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しおりを挟む「おはよう、椎名」
ポン、と大きな手の平が頭に乗る。
毎日のその挨拶に僕はドキドキしっぱなしで、たちまち頬に紅みが帯びる。
「おはようございます、来栖先輩」
しかし──。
そう、挨拶をしているすぐ傍らに、これから朝礼で自己紹介を控えている暖人がパーテーションに阻まれた応接間に座って、僕をじっと見つめている。
やばい、僕は絶対に今、顔が真っ赤だ。
暖人に、僕の好きな人が来栖先輩だと絶対にバレている。
「今日から新人くんが入るね?」
「そ、そうみたいですね……」
思いっきり、思いっきり視線を感じているんだけれど。
どうしよう、どうしよう、暖人が何か変なことを言ったらどうしようと僕は心の中が大渋滞を起こしている。
その間にも時刻は九時になって、社長が皆を集める。
暖人がニコニコと営業スマイルを浮かべて立っていて。
「今日から中途入社した、日高暖人くんだ。みんな、サポートしてやってくれな? あと指導係には椎名、頼めるか?」
唖然とした。
社長……こいつはクソ浮気男なんですよ……なんで僕が指導しなきゃいけないんですか……?
僕の会社は新品や中古パソコンの販売、パソコンの出張トラブルサポート、ホームページ制作などの仕事を行っており、僕はトラブルサポートを担当しているから、こいつの指導となると二人っきりで任に着かなければならない。
こじんまりとした、従業員もわずか二十四名の中小企業なので、社内はアットホームな雰囲気で、皆が拍手をしながら温かく暖人を迎えている。僕だけが冷や汗をかいて、拍手をすることさえ出来ない。
朝礼が終わると、暖人が僕に近づいてきた。
「よろしくお願いします。椎名先輩? 指導お願いしますね?」
ニヤニヤ笑いながらそんなことを宣う暖人に、蹴りの一つでも食らわせようかと思ったその時。
よりによって来栖先輩がこちらに近づいてきて──。
「日高くん、初めまして。来栖 希です。よろしくお願いします」
来栖先輩が笑顔で暖人に握手を求めて。
暖人がその手を握りながら、僕が最も恐れていたことを言い放った。
「初めまして、来栖先輩。葵晴の元カレです」
終わった──。
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