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 由貴ゆきが帰ってきたのは深夜二時過ぎだった。

 先に眠っていろと毎週言われるけれど、俺はまるで忠犬かと言わんばかりにベッドに包まって由貴の帰りを待つ。

 寝室に入ってきた由貴の気配に半身を起こすと、「また起きてたんですか? はやてくん。いつも寝ててくださいって言ってるのに」と、呆れたように笑いながら近付いてくる。

 ベッドに腰を下ろした由貴がそっと俺を腕に招き入れた。

 収まった腕の中でふと見たら、由貴の広く襟ぐりの開いたニットから覗く鎖骨の下に鬱血痕を見つけて、先刻まで絡み合っていたんだろう男がつけたものだと思ったらはらわたが煮えくり返りそうになる。

 優しく抱きしめながら由貴が俺の耳元で囁いた。

「颯くんは、僕に何か言いたいことはありませんか?」

 そんなの腐るほどある。
 何で俺という恋人がいながら放埓ほうらつに遊び回るのか、お前にとって俺はどういう存在なのか、お前の〝愛してる〟は〝おはよう〟や〝おやすみ〟と同義なくらい軽いものなのか。

「別に……テメェに言いたいことなんかねぇよ」

「今日はあかりちゃんと会っていたんですか?」

 会っていない。
 ただただ、腑抜けたように由貴が今頃どっかの知らない男と寝ているのかとイライラを募らせて、アホみたいに煙草ふかして一日をやり過ごしていただけ。

 なのに――。

「ああ、会ってたよ。小鳥遊たかなしはやっぱり俺が好きだとさ」

 なんて、ありもしない強がりをまた放ってしまっている自分がいて、本当は由貴の帰りを心細く待っていただなんて言えなくて。

「颯くん。僕と勝負をしませんか?」

 ――勝負?

 一体何をするんだと、由貴の肩に顎を載せながら、ムカつくことにシャンプーの匂いがするその襟足の清涼な香りを鼻腔に吸い込む。

「勝負って何だよ?」

 由貴が抱きしめている俺の背から腕を離して、掠めるだけのキスを落としてきたのだけれど、今しがたまで他の男と吸い合っていた唇なんだと思ったら腹が立って、煙草吸っときゃよかった……と思う。

「僕と颯くん、どっちが陽ちゃんを堕とせるか」

(一体コイツは何を言ってるんだ……?)

「は?」

「颯くんにおつかいさせた陽ちゃんの連絡先は訊きません。僕が自分で彼女に訊きます」

 そんな勝負に何の意味がある?

「勝ったらどうにかなんのか?」

「そうですね……。もし、颯くんが勝ったら一つだけ言うことを聞いてあげます。僕が勝ったら……別れましょうか?」
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