46 / 56
46
しおりを挟む
斗真さんが僕の手首を掴んだままスマートフォンを取り出してタクシーを呼んで、何とかその腕を振り払おうとするけれど、強く握りしめられていて敵わない。
「やだっ! 斗真さん! 離してください!」
斗真さんがクスクス笑って、「だから帰さないって。すぐタクシー来るからね? 俺が慰めてあげるから」と耳元で囁いた。
耳朶を掠めるその吐息が気持ち悪くて、ぎゅっと目を閉じたら、同時に涙もこぼれて、でも──。
「キミ、やめなさい」
不意にマスターの声が聞こえたかと思ったら、いつの間にかバーカウンターの前まで出てきていたマスターが、力強い腕で斗真さんの手を手首から放してくれて。
斗真さんが「邪魔すんなよ!」と声を荒げると、マスターが「これ以上騒ぐなら警察を呼びますよ?」と静かに抑制した。
舌打ちをした斗真さんがカウンターに千円札を一枚放って「ふざけんなよ、ノンケ相手に縋ってんじゃねーよ」と言い捨てながら店を出て行った。
「マスター……ありがとうっ、ござい、ます……」
嗚咽混じりに喋るとマスターが背を擦ってくれて、その手の温かさにますます涙がこぼれる。
「大丈夫だから帰りなさい。失礼だけど、会話は聞いていました。キミは本当に好きな人がいるんだろう? あんな男の言葉を真に受けてはいけないよ? 裏切られてもまだ愛しているなら、キミが望む本当の気持ちに従えばいい。きっと、上手くいく。もしもまた裏切られるようなことがあったら、その時は僕のところへ来なさい。大切な常連客のキミを傷つけた彼を許さないから。キミは独りじゃない。今度は、その彼と一緒においで?」
涙を拭って一礼して、マスターに改めてお礼を言ってから、すぐにタクシーに乗って家へ着いた。
暖人──。
今、何してる?
僕は、まだ暖人を忘れられずにいるよ。暖人も僕を覚えててくれてるかな。
あの日、別れたあの日、言ってくれた言葉はまだ有効かな。
スマートフォンを取り出して、着信履歴を開いてみる。
暖人は僕の連絡先を消したけれど、僕の連絡先にはまだ“暖人”と登録されたままの表示が残っている。
そっと、タップしてみる。
暖人は、登録されていない番号からの電話に出てくれるだろうか──。
「やだっ! 斗真さん! 離してください!」
斗真さんがクスクス笑って、「だから帰さないって。すぐタクシー来るからね? 俺が慰めてあげるから」と耳元で囁いた。
耳朶を掠めるその吐息が気持ち悪くて、ぎゅっと目を閉じたら、同時に涙もこぼれて、でも──。
「キミ、やめなさい」
不意にマスターの声が聞こえたかと思ったら、いつの間にかバーカウンターの前まで出てきていたマスターが、力強い腕で斗真さんの手を手首から放してくれて。
斗真さんが「邪魔すんなよ!」と声を荒げると、マスターが「これ以上騒ぐなら警察を呼びますよ?」と静かに抑制した。
舌打ちをした斗真さんがカウンターに千円札を一枚放って「ふざけんなよ、ノンケ相手に縋ってんじゃねーよ」と言い捨てながら店を出て行った。
「マスター……ありがとうっ、ござい、ます……」
嗚咽混じりに喋るとマスターが背を擦ってくれて、その手の温かさにますます涙がこぼれる。
「大丈夫だから帰りなさい。失礼だけど、会話は聞いていました。キミは本当に好きな人がいるんだろう? あんな男の言葉を真に受けてはいけないよ? 裏切られてもまだ愛しているなら、キミが望む本当の気持ちに従えばいい。きっと、上手くいく。もしもまた裏切られるようなことがあったら、その時は僕のところへ来なさい。大切な常連客のキミを傷つけた彼を許さないから。キミは独りじゃない。今度は、その彼と一緒においで?」
涙を拭って一礼して、マスターに改めてお礼を言ってから、すぐにタクシーに乗って家へ着いた。
暖人──。
今、何してる?
僕は、まだ暖人を忘れられずにいるよ。暖人も僕を覚えててくれてるかな。
あの日、別れたあの日、言ってくれた言葉はまだ有効かな。
スマートフォンを取り出して、着信履歴を開いてみる。
暖人は僕の連絡先を消したけれど、僕の連絡先にはまだ“暖人”と登録されたままの表示が残っている。
そっと、タップしてみる。
暖人は、登録されていない番号からの電話に出てくれるだろうか──。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
67
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる