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第二章 魔獣退治編
14 フローズンな庭
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レオとリコが金ピカ城に帰って来ると、ミーシャが出迎えた。
「おかえり~」
怪我だらけのレオの隣に、惚けたリコが佇んでいた。
レオは引き続き訓練の為に宮廷に戻ったが、リコはミーシャと一緒に夕飯を作っている最中も、ずっと惚けたままだった。
自分の髪や服にレオの香りがある気がして、のぼせっぱなしだった。
「リコったら、赤い顔してどうしたの?」
「な、何でも無いよ」
「今週末もプリン屋するでしょ?」
「うん!」
ミーシャは剥いていた野菜を置いて、リコの手を引っ張る。
「私、プリンの冷やし方を考えたの。ちょっと来て!」
ミーシャは夕暮れの庭にリコを連れ出すと、水が満たされたプールを指した。
「この上に結晶を出してみて」
「うん」
ミーシャの言う通り、掌をプールの水に向かって翳して、結晶を出した。結晶は水に落ちると、パキッ、パキパキッと音を立てて、急激に表面を凍らせていた。
今まで空中に結晶を作ることばかりやっていたので、初めて見る現象にリコは驚いた。
「一瞬で凍った!」
さらに何度か結晶を重ねると、円形の大きなプールはまるでスケートリンクのように、表面全体が凍ってしまった。
「わぁ~! 全部凍った!」
「やっぱり」
自分の能力に驚くリコの隣で、ミーシャは確信を持っていた。
「リコの氷の力は水と合わせると、強度が倍増するね」
「ミーシャちゃん、凄い……!」
ミーシャは自分の両手を宙に翳すと、フーン、と音を立てて、小さな竜巻を作った。
「この竜巻に結晶を掛けてみて」
「う、うん!」
ミーシャの言う通りにすると、結晶はたちまち竜巻に巻き込まれて、砕けた氷の粒が旋回した。
ミーシャはそのまま氷の竜巻をプールに放った。竜巻は氷上を徘徊し、バキン!バキン! と音を立てて、プールは底まで強固に凍っていった。
リコは唖然として、巨大な氷の塊を見渡した。
「す、すご~い!!」
2人は興奮して氷の竜巻を量産させて、芝も軒先も、シャーベットのように凍らせた。氷柱があちこちにできて、庭が白と透明の世界になっていく。リコとミーシャの髪も、結晶の粒でキラキラと光っていた。
大騒ぎしてはしゃいでいると、いつの間にか帰ってきたアレキが後ろに立っていて、氷漬けになった庭を唖然として眺めていた。鞄がドサリと地面に落ちる。
「リコちゃん、ミーシャ……! お、俺の城が……」
リコとミーシャは我に返って焦って振り向くが、アレキは帽子とマントを投げ捨てて、シャーベットの庭に飛び込んでいた。
「うわあぁー!! 氷のお城だー!!」
青い瞳を輝かせて、人一倍、興奮していた。
* * * *
「で……熱が出たんですか?」
夜。金ピカ城に戻ったレオは、呆れてベッドサイドに立つ。
豪華な寝室で、アレキは赤い顔をして布団に潜っていた。
リコは申し訳なさそうに、アレキの額の布を取り替えている。
「風邪ひきますよ、って言ったんだけど、そのまま何時間も氷の庭で遊んで……」
「はぁ……仕方のない大人ですね」
アレキは額の上のリコの手に触れている。
「あぁ~、リコちゃんの冷たい手に癒されるぅ」
レオはイラッとして、その手を引き剥がした。
「リコさんは熱冷ましじゃないんですから。もう、静かに寝てください」
「鬼、悪魔、ケチんぼ……」
アレキの譫言を放って、レオはリコを連れて部屋を出て行った。
「それにしても、ミーシャと力を合わせて庭を氷漬けにしてしまうなんて、凄いパワーですね」
