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一章 入学旅行一日目
1-18 ハイパーエクセレントアメイジングッジョブパーフェクト素敵
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「ハイパーエクセレントアメイジングッジョブパーフェクト素敵なトイレ的空間」とでも言おうか、と霧は頭を悩ませた。
そのトイレ空間はまるで妖精の森のような雰囲気で、爽やかな良い香りが漂っている。あちこちにファンタジックな白い光がふわふわ浮いていて、アデルの説明によるとそれらは、照明兼掃除用の装置で、使用後の個室に汚れを発見した場合、瞬時に清掃を行うための機能が付いているらしい。このトイレは、高度な辞典魔法で完全制御されたハイテク設備だそうだ。
個室は四角く区切られた無機質な扉の向こう……などにあるのではなく、可愛い円形フォルムの繭のような空間だった。
閉じている繭は使用中とのことで、アデルは開いている繭の一つに行くと、開閉方法と使用方法を説明してくれた。個室の扉は使用者の音声を聞き分けるので、言葉による自動開閉が可能。声を出すのが嫌な人用に、ホログラムパネルまで用意されていて、いずれもドアに触れる必要はない。
中に入って何か困ったことがあったら、「アシスタント妖精」というものを呼び出すこともできるとのこと。至れり尽くせりだ。
「じゃ、またあとでね」
と、アデルは個室の一つに入って行った。
霧もまた個室内に入り扉を閉めると、ファンタジックな椅子のような、それ用のユニットが用意されていて、霧が座ると周囲の景色が変化した。なんと、周囲にファンシーなお花畑が広がっている。
「うわぁ……ええええ……嘘ぉ……すごぉい……。3Dシアターまで用意されてるの?! 究極のリラックス空間……。そういえばトイレは、『クク・アキ』の物語の中では出てこなかった……。もしかしてこれは……清潔好きなあたしのために用意された夢の空間……? もう、住んでも良くない? え……いや、待てよ……ちょっと待て……」
トイレの夢。これはやばい。現実の体が急を知らせているやつだ。
それに思い当たり、霧は焦った。用を足せば、リアルで大惨事になるのでは……と。
そのとき。
どこからか、いきなり声がした。
《大丈夫。これは、夢じゃない。キリ、我慢しなくて大丈夫》
霧は辺りを見回した。当然ながら、霧以外は誰もいない。外からだろうか。それにしては、頭の中に直接響いたような、不思議な声だった。しかも、聞いたことのある声だ。
しばらく耳を澄ませていたが、幻聴だったのか、もう何も聞こえない。
霧は迷った末、用を実行することにした。夢なのか、夢じゃないのか、どちらにしても、他に選択肢はなかったから。
結果、無事に済んで霧が個室の外に出ると、アデルが待っていた。
何やらポカンとした表情をした霧を見て、アデルが眉間にしわを寄せて声をかけてくる。
「キリ、どうしたの、大丈夫?」
「……おかげさまで」
「プッ……! おかげさまでって、オバサ……いや、何でもない。さ、手を洗お。ここよ」
「おお……これはまた……まるで森の女王さまの手洗い場……美しすぎて気絶レベル。イイネを一億万回、贈っちゃう」
「いちいち感動するのね。……リューエストが赤ちゃんって、言ってたけど、ほんと……そんな感じ」
「でもキリが感動する気持ち、わかりますわ。この競技場の設備は最先端で、しかも芸術的ですもの」
「まあね。確かにこの競技場のトイレは設備が整っていて、完璧ね。排泄物は瞬時にプラントに移動して、各種肥料に再生されるのよ。これは辞典魔法の粋を極めた設備なの。学園でもこのシステムが採用されているから、安心ね」
「すごぉ……。ところであのぉ、この手洗い場、全然手が濡れないんだけど。使い方、これで合ってるの?」
「殺菌光とナノ粒子による特殊ミスト洗浄だもの。水と洗剤を使った通常の手洗いと違って濡れないけど、しっかり汚れや菌などを落としてくれるのよ。ホラ、霧の手の上のお花が白く光ってるでしょ、もう清潔になった証拠。無駄に手を濡らす必要がないからハンカチも要らないし、濡れたハンカチをポケットに入れて菌が繁殖する心配もないわ、最高よね」
「お……おぉ……すごおぉ……拭く必要もないのか……はぁ……何という……これは……ゆ……ゆ……夢……にしてはあたしの想像を上回るというか……」
《夢じゃない。キリ、これは夢じゃない》
またもやどこからか響いた声に、霧はハッとして周囲を見渡した。
(どこ?! どこにいるの?! この声は、あの子!)
