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【第五章】日常恋愛編『きみがいるから』
第150話 ほーりゅう
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「男なんだから、こういうときにこそ役に立ってよ!」
初詣。
そんなことを言いながら、明子ちゃんはジプシーを四人の先頭にすえる。
鳥居の下を通ると、左右の道が合流したせいか、とたんに人の数が増えた。
少しでもよそ見をして気を抜くと、すぐにあいだに人が入ってきて、はぐれてしまいそうだ。
わたしはジプシーの後ろにくっついて進んだ。
そのわたしの腕に明子ちゃん、その明子ちゃんの腕に紀子ちゃんがつながる。
「なんで、一番前にこだわるのかな」
「ほら、ぶつぶつ言わないでさっさと進んでよ委員長! 初詣といえば、綱を引っ張って鈴を鳴らさなきゃ、来た気がしないじゃない? 鈴を鳴らして神様の注意をひかなきゃ、願いごとを言っても意味ないってものでしょ!」
そう言い切る明子ちゃんのために、要領良く人の波をかき分けてジプシーは進んだ。
一番前の拝殿のところまでたどり着いたわたしたちは、どうにか本坪鈴の下までやってくる。
お賽銭を投げてから、ほかの人と奪い合うように女の子三人で本坪鈴の鈴緒を揺すった。
それから手を合わせたが、あまりの騒がしさと後ろからの押しで満足に思考がまとまらない。
やっぱりお願いごとは、真夜中の静かな神社で済ませておいて正解だったなぁなんて、わたしは考えた。
形だけ一通り拝んでから、わたしはせっかく先頭だからと賽銭箱の中をのぞきこむ。
あるある。
ニュースで見たことがあるけれど、お札を投げ入れている人って、本当にいるんだなぁ。
そして、わたしは、満足した様子の明子ちゃんたちと一緒に参道の列から横へ抜けだした。
初詣の参拝を終えたあと、わたしたちはファミリーレストランへ入った。
同じように喉を潤そうと入ってくるお客さんで、お店は満席状態となっている。
さっそくわたしは、メニューを広げた。
ケーキでもパフェでも食べられる余裕が、わたしのお腹にはある。
前に座った明子ちゃんと紀子ちゃんは、隣り合ってひとつのメニューを眺めながら、セットになるケーキの種類をあれこれ言い合っていた。
「なに食べる?」
わたしは手にしていたメニューを、隣のジプシーの前へ押しだして聞いてみた。
「珈琲だけでいい」
メニューへ一瞥もくれずに答えたので、わたしは不満げに口を開く。
「甘いもの、嫌いじゃないって前に言っていたよね? なにがあるのか、メニューくらい見たらいいのに」
わたしの文句を聞いて、ジプシーは仕方がなさそうにメニューへ視線を落とした。
その様子を横目に、わたしも自分の分を考える。
「なににしようかなぁ。ケーキセットのザッハトルテが美味しそうだなぁ。でも、フルーツ沢山のタルトも捨てがたいよね……」
そうつぶやきながら、しばらく悩んでいると、ジプシーが言った。
「どちらかをおまえが選べば、違うほうを頼んでやる。おまえが両方を好きに食べればいい」
「本当?」
いい提案をしてくれるなぁ。
いそいそと、わたしは明子ちゃんたちと、店員さんへ注文を伝える。
そして、ケーキセットが届くまで、無言に徹したジプシーをいつも通り放っておいて、女の子だけで盛りあがった。
初詣。
そんなことを言いながら、明子ちゃんはジプシーを四人の先頭にすえる。
鳥居の下を通ると、左右の道が合流したせいか、とたんに人の数が増えた。
少しでもよそ見をして気を抜くと、すぐにあいだに人が入ってきて、はぐれてしまいそうだ。
わたしはジプシーの後ろにくっついて進んだ。
そのわたしの腕に明子ちゃん、その明子ちゃんの腕に紀子ちゃんがつながる。
「なんで、一番前にこだわるのかな」
「ほら、ぶつぶつ言わないでさっさと進んでよ委員長! 初詣といえば、綱を引っ張って鈴を鳴らさなきゃ、来た気がしないじゃない? 鈴を鳴らして神様の注意をひかなきゃ、願いごとを言っても意味ないってものでしょ!」
そう言い切る明子ちゃんのために、要領良く人の波をかき分けてジプシーは進んだ。
一番前の拝殿のところまでたどり着いたわたしたちは、どうにか本坪鈴の下までやってくる。
お賽銭を投げてから、ほかの人と奪い合うように女の子三人で本坪鈴の鈴緒を揺すった。
それから手を合わせたが、あまりの騒がしさと後ろからの押しで満足に思考がまとまらない。
やっぱりお願いごとは、真夜中の静かな神社で済ませておいて正解だったなぁなんて、わたしは考えた。
形だけ一通り拝んでから、わたしはせっかく先頭だからと賽銭箱の中をのぞきこむ。
あるある。
ニュースで見たことがあるけれど、お札を投げ入れている人って、本当にいるんだなぁ。
そして、わたしは、満足した様子の明子ちゃんたちと一緒に参道の列から横へ抜けだした。
初詣の参拝を終えたあと、わたしたちはファミリーレストランへ入った。
同じように喉を潤そうと入ってくるお客さんで、お店は満席状態となっている。
さっそくわたしは、メニューを広げた。
ケーキでもパフェでも食べられる余裕が、わたしのお腹にはある。
前に座った明子ちゃんと紀子ちゃんは、隣り合ってひとつのメニューを眺めながら、セットになるケーキの種類をあれこれ言い合っていた。
「なに食べる?」
わたしは手にしていたメニューを、隣のジプシーの前へ押しだして聞いてみた。
「珈琲だけでいい」
メニューへ一瞥もくれずに答えたので、わたしは不満げに口を開く。
「甘いもの、嫌いじゃないって前に言っていたよね? なにがあるのか、メニューくらい見たらいいのに」
わたしの文句を聞いて、ジプシーは仕方がなさそうにメニューへ視線を落とした。
その様子を横目に、わたしも自分の分を考える。
「なににしようかなぁ。ケーキセットのザッハトルテが美味しそうだなぁ。でも、フルーツ沢山のタルトも捨てがたいよね……」
そうつぶやきながら、しばらく悩んでいると、ジプシーが言った。
「どちらかをおまえが選べば、違うほうを頼んでやる。おまえが両方を好きに食べればいい」
「本当?」
いい提案をしてくれるなぁ。
いそいそと、わたしは明子ちゃんたちと、店員さんへ注文を伝える。
そして、ケーキセットが届くまで、無言に徹したジプシーをいつも通り放っておいて、女の子だけで盛りあがった。
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