知らない男に婚約破棄を言い渡された私~マジで誰だよ!?~

京月

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「嫌って言ったの?」

「そういいました…」

「あなたに私の命令を断る選択肢はないわ。答えなさい」

「…貴族はみんなあなたのように横暴な人ばかり…リルベルクとは大違いだ」

「ちょっと何言っているのよ?」


 リルベルクの友人は仕事の続きをしなければいけないと言い逃げるようにその場を去った。

 私達は何も情報がつかめないまま近くのカフェでお茶をしている。


「何よあいつ!!」

「あれは相当嫌われてるな。こちらから情報を聞き出すことは難しいかもしれない」

「いいや絶対にあいつから全部を聞き出す!私はなにもせずに降参なんて絶対しない」


 サナの目には不敵な笑みを浮かべたマリーが映っていた。翌日からリルベルクの友人が働く居酒屋に誰もお客が来なくなった。あの店は質の悪い酒を出しているという噂が流れたからだ。もちろんそんな証拠は一つもないが世間は噂を鵜呑みにしがちである。今彼の居酒屋にいるのはカウンター席に座ったマリーとサナだけだ。


「…あの噂を流したのはあなたですか?」

「さぁ?でもリルベルクのことを教えてくれたらこの店に客も戻ってくるんじゃない?」

「本当に何でもするんですね貴族って…わかりました。リルベルクについて僕の知る限りのことを教えます。その代わりどうか店だけは助けてください」

「協力的になってくれて嬉しいわ」


 彼は店の看板を店内に戻し店を閉めると私の横に座り語りだした。


「リルベルクは地方の貴族だと名乗っていました。貴族は僕のような平民を嫌う節があるので最初は警戒していたのですが彼は身分の違いを気にすることなく僕を友人として扱ってくれました」

「意外といい奴じゃないか」

「……それで他には?」

「社交的な性格も相俟って人気者でした。中には好意を抱いている女子生徒もいたくらいです」


 あの豚が人気者?私にはそうは見えなかったが…でもリルベルクのことを話している彼の目からは嘘が感じられない。


「ですがある事件が起きました。リルベルクを慕っていた平民の女の子が貴族の標的になりいじめを受けるようになったのです。僕とリルベルクは何度も教授に抗議しましたが知らぬ存ぜぬで通され、ほどなくして女の子は自殺しました」


 その話を聞いたサナが反論する。


「そんな事件聞いたことないぞ」

「当たり前です。平民の生徒が死んでも学園側がわざわざ騒ぎ立てることなんてありえませんから」

「しかし」

「あの学園は貴族のための学園です!平民が何を言ったところで耳を貸さない集団の集まりなんです!…リルベルクは貴族なのに僕たちの無念を思い泣いてくれました」


 リルベルクの友人は必死に流れる涙を服の袖で拭き取りながら話を続ける。


「僕が知ることはリルベルクは優しい人間だということと誰にでも誇れる友人だということだけです」

「……ありがとう。明日からこの店は繁盛するわ。精々頑張って働きなさい」


 私達は席を立つと店を出るために扉に手をかける。


「豚についてわかったのは貴族ということと人格者だったということだけか…それ以外の有力な情報はあまりなかったわね」

「あの!豚って誰のことですか?」

「誰ってリルベルクに決まっているでしょ。太っているんだから」

「?リルベルクは痩せ型ですよ」

「え?」
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