あの子――それは、市立図書館で自らを迷子だと言って霧に助けを求めてきた、あの女の子の声だった。さっき個室の中で聞いたのと、同じ声。
「どうしたの、キリ? キョロキョロして」
「あ……いや……」
どこにも、女の子の姿はなかった。手洗い場はもちろん、唯一使用中だった個室から出てきた人も、成人女性だ。
(気の、せい……?)
霧は釈然としないものの、心配そうにこちらを見つめているアデルとリリエンヌに、笑いかける。
「何でもない。このトイレの美しさに感動して、いっそ住みたいくらいだと……どっかにスペースないかなぁって、あははは」
「ばっかじゃないの。住んだら利用者の迷惑になるじゃない」
「え、そこ?! アデルの指摘、そこなの?!」
アデルと霧のやり取りに、リリエンヌがおかしそうに笑いながら言った。
「プッ……。キリもアデルも、面白くてよ……ふふふ……」
「え、面白いの、キリだけでしょ。私はすごくまともだと思うな。さ、二人とも、次、行くわよ。私たちの順番が来るまで他の班のバトルが見学できると思ってたけど……もうあまり時間がないから無理かも」
三人がハイパーエクセレントアメイジングッジョブパーフェクト素敵トイレから出ると、リューエストが霧に向かって両手を広げて飛んできた。
「良かったぁ、また迷子になってたらどうしようかと、お兄ちゃん心配でたまらなかったよ!」
トイレを済ませた兄に対して、霧の心配事は一つだ。
「リューエスト、ちゃんと手、洗った? 花、ちゃんと白く光ってた?」
霧はジト目でリューエストにそう言い放った。
「もちろん洗ったよ。花はちゃんと白かったよ! 何?これからトイレから出てくるたび、キリの清潔チェック入るの? え、それって、お兄ちゃん、妹に愛されて構われてる感じ? それは……、楽しいかもしれない! うん、楽しいかもしれない! 僕の学園生活は妹の愛あるチェック付き! イイ!」
「リューエストの前向き思考、ある意味すごいね、達人並み」
「キリに達人ってほめられた! ヒャッホ~ッ!」
「ヒャッホ~ッて言う人、実際いるんだ……。漫画の中だけだと……。いや、待て、あたしもたまに言うかも……」
二人のやり取りをリリエンヌが楽しそうに見守る中、一行は課題4を消化するべく「サブコート1」へと向かった。
そのトイレ空間はまるで妖精の森のような雰囲気で、爽やかな良い香りが漂っている。あちこちにファンタジックな白い光がふわふわ浮いていて、アデルの説明によるとそれらは、照明兼掃除用の装置で、使用後の個室に汚れを発見した場合、瞬時に清掃を行うための機能が付いているらしい。このトイレは、高度な辞典魔法で完全制御されたハイテク設備だそうだ。
個室は四角く区切られた無機質な扉の向こう……などにあるのではなく、可愛い円形フォルムの繭のような空間だった。
閉じている繭は使用中とのことで、アデルは開いている繭の一つに行くと、開閉方法と使用方法を説明してくれた。個室の扉は使用者の音声を聞き分けるので、言葉による自動開閉が可能。声を出すのが嫌な人用に、ホログラムパネルまで用意されていて、いずれもドアに触れる必要はない。
中に入って何か困ったことがあったら、「アシスタント妖精」というものを呼び出すこともできるとのこと。至れり尽くせりだ。
「じゃ、またあとでね」
と、アデルは個室の一つに入って行った。
霧もまた個室内に入り扉を閉めると、ファンタジックな椅子のような、それ用のユニットが用意されていて、霧が座ると周囲の景色が変化した。なんと、周囲にファンシーなお花畑が広がっている。
「うわぁ……ええええ……嘘ぉ……すごぉい……。3Dシアターまで用意されてるの?! 究極のリラックス空間……。そういえばトイレは、『クク・アキ』の物語の中では出てこなかった……。もしかしてこれは……清潔好きなあたしのために用意された夢の空間……? もう、住んでも良くない? え……いや、待てよ……ちょっと待て……」
トイレの夢。これはやばい。現実の体が急を知らせているやつだ。
それに思い当たり、霧は焦った。用を足せば、リアルで大惨事になるのでは……と。
そのとき。
どこからか、いきなり声がした。
《大丈夫。これは、夢じゃない。キリ、我慢しなくて大丈夫》
霧は辺りを見回した。当然ながら、霧以外は誰もいない。外からだろうか。それにしては、頭の中に直接響いたような、不思議な声だった。しかも、聞いたことのある声だ。
