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馬乗りになった小鳥遊が、そのまま口接けて来た。
この間、最後に由貴がしてくれたキスが小鳥遊のそれで上書きされてしまったことに少しだけ胸が痛む。
だが――。
ここまで俺に執着しているなら、俺も由貴に執着する苦しみがわかっているから、なりふり構っていられない小鳥遊の気持ちもわからなくもない。
(だったらもう――)
俺は身体を起こし、ぐるりと小鳥遊の身体を反転させ、フローリングに縫いとめてやや性急にその唇を己のそれで塞いでやった。
掠めるだけで離した唇が、吐息が触れる距離にあるまま思い切り胸を鷲掴んでやれば「あっ」と小鳥遊が短い嬌声を上げて身じろいだ。
――こんな気分か?
心の底から愛してる奴がいながら気持ちもない奴を抱こうとするのはこんなにやるせない気分になるのか?
由貴も、俺を愛していたならこんな気分だったのか?
こんな、どこまでも虚しい気分になったのか?
そこまでして俺に変わって欲しいと願っていた、俺に抱いていた不満って一体何だったんだよ。
そっと小鳥遊の上から身体を退けた。
「風早先輩?」
「悪いな。どうやら俺はもうアイツ以外に欲情しねぇみてぇだ。帰れよ。それとも由貴の思ってる不満とやらを教えてくれるか?」
小鳥遊が悔しそうに唇を噛み締めて、その瞳を少しだけ潤ませて俺に険しい表情を向けて来た。
「そんなに主任が好きですか? 主任なんて……ただ綺麗なだけじゃないですか。あんな……あんなちっぽけな理由で風早先輩を裏切り続けて別れを切り出すような人ですよ? 私なら、ちゃんと風早先輩だけを見ます」
「主任は……由貴はただ綺麗なだけじゃねぇんだよ。確かにモラルはねぇけど、俺はそんなところも目を瞑ってもいいくらいアイツを愛してる。遅すぎる初恋なんだ。そんな奴を簡単に忘れられるわけがねぇだろ。どんなちっぽけな理由かは知らねぇけど……俺がアイツを傷つけてたなら、悪いのは俺だ。そういう訳だから……小鳥遊が俺にどう迫ってこようが俺はお前とはどうこうなるつもりはない」
そう、由貴はただ綺麗なだけじゃない。
確かに俺も最初はそのハッとしてしまう、一目見たら惹きつけられてしまう美貌に絡め取られていった。
でも、由貴が(行動はどうあれ)こんな素直じゃない俺に『好きだ』、『愛してる』と根気強く囁いてくれた気持ちは本物だった。
別れてからも何かと俺のことを気にかけてくれていたのも紛れもない事実だったから、こんなにもまだ由貴が愛おしい気持ちが残っている。
もしかしたら、俺はもう由貴以外を愛せないかもしれないな――。
小鳥遊が黙って部屋を出て、俺は煙草を銜えた。
もし今ここに由貴が居てくれたら火なんて点けないのに。
キスして欲しいから。
この間、最後に由貴がしてくれたキスが小鳥遊のそれで上書きされてしまったことに少しだけ胸が痛む。
だが――。
ここまで俺に執着しているなら、俺も由貴に執着する苦しみがわかっているから、なりふり構っていられない小鳥遊の気持ちもわからなくもない。
(だったらもう――)
俺は身体を起こし、ぐるりと小鳥遊の身体を反転させ、フローリングに縫いとめてやや性急にその唇を己のそれで塞いでやった。
掠めるだけで離した唇が、吐息が触れる距離にあるまま思い切り胸を鷲掴んでやれば「あっ」と小鳥遊が短い嬌声を上げて身じろいだ。
――こんな気分か?
心の底から愛してる奴がいながら気持ちもない奴を抱こうとするのはこんなにやるせない気分になるのか?
由貴も、俺を愛していたならこんな気分だったのか?
こんな、どこまでも虚しい気分になったのか?
そこまでして俺に変わって欲しいと願っていた、俺に抱いていた不満って一体何だったんだよ。
そっと小鳥遊の上から身体を退けた。
「風早先輩?」
「悪いな。どうやら俺はもうアイツ以外に欲情しねぇみてぇだ。帰れよ。それとも由貴の思ってる不満とやらを教えてくれるか?」
小鳥遊が悔しそうに唇を噛み締めて、その瞳を少しだけ潤ませて俺に険しい表情を向けて来た。
「そんなに主任が好きですか? 主任なんて……ただ綺麗なだけじゃないですか。あんな……あんなちっぽけな理由で風早先輩を裏切り続けて別れを切り出すような人ですよ? 私なら、ちゃんと風早先輩だけを見ます」
「主任は……由貴はただ綺麗なだけじゃねぇんだよ。確かにモラルはねぇけど、俺はそんなところも目を瞑ってもいいくらいアイツを愛してる。遅すぎる初恋なんだ。そんな奴を簡単に忘れられるわけがねぇだろ。どんなちっぽけな理由かは知らねぇけど……俺がアイツを傷つけてたなら、悪いのは俺だ。そういう訳だから……小鳥遊が俺にどう迫ってこようが俺はお前とはどうこうなるつもりはない」
そう、由貴はただ綺麗なだけじゃない。
確かに俺も最初はそのハッとしてしまう、一目見たら惹きつけられてしまう美貌に絡め取られていった。
でも、由貴が(行動はどうあれ)こんな素直じゃない俺に『好きだ』、『愛してる』と根気強く囁いてくれた気持ちは本物だった。
別れてからも何かと俺のことを気にかけてくれていたのも紛れもない事実だったから、こんなにもまだ由貴が愛おしい気持ちが残っている。
もしかしたら、俺はもう由貴以外を愛せないかもしれないな――。
小鳥遊が黙って部屋を出て、俺は煙草を銜えた。
もし今ここに由貴が居てくれたら火なんて点けないのに。
キスして欲しいから。
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