しげしげと、リコの右手を取って見る。
「うん。私もビックリした! この力は脆い結晶を作るしかできないと思ってたけど、水や風と合わせると威力が増すんだね!」
リコはまた興奮で瞳が輝いて、フンスと鼻息も荒くなっていた。
「それでね、これは冷蔵庫ができる! って、思ったの!」
「冷蔵庫?」
「水を氷にして密封する事で、冷気を逃さず、プリンを冷やすんだよ!」
リコは興奮のあまり、頭を振る。
「ううん、それだけじゃない! 冷蔵庫は肉や魚を冷やしたり、凍らせたり、食料を保存できるんだよ! この世界のキッチンに、革命が起こるの!!」
手を広げて大興奮の様子に、レオは微笑しさを堪えるように頷いている。
「食中毒が減って、食卓も豊かになりますね。そうなったらリコさんは革命児どころか、救世主です」
リコは雷が落ちたような衝撃を受けていた。この力がプリンを作るだけじゃなくて、人を助けたり、幸せにする力になれるかもしれない。
それは役立たずと思い込んでいた自分の存在を、持ち上げるどころか、根底からひっくり返すような言葉だった。
「レオ君。私、すっごく希望が見えてきたよ」
「僕にも見えますよ。リコさんの瞳に、希望の星が」
レオがキラキラと輝くリコの瞳を覗き込んで、2人の顔が急接近していた。
(え? あれ? これって……キ……ス?)
リコが思わず目を閉じそうになったその時、レオはパッと体を離した。
二人の目前に、ミーシャがお粥のお盆を持って立っていた。
廊下の角を曲がって来たところだ。
真っ赤になって動揺している二人を見上げている。
「あ……なんか邪魔しちゃったかな」
「や、いや、ち、違うよミーシャ」
「ミ、ミーシャちゃん、お粥作ってくれたんだね!」
ギクシャクとした空気の中、ミーシャはアレキの部屋に入って行って、レオとリコは照れと気まずさで顔を見合わせて笑った。
朗らかに照れるふりをしているリコの内心は、全細胞が興奮状態となり、脳内お祭りが暴走していた。
「おかえり~」
怪我だらけのレオの隣に、惚けたリコが佇んでいた。
レオは引き続き訓練の為に宮廷に戻ったが、リコはミーシャと一緒に夕飯を作っている最中も、ずっと惚けたままだった。
自分の髪や服にレオの香りがある気がして、のぼせっぱなしだった。
「リコったら、赤い顔してどうしたの?」
「な、何でも無いよ」
「今週末もプリン屋するでしょ?」
「うん!」
ミーシャは剥いていた野菜を置いて、リコの手を引っ張る。
「私、プリンの冷やし方を考えたの。ちょっと来て!」
ミーシャは夕暮れの庭にリコを連れ出すと、水が満たされたプールを指した。
「この上に結晶を出してみて」
「うん」
ミーシャの言う通り、掌をプールの水に向かって翳して、結晶を出した。結晶は水に落ちると、パキッ、パキパキッと音を立てて、急激に表面を凍らせていた。
今まで空中に結晶を作ることばかりやっていたので、初めて見る現象にリコは驚いた。
「一瞬で凍った!」
さらに何度か結晶を重ねると、円形の大きなプールはまるでスケートリンクのように、表面全体が凍ってしまった。
「わぁ~! 全部凍った!」
「やっぱり」
自分の能力に驚くリコの隣で、ミーシャは確信を持っていた。
「リコの氷の力は水と合わせると、強度が倍増するね」
「ミーシャちゃん、凄い……!」
ミーシャは自分の両手を宙に翳すと、フーン、と音を立てて、小さな竜巻を作った。
「この竜巻に結晶を掛けてみて」
「う、うん!」
ミーシャの言う通りにすると、結晶はたちまち竜巻に巻き込まれて、砕けた氷の粒が旋回した。
ミーシャはそのまま氷の竜巻をプールに放った。竜巻は氷上を徘徊し、バキン!バキン! と音を立てて、プールは底まで強固に凍っていった。
