ママは乳がん二年生!

織緒こん

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なな。

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 ママは四人部屋の窓側にいた。スズをギュッとしてからババちゃんにお見舞いとスズたちのお世話のお礼を言った。ババちゃんと話すママは、あっという間に山陰の人だ。

 他の患者さんもいるから迷惑にならないように談話室に移動して、四人がけの席に座った。

 ママは両肩から安っぽいポーチをふたつ、斜めにバッテン掛けしていて、そこにパジャマの下から出ているチューブが伝っていた。チューブの中は血みたいな赤茶っぽい色の液体が溜まっていて、あんまり見ていたいものじゃなかった。

「これ、気になる? 手術した内側に変な汁が溜まらないように、外に出してるの。分泌量が減ったら、退院までに抜いてもらえるよ」

 入院している人って、ベッドでぐったりしているイメージがあったけど、ママは家にいる時と変わらなかった。

「どげな?」

「手が上まで上がらん。リンパ切ったけん。あとは、痛み止めが切れると腰が痛ていけん」

「ママ、手術のあとは痛くないの?」

「それが、意外と平気なのよ」

 うわぁ、ママがナチュラルにバイリンガルだ。スズと話すときは標準語なのに(笑)。

「もうリハビリしてるよ。ボールにぎにぎとかテーブル拭き体操とか。それよりスズ、明日は月曜日でしょ。ちーちゃん待たせちゃダメだよ。あ、お母さん、スズ七時三十五分に出るけん、頼んよ」

 時間いっぱいまでおしゃべりして、パパが病室までママを送っていった。戻ってきたパパはちょっと難しい顔をしていて、ババちゃんが「どげした?」と尋ねた。

「ママ、ちょっと疲れたみたいだ。ベッドに戻ったらグデっとしてた」

あだんあらまぁ、スズちゃんの前で張り切っとったんだね」

「スズのせい?」

 どうしよう。ママの入院、長くなっちゃうかな。ちょっと不安になった。

「スズのせいじゃないよ。お医者さんからは、動けって言われてるから、頑張りすぎたんだろ。そろそろ薬が切れて、ぎっくり腰が痛みだすころみたいだし」

 よかった⋯⋯よくないけど。

「大丈夫だよ、スズちゃん。手術した人はね、だいたいあんなもんだから」

 ババちゃんが笑った。

 家に帰ると普段ママが作らない料理をたくさん作ってくれて、お腹いっぱい食べた。昨日までご飯炊かなきゃってアタフタしてたのに、全部ババちゃんがしてくれた。

 ママってすごい。ババちゃんもすごい。

 お仕事してるのに、みんなのご飯をぱぱっと作る。

 金曜日にママが退院してきて、そのあと一週間、ババちゃんがお家のことをしてくれる。

「ババがいる間はやってあげるけんね。そのあとはママが痛しい体調が悪いときはスズちゃんに任せぇよ」

 ご飯を食べながら、ババちゃんが言った。

「パパさんは⋯⋯飯の支度はならんみたいだけん、掃除ほだだけしてね」

「面目ございません」

 パパがしょぼんとなった。⋯⋯実はスズがご飯炊く練習してるとき、一緒にやったんだけどさ、スズのが百倍マシだった。

『結婚して十五年、ママが諦めた理由、わかるでしょ?』

 すごくわかった。

 ババちゃんにまで重ねて言われて凹んだパパは、水曜日に熱を出した。
 
 まさかのインフルエンザ!

 在宅ワークなのに、どこでもらってくるの⁈
 
 月曜日に電車で都心のほうに打ち合わせに行って、潜伏期間、短すぎでしょ! あれ? 付き添いで病院に行ったときにウィルスもらってきたの?

「あだん。ママ、退院どげすぅがいいかいね」

 パパは近所のかかりつけ医で薬を出してもらって、すぐに熱は下がった。でも朦朧とする薬らしくて、ママのお迎えは無理みたい。

「タクシーで帰ってきてもらうとして、免疫力が低下してるオクさん、俺とおんなじ部屋じゃまずいでしょ。ほれ、スズもパパから離れなさい」

 パパはスズたちから離れて、リビングのローテーブルでおじやを啜っている。食欲ないけど薬飲まなきゃ、とぶつぶつ言っている。

 テーブルでババちゃんと向かい合って、たくさん並んだご飯を食べながら、ババちゃんがいてくれてホントに良かったと思った。

 スズひとりで病気のパパのお世話なんてできないもの!
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