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ラファエルの閃き
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ラファエルの元に五人の老師が集まっていた。
全員が緊張の面持ちである。
今回の出来事に五人の老師も大きく揺れていた。
しかし信仰心の厚いこの者達は未だラファエルを信じたいと考えていた。
但しそこにジュライことエリカ・エスメラルダはいない。
彼女はこの集まりに今後は集う事は無い。
エリカは南半球でマークの秘書としてバリバリと働いているのだから。
最早エリカにとっては『イヤーズ』の事等、過去の一部でしかないのだ。
もしかしたら彼女にとっては黒歴史であるのかもしれなかった。
「一人いないではないか?」
「は!教祖様、ジュライは視察に出ております」
五人の老師を代表してディッセンバーが答える。
ラファエルと五人の老師の会話はこのスタイルで行われている。
ディッセンバー以外の者が発言をする場合は挙手し、ラファエルがそれを認めた時のみ発言を許されるのだ。
「視察だと?」
「はっ!報告させて頂きます!」
ディッセンバーは跪いている。
他の老師達も同様に跪いていた。
全員ラファエルの顔を見ることは許されていない。
跪き下を向く事しかできないのだ。
それほどに秘匿性は高いということだ。
「ジュライ曰く、どうやら魔物の国が建国されたということらしく、その真相を確かめようと、ジュライ自ら視察に向かったということのようです・・・ジュライは情報担当の為、責任を感じての事かと思いますが・・・」
ディッセンバーは歯切れが悪い。
それをラファエルは見抜く。
「何か含みがありそうだな?」
「はっ!・・・もう帰ってきても良さそうなものなのですが・・・」
「どれぐらい経つのだ?」
ラファエルは詰問していた。
緊張感が会場を覆う。
「ただの視察であれば、一ヶ月前には帰ってきてもおかしくはないのですが・・・未だ帰って来ておりません」
「前任者のエスメラルダ侯爵には確認をしたのか?」
「はい・・・まだ帰って来るとの連絡は無いとのことです」
ラファエルは考察する。
(事故やアクシデントでも起こったのか?はたまた帰って来れない状況にあるのか?ジュライは女子高生の様な見た目ではあるが、真面目な性格をしていた。あの者に関しては心配は無いが・・・)
この時ラファエルは、ジュライが『シマーノ』に亡命していることを知らない。
エリカが南半球で人生を謳歌しているなどとは思ってもみなかった。
それを知るのはもっと先の事である。
これまで自らを偽ってきたエリカの功績がここに生きていた。
エリカは知らぬ間に、ラファエルの信用を勝ち取っていたのである。
「ジュライのことはいいとしてだ、魔物の国とは何のことだ?」
話を促そうとラファエルは誘導する。
「報告では半年ほど前に興った国ということです、その場所はモエラの大森林です。しかし情報部の報告では無く、未だ噂の域に過ぎませんが・・・」
「何だと?」
ラファエルはその噂を信じることが出来なかった。
実はラファエルは魔物を知っている。
それはイヤーズに隣接するスレイブの森に魔物がいるからだ。
スレイブの森にはゴブリンやオーク等が生息している。
そして魔物は知能が低く、意思の疎通は出来るものの、人間ほどの知力は無く、とても国など興せる存在では無い事も知っていた。
『イヤーズ』としては、魔物は特に害も無い為、放置しているに過ぎない。
それにモエラの大森林は未確認の魔物やオーガ等が居て、とても危険な森であることは北半球では常識となっていた。
そんな場所に魔物の国が建国されたなど、どうしてもラファエルは理解ができなかった。
「あり得んだろうが?」
「私もそう考えておりましたが、最近ではその噂で何処も持ち切りであります」
「そうなのか?・・・」
ラファエルは首を傾げていた。
「その国の名前は『シマーノ』と言うらしく、伝え聞く限りではその文明は北半球の中でも先進的であるという事です」
