6 / 13
6
しおりを挟む
レオンに嫌味を言ってしまった私はモヤモヤしていた。
だから、ナダルに会った時、ちょっと図々しい男性だと思ったし、「これ以上イライラさせないでよ」と思った。けれど、彼は「僕のことをもっと知って欲しいので、どこかで食事でもしませんか?」と笑顔で言ってきた。普段だったら、そのまま立ち去っていたかもしれないけれど、自暴自棄になりつつあった私は彼の態度が少し面白くて、一緒に喫茶店へと入店した。
ナダルは商人であるがゆえか、話はとても面白く、旅の途中で見たドラゴンのような大きなトカゲの話や、熊から危機一髪で逃げて逆にやっつけてしまった話、誰も見たことのない洞窟の奥で光る妖精に会った話などをしてくれた。
「脚色をしているでしょ?」
「いやいや、僕は好きな人に嘘は言わない主義なんだ」
必死に否定するナダルは愛嬌があって、私は穏やかな気持ちになって「ほんとかな~」と言いながら、紅茶を飲んだのだけれど、自分の口角が上がっているのが分かった。
(楽しい・・・のかな、私)
今まで、レオンと付き合っている・・・とまでいかなくても、友達以上恋人未満だと思っていた私。だからか、男性と話して盛り上がると、レオンの顔が脳裏に浮かんで、話に集中できなかったし、後ろめたさがあった。いつでも、レオンがいたのだ。
(そうよ、あれは呪いの言葉だったのよ)
「どうしたんだい? 急に暗い顔をして?」
「えっ? あぁ、ごめんなさい。なんでもないの・・・」
レオンの「結婚しよう」という言葉を呪いの言葉だと思おうとしたら、なぜか悲しい気持ちになってしまった。私は気持ちを整理するために紅茶をもう一度飲んで気持ちを落ち着かせ、目の前のナダルに集中しようと彼の顔を見ると、穏やかな顔をしながらも浮かない顔をしていたナダルは、目が合った瞬間優しく微笑んでくれた。
「こういう仕事をしていると・・・僕にも悲しい別れがありました」
そう言って、ナダルは話してくれた。彼には愛し合った女性がいたこと。けれど、その恋が実る前に相手の父親か猛反対され、それでも一緒になることを望んだ相手の女性は父親の目を盗んで駆け落ちしようとした時に不慮の事故で死んでしまったことを。
「はははっ、すいません。私がナナリー様のお話を聞いて、心の負担を軽くして差し上げようとしていたのに、私の悲しい過去の話なんか聞いてもらってしまって・・・」
「いえ・・・お辛かったでしょうに」
私ったら、アナタを軽い男だと思ってしまいました、と言おうとしたのを私はぐっと堪えた。
「でも、そうですよね。辛いのは私だけじゃないんですものね。私ったらとても悲しいことが起きたからって、悲劇のヒロインのようになってしまいましたわ。本当に・・・お恥ずかしいわ」
私が自虐的に苦笑いをすると、
「えっ」
彼が私の手を握って来た。
「恥ずかしいことなんてありませんよ。アナタはヒロインだ。でもね、僕が悲劇のヒロインになんかさせない。アナタは・・・幸せになるべきヒロインだ」
だから、ナダルに会った時、ちょっと図々しい男性だと思ったし、「これ以上イライラさせないでよ」と思った。けれど、彼は「僕のことをもっと知って欲しいので、どこかで食事でもしませんか?」と笑顔で言ってきた。普段だったら、そのまま立ち去っていたかもしれないけれど、自暴自棄になりつつあった私は彼の態度が少し面白くて、一緒に喫茶店へと入店した。
ナダルは商人であるがゆえか、話はとても面白く、旅の途中で見たドラゴンのような大きなトカゲの話や、熊から危機一髪で逃げて逆にやっつけてしまった話、誰も見たことのない洞窟の奥で光る妖精に会った話などをしてくれた。
「脚色をしているでしょ?」
「いやいや、僕は好きな人に嘘は言わない主義なんだ」
必死に否定するナダルは愛嬌があって、私は穏やかな気持ちになって「ほんとかな~」と言いながら、紅茶を飲んだのだけれど、自分の口角が上がっているのが分かった。
(楽しい・・・のかな、私)
今まで、レオンと付き合っている・・・とまでいかなくても、友達以上恋人未満だと思っていた私。だからか、男性と話して盛り上がると、レオンの顔が脳裏に浮かんで、話に集中できなかったし、後ろめたさがあった。いつでも、レオンがいたのだ。
(そうよ、あれは呪いの言葉だったのよ)
「どうしたんだい? 急に暗い顔をして?」
「えっ? あぁ、ごめんなさい。なんでもないの・・・」
レオンの「結婚しよう」という言葉を呪いの言葉だと思おうとしたら、なぜか悲しい気持ちになってしまった。私は気持ちを整理するために紅茶をもう一度飲んで気持ちを落ち着かせ、目の前のナダルに集中しようと彼の顔を見ると、穏やかな顔をしながらも浮かない顔をしていたナダルは、目が合った瞬間優しく微笑んでくれた。
「こういう仕事をしていると・・・僕にも悲しい別れがありました」
そう言って、ナダルは話してくれた。彼には愛し合った女性がいたこと。けれど、その恋が実る前に相手の父親か猛反対され、それでも一緒になることを望んだ相手の女性は父親の目を盗んで駆け落ちしようとした時に不慮の事故で死んでしまったことを。
「はははっ、すいません。私がナナリー様のお話を聞いて、心の負担を軽くして差し上げようとしていたのに、私の悲しい過去の話なんか聞いてもらってしまって・・・」
「いえ・・・お辛かったでしょうに」
私ったら、アナタを軽い男だと思ってしまいました、と言おうとしたのを私はぐっと堪えた。
「でも、そうですよね。辛いのは私だけじゃないんですものね。私ったらとても悲しいことが起きたからって、悲劇のヒロインのようになってしまいましたわ。本当に・・・お恥ずかしいわ」
私が自虐的に苦笑いをすると、
「えっ」
彼が私の手を握って来た。
「恥ずかしいことなんてありませんよ。アナタはヒロインだ。でもね、僕が悲劇のヒロインになんかさせない。アナタは・・・幸せになるべきヒロインだ」
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます
衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。
婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。
シェリーヌは16年過ごした国を出る。
生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。
第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。
第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。28日の更新で完結します。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お前は整形した醜い顔だと婚約破棄されたので溺愛してくれる王子に乗り換えます! 実は整形なんてしていなかったと気づいてももう遅い
朱之ユク
恋愛
美しい顔をしたスカーレットは突如それまで付き合ってくれていた彼氏にお前の顔は整形だと言われて婚約破棄を言い渡されてしまう。彼氏はそのままスカーレットのことを罵りまくるが実はスカーレットは整形なんてしてない。
正真正銘の美しい顔でいただけだ。多少メイクはしているけど、醜いと罵られる覚えはありません。
溺愛してくれる王子と新たに婚約することになったので、いまさら復縁したいと言ってももう遅い!

幼馴染みで婚約者でもある彼が突然女を連れてきまして……!? ~しかし希望を捨てはしません、きっと幸せになるのです~
四季
恋愛
リアは幼馴染みで婚約者でもあるオーツクから婚約破棄を告げられた。
しかしその後まさかの良い出会いがあって……?

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪
山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」
「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」
「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」
「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」
「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」
そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。
私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。
さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる