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 掠めるだけで離した唇を吐息が触れる距離のまま見下ろすと、真夜まやの唇が笑みの形を刻んだのが見えたと同時、今度は真夜の方から唇を結わえてきた。

 唇を何度も表面でこすり合わせて、離して、を繰り返して遅々ちちとして進まない口接くちづけの先をいたのは俺の方だった。

 唇の狭間に肉感的な舌を求めて侵略し、ザラっとしたその感触を確認すると絡め取るように口腔内を我が物顔で蹂躙じゅうりんし、歯列を辿り頬の粘膜を余すところなく舐め回す。

 上顎をゆっくり舐めさすってやれば、真夜が「ふっ……ぅ」と隙間なく合わされた唇の中で小さくうめいて、震える指で俺のニットの胸元を握りしめてきた。

 角度を変えて何度も何度も唇を貪り、たった数分であるはずのそれが一時間にも二時間にも感じられるほど求め合って、最後に真夜の唇の輪郭をなぞるように舐めてから熟れて赤らんでいるそこからゆっくり離れると、透明な糸が線を引いた。

 ほうけたようにとろんとしたブラウンの目尻にわずかに滲んだ水滴をオマケみたいに唇で吸い取ってやれば、真夜が胸に頭を預けてきた。

「今日は指一本触れさせないんじゃなかったの……?」

 胸元でくぐもった声を出す真夜がたまらなくいじらしくて、可愛くて、守ってやりたくて仕方がなくて。

「言っただろう? お前の居場所は俺にすればいいだろう」

(あーあ……俺、完全に篭絡ろうらくされてるな……)

「……そういう言葉はずるいよ……宇大うたくん……。俺は火遊びで一時だけ好きになってくれたら十分だから……それ以上はいらないから……」

 そっと俺の胸を押してソファに横たわった二人の体温と鼓動が布越しに伝わって、こんな昂揚感こうようかんはいつ以来だろうと頭の隅で少しだけ冷静な自分がいたが――。

 半ば無意識、俺は真夜の腕を引いてキスの余韻でてらてらと光るその唇をもう一度求めて吐息ごと奪い取っていた。
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