「はあ?」
ラファエルは更にその噂を信じることが出来なかった。
あの魔物が国を興しただけではなく、先進的な国であることなど信じることが出来る筈がない。
(だからジュライは視察に向かったということか・・・)
ラファエルは一人納得する。
「そしてその『シマーノ』ですが、『ルイベント』と同盟を結んだとの噂があります」
「なに?同盟だと?」
「加えて『ルイベント』は『ドミニオン』とも同盟を締結した模様」
「っち!」
思わず口から洩れていた。
「同盟か・・・旗印はスターシップということか・・・これは噂のレベルでは無く。事実という事なんだな?」
「はい、そうなります」
(そうなると今回のポタリーの件は『ルイベント』が主導しているということなのか?確か、あの国には商売の神がいたな・・・こいつが絵を描いたということか・・・その可能性が高そうだ)
ラファエルはそう考えていた。
「商売の神はどうしているのだ?」
「これまでの水面下での活動とは違い、最近の商売の神ダイコクは積極的に活動している模様です」
「ほう?遂に表に出てきたか」
ラファエルはほくそ笑む。
「は!」
「今回の件はダイコクが首謀者なのか?」
「それは分かりませんが、同盟を締結した裏側にダイコクが居たことは間違い無いかと思われます」
「だろうな、表に出てくるとは・・・同盟で浮足立っているみたいだな」
「だと思われます」
ラファエルはニヤリと笑うと、躊躇うことなく指示を出した。
「攫ってこい!」
ラファエルは自分を取り戻していた。
「は!手配致します!」
守が手を打ったにも関わらず、結局のところダイコクへの拉致行為は行われてしまうみたいであった。
だがまだその成否は定かではない。
ダイコクに魔の手が忍び寄っていることには変わりはないのだが。
守はタイムラインを弄ってみたはいいものの、どうやら一筋縄ではいかないようである。
「他に情報は無いのか?」
「確信が持てませんが、先ほど話に上がった『シマーノ』ですが、どうやら神が国造りを先導したとの噂があります」
「新たな神が誕生したのか?」
ラファエルは不機嫌になる。
「どうやらそうでは無さそうです」
「どういうことだ?」
ラファエルには意味が分からない。
「その神ですが、何々の神という敬称が無いようなのです」
(何だと?上級神ですら敬称があるのにそれが無いだと?これはどんな存在なんだ?否、あくまで噂だ。まだ確信は持てない。だがもしそれが本当なら考えなければいけない。あまりに危ない存在だ!)
ラファエルは考えを巡らそうとするが、結論に辿り着くことは出来なかった。
それぐらい守は異質であるという事だった。
「まさか創造神では無かろうな?」
一つの可能性についてラファエルは口にした。
「創造神がこの世界に顕現したことはこれまでに一度もありません、そう言った言い伝えも伝承もありません、それにそれは神のルールに抵触することに成るかと思われますが、いかがでしょうか?」
この神のルールについては、ポタリーから聞いていたことだった。
五人の老師にもその情報は共有されている。
自分の境域以外の事は、神は手を出すことは許されていない。
創造神がこの世界に顕現することがそのルールに抵触すると、ディッセンバーは考えたようである。
「そうだな、そうなるだろうな。でも創造神は別各であろう?この世界の創造者だからな。何をしても自由であろう」
「でしょうか?」
ディッセンバーは自らの意見を口にしてしまっていた。
これは禁忌である。
「ふんっ!お前は何も分かってはいない様だな」
ラファエルは鼻で笑う。
「も、申し訳ありません!」
ディッセンバーは頭を垂れる。
ラファエルの考える創造神とは、何でも叶えることが出来る存在なのである。
自らの意思で何でも出来る存在なのだ。
「まあいい、それでその神の名は何というのだ?」
「シマノというらしいです」
「シマノだと?」
「はい・・・」
ラファエルは不思議な感覚に捕らわれていた。
(何とも言えない響きの名前だな、なんだか地球の日本人の苗字ようなの響きだ・・・まさか転生者か?)
