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第三章 幽閉塔の姫君編
13 目覚める乙女達
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銃を下ろして、アレキはオスカールから降りると、リコの元へやって来た。
「アレキさん……」
「リコちゃん。あ~、おでこズルむけちゃったな」
ヒリヒリするおでこを、心配そうに覗き込んでいる。
リコを拘束していた氷の輪は、ユーリが去ったので溶け出していた。
「どうしてここがわかったんですか?」
「ミーシャとマニが、泣きながら城に飛び込んで来たんだ。リコちゃんが拐われた、ってさ」
リコは二人が無事で、さらに助けを求めてくれたのだと知って、涙がこみ上げていた。
「そんでオスカールが、リコちゃんの匂いを辿ったんだ。だけど、自力で逃げ出したんだな。偉いぞ。がんばったね」
「あ、ありがとうございます。わ、私……」
ドッと力が抜けて号泣するリコをアレキは抱き上げて、オスカールの上に乗せた。アレキもリコの後ろに乗ると、オスカールは鼻息荒く、町に向かってダッシュした。
「ちょ、待って待って、もう走らなくていいから!」
アレキが手綱を引くと、オスカールはようやく、いつもののんびり歩きに戻った。
「オスカールが……走った」
リコは決して走らないと思っていたオスカールが走り、しかも唸り、牙を剥いていたのに驚いていた。
「うん。オスカールはね、オリヴィエ村長が仕込んだ、優秀な軍用犬だよ。俺がゆっくり歩かせるから、いつもはのんびりしてるけどね」
リコはオスカールが全力で走ってくれたから、アレキに助けてもらえたのだとわかって、オスカールの首にそっと抱きついた。
「オスカール。ありがとう。大好きだよ」
「ワフッ」
オスカールは返事をするように答えてくれた。
リコはこの世界にやって来て、初めて巨大動物と会話ができた気がした。
「リコォ~!」
アレキの金ピカ城に帰ると、マニとミーシャが泣きながら飛び出して来た。リコもオスカールから飛び降りて、二人のもとに泣きながら駆け寄って、三人は固く抱き合った。
中庭での感動の再会を眺めるアレキは「やれやれ」と一息ついて、オスカールを撫でながら水を与えた。
しばらくすると視界に影が落ちので見上げると、アレキは三人娘に囲まれていた。リコもマニもミーシャも、泣きはらした目で毅然とアレキを見下ろしていた。
「ど、どうしたんだ? 三人とも怖い顔して」
ミーシャが一歩、前に出る。
「アレキ様。私たちに、訓練を付けてください」
「へ?」
リコも、一歩前に出る。
「レオ君を鍛えたように、私たちの師匠になってください」
「はぁ?」
マニは二歩、前に出た。
「ああいう野郎をギッタギタに叩きのめす方法を、教えてよ!!」
「ええー!?」
三人のギラギラとした恨み節の殺意に、アレキは仰反る。リコの身に立て続けに起きた誘拐未遂に、女子たちの堪忍袋の緒は、ぶち切れていた。
アレキはしどろもどろになる。
「いや、女の子が戦うなんてさ……」
ミーシャは毅然と、アレキを睨む。
「私はもう、自分の能力に怯えて力を出し惜しむのはやめました。アレキ様。私を立派な風使いにしてください」
「ミーシャ……」
見たことの無いミーシャの勇敢な瞳を、アレキはうるうると見つめて、抱きしめた。
「ミーシャァー! 立派な目つきになって!」
しばらく抱きしめた後、アレキはリコとマニを見上げた。
「お嬢さんたち。覚悟があるなら、俺が戦う手段を教えよう」
マニとリコはパアッと顔を輝かせて、礼をした。
「お願いします! 師匠!」
中庭で、アレキ師匠による講義が始まった。
三人娘はプリンを作る時と同じように、真剣な眼差しだ。
「リコちゃんは同じ能力者に出会って、技の種類を見ただろ?」
「フリーズと、リングです!」
挙手して答えるリコに、アレキは頷く。
「丸パクするんだ。まずはフリーズとリングを、ひたすら練習してご覧」
「はい!」
「そんでミーシャは、風の強度を上げる練習だ。心理的な枷が無くなれば、君はもっと激しい風が起こせるはずだ」
「はい!」
「で、マニちゃんなんだけど」
アレキは一番憤って興奮しているマニを見下ろした。
「能力者じゃないけど、一番戦闘力が高そうだよな。戦うってのは、気概が大事だから」
「あたしはとにかく、ボッコボコにしたいんだ!」
アレキは微笑ましく「うんうん」と頷いて、オスカールの頭に手を置いた。
「マニちゃんは体力があって、体幹も強い。農園で動物の指揮にも慣れてるから、騎乗の練習をしよう」
「はい!」
三人はそれぞれに、自分が為すべき訓練に打ち込み始めた。リコは氷飛沫を上げまくり、ミーシャの竜巻は高速で回転し、マニがオスカールで駆け周っている。
