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レオンに嫌味を言ってしまった私はモヤモヤしていた。
だから、ナダルに会った時、ちょっと図々しい男性だと思ったし、「これ以上イライラさせないでよ」と思った。けれど、彼は「僕のことをもっと知って欲しいので、どこかで食事でもしませんか?」と笑顔で言ってきた。普段だったら、そのまま立ち去っていたかもしれないけれど、自暴自棄になりつつあった私は彼の態度が少し面白くて、一緒に喫茶店へと入店した。
ナダルは商人であるがゆえか、話はとても面白く、旅の途中で見たドラゴンのような大きなトカゲの話や、熊から危機一髪で逃げて逆にやっつけてしまった話、誰も見たことのない洞窟の奥で光る妖精に会った話などをしてくれた。
「脚色をしているでしょ?」
「いやいや、僕は好きな人に嘘は言わない主義なんだ」
必死に否定するナダルは愛嬌があって、私は穏やかな気持ちになって「ほんとかな~」と言いながら、紅茶を飲んだのだけれど、自分の口角が上がっているのが分かった。
(楽しい・・・のかな、私)
今まで、レオンと付き合っている・・・とまでいかなくても、友達以上恋人未満だと思っていた私。だからか、男性と話して盛り上がると、レオンの顔が脳裏に浮かんで、話に集中できなかったし、後ろめたさがあった。いつでも、レオンがいたのだ。
(そうよ、あれは呪いの言葉だったのよ)
「どうしたんだい? 急に暗い顔をして?」
「えっ? あぁ、ごめんなさい。なんでもないの・・・」
レオンの「結婚しよう」という言葉を呪いの言葉だと思おうとしたら、なぜか悲しい気持ちになってしまった。私は気持ちを整理するために紅茶をもう一度飲んで気持ちを落ち着かせ、目の前のナダルに集中しようと彼の顔を見ると、穏やかな顔をしながらも浮かない顔をしていたナダルは、目が合った瞬間優しく微笑んでくれた。
「こういう仕事をしていると・・・僕にも悲しい別れがありました」
そう言って、ナダルは話してくれた。彼には愛し合った女性がいたこと。けれど、その恋が実る前に相手の父親か猛反対され、それでも一緒になることを望んだ相手の女性は父親の目を盗んで駆け落ちしようとした時に不慮の事故で死んでしまったことを。
「はははっ、すいません。私がナナリー様のお話を聞いて、心の負担を軽くして差し上げようとしていたのに、私の悲しい過去の話なんか聞いてもらってしまって・・・」
「いえ・・・お辛かったでしょうに」
私ったら、アナタを軽い男だと思ってしまいました、と言おうとしたのを私はぐっと堪えた。
「でも、そうですよね。辛いのは私だけじゃないんですものね。私ったらとても悲しいことが起きたからって、悲劇のヒロインのようになってしまいましたわ。本当に・・・お恥ずかしいわ」
私が自虐的に苦笑いをすると、
「えっ」
彼が私の手を握って来た。
「恥ずかしいことなんてありませんよ。アナタはヒロインだ。でもね、僕が悲劇のヒロインになんかさせない。アナタは・・・幸せになるべきヒロインだ」
だから、ナダルに会った時、ちょっと図々しい男性だと思ったし、「これ以上イライラさせないでよ」と思った。けれど、彼は「僕のことをもっと知って欲しいので、どこかで食事でもしませんか?」と笑顔で言ってきた。普段だったら、そのまま立ち去っていたかもしれないけれど、自暴自棄になりつつあった私は彼の態度が少し面白くて、一緒に喫茶店へと入店した。
ナダルは商人であるがゆえか、話はとても面白く、旅の途中で見たドラゴンのような大きなトカゲの話や、熊から危機一髪で逃げて逆にやっつけてしまった話、誰も見たことのない洞窟の奥で光る妖精に会った話などをしてくれた。
「脚色をしているでしょ?」
「いやいや、僕は好きな人に嘘は言わない主義なんだ」
必死に否定するナダルは愛嬌があって、私は穏やかな気持ちになって「ほんとかな~」と言いながら、紅茶を飲んだのだけれど、自分の口角が上がっているのが分かった。
(楽しい・・・のかな、私)
今まで、レオンと付き合っている・・・とまでいかなくても、友達以上恋人未満だと思っていた私。だからか、男性と話して盛り上がると、レオンの顔が脳裏に浮かんで、話に集中できなかったし、後ろめたさがあった。いつでも、レオンがいたのだ。
(そうよ、あれは呪いの言葉だったのよ)
「どうしたんだい? 急に暗い顔をして?」
「えっ? あぁ、ごめんなさい。なんでもないの・・・」
レオンの「結婚しよう」という言葉を呪いの言葉だと思おうとしたら、なぜか悲しい気持ちになってしまった。私は気持ちを整理するために紅茶をもう一度飲んで気持ちを落ち着かせ、目の前のナダルに集中しようと彼の顔を見ると、穏やかな顔をしながらも浮かない顔をしていたナダルは、目が合った瞬間優しく微笑んでくれた。
「こういう仕事をしていると・・・僕にも悲しい別れがありました」
そう言って、ナダルは話してくれた。彼には愛し合った女性がいたこと。けれど、その恋が実る前に相手の父親か猛反対され、それでも一緒になることを望んだ相手の女性は父親の目を盗んで駆け落ちしようとした時に不慮の事故で死んでしまったことを。
「はははっ、すいません。私がナナリー様のお話を聞いて、心の負担を軽くして差し上げようとしていたのに、私の悲しい過去の話なんか聞いてもらってしまって・・・」
「いえ・・・お辛かったでしょうに」
私ったら、アナタを軽い男だと思ってしまいました、と言おうとしたのを私はぐっと堪えた。
「でも、そうですよね。辛いのは私だけじゃないんですものね。私ったらとても悲しいことが起きたからって、悲劇のヒロインのようになってしまいましたわ。本当に・・・お恥ずかしいわ」
私が自虐的に苦笑いをすると、
「えっ」
彼が私の手を握って来た。
「恥ずかしいことなんてありませんよ。アナタはヒロインだ。でもね、僕が悲劇のヒロインになんかさせない。アナタは・・・幸せになるべきヒロインだ」
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