「もしや転生者か?」
「は!流石は教祖様で御座います。転生者ではありませんが、転移者との噂です」
「ふん!要は変わらんではないか!」
ラファエルは自分の考えが近しかったことに鼻を高くした。
ラファエルは自分が転生者だと考えているが、実は転移者である。
だが転生者と転移者は大きく違う。
転移者は自分の意思で世界を渡ってくることが大半だからだ。
その点で言えばラファエルは稀有な存在である。
転移者は世界渡りに関しての覚悟が違う。
転生者は強制的に世界渡りをさせられている。
唯一の共通点は、異世界での記憶があるということでしかない
五郎にしても、守にしても無理やり異世界に連れて来られた訳ではない。
自らの意思を問われて転移しているのだから。
「にしても解せんな」
「と言いますと?」
「そのシマノとやらも同盟に関わっているのでは無いのか?それに今回の襲撃についてもそいつが関わっている可能性があるということか?・・・それに神として名を冠していないというのが分からん、いったいどんな能力を持っているのやら・・・」
「シマノの能力については噂が無茶苦茶です」
ラファエルは興味を覚えた。
「因みにどんな噂なんだ?」
「一瞬で畑の作物を育てたとか、空を飛んだとか、はたまた瞬間移動したとかで御座います、どうにも信じられません」
「・・・だろうな」
ラファエルは唖然としていた。
(そんな事が出来るなんてあり得ないだろう・・・噂が一人歩きしているに違いない、本当にそんなことが出来るのならば、創造神以外にあり得ない・・・あり得ん!俺以外にそんな存在は認めることは出来ん!シマノ‼許せん‼)
ラファエルは勝手に守を一方的に恨みだした。
まだ噂の粋を出てはいないのに。
でもその噂は全て事実であることに変わりはないのだが・・・
守に対して創造神に成るのは俺である、誰にも先を越させはしないと、敵愾心を燃え上がらせていた。
守にしてみれば、勝手な逆恨みでしかない。
勘弁して欲しいところである。
先程までのラファエルは何処にいったのやら。
茫然自失としていたラファエルは、ここに来て正気を取り戻してきたかに見えるが、実は少し違っている。
何とかして挽回しないと全てが終わってしまうと理解していたからだ。
そこで敵となる者が現れたのはラファエルに取っては僥倖だった。
自分を奮い立たせ、信者をも奮い立たせることが出来るのだと。
今回の件の全てを主導した者は、そのシマノであるとしてしまえば、今一度宗教は立て治せるのでは無いかと閃いたからだ。
ラファエルは演じることにした。
神を名乗る不届き者を成敗する神に成るのだと。
実際、今回の件を主導したのは偶然にも守である。
その事に間違いは無い。
偶然と事実が重なりあってしまっていた。
守にとっては良い風向きではない。
ここはラファエルに幸運が舞込んで来た結果であった。
「ふん!観えたぞ‼」
不意にラファエルは宣言する。
「今回の件の首謀者はそのシマノであろう!我が王国を揺るがす悪意の者はその者に違いない。よいか!その者を我が宗教において命じる、その者を神敵とせよ‼」
「「「「は‼‼‼」」」」
五人の老師全員が頷いていた。
こうして守は『イヤーズ』の神敵と定められたのであった。
守にとっては迷惑この上ない話である。
だがその教義が根づくのかはこれからの話であり、それよりも『イヤーズ』の国民の大半はもうこの国を見放そうとしていたのである。
どうなるのかは創造神とその妻しか知らないのであった。
守も知ることは出来るのだが、守はそんな気はさらさら無い。
守はあまり時間軸には触れたくないと考えていたからだ。
現に守は今この時も、愛して止まないサウナで整っていたのだから。
お気軽この上ない守であった。
そして、ラファエルは知らなかった。
この会議の一部始終をクモマルの配下の蜘蛛達が全て聞いていたことを。
ものの数時間後にはクモマルによって、守に全てを伝えられていたのである。
一人静かに憤慨するクモマルがそこにはいた。
クモマルにしては珍しく、本気で憤怒していたのだった。
俺は猛烈に感動していた。
それはサウナ島に連れて行くと約束したダイコクさんとポタリーさんを迎えに、転移してポタリーさんの工房に足を踏み入れたからだった。
そこには数々の芸術品を超えた陶磁器が飾られていたのだ。
「ポタリーさん・・・この芸術品を俺は何時間でも眺めていられますよ・・・」