アレキは椅子に座って、乙女たちの殺気が篭る中庭を眺めた。
「こりゃあ~大変なことになったぞ」
教えておきながら、その勢いに戦々恐々としていた。
「アレキさん……」
「リコちゃん。あ~、おでこズルむけちゃったな」
ヒリヒリするおでこを、心配そうに覗き込んでいる。
リコを拘束していた氷の輪は、ユーリが去ったので溶け出していた。
「どうしてここがわかったんですか?」
「ミーシャとマニが、泣きながら城に飛び込んで来たんだ。リコちゃんが拐われた、ってさ」
リコは二人が無事で、さらに助けを求めてくれたのだと知って、涙がこみ上げていた。
「そんでオスカールが、リコちゃんの匂いを辿ったんだ。だけど、自力で逃げ出したんだな。偉いぞ。がんばったね」
「あ、ありがとうございます。わ、私……」
ドッと力が抜けて号泣するリコをアレキは抱き上げて、オスカールの上に乗せた。アレキもリコの後ろに乗ると、オスカールは鼻息荒く、町に向かってダッシュした。
「ちょ、待って待って、もう走らなくていいから!」
アレキが手綱を引くと、オスカールはようやく、いつもののんびり歩きに戻った。
「オスカールが……走った」
リコは決して走らないと思っていたオスカールが走り、しかも唸り、牙を剥いていたのに驚いていた。
「うん。オスカールはね、オリヴィエ村長が仕込んだ、優秀な軍用犬だよ。俺がゆっくり歩かせるから、いつもはのんびりしてるけどね」
リコはオスカールが全力で走ってくれたから、アレキに助けてもらえたのだとわかって、オスカールの首にそっと抱きついた。
「オスカール。ありがとう。大好きだよ」
「ワフッ」
オスカールは返事をするように答えてくれた。
リコはこの世界にやって来て、初めて巨大動物と会話ができた気がした。
「リコォ~!」
アレキの金ピカ城に帰ると、マニとミーシャが泣きながら飛び出して来た。リコもオスカールから飛び降りて、二人のもとに泣きながら駆け寄って、三人は固く抱き合った。
中庭での感動の再会を眺めるアレキは「やれやれ」と一息ついて、オスカールを撫でながら水を与えた。
しばらくすると視界に影が落ちので見上げると、アレキは三人娘に囲まれていた。リコもマニもミーシャも、泣きはらした目で毅然とアレキを見下ろしていた。
「ど、どうしたんだ? 三人とも怖い顔して」
ミーシャが一歩、前に出る。
「アレキ様。私たちに、訓練を付けてください」
「へ?」
リコも、一歩前に出る。
「レオ君を鍛えたように、私たちの師匠になってください」
「はぁ?」
マニは二歩、前に出た。
「ああいう野郎をギッタギタに叩きのめす方法を、教えてよ!!」
「ええー!?」
三人のギラギラとした恨み節の殺意に、アレキは仰反る。リコの身に立て続けに起きた誘拐未遂に、女子たちの堪忍袋の緒は、ぶち切れていた。
アレキはしどろもどろになる。
「いや、女の子が戦うなんてさ……」
ミーシャは毅然と、アレキを睨む。
「私はもう、自分の能力に怯えて力を出し惜しむのはやめました。アレキ様。私を立派な風使いにしてください」
「ミーシャ……」
見たことの無いミーシャの勇敢な瞳を、アレキはうるうると見つめて、抱きしめた。
「ミーシャァー! 立派な目つきになって!」
しばらく抱きしめた後、アレキはリコとマニを見上げた。
「お嬢さんたち。覚悟があるなら、俺が戦う手段を教えよう」
マニとリコはパアッと顔を輝かせて、礼をした。
「お願いします! 師匠!」
中庭で、アレキ師匠による講義が始まった。
三人娘はプリンを作る時と同じように、真剣な眼差しだ。
「リコちゃんは同じ能力者に出会って、技の種類を見ただろ?」
「フリーズと、リングです!」
挙手して答えるリコに、アレキは頷く。
「丸パクするんだ。まずはフリーズとリングを、ひたすら練習してご覧」
「はい!」
「そんでミーシャは、風の強度を上げる練習だ。心理的な枷が無くなれば、君はもっと激しい風が起こせるはずだ」
「はい!」
「で、マニちゃんなんだけど」
アレキは一番憤って興奮しているマニを見下ろした。
「能力者じゃないけど、一番戦闘力が高そうだよな。戦うってのは、気概が大事だから」
「あたしはとにかく、ボッコボコにしたいんだ!」
アレキは微笑ましく「うんうん」と頷いて、オスカールの頭に手を置いた。
「マニちゃんは体力があって、体幹も強い。農園で動物の指揮にも慣れてるから、騎乗の練習をしよう」
「はい!」
三人はそれぞれに、自分が為すべき訓練に打ち込み始めた。リコは氷飛沫を上げまくり、ミーシャの竜巻は高速で回転し、マニがオスカールで駆け周っている。
アレキは椅子に座って、乙女たちの殺気が篭る中庭を眺めた。
「こりゃあ~大変なことになったぞ」
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