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そっくり
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なんなんだ彼女は…確かに俺はゲイだが…母親の彼氏に虐げられてきた少年を自分の思うがまま、いいようにしようとは思わない。
ただ、あの少年の目は本当にモモにそっくりなんだよな。
スマホの写真ホルダーを開いてモモの写真を眺めていた。
モモはつぶらな瞳がかわいいメスのバーニーズマウンテンドックという大型犬だった。俺の家は小さい頃から犬を飼っていた。両親揃って動物が好きなのもあった。そのため俺は1人暮らし用のマンションはあるものの実家に帰ることが多かった。特にモモに会いに…実家には他にも犬を3匹、猫を2匹飼ってたが、特にモモは可愛いかった。そして俺の帰りをいつも玄関で待っていてくれた。
モモとの出会いは、たまたま仕事の視察で行った地方で保護施設の譲渡会をやっていたときだった。モモを一目で気に入った俺はモモ引き取った。もう6年も前のことだ。1歳だったモモは前の飼い主が病気になったため飼えなくなって保護施設にきた。でも、ほぼ成犬に近く大きい体だった為、なかなか引き取り手がいなかったようだ。
そんなモモを飼い始めた夏のある日、最近元気がないな。と思っていた。きっと夏バテかな?なんてのんきに思っていたが、散歩中にモモの血尿に気付き病院で検査をしてもらった。血液検査の結果でわかったのは「自己免疫介在性溶血性貧血」とやけに難しい名前の病名だった。
簡単に言うと、自分で自分の赤血球を攻撃して破壊してしまう。そのため重度の貧血を起こしてしまう。モモはわかったときにはかなり重症で生存率は低いと言われていた。それでも何とかモモを助けたいと思っていた。輸血もしたが、一時的ですぐに数値が悪くなった。薬を飲んでも気休め程度にしか良くならず、貧血で起き上がるのもやっとになってしまい大好きな散歩にも行けなくなった。たまたま俺が休みの日、俺の腕枕で横になってたモモはそのまま虹の橋を渡って行った。本当に最後まで甘えん坊で、俺に懐いてくれて愛らしい子だった。また会いたいと思っていたモモのあの目とそっくりのこの少年を絶対に守って幸せにしてあげたい。俺がモモにできなかったことを…そんなことを考えていたら
「まだ彼は目が覚めないが病室に来るか?卓也が付いててくれてるが…」
相原先生が声をかけてくれた。
相原先生と一緒に個室に入ると大きいベッドに点滴や呼吸器をつけた彼が寝ていた。顔はまだ青白かった。このまま目が覚めないんじゃないかと思い俺は彼の手を握った。
「温かい」
「当たり前だろ。俺だって助けてやりたいよ」
「樹、これからどうする?相原先生に頼んで一旦帰るか?」
「いや…今日は付いててやりたい」
「でもお前も俺も喪服のまんまだぞ、着替えないと…」
「あぁ…適当に服、持ってきてくれないか?」
「わかった。取りに行ってくるよ」
「卓也、悪いな」
そう言うと片手をあげて卓也は出て行った。
「ずいぶん思い入れがその子にありそうだね」
「いゃ…まぁ…似てるんです」
「似てる?誰に?」
「昔飼ってた犬です」
「その子が?」
「はい。目がそっくりで」
「それでわざわざ自分の所に囲おうって?」
「囲おうなんて…」
「まぁ…それでもこの子が嫌だと言ったらどうする?手放せるのか?この子は人だぞ?犬猫とは違う。怪我が治って1人で生きていくって言うかもしれない」
「そうですよね」
そうだ、いくら似てるとはいえ、この子は人間だ。自分の意思もあるだろう。それでも、この子に愛情を注げば注ぐだけ、きっとモモのように甘えてくれるんじゃないか。モモにあげれなかった幸せをこの子に…そう思ってしまう自分がいた。
「じゃあとりあえず俺は医局に戻るから何かあったらナースコール押してね」
そう言って相原先生は部屋を出て行った。それと入れ違いで卓也が戻ってきた。
「樹、服持ってきたけど、着替えてこいよ」
「ありがとう」
「それにしても、他人にも興味を示さないお前がこんな赤の他人を世話しようなんて、どんな気の迷いだ?」
「気の迷いって…まぁそうかもしれないな…似てるんだよモモに」
「モモにか?人間と犬だぞ?違うだろ」
「俺にはモモに目と、この子が似てるんだよ」
「でもお前、これからどうするんだよ」
「とりあえず、八巻先生に相談してみるよ。あの親は、もう成人なんだから自分は関係ないって出てっていったから」
「そうか、でもこの子はいつ目が覚めるんだ?」
「あと数時間後には覚めるっていってたけどな。かわいそうに」
「もしかして、この子に一目惚れか?」
「違うだろ?モモに似てるんだって」
「モモに似てるから好きになったんだろ?」
「だから…」
「んっん…」
俺たちが起きな声で話していたせいか、身じろいだ。
起きたか?でもその顔は苦しそうで眉をギュッと寄せていた。
「大丈夫か?」
そう声をかけても目は閉じたままだった。すると
「ごめ…ん…な…さい」
くぐもった小さな声が聞こえた。
あの親にあれだけ罵声を浴びせられたんだ、どんなに傷ついてるんだろう。俺には想像もつかないが、苦しそうなその姿がかわいそうで、頭を撫でてやる。柔らかい髪に手を差し込むと額に汗が光っていた。卓也がすぐに気づき、タオルを持ってきてくれたので、そっと汗を拭ってやった。