「旦那、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」
心を掴まれるとはこういうことを言うんだろう。
ポタリーさんの陶磁器は芸術品という枠には収まっていない。
それを有に超えている。
先程言った台詞ではないが、本当にいつまでも陶磁器を眺めていられると思ってしまった。
それほどまでに素晴らしいと魂で感じてしまったのだ。
それは俺だけでは無かった。
付いてきたギルとゴンは無言で涙を流していた。
「これは・・・ポタリーさんの魂が刻まれていますね・・・」
もうこれ以上のコメントは何を言っても陳腐に聞こえてしまうだろう。
どうしたらここまで物に魂を込めることができるのだろうか。
気が付くと俺は金貨五百枚にもなる買い物をしてしまっていた。
「旦那は太っ腹だねえー、いやー。嬉しいよ!」
ポタリーさんに背中をバシバシと叩かれてしまった。
その姿をダイコクさんが横目で眺めていた。
何か言いたげな眼をしていたが、俺は無視した。
どうせ『ルイベント』にも金を落とせ的なことを言われるに決まっている。
残念ながら『ルイベント』には俺のお眼鏡に適う品物は無い。
ある意味北半球で初めて購買意欲を掻き立てられた出来事だった。
この素晴らしい陶磁器を何処に飾ろうかと考えるだけでも楽しい。
良い買い物が出来たと思う。
ゴンも珍しく金貨百枚近くも支払う買い物をしていた。
ギルは・・・一人悔しがっていた。
決してお金が無いわけではない。
ただ俺に、
「ギル、お前これを割らない自信があるのか?無いなら止めといた方がいいぞ」
と言われて、割らない自信がなかったみたいだ。
実はギルの部屋は結構散らかっている。
ギルはどうにも捨てられない性分だった。
しょうがない部分もあるにはある。
それはギルは子供達からの人気が高く、よく子供達からプレゼントを貰ったりするからだ。
似顔絵の絵であったり、これは何なのか?とよく分からない工作品等いろいろだ。
捨てられない気持ちはよく分かる。
俺も捨ててはいない。
ギルと同様に俺も子供達や魔物達からよくプレゼントを貰うからだ。
俺は『収納』に保管しているだけだからね。
けっして『収納』に捨てている訳ではないからね。
因みに綺麗好きのゴンはマジックバックに保管している。
たいして俺と変わらない。
そんなことはいいとしてだ。
ダイコクさんとポタリーさんをサウナ島にご招待しなければいけない。
ポタリーさんに関しては神様ズにも紹介しないとね。
神様ズに関しては、どうやらダイコクさんから話は既に聞いてはいるみたいだが、こればかりは会ってみないと分からないだろう。
ダイコクさんの主観が入っているかもしれないしね。
まあ会ってみれば分かるでしょう。
早速『シマーノ』に転移して転移扉を目指した。
ポタリーさんは転移扉を見ると繁々と眺めていた。
「旦那、これが転移扉なんだね?あたいが開けてみてもいいかい?」
「ええ、どうぞ、遠慮なく!」
「すなまいねえ」
ポタリーさんは転移扉のノブに手を掛けると、勢いよく転移扉を開いた。
そこには『サウナ島』の受付が待ち受けていた。
ポタリーさんは驚いている。
自分で開けてはみたが、想像以上の出来事だったみたいだ。
「ポタリー、気持ちは分かるで、わても最初はそうやった」
ダイコクさんが先輩ぶっている。
ポタリーさんは気に入らなかったのか、ダイコクさんを一睨みした。
どうにもダイコクさんはポタリーさんに要らない一言を言ってしまうみたいだ。
ダイコクさん・・・惚れている女性にそれは返ってよくないアプローチではないですか?
恋愛下手な俺でもそれぐらい分かりますっての。
「さあさあ、入りましょう」
俺は二人に中に入る様に誘導した。
手慣れたダイコクさんが我先にと転移扉を潜っていった。
いや、そこはレディーファーストでしょうよ。
まあいいや。
ポタリーさんもダイコクさんに続いた。
「ダイコク様、ポタリー様、お待ちしておりました」
エリカが出迎えてくれていた。
今回のアテンドはエリカに任せることにしたのだった。
北半球を知る者がアテンドした方が何かと良いのではないかと、俺は考えたからだ。
それにエリカからは、
「ポタリー様とは一度じっくりとお話したいと思っておりました。謝って済むことではありませんが、私は何もできませんでしたから・・・」
