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第三章 幽閉塔の姫君編
12 婚約者の怒り
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リコは激しく息を吐きながら、転がるように森を駆け抜ける。
しばらく自分の息と藪を漕ぐ音しか聞こえなかったが、やがて後ろから、猛然と何かが迫る足音が聞こえてきた。
銀狐がユーリと共に、リコを追いかけていた。
「リング!」
ユーリの声と共に、リコの真横を氷の輪が翳める。
「きゃあ!」
「エリーナ! 怪我をする前に止まるんだ!」
ユーリの言葉を無視して、リコは走り続けた。
穏やかで優しい顔に見えるユーリだが、リコにはもう、信用のおけない人物となっていた。差別的で強引で、乱暴な面を見てしまっては、恐怖の対象にしかならなかった。
ザッと藪を飛び出すと、そこは町の手前にある、開けた野原だった。そのまま町へ向かって走ろうとしたその時。
「リング!」
リコは氷の輪に捕まって、勢いよく転んでいた。
ザシャア! と音がして、おでこからモロに地面に突っ込んでいた。
ユーリはその姿に、溜息を吐いた。
「はぁ。みっともないな……記憶と一緒に知性まで無くしたのか? エリーナ」
苛立ちを隠さずに、近づいて来た。
リコはまた両腕が拘束されて、自力で立ち上がることができない。
ユーリが銀狐から降りて、リコを抱き上げようと肩に手を掛けたので、リコは振り返りざまにユーリの手を噛んだ。
「痛っ!」
ユーリは信じられない、という顔でリコを見下ろしている。
「ち、知性が無くて悪かったわね! 私はエリーナじゃないんだから、当たり前でしょ!? あ、あなたなんか、紳士じゃないし、私の好きなレオ君は、もっと紳士で、強いんだから!」
涙目で一気にまくしたてるリコに、ユーリはピリッと空気を冷たくさせた。
「レオって……誰? エリーナ。もしかして、男がいるのか?」
「そうだよ。好きな人がいるの! だからあなたなんか……」
言葉の途中で、ユーリはリコの襟首を掴んでいた。
「記憶喪失とか言って、男を作ってるじゃないか!」
その剣幕に、リコは恐怖で目を硬く瞑った。
と同時に、町の方向から、覚えのある声が聞こえた。
「はい、そこまで」
リコとユーリが同時に振り返ると、離れた距離に、白い毛長の犬……オスカールが佇んでいた。見た事がないくらい、ハッ、ハッ、と息を吐いている。
そしてオスカールの上には、派手なスーツを着たアレキサンダーが、金色の銃を構えていた。
リコとユーリはどちらもギクッと肩を揺らして、固まった。
情報が多すぎて、飲み込めない。
「そこの坊や。立ち上がって、後ろに下がるんだ」
銃口がピタリとユーリに定まっていて、ユーリは息を飲む。
「き、汚いぞ。銃なんか……」
「君、能力者でしょ? 素手でやり合う馬鹿はいないよ」
アレキはカチャリと銃を持ち直し、照準に集中する。
「銃と君の力。どちらが早く撃てるか、試すかい?」
ユーリはそっと両手を上げて、歯軋りをして後ろに下がった。
「そうそう。賢明だよ」
アレキは距離を保ちながら、近づいてくる。
リコの頭上で「ウー」と小さな唸り声が聞こえた。それは銀狐ではなく、顔が見えないほど毛が長い、オスカールの声だと気づいた。白い毛で隠れているが、鋭い歯を剥き出しているのを、リコは間近で見てしまった。
銀狐は竦むようにオスカールを凝視して、ユーリと同じように2歩、3歩と下がった。アレキはユーリを狙ったまま、銀狐に声をかける。
「よ~しよし、君にはわかるよね? オスカールは軍用犬だ。とっても怖い犬だよ~」
宥める声が余計に不気味で、銀狐はユーリよりも早く後退した。
ユーリは悔しさから、口を開く。
「お前は……誰なんだ。レオなのか?」
