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新たな旅立ち
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**有紀**
ゴールデンウイークが終わった五月の中頃、LCCを使い、沖縄へ向かった。
沖縄は小学六年の夏休みに、家族で旅行した。
美ら海水族館に玉泉洞、首里城や平和記念公園などを見てまわった記憶がある。
弟の駿太はまだ小学ニ年生で、国際通りで迷子になったりしていた。
真夏の沖縄は、焼け焦げそうなほどの日差しだったけれど、私は南国のほんわかしたムードがとても気にいった。
将来こんなところでのんびり暮らしてみたいと、子ども心にそう思ったことを覚えている。
そんな思いもあって、次の居住地を沖縄にした。看護師は全国どこでも不足しているから、勤め先はすぐに決められるはず。
あの寒い札幌のアパートで、失恋の痛手から立ち直るのは時間がかかりそうだったし、もう一つの目的もある。
妊娠をしていたのは麗奈さんだけではなかったのだ。
私が妊娠 ⁉︎
にわかには信じられなかった。不妊症なのだろうと、勝手に思い込んでいたのだった。
確かに遼介は積極的に子供を作ろうという気持ちに欠けていた。
だけど、二年も子供ができなかったのだ。だから、妊娠を知ったときには飛び上がりそうなほど驚いた。
それは不思議な感覚だった。
父親のいない子を妊娠してしまったのだから当然、動揺も困惑もした。
それでも、嬉しかった。
やっと自分にも赤ちゃんが生まれるということに。
産んでしまえはこっちのものだ。シングルマザーだろうとなんだろうとかまうものか。私の子供なのだから。
だけど、さすがに実家の両親と遥香を説得する自信はなかった。
地元にいればなにかと噂になるだろうし、中学の教師をしている母は忙し過ぎて、なんのアテにも出来ない。だから、かえって見知らぬ土地の方が都合がいいのだ。
そこそこの貯金もあるし、なんとかなると思う。もうアパートも次の職場もネットで目ぼしいところはチェックしている。
決まるまでは、しばらくホテル住まいになると思うけど。悪阻も特にひどくはなく、普通に働けそうだ。産休になるまで頑張って働く。
両親にはそのうち、出来ちゃった婚をしたけど、別れたとかなんとか言っておけばいい。離婚したばかりなのにあきれられると思うけれど、仕方がない。
心配ばかりかけて、ごめんなさい。
機中であれこれと考えているうちに、窓からうす暗い沖縄の海が見えて来た。 明るい日中であればエメラルドグリーンの海なのだろう。
午後の7時も過ぎて、チラチラ光る夜景がぼんやりと見えていたけれど、夜のわりに外は明るかった。
新千歳から成田で乗り継ぎ、約6時間かけて、那覇空港に到着した。
……予定時刻より到着が遅れ、大変ご迷惑をお掛けしましたこと、お詫びいたします。本日も○○エアラインをご利用いただき、ありがとうございました。
客室乗務員のアナウンスが流れ、ベルト解除のサインが出たと同時に、客室内は帰り支度を急ぐ人たちがバタバタと動きだす。
ベルトをはずし、下腹部に手をあてて、そっと話しかける。
「着いたよ、赤ちゃん。沖縄だよ。ここでふたりの生活が始まるんだよ」
ゴロゴロとスーツケースを引きずり、到着ロビーを出口に向かって進んだ。
” めんそーれ ” と大きく書かれた文字が見えた。
案内表示に従って、モノレール乗り場へと急ぐ。こちらでは、モノレールではなく、ゆいレールと言うらしい。
まだ五月の半ばだというのに、一歩外へ出ると、ムッとする空気に包まれた。
もうすっかり夏なんだ。
カーディガンを脱いで腰に巻きつけ、ゆいレールに乗る。
たったの二両しかない車内は、少し混んでいたけれど、運よく座れた。
沖縄特有の三線《さんしん》の音楽がながれている。
あたたかな空気と三線の音に包まれて、とうとう南の島へやって来たのだと実感する。
頑張らないと。
赤ちゃんがいるんだから。
妊娠していなかったら、今も失恋から立ち直れていなかったかも知れない。
