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32.第二王子
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sideレティシア
王宮に団長様と共に呼ばれ、第二王子と面会をした。薄暗い光が絢爛な壁画を照らし、重厚な雰囲気が広がっていた。
高貴な雰囲気が漂う広間に足を踏み入れると、緊張が体を包む。
今日必ずお願いしなくてはいけないことが私にはある。
「ロラン子爵令嬢、今回の救出に尽力してくれたと聞く。あなたの助けもあったからこそ、無事にこの場にいることができる。心からの礼をいう」
「もったいないお言葉です」
王の資質を持った第二王子殿下は、ただ立つだけでその場の空気を引き締めるような威厳を放っていた。長身で整った顔立ち、透き通るような金髪が光を反射し、上品さと力強さを兼ね備えている。視線は常に冷静で、だがどこか深遠な洞察力を持ち、話す言葉ひとつひとつが優雅に響く。
「表立って功績を認められたくないということで、このような形になったが、何か礼をさせてほしい」
王子殿下が私に言葉を続ける。
「何か希望はあるか?」
少しの間を置いて、冷静に言葉を紡ぐ。
「……スヴェイン様を傷つけた者への報復。それのみが、私の希望です」
その言葉が、自分の耳に響き、冷たさが指先を走る。
「お、おい」
団長様が慌てて驚いた声をあげる。
「そうだな。……まず、スヴェインたちと捕虜になった時、私を庇ってスヴェインは大けがをした。その者の顔は忘れはしない。これについては楽に死なせる真似はしないと約束しよう」
話が分かる王子殿下だわ。
「ありがとうございます。悶え苦しむ毒草の用意はできます。いえ、用意しますので使ってください」
何ならもう用意してある。
「ああ。必ず使おう。だか、令嬢の言う傷つけた者の中には、……王族も入っているのだよな」
「王子殿下!」
団長が再び慌てた様子で叫ぶ。
「団長、よいのだ。それに関しては、私にも思うところがある」
王子殿下の言葉に少しの間、静寂が広がる。
思うところ……命を狙われたと同じですものね。
「今回の会談において当初から指定された人数のみで行く予定でしたか?」
慎重に尋ねる。
「兄である第一王子の近衛隊も離れた場所で待機するはずだった。しかし、実際は……」
少し言葉を切り、視線を落とす。
「兄に問い詰めたところで、『約束を破ったとばれてしまい、上手くいかなかったらと考えての決定だ』と言われるだろう。しかし、何も相談がなかったことと、私の命、いや、皆の命を軽く扱ったことには間違いない」
その通りよ! 団長様も強く頷く。
「第一王子の判断が、国王陛下に把握できないわけはないと考えてもよろしいのでしょうか?」
第二王子はゆっくりと顔を上げ、静かに視線を私に向ける。 その瞳は冷たい光を湛え、真剣な色がじっと私を捉えている。
「ああ、私の命を大事に思っていないのは、父上もということだ」
その言葉に、室内全体が一瞬で張り詰めた空気に包まれる。
微かに呼吸が止まり、誰もがその重い言葉に動きを一瞬止めたようだ。
「隊の者にも家族がおります。忠誠心を揺るがすこのような事態は看過できませんわ」
隊の中にも、ただ任務に尽くすだけでなく、家族を持ち、妻子の待つ者がいる。それら全ての思いが、この危機にさらされることに対する怒りや不満が込み上げる。
「そうだな。それに、あのまま助からなければ、国の危機であったことすらわからないとは……いくら支えたとしてもこの国の未来は危うい。……王位など望んではいなかったが、これで腹をくくった。私は、王位につく」
王位を望まなかったという彼の言葉に、心の中に複雑な感情が湧き上がる。でも、覚悟を決めてくださったのね。