ポタリーさんに謝罪したいということだった。
エリカに否は無いのだが、投獄されているのを知っていて、何も出来なかったことを悔やんでいるみたいだ。
真面目なエリカらしいことだった。
ポタリーさんにしてみれば、何を謝われているのか分からないかもしれないが、それでエリカの気が晴れるのならいいだろう。
ポタリーさんなら当然受け止めてくれるだろうし。
それにこの二人の関係性から、もしかしたら新たな情報が得られるかもしれないとの期待もあった。
あれば良いなという程度に捕らえているのだけどね。
ここから先はエリカに任せて俺はやるべきことに向かうことにした。
俺はクモマルを迎えに行き、クモマルと打ち合わせを行う予定でいた。
この時実は本当の意味でクモマルは島野一家の家族に成っている。
クモマルは聖獣に進化していたのだった。
全員が緊張の面持ちである。
今回の出来事に五人の老師も大きく揺れていた。
しかし信仰心の厚いこの者達は未だラファエルを信じたいと考えていた。
但しそこにジュライことエリカ・エスメラルダはいない。
彼女はこの集まりに今後は集う事は無い。
エリカは南半球でマークの秘書としてバリバリと働いているのだから。
最早エリカにとっては『イヤーズ』の事等、過去の一部でしかないのだ。
もしかしたら彼女にとっては黒歴史であるのかもしれなかった。
「一人いないではないか?」
「は!教祖様、ジュライは視察に出ております」
五人の老師を代表してディッセンバーが答える。
ラファエルと五人の老師の会話はこのスタイルで行われている。
ディッセンバー以外の者が発言をする場合は挙手し、ラファエルがそれを認めた時のみ発言を許されるのだ。
「視察だと?」
「はっ!報告させて頂きます!」
ディッセンバーは跪いている。
他の老師達も同様に跪いていた。
全員ラファエルの顔を見ることは許されていない。
跪き下を向く事しかできないのだ。
それほどに秘匿性は高いということだ。
「ジュライ曰く、どうやら魔物の国が建国されたということらしく、その真相を確かめようと、ジュライ自ら視察に向かったということのようです・・・ジュライは情報担当の為、責任を感じての事かと思いますが・・・」
ディッセンバーは歯切れが悪い。
それをラファエルは見抜く。
「何か含みがありそうだな?」
「はっ!・・・もう帰ってきても良さそうなものなのですが・・・」
「どれぐらい経つのだ?」
ラファエルは詰問していた。
緊張感が会場を覆う。
「ただの視察であれば、一ヶ月前には帰ってきてもおかしくはないのですが・・・未だ帰って来ておりません」
「前任者のエスメラルダ侯爵には確認をしたのか?」
「はい・・・まだ帰って来るとの連絡は無いとのことです」
ラファエルは考察する。
(事故やアクシデントでも起こったのか?はたまた帰って来れない状況にあるのか?ジュライは女子高生の様な見た目ではあるが、真面目な性格をしていた。あの者に関しては心配は無いが・・・)
この時ラファエルは、ジュライが『シマーノ』に亡命していることを知らない。
エリカが南半球で人生を謳歌しているなどとは思ってもみなかった。
それを知るのはもっと先の事である。
これまで自らを偽ってきたエリカの功績がここに生きていた。
エリカは知らぬ間に、ラファエルの信用を勝ち取っていたのである。
「ジュライのことはいいとしてだ、魔物の国とは何のことだ?」
話を促そうとラファエルは誘導する。
「報告では半年ほど前に興った国ということです、その場所はモエラの大森林です。しかし情報部の報告では無く、未だ噂の域に過ぎませんが・・・」
「何だと?」
ラファエルはその噂を信じることが出来なかった。
実はラファエルは魔物を知っている。
それはイヤーズに隣接するスレイブの森に魔物がいるからだ。
スレイブの森にはゴブリンやオーク等が生息している。
そして魔物は知能が低く、意思の疎通は出来るものの、人間ほどの知力は無く、とても国など興せる存在では無い事も知っていた。
『イヤーズ』としては、魔物は特に害も無い為、放置しているに過ぎない。
それにモエラの大森林は未確認の魔物やオーガ等が居て、とても危険な森であることは北半球では常識となっていた。
そんな場所に魔物の国が建国されたなど、どうしてもラファエルは理解ができなかった。
「あり得んだろうが?」
