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 ナダルの手は逞しく、優しく、とても頼りがいがあった。
 でも・・・

「ごっ、ごめんなさいっ」

 私は彼の甘い言葉を聞いて、手を引っ込めていた。触られた手を守るように胸のあたりで抱きしめていた。

(なんで・・・なんでなのよ・・・)

 私の脳裏には、またレオンが出てきていた。

「すいません、僕も無神経で。はははっ、僕もアナタの傷ついた心の隙をつくようなことはしたくないのですが、それでも・・・」

 乾いた声で笑ったナダルは私のことを熱い瞳で見つめた。
 その瞳は抑えきれない気持ちが抑えられないと訴えかけてきていた。

「あのナダルさん。私って、お転婆で・・・じゃじゃ馬娘なんて呼ばれたりもしているんですよ?」

「じゃじゃ馬娘なんてひどい・・・。でも、そんなチャーミーなところがあるならぜひ、見たいですね」

「・・・ナダルさんの想像を超えるかもしれませんよ?」

「はははっ、じゃあさっきお話した熊より怖いのかな?」

 そうだ。この人は色んな世界を見てきた人で、色んな困難を乗り越えてきた人だ。危険な旅も、悲しい恋も・・・。

 私は実は恋に臆病になっていただけなんじゃないだろうか。
 そう思った。

 自分に自信がなくて、子どもの頃の記憶に頼って、私にはレオンがいる、だから恋なんてしなくていいし、恋愛できるように振る舞わなくていいんだって言い聞かせてたんじゃないだろうか。

(そうよ、あの記憶だって・・・・・・)

 私ははっきりと告白してきたレオンの顔を覚えている。
 だけど、小さい頃の記憶なんて曖昧で、もしかしたら夢で見た強い願望を私ははっきりと覚えているのかもしれない。

 私はもう一度ナダルの顔をもう一度見た。
 彼は、私が考えている間も温かい微笑みで見守ってくれている。

「そんなわけ・・・ないじゃないですか」

「はははっ、そうですよね」

 ナダルが笑うと私も笑っていた。
 もしかしたら、これは運命なのかもしれない。

「少し元気になりましたね」

「ええ、おかげさまで」

 私はすぐにそう言えるくらい、気持ちが晴れやかになった。

「じゃあ・・・・・・」

 そう言って、ナダルは「失礼」と言って、自分のカバンを開けて、

「ナナリー様のようなお美しい方に似合うと思うんですよ」

「まぁ、きれい・・・」

 絹でできた布を出した。太陽の光を反射させてとても綺麗で立派な代物だった。

「おいくらですか?」

「いいえ、これはプレゼントいたします」

「そんなっ・・・こんな豪華な物。大丈夫です、適正価格を教えていただければきちんと・・・」

 テーブルに置いてあったナナリーの手に男が手を重ねていた。

「僕じゃ・・・駄目ですか。こんなに胸がときめいたのはナナリー様が初めてなんです」

 その言葉は嬉しかった。
 さっきまでは私の心に壁というか、自信のない私が弾いていたけれど、今度は素直に嬉しかった。こんなに嬉しいのは、

(あの時、以来かな)

 私はレオンとの不確かでもう破棄してしまった婚約の思い出を大切に心の奥に仕舞ってカギをかけた。その思い出を成長の糧にして、私は目の前のナダルとの関係を前向きに考えようとした。
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