「よいのですか、そのような大事なことをこの場で言っても」
団長様が眉を寄せ、心配そうに言葉を紡ぐ。
「ああ、2人が先発で陣を見に来たのだろう。作戦も立ててくれたと聞く。2人こそ知るべきだ」
重厚な言葉の中に、余計な感情はない。
「国王と第一王子はどうするおつもりですか?」
ただ追い出すというのには納得ができない。そんな思いが顔に出ていたのか、王子殿下が苦笑いのまま話す。
「悪いが、命をとることはできない。だが、フロストウィンド地方に行ってもらう」
確かに、自分の王としてのスタートに、肉親の死があっては悪しき王として後世に語り継がれる。
その言葉に、ふっと息を吐き考える。
離れた土地に追いやること、それが最善策なのか。
フロストウィンド地方、極寒の地ね……。目を細め、過酷な地の情景が思い浮かべる。年中、雪と氷に覆われた大地。その土地で生きる者たちは、物資も少なく、厳しい環境で一生を耐え忍ぶ……。
……王たちには粗悪な物資しか行かないよう手を打つわ。
過酷な地で過酷に暮らせばいい。もっと重い罰を望んでいたが、このあたりで手を打つのが最善ね。
「承知いたしました」
「ところで、スヴェインの意識が戻ったと聞いたが」
「ええ、お話しできるまでに回復なさいました」
だからお話が終わった今、早くおそばに行きたい。
「スヴェインには私付きの近衛隊長のままでいてもらうつもりだ。次の国王の近衛隊長だ。これから忙しくなるから、もうしばらくはゆっくりさせたい。もし私が今後スヴェインを傷つけることになったら……報復は要相談だな。はは」
はは。じゃないわよ。絶対やめて。
「令嬢の言う報復は、私が王位に就くためには必要なものだから、礼にはならない。もうすでに動き出していることだしな。だから、ああ、そうだ! 2人の結婚式には礼として何か特別なものを考えよう。楽しみにしていてくれ」
……結婚式! そうよ。バタバタしていたけど、準備に取り掛からないと。
でも、結婚式の前に……。
王宮に団長様と共に呼ばれ、第二王子と面会をした。薄暗い光が絢爛な壁画を照らし、重厚な雰囲気が広がっていた。
高貴な雰囲気が漂う広間に足を踏み入れると、緊張が体を包む。
今日必ずお願いしなくてはいけないことが私にはある。
「ロラン子爵令嬢、今回の救出に尽力してくれたと聞く。あなたの助けもあったからこそ、無事にこの場にいることができる。心からの礼をいう」
「もったいないお言葉です」
王の資質を持った第二王子殿下は、ただ立つだけでその場の空気を引き締めるような威厳を放っていた。長身で整った顔立ち、透き通るような金髪が光を反射し、上品さと力強さを兼ね備えている。視線は常に冷静で、だがどこか深遠な洞察力を持ち、話す言葉ひとつひとつが優雅に響く。
「表立って功績を認められたくないということで、このような形になったが、何か礼をさせてほしい」
王子殿下が私に言葉を続ける。
「何か希望はあるか?」
少しの間を置いて、冷静に言葉を紡ぐ。
「……スヴェイン様を傷つけた者への報復。それのみが、私の希望です」
その言葉が、自分の耳に響き、冷たさが指先を走る。
「お、おい」
団長様が慌てて驚いた声をあげる。
「そうだな。……まず、スヴェインたちと捕虜になった時、私を庇ってスヴェインは大けがをした。その者の顔は忘れはしない。これについては楽に死なせる真似はしないと約束しよう」
話が分かる王子殿下だわ。
「ありがとうございます。悶え苦しむ毒草の用意はできます。いえ、用意しますので使ってください」
何ならもう用意してある。
「ああ。必ず使おう。だか、令嬢の言う傷つけた者の中には、……王族も入っているのだよな」
「王子殿下!」
団長が再び慌てた様子で叫ぶ。
「団長、よいのだ。それに関しては、私にも思うところがある」
王子殿下の言葉に少しの間、静寂が広がる。