「私もそう考えておりましたが、最近ではその噂で何処も持ち切りであります」
「そうなのか?・・・」
ラファエルは首を傾げていた。
「その国の名前は『シマーノ』と言うらしく、伝え聞く限りではその文明は北半球の中でも先進的であるという事です」
「はあ?」
ラファエルは更にその噂を信じることが出来なかった。
あの魔物が国を興しただけではなく、先進的な国であることなど信じることが出来る筈がない。
(だからジュライは視察に向かったということか・・・)
ラファエルは一人納得する。
「そしてその『シマーノ』ですが、『ルイベント』と同盟を結んだとの噂があります」
「なに?同盟だと?」
「加えて『ルイベント』は『ドミニオン』とも同盟を締結した模様」
「っち!」
思わず口から洩れていた。
「同盟か・・・旗印はスターシップということか・・・これは噂のレベルでは無く。事実という事なんだな?」
「はい、そうなります」
(そうなると今回のポタリーの件は『ルイベント』が主導しているということなのか?確か、あの国には商売の神がいたな・・・こいつが絵を描いたということか・・・その可能性が高そうだ)
ラファエルはそう考えていた。
「商売の神はどうしているのだ?」
「これまでの水面下での活動とは違い、最近の商売の神ダイコクは積極的に活動している模様です」
「ほう?遂に表に出てきたか」
ラファエルはほくそ笑む。
「は!」
「今回の件はダイコクが首謀者なのか?」
「それは分かりませんが、同盟を締結した裏側にダイコクが居たことは間違い無いかと思われます」
「だろうな、表に出てくるとは・・・同盟で浮足立っているみたいだな」
「だと思われます」
ラファエルはニヤリと笑うと、躊躇うことなく指示を出した。
「攫ってこい!」
ラファエルは自分を取り戻していた。
「は!手配致します!」
守が手を打ったにも関わらず、結局のところダイコクへの拉致行為は行われてしまうみたいであった。
だがまだその成否は定かではない。
ダイコクに魔の手が忍び寄っていることには変わりはないのだが。
守はタイムラインを弄ってみたはいいものの、どうやら一筋縄ではいかないようである。
「他に情報は無いのか?」
「確信が持てませんが、先ほど話に上がった『シマーノ』ですが、どうやら神が国造りを先導したとの噂があります」
「新たな神が誕生したのか?」
ラファエルは不機嫌になる。
「どうやらそうでは無さそうです」
「どういうことだ?」
ラファエルには意味が分からない。
「その神ですが、何々の神という敬称が無いようなのです」
(何だと?上級神ですら敬称があるのにそれが無いだと?これはどんな存在なんだ?否、あくまで噂だ。まだ確信は持てない。だがもしそれが本当なら考えなければいけない。あまりに危ない存在だ!)
ラファエルは考えを巡らそうとするが、結論に辿り着くことは出来なかった。
それぐらい守は異質であるという事だった。
「まさか創造神では無かろうな?」
一つの可能性についてラファエルは口にした。
「創造神がこの世界に顕現したことはこれまでに一度もありません、そう言った言い伝えも伝承もありません、それにそれは神のルールに抵触することに成るかと思われますが、いかがでしょうか?」
この神のルールについては、ポタリーから聞いていたことだった。
五人の老師にもその情報は共有されている。
自分の境域以外の事は、神は手を出すことは許されていない。
創造神がこの世界に顕現することがそのルールに抵触すると、ディッセンバーは考えたようである。
「そうだな、そうなるだろうな。でも創造神は別各であろう?この世界の創造者だからな。何をしても自由であろう」
「でしょうか?」
ディッセンバーは自らの意見を口にしてしまっていた。
これは禁忌である。
「ふんっ!お前は何も分かってはいない様だな」
ラファエルは鼻で笑う。
「も、申し訳ありません!」
ディッセンバーは頭を垂れる。
ラファエルの考える創造神とは、何でも叶えることが出来る存在なのである。
自らの意思で何でも出来る存在なのだ。
「まあいい、それでその神の名は何というのだ?」
「シマノというらしいです」
「シマノだと?」
「はい・・・」
ラファエルは不思議な感覚に捕らわれていた。
(何とも言えない響きの名前だな、なんだか地球の日本人の苗字ようなの響きだ・・・まさか転生者か?)
