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オルクス公爵領ダンジョン調査
96.元社畜パーティのいやな予感
しおりを挟む無事合流を果たした私たちは、一日駐屯地で休暇を終え、再度ダンジョンに潜った。
私たちは18階、ディランさんたちは16階に降り立つ。それぞれの魔力を記録してある場所が異なるので、待ち合わせは17階入り口の安全地帯だ。
各階層、調査が不十分なので、17階で待ち合わせた後、改めて16階の再調査に入る。半分くらいはマッピングできていたとはいえ、私たちがはぐれた後、ディランさんたちも調査どころではなくなってしまったからだ。面倒くさいが、こればっかりは仕方がない。簡単にだが、18階のマッピングメモをしておいてよかった。シラギさんが喜んでいた。
17階の森林地帯は、区画分けされていない、広大な自然の迷路みたいな感じのフィールドだ。4階でも遭遇している。ジャングルみたいなうっそうとした木々や生い茂った葉が行く手を阻み、足元も歩きにくく方向感覚が狂う。あと虫系の魔物が多くて、私とマリーは眉を顰めている。
ただ、上下階に繋がるの階段の場所はフィールドの対角に用意されているので、わかりやすいといえばわかりやすい。砂漠フィールドなんか、マジで階段の場所も適当だったし、何なら砂で埋もれて見えなくなっていたからね……。
そんなわけで、視界を邪魔する枝をばっさばっさと切り捨てながら、一直線にヒースさんと私は上への階段を目指した。私も、手持ちの魔石に風魔法を詰めて、ヒースさんのサポートに徹する。生き物じゃない分、魔法を放つにしても気持ちは楽だ。
あと、前だったらヒースさんに手を引いてもらっていたのが、介護されつつも背中を任せてもらえるようになったの、地味に嬉しくてニンマリしちゃう。
魔物を排除しつつ、どうにかこうにか17階安全地帯付近までやってくる。本当、最短距離を心がけて単純に駆け抜けるだけなら、普段ほど時間がかからないのだなあ。ヒースさんが強いのと、方角とかの確認に慣れていたのもあるんだろうけれども。
「16階や、18階の遺跡タイプの迷路構造だと、さすがにこうも簡単にはいかないけどね」
「あっちはあっちでややこしいですからね。とはいえ、ヒースさんに恐れをなしてか、魔物も出てこないせいもあるんじゃないですかね」
なんか、さっきから魔物との遭遇率が低い気がするんだよね。
ヒースさんから発せられる気迫に、魔物が恐れているじゃないだろうか。ほら、強者に立ち向かってくるほど、魔物だって愚かではないだろうし。
パーティの時は、殿を務めていたのもあって、後ろでどっしりと構えてくれた安心感があったけれども、先頭に立ったとしてもやっぱりヒースさんは凄い。
「うーん、カナメを守りたくてと意識しているからかな? 下手をすると、ディランダル君たちよりも、俺たちのほうが先に辿り着いちゃったかもしれないね」
「まさか、向こうはもう半分以上攻略が済んでいるんですよ」
なんて会話をしているけれども、安全地帯に辿り着いてみればポータルを立てたのはヒースさんだったわけで。
そうして、私たちに遅れること1刻ほど。ディランさんチームが、ややうんざりした様子をみせながら階段から降りてきた。
「罠多すぎ!!」
スキルを連発したからか、げんなり気味のディランさんの切実な叫びに、私とヒースさんは苦笑するばかりだ。いや、華麗に罠に引っかかった私が言うことじゃないけど、本当砂漠フィールド並みに面倒くさいと思うよ、16階。
「おかえりなさい。お疲れ様です~。ちゃんと合流できてよかった」
「はぁ。16階は、徹底的にマップを出さないと駄目ですね……。≪探査≫や≪危機察知≫あたりのスキルがないと、初見にはかなり厳しいですよ」
「先が思いやられますね……」
「カナメに代わって、ある程度ですけど私がトラップ情報を控えておきました。カナメ、まとめてもらっていいかしら?」
「もちろん。ありがとう、マリー」
