリがすぐ側まで近付いてきた
その気配にほっとするものの、どうやって穏便に退室できるかと考えを巡らせる
「大変恐れながら、お嬢様には婚約者がいらっしゃいますので適切な距離を保っていただきたく」
「婚約者?」
マリの言葉を聞いて我に返ったようにフェリクス様は紅茶に手を伸ばす
「何を話していましたかな、あぁ、結婚についてでしたね。私はね、結婚の必要性を感じないのですよ。先程も言いましたように色々な国を巡るのでね。1箇所に留まる期間は限られている。ならばその国々で関係を築いた方が効率的だと。
勿論生活に不自由はさせません。それぞれの国にタウンハウスを所有していますので。
失礼だがサラ嬢は婚約者殿とは政略的なものかな?」
「お答えする必要はないかと存じます」
「はっはっ、あなたの侍女は手厳しいですね。あぁもうこんな時間ですね。続きはまたに」
退室しようとしたフェリクス様は
「お近づきの印にあなたの侍女にもぜひお茶をご馳走したい。彼女をお借りしても?」
「マリをですか?」
怪訝な顔を向けるも、マリは大丈夫ですからと頷く
「ほんの少しだけなら。先に戻るわねマリ」
「私にお任せください。お嬢様には婚約者がいるともう一度はっきりと釘をさしておきます。どう考えても先程の言動は遊び人の常套句です。
お嬢様は何も心配なさらずお休みになってください」
私だけに聞こえるようにマリは耳打ちした
ためらいもあったけれど、何かあれば責任はもつから部屋に戻っていいと伝えてその場を去ることにする
元気なマリの姿を見たのはこの時が最後だった
「いいえ、むしろもう少し控えめな色にしたいぐらいよ」
ディナーのお誘いを受けたとはいえ、まだ喪中ということもあり、装いは濃紺のシンプルなドレスにした
部屋で寛ぐように許可したにも関わらずマリは側に控えていると頑なに譲らなかった
フェリクス様との食事は緊張したものの最初は和やかな雰囲気だった
食事を終えてティータイムの時から、徐々に何か違和感のようなものを覚えた
「先程、可愛らしい赤ちゃんを拝見しました」
「あぁ、ナタリーと言いますかわいいでしょう」
「ダーニャお姉様のお子さんでしょう?
知りませんでした。お姉様がご結婚されていたなんて」
「よくダーニャの子供だと分かりましたね。髪色が違うのに。いやぁ、ほんとに惜しい、ダーニャの紅い髪は綺麗だったのに…」
「髪色が違っても私には分かりましたわ。失礼ですがいつご結婚されたのですか?」
「結婚?誰のことでしょうか?」
「ですから、ダーニャお姉様の」
「はっはっ、ダーニャは結婚していませんよ」
「え?でも、ナタリーちゃんはダーニャお姉様の…」
「えぇ、私とダーニャの娘です」
「フェリクス様の?」
微妙に噛み合わない会話に何か違和感を感じる
結婚していないのに子供を…?
異国では普通のことなのかしら
「不思議そうな顔をしていますねサラ嬢。何もおかしなことではありませんよ。
そもそも結婚する必要はありますか?」
結婚の必要性を問われると思わなかった
確かに私自身も結婚願望は特にないけれども、貴族ならば家の繁栄のため、想い合う者同士なら結婚したいと望むものなのではないかしら
「私はね、仕事柄色々な国々に行くのですよ。」
とつぜんフェリクス様は自分の持論を語り始めた
「肌の色、髪の色、国によって様々です。私はねずっと自分の髪色にコンプレックスを抱いていました。見てくださいこのシルバーの髪。白くもないはっきりとしない色。
異国にはなんと色とりどりの髪色の持ち主がいることか。分かりますかサラ嬢。初めてその色を見た時の衝撃が」
興奮冷めやらぬ様子でフェリクス様は熱く語り続ける
「黒はシックな感じ、ブラウンは穏やかな感じ、紅は情熱的、そして金髪は…魅力的、いやぁ、世界は色付いている!あなたもそう思うでしょう?」
ねっとりとした視線をむけられて、さすがに居心地が悪くなってきた
不穏な空気を察して
壁際に控えていたマリがすぐ側まで近付いてきた
その気配にほっとするものの、どうやって穏便に退室できるかと考えを巡らせる
「大変恐れながら、お嬢様には婚約者がいらっしゃいますので適切な距離を保っていただきたく」
「婚約者?」
マリの言葉を聞いて我に返ったようにフェリクス様は紅茶に手を伸ばす
「何を話していましたかな、あぁ、結婚についてでしたね。私はね、結婚の必要性を感じないのですよ。先程も言いましたように色々な国を巡るのでね。1箇所に留まる期間は限られている。ならばその国々で関係を築いた方が効率的だと。
勿論生活に不自由はさせません。それぞれの国にタウンハウスを所有していますので。
失礼だがサラ嬢は婚約者殿とは政略的なものかな?」
「お答えする必要はないかと存じます」
「はっはっ、あなたの侍女は手厳しいですね。あぁもうこんな時間ですね。続きはまたに」
退室しようとしたフェリクス様は
「お近づきの印にあなたの侍女にもぜひお茶をご馳走したい。彼女をお借りしても?」
「マリをですか?」
怪訝な顔を向けるも、マリは大丈夫ですからと頷く
「ほんの少しだけなら。先に戻るわねマリ」
「私にお任せください。お嬢様には婚約者がいるともう一度はっきりと釘をさしておきます。どう考えても先程の言動は遊び人の常套句です。
お嬢様は何も心配なさらずお休みになってください」
私だけに聞こえるようにマリは耳打ちした
ためらいもあったけれど、何かあれば責任はもつから部屋に戻っていいと伝えてその場を去ることにする
元気なマリの姿を見たのはこの時が最後だった
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