しばらく耳を澄ませていたが、幻聴だったのか、もう何も聞こえない。
霧は迷った末、用を実行することにした。夢なのか、夢じゃないのか、どちらにしても、他に選択肢はなかったから。
結果、無事に済んで霧が個室の外に出ると、アデルが待っていた。
何やらポカンとした表情をした霧を見て、アデルが眉間にしわを寄せて声をかけてくる。
「キリ、どうしたの、大丈夫?」
「……おかげさまで」
「プッ……! おかげさまでって、オバサ……いや、何でもない。さ、手を洗お。ここよ」
「おお……これはまた……まるで森の女王さまの手洗い場……美しすぎて気絶レベル。イイネを一億万回、贈っちゃう」
「いちいち感動するのね。……リューエストが赤ちゃんって、言ってたけど、ほんと……そんな感じ」
「でもキリが感動する気持ち、わかりますわ。この競技場の設備は最先端で、しかも芸術的ですもの」
「まあね。確かにこの競技場のトイレは設備が整っていて、完璧ね。排泄物は瞬時にプラントに移動して、各種肥料に再生されるのよ。これは辞典魔法の粋を極めた設備なの。学園でもこのシステムが採用されているから、安心ね」
「すごぉ……。ところであのぉ、この手洗い場、全然手が濡れないんだけど。使い方、これで合ってるの?」
「殺菌光とナノ粒子による特殊ミスト洗浄だもの。水と洗剤を使った通常の手洗いと違って濡れないけど、しっかり汚れや菌などを落としてくれるのよ。ホラ、霧の手の上のお花が白く光ってるでしょ、もう清潔になった証拠。無駄に手を濡らす必要がないからハンカチも要らないし、濡れたハンカチをポケットに入れて菌が繁殖する心配もないわ、最高よね」
「お……おぉ……すごおぉ……拭く必要もないのか……はぁ……何という……これは……ゆ……ゆ……夢……にしてはあたしの想像を上回るというか……」
《夢じゃない。キリ、これは夢じゃない》
またもやどこからか響いた声に、霧はハッとして周囲を見渡した。
(どこ?! どこにいるの?! この声は、あの子!)
あの子――それは、市立図書館で自らを迷子だと言って霧に助けを求めてきた、あの女の子の声だった。さっき個室の中で聞いたのと、同じ声。
「どうしたの、キリ? キョロキョロして」
「あ……いや……」
どこにも、女の子の姿はなかった。手洗い場はもちろん、唯一使用中だった個室から出てきた人も、成人女性だ。
(気の、せい……?)
霧は釈然としないものの、心配そうにこちらを見つめているアデルとリリエンヌに、笑いかける。
「何でもない。このトイレの美しさに感動して、いっそ住みたいくらいだと……どっかにスペースないかなぁって、あははは」
「ばっかじゃないの。住んだら利用者の迷惑になるじゃない」
「え、そこ?! アデルの指摘、そこなの?!」
アデルと霧のやり取りに、リリエンヌがおかしそうに笑いながら言った。
「プッ……。キリもアデルも、面白くてよ……ふふふ……」
「え、面白いの、キリだけでしょ。私はすごくまともだと思うな。さ、二人とも、次、行くわよ。私たちの順番が来るまで他の班のバトルが見学できると思ってたけど……もうあまり時間がないから無理かも」
三人がハイパーエクセレントアメイジングッジョブパーフェクト素敵トイレから出ると、リューエストが霧に向かって両手を広げて飛んできた。
「良かったぁ、また迷子になってたらどうしようかと、お兄ちゃん心配でたまらなかったよ!」
トイレを済ませた兄に対して、霧の心配事は一つだ。
「リューエスト、ちゃんと手、洗った? 花、ちゃんと白く光ってた?」
霧はジト目でリューエストにそう言い放った。
「もちろん洗ったよ。花はちゃんと白かったよ! 何?これからトイレから出てくるたび、キリの清潔チェック入るの? え、それって、お兄ちゃん、妹に愛されて構われてる感じ? それは……、楽しいかもしれない! うん、楽しいかもしれない! 僕の学園生活は妹の愛あるチェック付き! イイ!」
「リューエストの前向き思考、ある意味すごいね、達人並み」
「キリに達人ってほめられた! ヒャッホ~ッ!」
「ヒャッホ~ッて言う人、実際いるんだ……。漫画の中だけだと……。いや、待て、あたしもたまに言うかも……」
二人のやり取りをリリエンヌが楽しそうに見守る中、一行は課題4を消化するべく「サブコート1」へと向かった。
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