食事休憩を兼ねて安全地帯にテントを広げながら、私たちは情報交換をするのだった。
その後、補足調査の末に完成した16階マップを見ながら、あまりの罠の多さにディランさんが発狂しそうになっていた。うん、君、よく頑張ったよ……。
こんな感じで、大きなトラブルはあったものの大事に至ることはなく、合流後は変わらず最強パーティーっぷりを披露してくれて、一時帰還を繰り返しつつ時間をかけながら18階までの探索を無事終える。
「うわあ……」
そうして足を踏み入れた19階。いわゆるボス部屋前フロアは、火山地帯とでもいえばいいのだろうか。溶岩が固まってできた様相の洞窟、微かに火山灰の混じる淀んだ空気、ところどころ赤くどろどろしたマグマが吹き出している。落ちたらひとたまりもないだろう。吹き付ける風は熱っぽく、湿気も多い。
みんなさすがに絶句していたものの、すかさず気を引き締めたのはさすがだ。
私はみんなの装備や武器に、体感温度を下げたり、耐火を上げたり、攻撃有利になるよう、念入りに水属性、氷属性を付与したりする。砂漠フィールドよりも、更に熱や火による影響が直接的になるだろうと予想してのことだ。
「……っ、来るぞ!」
案の定、直後にマグマの中から、炎の塊が飛び出してきたのだから間一髪だ。
ぼ、ぼ、ぼと放たれるのは、焔の息。咄嗟にマリーが水魔法を展開し、焔の威勢が落ちたところをヒースさんとシラギさんが切り捨てると、ぼとぼとと、残骸が地に落ちていく。
「……これはサラマンダーか」
ヒースさんの眉間に、くっきりと皴が刻まれた。
それはトカゲに似た姿をした、ファンタジーで良く耳にする有名な精霊や魔物だった。死骸を見れば確かに愛嬌はあるのだけれども、焔をまとい火を吹いてくる大きなトカゲ、普通に怖いって。
サラマンダーはあえなく撃退したものの、サラマンダーの死体を確かめながら、ヒースさんたち前衛組は頤に手を当ててしばらく考え込んでしまった。
なお、サラマンダーの皮は、耐寒防具に適するらしく、神妙な顔をしながらも、彼らの手は解体に動いている。ぬかりない。なんか「あっちっち」とか言ってるけど。大丈夫か。
「竜種が一般フロアに出るダンジョンは、あまりないですね。というか、かなり珍しい部類だと思われますが。俺が過去潜ったダンジョンでも、1つくらいか……」
「僕が知る限りでもそうだね。てか、最悪の事態を考えなければならなそうなんだけど~。ええー、うちの領地のダンジョン、ヤバすぎじゃない?」
「しかも9階、10階ボスとの関連性を鑑みると……」
「サラマンダーの上って言ったら、ボスは火竜でほぼ確じゃんか、これぇ? 20階レベルで出没する敵じゃなくない!? ええ……この後の各階層のフロアボス、属性違いの竜とかいわないよねえ!?」
ディランさんがあげた嘆きに、みんなは顔を見合わせ、少々顔を青褪めさせる。
竜――それは魔物の中でも、圧倒的武力を誇る、最高峰の種族だ。
繰り出される攻撃は山をも砕き、鉄をも通さぬ固い皮膚に守られ、更に高度な魔法を詠唱し、高い知性を感じさせることもある。サイズによっては、災害をもたらすレベルの厄災にもなりうる厄介さ。ギルドが規定する魔物の討伐ランクは、当然A~Sを与えられる。
とはいえ、概ねの竜たちは、属性に応じて高山の奥や海底など、人が容易に踏み込めない場所に巣を作って生息し、よほどのことがない限り人里とは没交渉ではある。ただ、稀に魔素の強いダンジョンに、生まれることがあるのだとか。
その分、竜を倒せば、世にも貴重な素材を各種手に入れられる。諸刃の剣の見本のような魔物だ。
この世界におけるサラマンダーは、どうやら精霊というよりも竜の眷属に当たる魔物らしい。
「まさかとは思いたいが……。更に、こんな浅めの階層で竜種が出てくるということは、だ。可能性として最終ボスは古竜の可能性が高い……」
ヒースさんの唇から、トンデモない予想が繰り広げられた。
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