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第二章 魔獣退治編

15 あっちとこっちの世界

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「はあぁぁぁっ」

 夜の自室のベッドの上で。リコは長時間に渡って悶絶していた。
 さっきの「もしかしてキッス・ニアミス事件」で頭が沸騰しっぱなしだった。何度冷静になろうとも、脳内に次々とお花が開花するように弾けている。

「凄い……恋って、麻薬なの?」

 とろけた顔で天井を見つめて、エリーナのことを考えていた。
 エリーナは、生まれて初めてこんなに幸せなんだ、って言ってた。
 私も今、幸せの絶頂なのかもしれない。
 もう一度、エリーナと会って話がしたい。
 こんなに好きな人ができた、ってこと。
 リコプリンをみんなが食べてくれた、ってこと。
 冷蔵庫が作れるかも、ってこと……。

 目を瞑って、エリーナを想ってみる。
 他にも沢山お話したいし、エリーナの日本の生活の話も聞きたい。

「お願い、エリーナに会わせて」

 リコは祈るように、眠りに落ちた。



 気づくと、芝生の上に座っている。
 遠く前方には大きな川があり、懐かしい日向の匂いがした。

「あ……これは結花とよくお喋りしてた、土手だ」

「やあ」

 勇ましい声が隣から聞こえて、リコは急いで振り向く。
 莉子……エリーナが横に座って、微笑んでいた。

「エリーナ!」

 エリーナは指を唇に当てている。

「しー。興奮やリビドーの上昇は、夢から意識を覚醒させてしまう」
「そ、そうなんだ」

 賢い眼差しと口調のエリーナは、自分の体なのに凛とした美人に見えるから不思議だ。日本ではさぞ、皆が不思議がっている事だろう。

「エリーナに会いたいと思ったら、成功したよ」
「ああ。互いに願うと確率が上がるようだ」

 リコはなるべく興奮しないように、レオと、プリンと、冷蔵庫の話を機関銃のように喋り倒した。エリーナは楽しそうに笑っている。

「恋にスイーツに、冷蔵庫か。リコは面白いな」
「ねえ、エリーナは!?」
「私はこの世界のすべてが楽しい。ファミレス、パフェ、メロンソーダ、エビドリア」

 リコの大好物が並んで、思わず嬉しさで興奮すると、エリーナはリコの手を引っ張った。

「おい、興奮して姿が半透明になっている」
「いけない、他には!?」
「家族、友達、学校。莉子に関わる者は皆、優しいな」

 リコは懐かしさと恋しさで、急激に涙が溢れていた。

「安心しろ。皆元気だ。私は一時的な記憶喪失状態で誤魔化しているが、まあ、人格が変わったことには皆、驚いているよ。それに……」
「それに?」
「私は勉強と運動が楽しくて夢中でやってしまって、皆それにも驚いている。学年のトップを取りそうだって」

 リコは驚きで、後ろにひっくり返った。

「う、嘘でしょ!? 勉強も運動も、苦手だよ!」
「特に数学と物理学はどちらの世界にも通じるので学びやすい」
「私、どっちも大嫌い!」
「ははは」

 学校の鐘の音が聞こえてきて、リコはハッとする。

「やだ、もっとお喋りしたいのに」
「私もだよ、リコ」

 エリーナは同性でもドキドキするほど、凛々しい雰囲気を持っている。
 チャイムの音と共にエリーナの姿は淡くなっていくが、少しためらった後、最後に言い残した。

「リコ。レオに守ってもらうんだ。どうか気をつけて……」

 歪んで小さくなるチャイムの音とともに、エリーナは消えて行った。

 同時にリコは現実のベッドの上で、目を覚ました。
 きっと時間にしたら、10分ほどの出会いなのだろう。時計の針は、深夜の1時を指していた。

「気をつけて、か……魔獣とか……強盗とか?」

 意地悪君を、久しぶりに思い出していた。能力を強盗や暴力に悪用していた人物だ。リコに大怪我を負わせて……。
 確かにこの世界は、治安の面では日本よりも断然危険が多いのかもしれない。

「レオ君に……守ってもらう」

 再び脳内のお花が開花して、にやけていた。真剣に捉えるべき忠告なのに、どうしても嬉しくなってしまう。

「私のIQ、どんどん低くなっちゃうみたい」

 お花畑で知性が溶けているのを、リコは自覚していた。
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