「もしや転生者か?」
「は!流石は教祖様で御座います。転生者ではありませんが、転移者との噂です」
「ふん!要は変わらんではないか!」
ラファエルは自分の考えが近しかったことに鼻を高くした。
ラファエルは自分が転生者だと考えているが、実は転移者である。
だが転生者と転移者は大きく違う。
転移者は自分の意思で世界を渡ってくることが大半だからだ。
その点で言えばラファエルは稀有な存在である。
転移者は世界渡りに関しての覚悟が違う。
転生者は強制的に世界渡りをさせられている。
唯一の共通点は、異世界での記憶があるということでしかない
五郎にしても、守にしても無理やり異世界に連れて来られた訳ではない。
自らの意思を問われて転移しているのだから。
「にしても解せんな」
「と言いますと?」
「そのシマノとやらも同盟に関わっているのでは無いのか?それに今回の襲撃についてもそいつが関わっている可能性があるということか?・・・それに神として名を冠していないというのが分からん、いったいどんな能力を持っているのやら・・・」
「シマノの能力については噂が無茶苦茶です」
ラファエルは興味を覚えた。
「因みにどんな噂なんだ?」
「一瞬で畑の作物を育てたとか、空を飛んだとか、はたまた瞬間移動したとかで御座います、どうにも信じられません」
「・・・だろうな」
ラファエルは唖然としていた。
(そんな事が出来るなんてあり得ないだろう・・・噂が一人歩きしているに違いない、本当にそんなことが出来るのならば、創造神以外にあり得ない・・・あり得ん!俺以外にそんな存在は認めることは出来ん!シマノ‼許せん‼)
ラファエルは勝手に守を一方的に恨みだした。
まだ噂の粋を出てはいないのに。
でもその噂は全て事実であることに変わりはないのだが・・・
守に対して創造神に成るのは俺である、誰にも先を越させはしないと、敵愾心を燃え上がらせていた。
守にしてみれば、勝手な逆恨みでしかない。
勘弁して欲しいところである。
先程までのラファエルは何処にいったのやら。
茫然自失としていたラファエルは、ここに来て正気を取り戻してきたかに見えるが、実は少し違っている。
何とかして挽回しないと全てが終わってしまうと理解していたからだ。
そこで敵となる者が現れたのはラファエルに取っては僥倖だった。
自分を奮い立たせ、信者をも奮い立たせることが出来るのだと。
今回の件の全てを主導した者は、そのシマノであるとしてしまえば、今一度宗教は立て治せるのでは無いかと閃いたからだ。
ラファエルは演じることにした。
神を名乗る不届き者を成敗する神に成るのだと。
実際、今回の件を主導したのは偶然にも守である。
その事に間違いは無い。
偶然と事実が重なりあってしまっていた。
守にとっては良い風向きではない。
ここはラファエルに幸運が舞込んで来た結果であった。
「ふん!観えたぞ‼」
不意にラファエルは宣言する。
「今回の件の首謀者はそのシマノであろう!我が王国を揺るがす悪意の者はその者に違いない。よいか!その者を我が宗教において命じる、その者を神敵とせよ‼」
「「「「は‼‼‼」」」」
五人の老師全員が頷いていた。
こうして守は『イヤーズ』の神敵と定められたのであった。
守にとっては迷惑この上ない話である。
だがその教義が根づくのかはこれからの話であり、それよりも『イヤーズ』の国民の大半はもうこの国を見放そうとしていたのである。
どうなるのかは創造神とその妻しか知らないのであった。
守も知ることは出来るのだが、守はそんな気はさらさら無い。
守はあまり時間軸には触れたくないと考えていたからだ。
現に守は今この時も、愛して止まないサウナで整っていたのだから。
お気軽この上ない守であった。
そして、ラファエルは知らなかった。
この会議の一部始終をクモマルの配下の蜘蛛達が全て聞いていたことを。
ものの数時間後にはクモマルによって、守に全てを伝えられていたのである。
一人静かに憤慨するクモマルがそこにはいた。
クモマルにしては珍しく、本気で憤怒していたのだった。
俺は猛烈に感動していた。
それはサウナ島に連れて行くと約束したダイコクさんとポタリーさんを迎えに、転移してポタリーさんの工房に足を踏み入れたからだった。
そこには数々の芸術品を超えた陶磁器が飾られていたのだ。
「ポタリーさん・・・この芸術品を俺は何時間でも眺めていられますよ・・・」
「旦那、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」
心を掴まれるとはこういうことを言うんだろう。
ポタリーさんの陶磁器は芸術品という枠には収まっていない。
それを有に超えている。
先程言った台詞ではないが、本当にいつまでも陶磁器を眺めていられると思ってしまった。
それほどまでに素晴らしいと魂で感じてしまったのだ。
