魔女のおやつ 〜もふもふな異世界で恋をしてお菓子を作る〜

石丸める

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第一章 リコプリン編

14 卵と卵と卵

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 洗濯して乾いたワンピースを着て、リコは気合が入りまくっていた。

「今日は面接の日……村長さんが特別に推薦してくれたんだもん、絶対受からなきゃ」

 長テーブル上の、ボーリング玉大のプチトマトを手に取る。

「ちょっとしおれてきた? 冷蔵庫がないもんね」

 一昨日の町の露店で、ゴリラに作ってもらった搾りたてのジュースを思い出した。

「そうだ、トマトジュースにしてみよう!」

 ボールにトマトを入れて、ゴリラの真似をして上から体重をかけてみる。

 ブシューッ!

 トマトに亀裂が入って、真っ赤な中身が噴水のごとく噴き出した。

「あああ、一張羅がーっ」


 * * * *


 森の中。地図を片手に、リコは猛然と走っている。
 また魔女風の黒ワンピースを拝借して、巾着袋を体にくくりつけ、鳴き笛を首にかけて。

「大変、着替えてたら遅くなっちゃった!」

 オリヴィエ村長にもらった地図によると、面接場所は村と町の中間あたりで、何とか徒歩で行ける距離だった。鬼気迫る爆走ぶりに、虫たちも呆気に取られているのか、近づいてこない。

 大木を何本も通り過ぎると、白いドームのような屋根が見えて来た。

「あった、あそこだ!」

 入り口には小さな看板があり『鳥類研究所』と書いてある。

 リコは髪や服を整えると、玄関のベルを鳴らした。
 しばらくするとドアが開いて、女性が顔を出した。

「はーい……あ、面接の子ね」
「リコと申します! よろしくお願いします!」


 リコは研究所の所長室に案内された。

「へえ~、記憶喪失ねえ」

 面接を担当する女性は眼鏡をかけて、白衣を着ている。髪は無造作に後ろにしばっていて化粧気もないが、綺麗な人だ。

 研究者らしく、通された部屋は本と書類に溢れて、机も雑然としていた。
 棚に置かれたいくつもの瓶には大きな鳥の羽が挿さり、壁には鳥の骨格や種類が描かれた図が無数に貼られている。そして遠くから、鳥の鳴き声がいくつも重なって、聞こえてくる……。

 リコは緊張していた。
 動物と関わらない仕事、と村長は言っていたが、思い切り鳥の気配がある仕事場に目眩がする。突っつかれ、追い回される想像しか浮かばなかった。

「あのっ……」

 リコは思い切って、女性に尋ねる。

「鳥が……いますよね?」

 女性は一呼吸置いて笑った。

「あなた、動物にナメられるんだって? オリヴィエ村長から聞いてるわ。珍しい体質だって」

 リコは情けない笑顔で頷いた。

「だーいじょうぶよ。あなたが担当するのは、鳥の世話ではなくて、選別よ」
「選別……って、何を選ぶんですか?」
「卵」

 リコはキョトンとする。

「こっちへ来て頂戴。面接試験を始めるわ」

 試験という言葉に、リコは改めて緊張を高めた。


「これは……」

 新たに通された部屋は広く、吹き抜けの天井から日光が明るく照らしている。
 そして目の前に並んでいるのは、沢山の大きな卵。
 敷き詰められた藁の上にゴロゴロと、無造作に置かれていた。ボーリングの玉くらいあるだろうか。

 右から左へ卵の山を見渡して、リコは不思議なことに気づいていた。

「色が……こんなに微妙に違う」

 卵は白をベースに、非常に淡いピンク、黄色、水色、紫と、色が付いている。まるでパステルカラーのマカロンのように可愛い色だ。

 女性は卵を左右に2つ取り上げて、リコに問う。

「この2つのピンク、違いがわかる?」
「えっと、左は青よりのピンクで、右は黄色よりのピンク?」
「正解!」

 次に2つの卵に取り替えて、「どお?」と促す。
 ほぼ同じ色に見える卵を、リコは慎重に見極めた。

「どちらも黄色だけど……右は左よりも、ほんの少しだけ薄いです」

 女性は嬉しそうに微笑んだ。

「せいかーい! 偉い、偉い」

 卵を置いて、リコの頭を撫でた。リコはこの世界で初めて褒められて、満面の笑みになる。

 女性がさらに扉を開けると、ラックの上に膨大な数の卵が、色とりどりで並んでいた。

「この卵はね、全部同じ種の鳥が産んでるの。でも、全部色が違うでしょ? それぞれが森で食べた植物によって、色と成分が微妙に変わるの。だから色ごとに選別して、レストランやお店に卵を出荷するのよ」

 リコを振り返り、ウィンクした。

「どうして動物ではなくて、人間が選別するか、わかる?」

 リコは一生懸命考えて答えた。

「えっと……動物は卵を食べちゃうから?」

 女性はきゃはは、と笑って手を振る。

「違うわよ。殆どの動物は、人間のように高度な色の判別ができないの。それに卵を試食して味をみる時もあるから、味覚も同時に必要になるわ。数少ない、人間の特性を生かしたお仕事よ」

 リコは感心して、「ほえー」と声を出していた。
 女性はリコに近づいた。

「私は鳥類研究所の所長で、ケイトよ。あなたには、今日から働いてもらうわ」
「え!? 私、合格ですか!?」
「ええ。人間でも、色の識別には能力差があるんだけど、あなたの色感度は高くて、この仕事に向いているわ」

 リコは嬉しさで体が震えて、涙目になっていた。

「う……嬉しい……私、役に立てる……働けるんですね!」

 所長はさらに一歩近づいて、リコを抱きしめた。

「ああん、リコちゃん、可愛いわね!」

 熱烈な歓迎と面接の結果に、リコは舞い上がっていた。


 数時間後、卵の色相関図が出来上がった。
 薄ピンクから薄黄色ピンク、黄色ピンク、薄黄色、黄色、薄黄緑……繊細な色の移り変わりが、広大な作業場に陳列されていた。仕切りのある木箱に色分けで入れていくと、まるで大きな卵のパックだ。

「はあぁ……」

 色を見極め、慎重に卵を運ぶ作業は思いの外、神経と体力を使う作業だった。
 リコは所長に指示されたノルマをこなすと、書類にそれぞれの色番号と数を書き留めて、所長を探した。

「所長~、ケイト所長」

 建物の裏庭に出ると、そこには神秘的な光景があった。
 様々な羽の色を持つ巨大な鳥たちが、木々に留まって所長を囲んでいた。
 ケイト所長はリコを振り返ると、唇に指を当てて、空を指した。

「それ!」

 言葉の合図で一斉に鳥達は飛び立ち、風が巻き起こっていた。

「ひゃあ、綺麗……」

 鳥たちは群れをなして、青空に小さく消えていった。

「鳥は放し飼いなのよ。村長に仕込まれてるから、夜には必ず戻って、朝に卵を産んでくれるの」

 所長は散らばった羽を拾い集めて、建物に戻って来る。

「お疲れ様。明日の朝から、また来てくれるかしら?」

 リコは大きく頷いて、頭を下げた。
 そして頭を上げた瞬間に、ぐぅ~、と大きくお腹が鳴っていた。仕事に没頭して昼食を食べ損ねていたのを、すっかり忘れていた。

「きゃはは!」

 ケイト所長は楽しそうにリコを抱きしめた。

「もう、可愛いなっ!」
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