思うところ……命を狙われたと同じですものね。
「今回の会談において当初から指定された人数のみで行く予定でしたか?」
慎重に尋ねる。
「兄である第一王子の近衛隊も離れた場所で待機するはずだった。しかし、実際は……」
少し言葉を切り、視線を落とす。
「兄に問い詰めたところで、『約束を破ったとばれてしまい、上手くいかなかったらと考えての決定だ』と言われるだろう。しかし、何も相談がなかったことと、私の命、いや、皆の命を軽く扱ったことには間違いない」
その通りよ! 団長様も強く頷く。
「第一王子の判断が、国王陛下に把握できないわけはないと考えてもよろしいのでしょうか?」
第二王子はゆっくりと顔を上げ、静かに視線を私に向ける。 その瞳は冷たい光を湛え、真剣な色がじっと私を捉えている。
「ああ、私の命を大事に思っていないのは、父上もということだ」
その言葉に、室内全体が一瞬で張り詰めた空気に包まれる。
微かに呼吸が止まり、誰もがその重い言葉に動きを一瞬止めたようだ。
「隊の者にも家族がおります。忠誠心を揺るがすこのような事態は看過できませんわ」
隊の中にも、ただ任務に尽くすだけでなく、家族を持ち、妻子の待つ者がいる。それら全ての思いが、この危機にさらされることに対する怒りや不満が込み上げる。
「そうだな。それに、あのまま助からなければ、国の危機であったことすらわからないとは……いくら支えたとしてもこの国の未来は危うい。……王位など望んではいなかったが、これで腹をくくった。私は、王位につく」
王位を望まなかったという彼の言葉に、心の中に複雑な感情が湧き上がる。でも、覚悟を決めてくださったのね。
「よいのですか、そのような大事なことをこの場で言っても」
団長様が眉を寄せ、心配そうに言葉を紡ぐ。
「ああ、2人が先発で陣を見に来たのだろう。作戦も立ててくれたと聞く。2人こそ知るべきだ」
重厚な言葉の中に、余計な感情はない。
「国王と第一王子はどうするおつもりですか?」
ただ追い出すというのには納得ができない。そんな思いが顔に出ていたのか、王子殿下が苦笑いのまま話す。
「悪いが、命をとることはできない。だが、フロストウィンド地方に行ってもらう」
確かに、自分の王としてのスタートに、肉親の死があっては悪しき王として後世に語り継がれる。
その言葉に、ふっと息を吐き考える。
離れた土地に追いやること、それが最善策なのか。
フロストウィンド地方、極寒の地ね……。目を細め、過酷な地の情景が思い浮かべる。年中、雪と氷に覆われた大地。その土地で生きる者たちは、物資も少なく、厳しい環境で一生を耐え忍ぶ……。
……王たちには粗悪な物資しか行かないよう手を打つわ。
過酷な地で過酷に暮らせばいい。もっと重い罰を望んでいたが、このあたりで手を打つのが最善ね。
「承知いたしました」
「ところで、スヴェインの意識が戻ったと聞いたが」
「ええ、お話しできるまでに回復なさいました」
だからお話が終わった今、早くおそばに行きたい。
「スヴェインには私付きの近衛隊長のままでいてもらうつもりだ。次の国王の近衛隊長だ。これから忙しくなるから、もうしばらくはゆっくりさせたい。もし私が今後スヴェインを傷つけることになったら……報復は要相談だな。はは」
はは。じゃないわよ。絶対やめて。
「令嬢の言う報復は、私が王位に就くためには必要なものだから、礼にはならない。もうすでに動き出していることだしな。だから、ああ、そうだ! 2人の結婚式には礼として何か特別なものを考えよう。楽しみにしていてくれ」
……結婚式! そうよ。バタバタしていたけど、準備に取り掛からないと。
でも、結婚式の前に……。
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