リコは唖然として、巨大な氷の塊を見渡した。
「す、すご~い!!」
2人は興奮して氷の竜巻を量産させて、芝も軒先も、シャーベットのように凍らせた。氷柱があちこちにできて、庭が白と透明の世界になっていく。リコとミーシャの髪も、結晶の粒でキラキラと光っていた。
大騒ぎしてはしゃいでいると、いつの間にか帰ってきたアレキが後ろに立っていて、氷漬けになった庭を唖然として眺めていた。鞄がドサリと地面に落ちる。
「リコちゃん、ミーシャ……! お、俺の城が……」
リコとミーシャは我に返って焦って振り向くが、アレキは帽子とマントを投げ捨てて、シャーベットの庭に飛び込んでいた。
「うわあぁー!! 氷のお城だー!!」
青い瞳を輝かせて、人一倍、興奮していた。
* * * *
「で……熱が出たんですか?」
夜。金ピカ城に戻ったレオは、呆れてベッドサイドに立つ。
豪華な寝室で、アレキは赤い顔をして布団に潜っていた。
リコは申し訳なさそうに、アレキの額の布を取り替えている。
「風邪ひきますよ、って言ったんだけど、そのまま何時間も氷の庭で遊んで……」
「はぁ……仕方のない大人ですね」
アレキは額の上のリコの手に触れている。
「あぁ~、リコちゃんの冷たい手に癒されるぅ」
レオはイラッとして、その手を引き剥がした。
「リコさんは熱冷ましじゃないんですから。もう、静かに寝てください」
「鬼、悪魔、ケチんぼ……」
アレキの譫言を放って、レオはリコを連れて部屋を出て行った。
「それにしても、ミーシャと力を合わせて庭を氷漬けにしてしまうなんて、凄いパワーですね」
しげしげと、リコの右手を取って見る。
「うん。私もビックリした! この力は脆い結晶を作るしかできないと思ってたけど、水や風と合わせると威力が増すんだね!」
リコはまた興奮で瞳が輝いて、フンスと鼻息も荒くなっていた。
「それでね、これは冷蔵庫ができる! って、思ったの!」
「冷蔵庫?」
「水を氷にして密封する事で、冷気を逃さず、プリンを冷やすんだよ!」
リコは興奮のあまり、頭を振る。
「ううん、それだけじゃない! 冷蔵庫は肉や魚を冷やしたり、凍らせたり、食料を保存できるんだよ! この世界のキッチンに、革命が起こるの!!」
手を広げて大興奮の様子に、レオは微笑しさを堪えるように頷いている。
「食中毒が減って、食卓も豊かになりますね。そうなったらリコさんは革命児どころか、救世主です」
リコは雷が落ちたような衝撃を受けていた。この力がプリンを作るだけじゃなくて、人を助けたり、幸せにする力になれるかもしれない。
それは役立たずと思い込んでいた自分の存在を、持ち上げるどころか、根底からひっくり返すような言葉だった。
「レオ君。私、すっごく希望が見えてきたよ」
「僕にも見えますよ。リコさんの瞳に、希望の星が」
レオがキラキラと輝くリコの瞳を覗き込んで、2人の顔が急接近していた。
(え? あれ? これって……キ……ス?)
リコが思わず目を閉じそうになったその時、レオはパッと体を離した。
二人の目前に、ミーシャがお粥のお盆を持って立っていた。
廊下の角を曲がって来たところだ。
真っ赤になって動揺している二人を見上げている。
「あ……なんか邪魔しちゃったかな」
「や、いや、ち、違うよミーシャ」
「ミ、ミーシャちゃん、お粥作ってくれたんだね!」
ギクシャクとした空気の中、ミーシャはアレキの部屋に入って行って、レオとリコは照れと気まずさで顔を見合わせて笑った。
朗らかに照れるふりをしているリコの内心は、全細胞が興奮状態となり、脳内お祭りが暴走していた。
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