上 下
26 / 56

26

しおりを挟む
 二十一時過ぎ、今日も来栖くるす先輩に散々痛めつけられて、家に帰ると暖人はるとが夕飯を作って待っていてくれる。

「……ただいま」

 暖人がどこか切ない表情で僕を見つめながら、でも、笑顔で出迎えてくれる。決まって付け加えられるセリフはいつも同じだ。

「おかえり、葵晴あおは。今日も楽しかったか?」

 その言葉に、途端、僕の瞳に涙が滲んで。
 また、中に出されたままだった来栖先輩の精でお腹が痛くなってきて。

 僕がお腹を押さえて「トイレ行ってくる」と言うと暖人が眉をしかめた。

「葵晴? なんかそれ毎日じゃねぇ? ちゃんと大切にされてんだよな? 大丈夫か?」

 暖人の視線から逃げるようにトイレに駆け込む。
 腹筋に力を入れると、トロリと便器に液体が流れた。

 真っ赤なその液体をどこか朧気な瞳で見つめてから、それを流した。
 トイレから出ると、暖人がドアの前に立っていた。

 僕は、来栖先輩と幸せなはずなのに、それなのに──。

 ズキズキと痛む身体が、心が、もう限界で。
 ダメなのに、ダメなのに、唇から勝手に音が滑り落ちて。

「……ねぇ、暖人」

「ん?」

 暖人が、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
 俯いて、でも、涙がこぼれないようにだけは堪え難きを堪えたけれど。涙は堪えられたけれど、縋る心をもう堪えられなくて。

「今だけ、触るのを許す」

 そんな言葉を、こぼしてしまっていて。
 気づけば、その場にうずくまってしまっていて。

「……葵晴?」

 暖人が、僕の腕を掴んで立たせた。
 そのまま腕を引かれてリビングに連れ戻されて、そっと横たえるようにソファに縫い留められる。

 まるで、壊れ物を扱うように僕に口付けた。
 始めは朱唇しゅしんを掠めるだけで離れ、次第にむように吸われ、先にれたのは僕の方で、己の唇から舌を出すと、暖人の温かい肉感的な舌と結びついて、結局、涙がこぼれた。

 来栖先輩は絶対にしてくれないそれに──。

 口端から涎がこぼれ落ちる程、余すところなく口の中を優しく愛撫されて、そっと首筋を噛まれた。その甘い刺激に「ゃっ……」と思わず声が漏れる。

 気持ちいい。
 暖人との行為は気持ちいい。さっきまで、来栖先輩にされていた酷い行為が上書きされていくような充足感に満たされて。

 シャツの上から主張を始める胸の尖りを親指の腹で強く押し込まれる。
 そのままシャツの上から舌を這わせられ、そのじれったい刺激に、暖人の後頭部の髪を指でまさぐって、更なる快楽が欲しいと無言の要求をしてみると、ネクタイが引き抜かれた。

 暖人が、掻き立てるような視線を僕と絡めて。

「シちゃうぞ? 葵晴」

 少しだけ余裕のない声でそう言った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:194,651pt お気に入り:3,193

緑の指を持つ娘

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:61,210pt お気に入り:1,753

番を解除してくれと頼んだらとんでもないことになった話

BL / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:281

前世の因縁は断ち切ります~二度目の人生は幸せに~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:117,605pt お気に入り:5,347

黒十字

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:33

どうぞ不倫してください

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:26,626pt お気に入り:371

チャラ男は愛されたい

BL / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:377

浮気な彼と恋したい

BL / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:22

所詮、愛を教えられない女ですから

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:179,922pt お気に入り:4,263

処理中です...