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「……昨日はすみませんでした」

 出勤するなり隣の席で頭を下げてきた小鳥遊たかなしに、「あー……俺の方こそ悪かった。中途半端に手ぇ出しそうになって」と謝ると、小鳥遊はどこか遠い目で課長の隣に座る由貴ゆきを見遣った。

「主任って、ホント妬けちゃうくらい綺麗ですよね。妬けちゃうくらい綺麗だから悔しいんです。男なのに風早かざはや先輩を繋ぎ止めてること」

 俺も、そっと由貴に視線を向ける。

 明日で俺は仕事を辞める。
 課長も退職願を受け入れてくれて、晴れて由貴とも小鳥遊とも二度と会うことはなくなるだろう。

(やっぱり由貴は俺の視線にも気付いてねぇし、小鳥遊はアイツの不満を教えてくれねぇし……)

 二年間色々なことがあったな。

 アイツが俺を好きだと言ってくれて、躊躇いながらも受け入れて、最後まで素直にはなれなかったけれど由貴といた日々は幸せだった。

 俺に本当の〝恋〟も〝愛〟も教えてくれた。

 俺だけが幸せをもらって由貴に何も返せなかったことが悔やまれて仕方がないが、もうどうすることも出来ない。

 あの日ちゃんとアイツに『何もしてやれなくて悪かったな』ってせめて言えたらよかったんだろうが、それすら言えなかった俺は愛想をつかされて当然だろう。

 なぁ、由貴――。

 俺たちは離れ離れになるけれど、俺は由貴のことを忘れられないと思うけれど、お前は幸せになってくれ。

 ずっと隣に居たかったけれど。

 俺がそのポジションに居るのはどうやら無理みたいだから。

 何もしてやれなくて本当に悪かった。

 そっと由貴から視線を外して――。

 この気持ちに蓋をする決意を静かに心の中でしようと思ったけれどやっぱり胸が痛くて……。

 また次の恋が出来なくても、一生忘れられなくても、お前といた日々は本当に幸せだったから。

 ――もう悔いはないなんて言ったら嘘になるけれど由貴の幸せを願うから。

 小鳥遊が痛ましい視線を向けてくるから「失恋ってほんと辛いな」って独り言みたいに呟いて笑って見せたら、泣き笑いみたいな顔をされてしまった。

「ありがとな、小鳥遊。それから――アイツが好きすぎて本当に悪い。小鳥遊を見てやれなくて本当に悪い。愛してんだ。アイツを」

 小鳥遊はもう何も言わなかったし俺も口を閉ざした。

 幸せになれよ、由貴。
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