「俺はレオ君じゃないよ。三人娘の保護者だ。君さ、ミーシャを泣かしたでしょ? 俺の可愛い娘たちをいじめたら、許さないよ?」
アレキの目は冷静を通り越して冷酷に見えて、ユーリは顔が強張る。足早に後退すると、銀狐に飛び乗って、森の方向へ逃げて行った。
しばらく自分の息と藪を漕ぐ音しか聞こえなかったが、やがて後ろから、猛然と何かが迫る足音が聞こえてきた。
銀狐がユーリと共に、リコを追いかけていた。
「リング!」
ユーリの声と共に、リコの真横を氷の輪が翳める。
「きゃあ!」
「エリーナ! 怪我をする前に止まるんだ!」
ユーリの言葉を無視して、リコは走り続けた。
穏やかで優しい顔に見えるユーリだが、リコにはもう、信用のおけない人物となっていた。差別的で強引で、乱暴な面を見てしまっては、恐怖の対象にしかならなかった。
ザッと藪を飛び出すと、そこは町の手前にある、開けた野原だった。そのまま町へ向かって走ろうとしたその時。
「リング!」
リコは氷の輪に捕まって、勢いよく転んでいた。
ザシャア! と音がして、おでこからモロに地面に突っ込んでいた。
ユーリはその姿に、溜息を吐いた。
「はぁ。みっともないな……記憶と一緒に知性まで無くしたのか? エリーナ」
苛立ちを隠さずに、近づいて来た。
リコはまた両腕が拘束されて、自力で立ち上がることができない。
ユーリが銀狐から降りて、リコを抱き上げようと肩に手を掛けたので、リコは振り返りざまにユーリの手を噛んだ。
「痛っ!」
ユーリは信じられない、という顔でリコを見下ろしている。
「ち、知性が無くて悪かったわね! 私はエリーナじゃないんだから、当たり前でしょ!? あ、あなたなんか、紳士じゃないし、私の好きなレオ君は、もっと紳士で、強いんだから!」
涙目で一気にまくしたてるリコに、ユーリはピリッと空気を冷たくさせた。
「レオって……誰? エリーナ。もしかして、男がいるのか?」
「そうだよ。好きな人がいるの! だからあなたなんか……」
言葉の途中で、ユーリはリコの襟首を掴んでいた。
「記憶喪失とか言って、男を作ってるじゃないか!」
その剣幕に、リコは恐怖で目を硬く瞑った。
と同時に、町の方向から、覚えのある声が聞こえた。
「はい、そこまで」
リコとユーリが同時に振り返ると、離れた距離に、白い毛長の犬……オスカールが佇んでいた。見た事がないくらい、ハッ、ハッ、と息を吐いている。
そしてオスカールの上には、派手なスーツを着たアレキサンダーが、金色の銃を構えていた。
リコとユーリはどちらもギクッと肩を揺らして、固まった。
情報が多すぎて、飲み込めない。
「そこの坊や。立ち上がって、後ろに下がるんだ」
銃口がピタリとユーリに定まっていて、ユーリは息を飲む。
「き、汚いぞ。銃なんか……」
「君、能力者でしょ? 素手でやり合う馬鹿はいないよ」
アレキはカチャリと銃を持ち直し、照準に集中する。
「銃と君の力。どちらが早く撃てるか、試すかい?」
ユーリはそっと両手を上げて、歯軋りをして後ろに下がった。
「そうそう。賢明だよ」
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リコの頭上で「ウー」と小さな唸り声が聞こえた。それは銀狐ではなく、顔が見えないほど毛が長い、オスカールの声だと気づいた。白い毛で隠れているが、鋭い歯を剥き出しているのを、リコは間近で見てしまった。
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アレキの目は冷静を通り越して冷酷に見えて、ユーリは顔が強張る。足早に後退すると、銀狐に飛び乗って、森の方向へ逃げて行った。
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