あの忌まわしい記憶さえも、ありがたく思えるのだから。
みんな、赤ちゃん、あなたのおかげだよ。
ゴールデンウイークが終わった五月の中頃、LCCを使い、沖縄へ向かった。
沖縄は小学六年の夏休みに、家族で旅行した。
美ら海水族館に玉泉洞、首里城や平和記念公園などを見てまわった記憶がある。
弟の駿太はまだ小学ニ年生で、国際通りで迷子になったりしていた。
真夏の沖縄は、焼け焦げそうなほどの日差しだったけれど、私は南国のほんわかしたムードがとても気にいった。
将来こんなところでのんびり暮らしてみたいと、子ども心にそう思ったことを覚えている。
そんな思いもあって、次の居住地を沖縄にした。看護師は全国どこでも不足しているから、勤め先はすぐに決められるはず。
あの寒い札幌のアパートで、失恋の痛手から立ち直るのは時間がかかりそうだったし、もう一つの目的もある。
妊娠をしていたのは麗奈さんだけではなかったのだ。
私が妊娠 ⁉︎
にわかには信じられなかった。不妊症なのだろうと、勝手に思い込んでいたのだった。
確かに遼介は積極的に子供を作ろうという気持ちに欠けていた。
だけど、二年も子供ができなかったのだ。だから、妊娠を知ったときには飛び上がりそうなほど驚いた。
それは不思議な感覚だった。
父親のいない子を妊娠してしまったのだから当然、動揺も困惑もした。
それでも、嬉しかった。
やっと自分にも赤ちゃんが生まれるということに。
産んでしまえはこっちのものだ。シングルマザーだろうとなんだろうとかまうものか。私の子供なのだから。
だけど、さすがに実家の両親と遥香を説得する自信はなかった。
地元にいればなにかと噂になるだろうし、中学の教師をしている母は忙し過ぎて、なんのアテにも出来ない。だから、かえって見知らぬ土地の方が都合がいいのだ。
そこそこの貯金もあるし、なんとかなると思う。もうアパートも次の職場もネットで目ぼしいところはチェックしている。
決まるまでは、しばらくホテル住まいになると思うけど。悪阻も特にひどくはなく、普通に働けそうだ。産休になるまで頑張って働く。
両親にはそのうち、出来ちゃった婚をしたけど、別れたとかなんとか言っておけばいい。離婚したばかりなのにあきれられると思うけれど、仕方がない。
心配ばかりかけて、ごめんなさい。
機中であれこれと考えているうちに、窓からうす暗い沖縄の海が見えて来た。 明るい日中であればエメラルドグリーンの海なのだろう。
午後の7時も過ぎて、チラチラ光る夜景がぼんやりと見えていたけれど、夜のわりに外は明るかった。
新千歳から成田で乗り継ぎ、約6時間かけて、那覇空港に到着した。
……予定時刻より到着が遅れ、大変ご迷惑をお掛けしましたこと、お詫びいたします。本日も○○エアラインをご利用いただき、ありがとうございました。
客室乗務員のアナウンスが流れ、ベルト解除のサインが出たと同時に、客室内は帰り支度を急ぐ人たちがバタバタと動きだす。
ベルトをはずし、下腹部に手をあてて、そっと話しかける。
「着いたよ、赤ちゃん。沖縄だよ。ここでふたりの生活が始まるんだよ」
ゴロゴロとスーツケースを引きずり、到着ロビーを出口に向かって進んだ。
” めんそーれ ” と大きく書かれた文字が見えた。
案内表示に従って、モノレール乗り場へと急ぐ。こちらでは、モノレールではなく、ゆいレールと言うらしい。
まだ五月の半ばだというのに、一歩外へ出ると、ムッとする空気に包まれた。
もうすっかり夏なんだ。
カーディガンを脱いで腰に巻きつけ、ゆいレールに乗る。
たったの二両しかない車内は、少し混んでいたけれど、運よく座れた。
沖縄特有の三線《さんしん》の音楽がながれている。
あたたかな空気と三線の音に包まれて、とうとう南の島へやって来たのだと実感する。
頑張らないと。
赤ちゃんがいるんだから。
妊娠していなかったら、今も失恋から立ち直れていなかったかも知れない。
あの忌まわしい記憶さえも、ありがたく思えるのだから。
みんな、赤ちゃん、あなたのおかげだよ。
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