それは俺だけでは無かった。
付いてきたギルとゴンは無言で涙を流していた。
「これは・・・ポタリーさんの魂が刻まれていますね・・・」
もうこれ以上のコメントは何を言っても陳腐に聞こえてしまうだろう。
どうしたらここまで物に魂を込めることができるのだろうか。
気が付くと俺は金貨五百枚にもなる買い物をしてしまっていた。
「旦那は太っ腹だねえー、いやー。嬉しいよ!」
ポタリーさんに背中をバシバシと叩かれてしまった。
その姿をダイコクさんが横目で眺めていた。
何か言いたげな眼をしていたが、俺は無視した。
どうせ『ルイベント』にも金を落とせ的なことを言われるに決まっている。
残念ながら『ルイベント』には俺のお眼鏡に適う品物は無い。
ある意味北半球で初めて購買意欲を掻き立てられた出来事だった。
この素晴らしい陶磁器を何処に飾ろうかと考えるだけでも楽しい。
良い買い物が出来たと思う。
ゴンも珍しく金貨百枚近くも支払う買い物をしていた。
ギルは・・・一人悔しがっていた。
決してお金が無いわけではない。
ただ俺に、
「ギル、お前これを割らない自信があるのか?無いなら止めといた方がいいぞ」
と言われて、割らない自信がなかったみたいだ。
実はギルの部屋は結構散らかっている。
ギルはどうにも捨てられない性分だった。
しょうがない部分もあるにはある。
それはギルは子供達からの人気が高く、よく子供達からプレゼントを貰ったりするからだ。
似顔絵の絵であったり、これは何なのか?とよく分からない工作品等いろいろだ。
捨てられない気持ちはよく分かる。
俺も捨ててはいない。
ギルと同様に俺も子供達や魔物達からよくプレゼントを貰うからだ。
俺は『収納』に保管しているだけだからね。
けっして『収納』に捨てている訳ではないからね。
因みに綺麗好きのゴンはマジックバックに保管している。
たいして俺と変わらない。
そんなことはいいとしてだ。
ダイコクさんとポタリーさんをサウナ島にご招待しなければいけない。
ポタリーさんに関しては神様ズにも紹介しないとね。
神様ズに関しては、どうやらダイコクさんから話は既に聞いてはいるみたいだが、こればかりは会ってみないと分からないだろう。
ダイコクさんの主観が入っているかもしれないしね。
まあ会ってみれば分かるでしょう。
早速『シマーノ』に転移して転移扉を目指した。
ポタリーさんは転移扉を見ると繁々と眺めていた。
「旦那、これが転移扉なんだね?あたいが開けてみてもいいかい?」
「ええ、どうぞ、遠慮なく!」
「すなまいねえ」
ポタリーさんは転移扉のノブに手を掛けると、勢いよく転移扉を開いた。
そこには『サウナ島』の受付が待ち受けていた。
ポタリーさんは驚いている。
自分で開けてはみたが、想像以上の出来事だったみたいだ。
「ポタリー、気持ちは分かるで、わても最初はそうやった」
ダイコクさんが先輩ぶっている。
ポタリーさんは気に入らなかったのか、ダイコクさんを一睨みした。
どうにもダイコクさんはポタリーさんに要らない一言を言ってしまうみたいだ。
ダイコクさん・・・惚れている女性にそれは返ってよくないアプローチではないですか?
恋愛下手な俺でもそれぐらい分かりますっての。
「さあさあ、入りましょう」
俺は二人に中に入る様に誘導した。
手慣れたダイコクさんが我先にと転移扉を潜っていった。
いや、そこはレディーファーストでしょうよ。
まあいいや。
ポタリーさんもダイコクさんに続いた。
「ダイコク様、ポタリー様、お待ちしておりました」
エリカが出迎えてくれていた。
今回のアテンドはエリカに任せることにしたのだった。
北半球を知る者がアテンドした方が何かと良いのではないかと、俺は考えたからだ。
それにエリカからは、
「ポタリー様とは一度じっくりとお話したいと思っておりました。謝って済むことではありませんが、私は何もできませんでしたから・・・」
ポタリーさんに謝罪したいということだった。
エリカに否は無いのだが、投獄されているのを知っていて、何も出来なかったことを悔やんでいるみたいだ。
真面目なエリカらしいことだった。
ポタリーさんにしてみれば、何を謝われているのか分からないかもしれないが、それでエリカの気が晴れるのならいいだろう。
ポタリーさんなら当然受け止めてくれるだろうし。
それにこの二人の関係性から、もしかしたら新たな情報が得られるかもしれないとの期待もあった。
あれば良いなという程度に捕らえているのだけどね。
ここから先はエリカに任せて俺はやるべきことに向かうことにした。
俺はクモマルを迎えに行き、クモマルと打ち合わせを行う予定でいた。
この時実は本当の意味でクモマルは島野一家の家族に成っている。
クモマルは聖獣に進化していたのだった。
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