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 それから、僕の毎日はつつがなく過ぎた。
 暖人はるとがいないことが当たり前になって、寂しさは感じるけれど当たり前になって。

 僕は、本当に独りぼっちになった。
 でも、日が経つにつれ、そうなる運命だったんだ、と思った。

 こんなマイノリティな僕の行き場はどこにもないんだ、と割り切ろうとしていた。

 暖人は、僕がまた誰かと出会って新しい幸せを手に入れて欲しいなんて言っていたけれど、僕はもう人間不信で、新しい出会いなんてないだろうと思っていた。

椎名しいな

 終業後、帰り支度をしていると来栖くるす先輩が近寄ってきた。
 少しだけ、ドキリと胸が高鳴る。

「お疲れ様です、来栖先輩」

 来栖先輩が僕に話しかけてくるなんて久しぶりだった。
 また大きな手の平が頭の上に乗る。

「なんか最近、元気なくない? 日高ひだかくん、出て行ったの?」

 僕は少しだけ瞼を伏せて「はい」と呟いた。

「じゃあ何で、そんな元気ないの? 椎名を裏切った憎い奴が仕事もクビになって、部屋まで出て行ったんでしょ? それとも、まだ俺に未練がある?」

 来栖先輩に、未練などもうない。
 僕が来栖先輩を好きだった気持ちは、もうない。

「来栖先輩のことは……もう、ただの優しい先輩だと思っています。僕が悩んでるのは別のことで……。人間不信って……どうすれば治りますか?」

 来栖先輩が少しだけ目をしばたたかせた。
 突然、こんな質問をされても意味がわからないよね、と苦笑する。

「俺はそんな小難しいことはわからないけれど、一人で抱え込んでたら、どんどん人との距離が離れていくだけじゃない? 誰かに相談するとか、心を開いていかないと。俺が、心を開かせてあげようか?」

「え?」

 意味がわからなくて呆然と来栖先輩を見つめる。
 すると、来栖先輩が僕の隣のデスクで帰り支度をしていた小寺こでら先輩に声をかけた。

「ねぇ、小寺」

 小寺先輩が「何ですか?」と返事をした。
 僕は、来栖先輩が何を言い出すのか想像もつかなくて、ただただ不可解な瞳で見つめた。

「椎名、ゲイなんだよ。誰か、椎名に良い相手いない? ただでヤらせてくれるよ?」

 目の前が真っ暗になった──。
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