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 暖人はるとが手の平に吐き出された僕の精をペロリと舐め取るのを、羞恥に滲んだ瞳で見つめながら身繕いする。

「元カレに言い寄ってくるだけじゃなくて、ストーカーにまでなったの?」

「俺はまだ葵晴あおはが好きなんだ。丁度、中途採用の募集があったから受けてみたら受かった。これからは職場でも会えるぞ? なぁ、やり直そう、葵晴」

 ふざけんな、本当にふざけんな。
 お前を忘れるまでにどれだけ苦しんだと思ってるんだ。

 それに、僕にはもう好きな人がいる──。

「僕はもう暖人を好きじゃない。僕にはもう好きな人がいる」

 それを聞いた暖人が盛大に眉をしかめた。
 僕はその顔にカチンとくる。僕を裏切ったお前がなんで今更、そんな嫉妬心を剝き出しにした顔をするんだよ。

「好きな人って?」

「会社の先輩だよ。暖人に捨てられて傷心した僕を励ましてくれてる。暖人なんかとは比べ物にならないくらい良い人なんだ。だから僕はもう、やり直す気なんてない」

 すると暖人が何か考える素振りを見せた。
 僕はその顔を訝し気に見つめる。早く出て行ってくれないかな、とイライラを募らせる。

「わかった。葵晴に好きな奴がいんのはわかった。わかったけど、俺、行くところがねぇんだ。仕事が落ち着くまでここに置いてくれ! 頼む!」

 すぐにでも追い出したい、追い出したいけれど。
 仮にも六年も付き合った奴だ。僕だってまだ完全に吹っ切れたわけじゃないし、少しばかりはこいつに温情がある。

「暖人にはそこのソファを貸してやる。僕の部屋には一切入ってこないこと、いい?」

「サンキュー! 葵晴! 愛してる!」

 愛してる?
 どの口が言ってるんだ。僕だって愛してたよ。それを簡単に裏切った暖人が愛してるなんて言う?

「あと、居候するなら家事もやって」

「任せろ! 俺、葵晴にまた好きになってもらえんよう、頑張っから!」

 二度とお前を好きになることなんてない。
 折角、折角もう少しで暖人を忘れられるところだったのにどうしてこうなるんだ。そのクソ女とやらとよろしくやってろよ。

 盛大に溜め息を吐いて、暖人の横をすり抜けて自室に籠った。

 ベッドの上に倒れ込む。

 我知らず、瞳から涙が伝った。
 あの日、あいつのスマートフォンに届いた『暖人、愛してる』という女の名前からのメッセージを見て、どれだけ傷ついたか、どれだけ悲しんだか、どれだけ苦しんだか。それをまた思い出してしまって。

 本当に、ふざけんなよ──。
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