「早く良くなれ。早くよくなれ」そう言いながら、しばらく彼の髪を撫で続けた。
ただ、あの少年の目は本当にモモにそっくりなんだよな。
スマホの写真ホルダーを開いてモモの写真を眺めていた。
モモはつぶらな瞳がかわいいメスのバーニーズマウンテンドックという大型犬だった。俺の家は小さい頃から犬を飼っていた。両親揃って動物が好きなのもあった。そのため俺は1人暮らし用のマンションはあるものの実家に帰ることが多かった。特にモモに会いに…実家には他にも犬を3匹、猫を2匹飼ってたが、特にモモは可愛いかった。そして俺の帰りをいつも玄関で待っていてくれた。
モモとの出会いは、たまたま仕事の視察で行った地方で保護施設の譲渡会をやっていたときだった。モモを一目で気に入った俺はモモ引き取った。もう6年も前のことだ。1歳だったモモは前の飼い主が病気になったため飼えなくなって保護施設にきた。でも、ほぼ成犬に近く大きい体だった為、なかなか引き取り手がいなかったようだ。
そんなモモを飼い始めた夏のある日、最近元気がないな。と思っていた。きっと夏バテかな?なんてのんきに思っていたが、散歩中にモモの血尿に気付き病院で検査をしてもらった。血液検査の結果でわかったのは「自己免疫介在性溶血性貧血」とやけに難しい名前の病名だった。
簡単に言うと、自分で自分の赤血球を攻撃して破壊してしまう。そのため重度の貧血を起こしてしまう。モモはわかったときにはかなり重症で生存率は低いと言われていた。それでも何とかモモを助けたいと思っていた。輸血もしたが、一時的ですぐに数値が悪くなった。薬を飲んでも気休め程度にしか良くならず、貧血で起き上がるのもやっとになってしまい大好きな散歩にも行けなくなった。たまたま俺が休みの日、俺の腕枕で横になってたモモはそのまま虹の橋を渡って行った。本当に最後まで甘えん坊で、俺に懐いてくれて愛らしい子だった。また会いたいと思っていたモモのあの目とそっくりのこの少年を絶対に守って幸せにしてあげたい。俺がモモにできなかったことを…そんなことを考えていたら
「まだ彼は目が覚めないが病室に来るか?卓也が付いててくれてるが…」
相原先生が声をかけてくれた。
相原先生と一緒に個室に入ると大きいベッドに点滴や呼吸器をつけた彼が寝ていた。顔はまだ青白かった。このまま目が覚めないんじゃないかと思い俺は彼の手を握った。
「温かい」
「当たり前だろ。俺だって助けてやりたいよ」
「樹、これからどうする?相原先生に頼んで一旦帰るか?」
「いや…今日は付いててやりたい」
「でもお前も俺も喪服のまんまだぞ、着替えないと…」
「あぁ…適当に服、持ってきてくれないか?」
「わかった。取りに行ってくるよ」
「卓也、悪いな」
そう言うと片手をあげて卓也は出て行った。
「ずいぶん思い入れがその子にありそうだね」
「いゃ…まぁ…似てるんです」
「似てる?誰に?」
「昔飼ってた犬です」
「その子が?」
「はい。目がそっくりで」
「それでわざわざ自分の所に囲おうって?」
「囲おうなんて…」
「まぁ…それでもこの子が嫌だと言ったらどうする?手放せるのか?この子は人だぞ?犬猫とは違う。怪我が治って1人で生きていくって言うかもしれない」
「そうですよね」
そうだ、いくら似てるとはいえ、この子は人間だ。自分の意思もあるだろう。それでも、この子に愛情を注げば注ぐだけ、きっとモモのように甘えてくれるんじゃないか。モモにあげれなかった幸せをこの子に…そう思ってしまう自分がいた。
「じゃあとりあえず俺は医局に戻るから何かあったらナースコール押してね」
そう言って相原先生は部屋を出て行った。それと入れ違いで卓也が戻ってきた。
「樹、服持ってきたけど、着替えてこいよ」
「ありがとう」
「それにしても、他人にも興味を示さないお前がこんな赤の他人を世話しようなんて、どんな気の迷いだ?」
「気の迷いって…まぁそうかもしれないな…似てるんだよモモに」
「モモにか?人間と犬だぞ?違うだろ」
「俺にはモモに目と、この子が似てるんだよ」
「でもお前、これからどうするんだよ」
「とりあえず、八巻先生に相談してみるよ。あの親は、もう成人なんだから自分は関係ないって出てっていったから」
「そうか、でもこの子はいつ目が覚めるんだ?」
「あと数時間後には覚めるっていってたけどな。かわいそうに」
「もしかして、この子に一目惚れか?」
「違うだろ?モモに似てるんだって」
「モモに似てるから好きになったんだろ?」
「だから…」
「んっん…」
俺たちが起きな声で話していたせいか、身じろいだ。
起きたか?でもその顔は苦しそうで眉をギュッと寄せていた。
「大丈夫か?」
そう声をかけても目は閉じたままだった。すると
「ごめ…ん…な…さい」
くぐもった小さな声が聞こえた。
あの親にあれだけ罵声を浴びせられたんだ、どんなに傷ついてるんだろう。俺には想像もつかないが、苦しそうなその姿がかわいそうで、頭を撫でてやる。柔らかい髪に手を差し込むと額に汗が光っていた。卓也がすぐに気づき、タオルを持ってきてくれたので、そっと汗を拭ってやった。
「早く良くなれ。早くよくなれ」そう言いながら、しばらく彼の髪を撫で続けた。
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