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本編
友兄の部屋なのに溜息ばかりがでてくる
しおりを挟む「あ、すごく片付いてる」
「どんな部屋を想像したのかな…」
「だって、男の人の一人暮らしなんて、とてもすごいことになりそうじゃない?」
ほんとに着替えが入ってるの…って疑ってしまいそうなほど小さな鞄を持って、美鈴さんは部屋に入るなりそんなことを言った。
友兄はいつだってきちっとしていたし、何の不思議もない。
「美鈴はこの部屋を使って」
「ありがとう」
玄関から入ってすぐわきにある部屋は、仕事部屋…というか、書斎?になっている。
美鈴さんがその部屋に入ってから、友兄は荷物を持っていない方の手を俺の腰にまわしてきた。
「理玖、むこうで着替えようか」
「……うん」
促されるままに寝室に入る。
気分はどんよりしていた。
学ランのボタンに手をかけながら、出てくるのはため息ばかりだ。
楽しいはずの週末だったのに。
なのに、なんで、こんな……。
何度目かのため息が出た。
「理玖」
じわりと目が潤んできたとき、突然、ベッドに押し倒された。
「ん…っ!!」
唇を塞がれて、熱い舌が何の躊躇いもなく入り込んでくる。
「友兄………っ」
自分がどうしたらいいのかがわらかない。
どうしたらいいんだろう。俺は、どうするべきなんだろう。
「友兄……友兄………」
何を言えばいいのかすらわからなくて、その背中にしがみつくしかなかった。
不意のキスをしかけられて、トロトロに溶かされた。
けど、『二人きり』という状況ではなくて、もやもやした気分を抱えたままリビングで美鈴さんと対峙することになる。
「理玖」
手渡されたのはいつものココアだった。
友兄は一番最初に俺にカップを渡してくれて、それから、美鈴さんの前にもカップを置いた。
「美鈴は紅茶でよかったかな」
「ええ、ありがとう」
俺の目の前で、親しげな会話。
無自覚にもかなりむっつりしていたらしい俺。ココアを数口飲んでるときも美鈴さんからの視線を感じていた。
「それで、今日はどのあたりに行こうか?」
友兄は自分用のカップに口をつけながら、美鈴さんに聞いた。
「友敬と理玖くんはどこに行く予定だったのかしら」
「特に決めてないかな。適当に一泊旅行でもいいし、ドライブでもいいし」
……なんかそれっぽいことを母さんに言ってた気はしたけど、ほんとに一泊旅行とか考えたんだ……。知らなかった。
友兄と一緒なら、どこに行ったって、楽しいだろうけど……。
でも、ずっともやもやしてて、楽しみ、って気分にならない。
そんな俺のもやもやを吹き飛ばすような、軽快なパン!って音を出して、美鈴さんが手を打った。
「それじゃ……私、遊園地に行きたい」
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